ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

ほんとうに心配な地方国立大学(三重大も含めて)の将来

2012年04月12日 | 高等教育

 昨日のブログでは、私が学長をしていた三重大の法人化第1期の評価結果をご紹介し、自画自賛的に「けっこうやったじゃない三重大学」と書いてしまったのですが、その翌日に、三重大を含めて地方国立大学の将来を心配するブログを書かせていただくのは、ちょっと心苦しいものがありますね。でも、やっぱり書いておこうと思います。

 今までのブログで日本の学術の国際競争力の低下(論文数の停滞~低下)について、何回も書いてきましたね。それを簡単にまとめると、論文数については、主要な産生機関である国立大学で低下し、特に、2番手、3番手につけている地方国立大グループの低下が全体に大きく影響していること、その原因は(研究者×研究時間)の低下、つまり研究の人的インフラのダメージによる、ということでした。

 (研究者×研究時間)の減少の要因としては、まずは、定員削減や運営費交付金削減による教員数の減少、および社会的要請や制度改革等からの教育活動(病院では診療活動)へのシフトや管理運営業務の増加等による研究時間の減少が考えられ、余力の小さい地方国立大学から論文数の減少として表面化した、と思われます。

 科学技術や大学への予算総額は、現政権では一定のご配慮を頂いているものの、国の財政の逼迫から、今後は、いっそう厳しい状況になると考えられます。

 特に国立大学への基盤的な運営費交付金の削減は、各大学の研究の人的インフラのダメージに直結すると考えられますが、残念ながらこの削減が止まる可能性は極めて低いと感じます。基盤的な運営費交付金の確保については、国立大学協会をはじめとして、今までさんざん要望をし続けてきましたが、前政権、現政権を通じて、止められたことは一度もありません。

 前々回のブログでご紹介した、参議院予算委員会におけるわが国の論文数停滞をめぐる質疑で、平野文部科学大臣が、研究費総額が海外に比較して少ないという認識を示していただいたことは大きな前進と思いますが、一方、大学に対しては「目標と成果を明確にした制度設計」、また、地方大学に対しては、「地域の活力をいただくための大学については、選択と集中という意味でより積極的に支援をしていく。特徴のある大学になっていってもらい、その結果地域が産官学を含めて結束をしていくプロセスで支援していきたい。運営費交付金は減っているが、大学の改革強化事業として138億円をお願いしている。」という主旨を述べておられます。(文言は正確ではありませんので、国会の議事録をご参照ください。)

 文部科学大臣に、地方大学の存在意義を「地域の活力をいただく大学」という表現でお認めいただいたことは、たいへん良かったと思いますが、しかし、「選択と集中」をするとはっきりとおっしゃっていますね。それを具体化した予算の一つが、今年度の「国立大学改革推進補助金」138億円ということです。その趣旨は「国際的な知の競争が激化する中で、大学の枠を超えた連携、教育研究組織の大規模な再編成、個性・特色の明確化などを通じた国立大学の改革強化を推進するため、新たな補助金を創設」と書かれています。

 このようなことから、国立大学への基盤的な運営費交付金の削減は今後も続くと考えられ、現状から変われない大学は、今後も引き続き人的インフラのダメージを受け続けていくものと考えられます。そして、今、痛みを伴うかもしれない構造改革を断行して、魅力ある教育研究組織の再編成を提案できた大学のみが、このような予算を獲得でき、大学としての人的インフラを確保できて、生き残れる可能性が出てくると思われます。

 地方国立大学の将来は、まさにこの138億円を獲得できるかどうかにかかっていると申し上げてよいでしょう。

ブログ:Ami Express、「138億円の行方http://atsutoyoda.exblog.jp/14902624/

  現在、おそらく、多くの地方国立大学では、継続される基盤的な運営費交付金削減に対応するために、定員削減のプランニングを立てているのではないかと推測されます。これは、ある意味では必要なことですが、一方では、これが優秀な研究者の数の減少につながるということであれば、その大学の研究機能がどんどんと低下していくことになります。以前のブログ(2012年1月4日)にも書きました「黒字―縮小サイクル」ですね。

http://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/ce4b463bfb9b547deeeb606e22a59bcc

 昨年の7月4日の日経新聞にも書きましたように、私は国に対しても、研究の数値目標を作るべきであると主張しています。同じように、各大学も研究の数値目標を設定するべきです。

 そして、その数値目標を達成するために、各大学は優秀な研究者の確保を最優先事項として、リスクを承知で最大限の努力を払わなければなりません。特に、Nature誌の3月20日号が伝えているように、日本の若手研究者が減少し、論文数が減っている状況では、優秀な若手研究者の確保が喫緊の課題です。

http://www.nature.com/news/numbers-of-young-scientists-declining-in-japan-1.10254

 ブログ:大「脳」航海記、Natureが報じる「減り続ける日本の若手研究者と、低下し続ける日本のサイエンスの生産性」

http://viking-neurosci.sakura.ne.jp/blog-wp/?p=6975

 この際、従来の枠組みのままで教員数を増やすことは極めて困難であることから、新たな魅力ある教育研究組織の再編成を断行する必要があることは上にお話した通りです。地方大学においても実質的な世界研究教育拠点や世界と戦える産学連携拠点を構想する必要があるのではないでしょうか。つまり、優秀な若手研究者の確保のために、思い切った構造改革をして138億円を取りに行かねばなりません。

 複数の大学が連携して、少なくとも管理運営や事務業務の効率化を図る計画も検討されていると聞いていますが、連携や統合をしても、トータルとして優秀な研究者が減って論文数が減っては意味がありません。連携・統合して効率化した分、優秀な若手研究者を増やして、論文数を増やして初めて連携・統合の意味が出てきます。まず連携・統合の目的と数値目標を明確にしておくべきです。

 そして、一方では、138億円を取りにいくことと並行して、手持ちの予算があれば、あるいは、さらなる経費の削減努力によって少しでも予算を浮かして、赤字のリスクを犯してでも、優秀な若手研究者の確保に最大限投資するべきだと思います。

 今回三重大学を含めて、幸いにして法人化第1期の評価結果により「法人運営活性化支援分」が交付された大学がいくつかあるわけですが、せっかくの貴重な予算を、ごくろうさんという意味で各学部に配分するとか、通常の教育研究費や運営費として使ってしまう大学と、138億円を取りにいくための構造改革への先行投資や、優秀な若手研究者の確保に投入した大学とで、今後の成否が大きく分かれることでしょう。

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« けっこうやったじゃない三重... | トップ | ほんとうに心配な地方国立大... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
論文捏造研究者を放置する三重大学 (11jigen)
2012-04-14 03:15:53
三重大学大学院生物資源学研究科の青木直人准教授の論文捏造事件について http://blog.goo.ne.jp/11jigen_mie_nagoya

三重大学教員の研究不正に関して告発したのは一年以上前だが、未だに調査結果は公表されてないないし、2012年4月1日現在も、青木氏は教員のままである
http://www.bio.mie-u.ac.jp/kyoukan-list.html

返信する

コメントを投稿

高等教育」カテゴリの最新記事