ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

台湾に学ぶ(その1):どのような因子が論文数に影響するのか?

2012年04月23日 | 高等教育

 しばらく前のブログで、人口あたりの論文数では、日本は台湾に追い抜かれていること、そして、政府支出研究費も追い抜かれていることをお話しましたね。

 まず、今までのブログでも紹介したデータを再掲します。

 まず、人口あたりの注目度の高い論文数では、台湾は19番目、日本は21番目であり、他の主要国は、日本が追いつけないレベルにあることをお話しましたね。日本が研究の数値目標をつくるとしたら、台湾の論文数ではないか?それでも、今の1.5倍の論文数を産生しないといけないことになります。

 

 この下のグラフのように、日本の論文数は停滞しており、台湾の論文数は右肩上がりなので、おそらく、日本と台湾の差は、今後さらに大きくなることが予想されますね。そうすると、1.5倍増やしたくらいでは、追いつかないかも。

 なぜ、台湾の論文数が多いのか?その大きな要因が、政府支出研究費の差と考えられることもお示ししましたね。購買力平価換算で計算すると、台湾は日本の政府支出研究費を数年前に追い抜いており、そのカーブは、論文数のカーブと酷似していますね。

 なお、日本の研究費は、国立大学へ交付している運営費交付金を、全額研究費と見なすのか、研究時間と教育時間等との比率から、研究時間に相当する部分を研究費と見なすのかによって、ずいぶんと違ってきます。総務省が発表しているデータは、前者であり、OECDのデータでは後者になっています。OECDの方がより実態に近いと考えられます。

 でも、いずれの場合も、台湾に追い抜かれていますね。つまり、国立大学への運営費交付金を全額研究費に使ったとしても、言い変えると、国立大学をすべて研究所にしたとしても、世界19位の台湾には追いつけないということです。

 私は、台湾の大学に日本が学ぶところは大いにあると感じます。それで、台湾の大学について、もう少し調べてみることにしましょう。

 ウェブ上に、国立台湾大学のデータが公開されています。国立台湾大学統計年報というサイトです。

http://acct2010.cc.ntu.edu.tw/final-e.html

 日本の大学では、これだけ詳しいデータを公開しているところは無いと思います。このようなことも日本の大学が学ぶべきことの一つかも知れません。

 非常に興味のあるデータがたくさんありますが、その中でも興味あるデータをいくつかご紹介しましょう。なお、グラフ化は私が行いました。

 まず、各学部の論文数の変化です。医学部および工学系の学部が、論文を数多く産生し、その数を増やしていますね。

 

 これは、学術ファンドの獲得額です。MOEというのは文部省のことです。文部省からの施設設備費はすこし減少気味。トータルとしての基盤的な文部省からの交付金は、あまり増えてはいません。ただし、日本のように減っていることはありませんね。

 Self-raised fundというのが、急速に増えています。これは、外部資金と考えられ、競争的資金(政府による競争的資金も含まれると考えられる)や民間等からの資金と考えられます。ただし、学部ごとの記載はないので、どの学部が多くファンドを獲得しているのかどうかまでは、わかりません。



 これは、学部学生の数の変化です。工学・農学の学部は増えていますが、他の学部はあまり増えていません。(College of Scienceでは学部の再編が行われたようで、階段状に人数が急変しています。また、データが一部欠損している時期があります。)

 博士課程の学生は増えており、特に工学系と医学で顕著ですね。


 


 次は教員数。これはフルタイムの教員数で、電気・情報工学や医学以外は、あまり増えていません。


 


 これは、パートタイムの教員数。医学部が非常に急激に増えていますね

 そして、全学部の教員数、学生数、授業科目数、研究契約件数(科研費や共同研究数等と考えられる)、論文数をまとめた表がありました。


 

 これをもとに、重回帰分析をしたのが、下の結果です。

  学部の論文数にもっとも大きくプラスに働いている因子としてはフルタイム教員数があげられ、その他に博士課程学生数や研究契約件数があります。マイナスに働いている因子は授業科目数でした。つまり、教育の負担の大きい学部では論文数も少ない。

 当たり前と言えば当たり前の結果かもしれませんね。

 以上のような台湾の分析から、論文数の産生にプラスに働く因子としては、政府支出研究費、フルタイム教員数、博士課程学生数、研究契約件数等が考えられ、マイナスに働く因子としては教育負担があるわけですが、日本はプラス因子が減り、マイナス因子が増えています。

 特に、国立大学の基盤的運営費交付金の削減は、フルタイム教員数の減少に直結すると同時に、残された教員の教育負担を増やすことは直近のブログでお示ししましたね。

 こう考えると、日本が台湾にどんどんと差をつけられるのも、当然の結果ですね。政府も大学も、なんとかして、これをくいとめないといけないと思います。

 (このブログは豊田個人の勝手な感想であり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 



 

コメント (1)
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