ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

台湾に学ぶ(その2):大学の研究機能を高めるための人事戦略

2012年04月26日 | 高等教育

 4月18日のブログでは、国立大学への基盤的な運営費交付金の継続的削減に対する対応の具体例として、ある地方国立大学の今後2年間の教員数と事務職員数の削減計画をお示しましたね。そして、このような状況があと10年も続くと、地方国立大学の研究機能がそうとう大きなダメージ(法人化開始前後に比較して約40%以上低下)を受ける可能性をお示ししました。

 そうしたら、いつもご意見をいただくDさん(民間企業OB)からご意見をいただきました。

 「事務方に何の恨みもありませんが、一般の製造関係の企業で人員削減する場合、事務方の削減の比率の方が高いのではと思います。ある工場では、10名近くいた事務職が10年で、2~3名ということは、よくあることではないでしょうか。大学の教育、研究は企業の製造に当りませんか?相当厳しくやられてきたことと思いますが、どうでしょうか?教職員の減を極力少なくし、研究インフラの弱体化を少しでも抑えることが出来たのでしょうか?やはり、そのような、チェックも必要ではないでしょうか?」

 もっともなご意見だと思います。国立大学が法人化された頃、基盤的な運営費交付金の削減に対して、大学の学長さん方から反対意見が出た時に、対応された文科省のある方が、「教員数を減らさずに、事務職員数を減らしていただければいいのではないですか。」という主旨の発言をされて、話題になったことを思い出します。この文科省のある方は、Dさんと同じ考えをもっておられたということになりますね。

 法人化後の国立大学における教員数の削減と事務職員の削減の比率は、各大学によって異なると思いますが、残念ながら私はデータを持ち合わせていません。ただ、法人化後、教員数の削減を最少に食い止めた大学、あるいは、正規の教員数を削減したが外部資金等で特任教員や寄付講座の教員等を増やしてカバーできた大学は、論文数の減少を最少に食い止められたはずです。それは、何度も引用させていただいた、文科省科学技術政策研究所の神田由美子さんたちによるFTE教員数(教員数×研究時間)のデータでも明らかですね。

 ただ、事務職員の削減は、国立大学であるが故の難しい側面ももっているように感じています。私が三重大学長の時に、民間コンサルに入っていただいて、事務業務の効率化を検討したのですが、なかなか思うようにいかなかった経験があります。当時、某旧帝大でも有名な大手民間コンサルに事務業務の効率化をお願いしましたが、国立大学であるが故に、実行できない提案が多く、実効があがらなかったということも伝え聞いています。

 法人化はされたものの、国立であるが故の制度も引き続き残されており、政府から求められる提出物も多く、法人化に伴ってさらに新しい作業が増え、事務作業は格段に増えたのではないかと感じます。

 また、事務職員を削減するべきといっても、教員への支援が減少し、教員の研究以外の業務が増えて、研究時間が減少するようであれば、これも論文数減少の一因となりえます。

 今、複数の大学が連合・連携するアンブレラ方式が検討されていると聞いていますが、ぜひとも管理運営面の連合・連携で効率化を図っていただき、それを優秀な教員の数や研究時間の確保(つまりDさんのおっしゃる民間製造企業における製造)に結び付けていただきたいと願っています。

 さて、台湾の大学では、事務職員数はどうなっているのでしょうか?前回のブログで紹介した、国立台湾大学の公開データの中に、事務職員数の変化のデータがありましたので、グラフにして、下にお示しします。

 これをみると、一般職員は減少し、契約職員が増えています。台湾の大学が日本と同じような事務職員の削減努力をしていることがわかりますね。しかし、研究補助者が、近年急激に増えているところが大きな違いです。

 このデータの裏に、目的・目標を明確にして、それを実現するための実に合理的な人事戦略があることを感じます。

 台湾では、近年10大学(日本の人口あたりにすると50大学)に重点的に競争的資金が配分されたとされています。政府からの大学への資金が増えたということが、削減され続けている日本との大きな違いですが、それにしても、この国立台湾大学の目的・目標を達成するための合理的な人事戦略について、日本は大いに学ぶべきだと思います。

 そもそも、日本の政府も大学も、研究機能について明確な目的・目標を設定することさえできていないのではないでしょうか?(もちろん、教育についてもできていないと思われますが・・・)

(このブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする