ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

ほんとうに心配な地方国立大学の将来(その5)

2012年04月20日 | 高等教育

 今回のシリーズでは、平成24年度の「国立大学改革推進補助金」138億円をめぐって、各大学には、連合・連携を具体化した思い切った魅力ある構造改革提案が必要であることをお話しましたね。でも、現時点では、どうも、各大学からは、補助金の趣旨にかなう構造改革の提案がなされていないようであり、ひょっとして、補助金自体のリセットの可能性もありうるかもしれないと心配しています。

 ただ、私は、前回のブログでお話しましたように、各大学に思い切った構造改革を求める分、政府に対しても、従来の競争的な補助金とは異なる継続的・実質的な支援が可能となる道を考えて頂くようお願いしたいと思います。構造改革をしても、途中で梯子を外されるリスクが高ければ、各大学も思い切った構造改革に踏み切ることが難しいですからね。

 逆に、各大学にも、苦しい国の財政状況の中でも、国民がこれなら継続的・実質的支援をする価値があると感じる改革案を提案していただく必要があります。そのためには、相当な身を斬る覚悟が必要であるように感じます。

 今回の138億円が取れないとどうなるのかということについては、前回、極めて単純化したモデルで、特に地方国立大学の研究機能が急速に低下する見通しをお示ししました。

 残念ながら、基盤的な運営費交付金の削減が止められる可能性は極めて低く、各大学は教員数の削減を計画的に進め続けます。その結果、教育の負担が減らないと仮定すると、研究時間の割合が低い大学ほど、研究機能が大きく低下します。

 今日は、前回と同じような趣旨になり、重複することになりますが、研究時間の割合が低い大学ほど研究機能が低下することを、再度グラフでお示しておきます。

 計算は下の計算式で行いました。

Z=(X-Y)/X×100

X:研究時間の割合

Y:教員数削減の割合

Z:教員数×研究時間の教員数削減前からの割合(%)

 教員数削減が10%の場合と20%の場合の二つのカーブを下のグラフにお示します。

 このまま、基盤的運営費交付金が削減され続けると、10年後には約20%の教員が削減されることとなり、研究ばかりやっている研究所では、(教員数×研究時間)は20%の減にとどまりますが、研究時間の割合が50%であった大学は40%の減となり、単純には論文数が40%減ることになります。研究時間の割合が40%であった大学は50%減り、30%であった大学は、66.7%減となります。これでは、私立大学に比較して、国立大学の研究環境の優位性が失われることになると思います。

 今回の、国家公務員の給与削減に準拠して国立大学教員の給与削減が要請されていることに加えて、このような研究環境の悪化が急速に進むとなると、国立大学の優秀な教員が私立大学に移動する可能性も高まります。しかし、多くの政治家の皆さんは、国立大学から私立大学へ優秀な教員が移動するのであれば、日本全体としてみれば優秀な教員がいずれかの大学に確保されるわけですから、日本全体の学術レベルの低下には必ずしも結びつかないと考えておられるようです。

 このままいくと、地方国立大学のXデーが近づいているようにも感じられます。研究環境の優位性がなくなれば、あとは授業料が安いという優位性しか残らないかも知れませんね。それだけで国立大学の存在意義を主張するのは、ちょっとしんどい感じがします。

 やっぱり、今回、身を斬る覚悟で、複数の大学が連合・連携して、管理運営のアンブレラ方式とともに、思い切った魅力ある研究教育組織の連合・連携案を提案して、138億円を取りにいくしかないのではないでしょうか。例えば、新しい連合研究教育組織のガバナンスについても、ヘッドクオーターが戦略的に全世界から優秀な教員をハンティングし、各支部には戦略的に研究テーマを割り振り、人事体系も給与体系も、大学とは完全に別個に運営する、というような提案をしないと、たぶん取り合っていただけないのではないでしょうか?

 各国立大学の挑戦に期待したいと思います。

(本ブログは豊田個人の勝手な感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。) 

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