ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

地方大学の疲弊がわが国の国際競争力を低下させる(その3)

2011年12月25日 | 科学


 前回はちょっと難しいスライドが並んでいたかもしれませんね。なにせ、日本分子生物学会という学会での発表ですので、どうしても普段のブログより少し堅めになってしまいますね。

 下のグラフはすべての分野の論文数(左図)と国際シェア(右図)を示したものです。主な海外の国の論文数が軒並み増えているのに、日本だけが停滞していますね。シェア(右図)でみると、中国、韓国が急速にシェアを高めていることで、他の国のシェアは相対的に低下していますが、中でも日本のシェアが激減しています。

 わが国の学術の国際競争力が低下していることをうかがわせるデータですね。

 でも、数は減っても質が高ければいいって?そうですね、その通りなんですが・・・。では論文の質を見てみましょう。

 下のグラフはすべての分野の学術論文の「相対被引用度」の国際比較です。論文の質の評価は難しいんですが、今のところ、その論文が他の論文にどれだけ引用されたか(被引用数と言います)で評価することが多いのです。「質」というよりも「注目度」と言った方が、より適切ですね。

 「相対被引用度」とは、世界中の論文の被引用数の平均を1として、その論文の被引用数を指数で示したものです。実は、「被引用数」は年数が短いと少なく、年数が経つと増えることが多いので、年毎の推移を比較するのが難しいのです。しかし、この「相対被引用度」ですと、その年その年の被引用数を、その時の世界平均で割るので、年ごとの推移の比較がしやすいんです。

 では、日本の相対被引用度の変化はどうなっているでしょうか?残念ながら世界平均の1にも達せずに、低迷をしていますね。中国、韓国は、まだ日本より注目度が低いですが、最近どんどん追いつきつつありますね。米国はずっと前から1.4と非常に高い値ですが、他の先進欧米諸国は、最近軒並み注目度を高めています。日本だけが置いていかれていますね。

 論文の数が停滞していても、質が高まっておれば、まだ救いがあるのですが、残念ながら数と質の両方とも、世界との差が広がっています。わが国の学術の国際競争力は低下していると断定していいでしょう。

 次は、分野を限って、基礎的医学(分子生物学および遺伝学、免疫学、微生物学、生物学および生化学、神経科学および行動科学)について調べてみました。論文数(左の図)は、日本は少し低下していますね。国際シェアは激減。注目度(相対被引用度)は多少上がり気味ですが、先進国に置いて行かれ、やはり世界平均に達していませんね。

 3つ目は私の専門の臨床医学。論文数(下の左の図)は、日本は停滞。他の国はすべて増加しています。国際シェアははやり激減ですね。

 

 臨床医学の注目度(相対被引用度)の方は、0.8のままで停滞ですね。他の国は全部右肩あがりなのに、実に惨憺たるものですね。

 さて、次の図は、文科省の科学技術政策研究所の阪彩香さんのデータをグラフにさせていただいたものです。分数カウント法というのは、海外の研究者と共著論文を書いた時に、それぞれの国の論文の数を分数でカウントする方法です。たとえば、日本人とアメリカ人が共同で論文を書いた時は、日本1/2、アメリカ1/2とカウントします。

 また、Top10%の論文というのは、被引用数がトップ10%の中に入っている論文ということで、注目度(質)の高い論文を意味します。。

 阪さんのデータでも、日本の臨床医学の論文数(左図)は停滞しており、私の分析と同じ結果です。では注目度(質)の高い論文(右図)はどうでしょうか?これは明らかに低下していますね。

 これは何を意味しているのでしょうか?論文数が減る場合に、注目度(質)の高い論文から減るということですね。論文数が減っても、注目度(質)の低い論文数が減るのであれば、まだ救いがあるのですが、注目度(質)の高い論文から減っていては、どうしようもありませんね。

 でも、考えてみれば、注目度(質)の高い論文を書くためには、通常は、多額の研究費や多くの研究者(補助者)、長い時間が必要であり、大学や研究機関への予算削減や人員削減や研究時間の減少などの負荷がかかった場合、大きいエネルギーを要する注目度(質)の高い論文から減り始めるというのは、当然の現象かもしれません。

 次は、PubMedという、アメリカの公開されている医学論文のデータベースによって、北大医学部の西村正治教授と私が分析したものです。臨床医学の有名な雑誌119誌(これはPubMedの判断で選らんだものですが)に掲載された論文数のカウントです。これも、被引用数とは別の、注目度(質)の高い論文数をみる一つの方法だと考えますが、日本の激減ぶりがわかりますね。

 以上のように、わが国の学術の競争力は、数(量)も注目度(質)も、最近急速に低下していると断言してよいでしょう。基礎的医学も臨床医学もこんな状態では、ライフ・イノベーションが成長戦略の一つになっていますが、とても世界と戦えないでしょうね。

 さて、次のブログでは、いよいよ旧帝大と地方大学の比較など、本シリーズの佳境に入っていきます。学会の発表を元にしているので、一般の皆さんにはちょっと難しいかもしれないけど、ぜひ、フォローしてくださいね。

 次回につづく







 


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