前回、論文数とGDPとの関係性について簡単に説明しましたが、彦朗さんから、さらにいくつかのコメントをいただきました。
「真摯なご応答ありがとうございます。
気になる点と致しましては、
・『論文数(≒大学の研究教育力)』といってよいのか?
論文が多くても学生を労働力として使い捨てにしているような場合は教育力が高いとはいえないですよね。
・GDPとの相関
GDPが上がれば論文数が増える、という経路なら容易に想像ができますが、それならまず増やすべきはGDPということになります。
・OECDのデータ
日本のここ数十年のデータを解析しなければ意味が無いと思われます。そのデータで論文を増やせばGDPが上がる相関があるなら、論文を増やすべきといえますし、相関がないなら、まずなぜないのかを考えずに盲目的に増やしてもダメということになります。」
いずれも、的を射たご質問です。詳しくは、「科学立国の危機ー失速する日本の研究力」をお読みいただきたいと思いますが、ここでも、簡単に回答をさせていただきます。
まず、「『論文数(≒大学の研究教育力)』といってよいのか?」のご質問についてです。ここで、ご理解いただきたいのは、「論文数」というのは「観測変数」であり、「大学の研究教育力」は潜在因子であるということです。「論文数」はあくまで、「大学の研究教育力」という抽象的な概念の一面を反映している変数であると考えます。ですから、「論文数」以外にも「大学の研究教育力」を反映する因子がありえます。
そしてGDPに貢献するのは「大学の研究教育力」という潜在因子であると想定します。「科学立国の危機ー失速する日本の研究力」の第一章の結論としては「大学の「研究教育力」は経済成長に貢献する」と記載しています。
ただ、「大学の研究教育力」を反映する観測変数としては、今のところ「論文数」が最も強力です。第一章のタイトルは「学術論文数は経済成長の原動力」としているのですが、これは実はライターさんの原稿そのままの表現を僕が採用してしまっていて、ちょっと誤解を招くかもしれませんね。正確には「学術論文数で観測される大学の研究教育力は経済成長の原動力」という意味です。
そして、なぜ僕がGDPに貢献する潜在因子を「大学の研究教育力」と表現し、「大学の研究力」や「大学の教育研究力」と表現しなかったのか。それは、大学が大学院学生など若手研究者を育て、彼ら彼女らが社会に出てGDPの成長に貢献している可能性が十分に考えられるからです。「博士取得者数」という観測変数とGDPとの相関は、論文数とGDPの相関よりも弱いのですが、ある特定の条件下では、論文数と独立してGDPと相関する可能性があります。なお、今のところ先進国においては、GDPと相関する学部教育の観測変数は見つけられないので、「大学の教育研究力」という表現ではなく、「大学の研究教育力」という表現を採用しています。
「・GDPとの相関
GDPが上がれば論文数が増える、という経路なら容易に想像ができますが、それならまず増やすべきはGDPということになります。
・OECDのデータ日本のここ数十年のデータを解析しなければ意味が無いと思われます。そのデータで論文を増やせばGDPが上がる相関があるなら、論文を増やすべきといえますし、相関がないなら、まずなぜないのかを考えずに盲目的に増やしてもダメということになります。」
実は、先行研究の時系列分析では、国によって違うのですが、多くの国々で「GDP→論文数」と「論文数→GDP」と「論文数⇔GDP」などが観察されています。GDPが増えて税収が増えたら、多くの国々の政府は研究開発投資も増やすでしょうから、論文数が増えるはずですね。これは彦朗さんがおっしゃるようにたいへん理解しやすいことです。しかし、先行研究では「論文数→GDP」という現象も観察されています。このような先行研究の結果を説明する一つの仮説として、前回のブログで書きました「正循環仮説」を考えました。つまり、「GDP⇑→論文数⇑→GDP⇑→論文数⇑→」
そして、僕が確認しようとしたことは、「論文数⇑→GDP⇑」という現象がOECDのデータにおいても観察されるかどうかということです。これを数十年にわたるデータで調べました。
彦朗さんの
「論文が多くても学生を労働力として使い捨てにしているような場合は教育力が高いとはいえないですよね」
という言葉には身がつまされる思いがします。今回はデータが手元に無いので、学生の労働力としての使い捨てについては分析できていませんが、日本の大学の研究環境が他の先進国に比較してプアであることが、学生を労働力として使い捨てにするようなことを招いている可能性は、十分にありうると思います。沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、大学院学生の数を少数に絞って、人財育成に重きをおいていることが伺われます。日本の他の大学もOISTのようなシステムになればいいと思いますが、OISTにはそれなりの国費が投入されていますね。大学院生を労働力として使い捨てにしない研究環境を整えるには、政府が大学への研究資金を他の先進国並みに、あるいはOIST並みに増やす必要があると考えます。
なお、イノベーションについて、従来は主として「量」と「質」という面から議論されてきたと思うのですが、各種のイノベーション指標とGDPを加えた因子分析により、「イノベーションの広がり」という概念も重要であることが示唆されました。どんなデータからそのようなことを推定したのか、楽しみにしていてくださいね。
これはちょっと頂けません。まるで学生を人質に取っているように読めてしまいます。研究資金がどうであろうと、学生を使い捨てにしてはいけません。
また、大学院生の労働問題は2000年頃から盛んに叫ばれていますが、その頃は予算も比較的潤沢だったのではないでしょうか?
http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/5828/index.html