マディと愛犬ユーリ、親友のクリスティ、それにハワイのこと

ハワイに住んでいたころ、マディという女の子が近所に住んでいて、犬のユーリを連れて遊びに来ていた。

" Senior citizens I love " ( 私の好きな高齢者たち )

2014-06-06 12:52:24 | ハワイの思い出

 

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 (ハワイ大学のキャンパス)

 カハラに住んでいた93歳の女性は、もうハワイにいないことはわかっていたが、時々訪れていたその家を何となく見たくて行ってみた。
 彼女がいたころは、手入れが十分でなく、ちょっと荒れていた家は、だれか新しい人の家族が暮らしているのだろう。見違えるように装いが新しくなっていた。芝生もきれいに刈り取られていて、プールは水が張られ、男の子と女の子が水遊びをしていた。
 もう中に入ることはできないが、家の中の間取りはすべて知っている。居間がどこにあって、どこにトイレがあるか、キッチンはどんなふうになっているかなど、今でも思いだすことができる。
 かつて石原裕次郎さんの別邸があったところの近くである。あの女性に最後にあった時はもう高齢だったし、その後どうなったのだろうか。

 ハワイ大学のケモア教授も高齢である。終身教授の資格を持っていて、毎日大学に通ってくるが、もう直接学生を指導していない。
 奥さんと一緒に大学にやってくる。奥さんは、ずいぶん前から車いすに乗ったきりである。彼が、奥さんの身の回りの世話をしなくてはならないので、奥さんだけを家に置いて出ることができないのだ。
 早朝ケモア教授は、奥さんを車いすに乗せて、それを押しながら大学にやってくる。大学は、彼のために研究室へのアクセスを車いすが通れるようにバリアフリーにした。
 奥さんは、体が不自由なばかりでなく、言葉もしゃべれない。前方を見つめたばかりで、ほかの人とは意志の疎通を図れない。それでも、主人であるケモア教授にだけは、一瞬の目の瞬きで、わずかに意思を通じているようで、トイレに行きたい、背中をこすってほしい、水がほしいなどを感じ取っているようだ。
 ときどきキャンパスを彼が車椅子を押しながら歩いているのを見かけることがある。おそらく散歩をしているのだろう。車椅子は、彼にとっても、体の支えになって杖の代わりをしているようで、"  I can't walk without this !  "( これがないと、私も歩けないのですよ! )と言っていた。
 日曜日には、必ず奥さんを乗せた車椅子を押しながら、パンケーキのおいしいレストランに行っていた。
 奥さんが、まだ歩くこともでき、しゃべることもできた時からここに通っていたそうで、奥さんのお気に入りのレストランだそうだ。
 今は、何も意思表示をしない奥さんの口にスプーンでパンケーキを一口、また一口と運んで食べさせていた。時々、" Enjoying ? "(おいしいかい?)と声をかけても、もとより返事が返ってくることはないのだ。それでも、奥さんの目の動きで、何らかの意思を受け止めているようだった。

 ジーナは、92歳の今も愛車のホンダを駆けて動き回っている。
 パーティが終わった深夜にトシを車で送ってくれた。助手席に座っているトシに何かと話しかけてくるが、運転の技術は確かである。
 90歳を超えても、どうしてこんなに元気で、頭脳が明晰なのだろうか。彼女が話す内容は理路整然として、若い人たちと変わらない。
 お父さんは、福岡県久留米市の生まれで、お母さんは、横浜の人で、彼が東京帝国大学に在籍中に知り合って結婚した。公的機関で働いていて、アメリカに派遣された。
 戦争中日系人たちがこうむった悲劇に彼らも巻き込まれたのである。突然アリゾナの強制収容所に連れていかれた。
 ちょうどそのとき父親は、サンフランシスコに出張中だった。父は、サンフランシスコで拘束されたが、家族は、すでにアリゾナの収容所に連行されていたことを知らなかった。
 ここでお互いの消息が途絶えてしまったのである。1か月半後に父も、同じ収容所に連行されて、お互い再会できたということだ。

 タコマから派遣されてきた市の幹部夫婦が我が家でホームステイしたことがある。クリスマスの時期になると必ずトシの興味を持ちそうな本を送ってくれる。
 ある時送ってくれた本が、" Snow falling on cedars " (アメリカ杉に降る雪)だった。オレゴンのピューゼットサンズというところに住む日系漁師一族の戦時中の悲劇が書かれていた。
 かなり厚い本だったが、講義の合間にのめり込むように読んだことを思い出す。
   "  We've been in concentration camp for nearly 2 years.  " ( 強制収容所に2年近くいたのよ)とジーナが言ったとき、かつて読んだ「アメリカ杉に降る雪」を思い出した。