レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

雪、汗、焦りの一週間

2017-01-22 05:00:00 | 日記
この一週間の間、アイスランド全土がひとつのニュースに没頭してきた感があります。残念ながら、昨夏の男子サッカーの欧州カップでの活躍のような楽しい話題ではありません。二十歳の女の子が失踪しているのです。

今さら実名を隠すことに意味はありませんが、わざわざ日本にまで実名を広めることも気が引けますので、ここではバウラさんとしておきます。

バウラさんは金曜の深夜に友だちらとレイキャビクのダウンタウンのパブで時を過ごしたようです。明け方に近い午前5時前後に店をひとりで出ました。そしてそれ以降消息が途絶えました。

「普段から素行に問題があるような子ではなかった。だからこそ心配しているんです」母親のシグルンさんは土曜日中に警察へ捜査依頼をだしたようですが、やはりそう簡単には捜査陣は動かなかったようです。

それでも日曜日の真夜中(土曜の深夜)には警察から「行方不明の女性を探している。 情報を求めます」という案内が各メディアへ出されました。もちろん氏名、顔写真付きの情報依頼です。

そして日曜日から、警察犬やレスキュー隊を動員しての本格的な捜索が始まりました。この時点では警察はバウラさんの捜索発見を「一番の優先事項にする」と言っていたようです。

捜査が始まると間もなくしていろいろな事実の断片がメディアにも紹介され始めました。まず、土曜日の未明5時25分前後ですが、パブを出たバウラさんがひとりで、ダウンタウンのオールドメインストリートを歩いている姿が、通りのいくつかの監視カメラに映っていました。

足元は定かでないし、そうとう酔っ払っているのが見て取れますが、これはこの世代の若者の間では珍しくはありませんし、この時間に女性がひとりで、というのもこちらではそう常識はずれでもないことです。

そして、その後すぐに赤いKIAの乗用車が映り込んでいます。その他の状況から考えて、「おそらく」バウラさんはこの直後に、この赤い車に乗り込んだものと推測されました。自分の意志でかどうかはもちろん不明。

その後、バウラさんの携帯がどこのキー局に綱がって行ったか、という手がかりから、バウラさんはレイキャビクから車で20分ほどの距離にある古い港町のハフナフョルズルへ移ったことがわかりました。正確には彼女の携帯が、ですが。

そして5時50分、携帯がオフにされました。同時に朝6時くらいに、その港町で赤いKIAの乗用車が通りの監視カメラで確認されました。




雪の中での港付近の捜索
Myndi er ur Visir.is


もちろん警察はこの車の持ち主、あるいは使用者に連絡を呼びかけていましたが答えなし。そして、「おそらくこの車」というのが火曜日に、ハフナフョルズルとレイキャビクの中間の町コーパヴォーグルで発見され、押収されました。

この車は長期レンタカーで、ある会社が借り受けていましたが、その直接に使用者は「シロ」であることがすぐに判明。問題の週末には「外国籍の者」が借り受けて使用していたことがわかりました。

そして、今度はバウラさんのものと思われる左右の靴が港際で発見されます。
そして、この「外国籍の者」がグリーンランド国籍の大型漁船のクルーであることも明らかにされました。しかも、この船、すでに帰国に向けて出航した後。

同時並行して継続されていた港際と丘の原野の大捜索も実りは無し。日曜の夕からは雪が降り出して、ぐっと冷え込んできていたので、捜索の人たちも大変な作業であったろうと想像します。

そして、火曜の真夜中近くにビックリニュースが入ります。出航していたグリーンランド国籍の漁船が、自主的にハフナフョルズルにUターンして戻って来るというのです。それでも到着は水曜の真夜中になります。

そして水曜の午後、まだ沖にいる漁船に向けてSWAT要員を乗せた国境警備隊のヘリが飛び立ちました。そして夕方頃には、ふたりの船員を船上で逮捕したとの報。




再入港した漁船を待ち受けるパトカー
Mydin er ur Visir.is


水曜の夜半から、接岸した漁船内の探索と、逮捕された船員たちの事情聴取が始まりました。

木曜になり、船内から相当キロ数の大麻が見つかったとのこと。ただし、警察は「バウラさんの失踪とは無関係と思われる」とコメント。今、これを書いている木曜夜現在、バウラさんの行方は不明のままです。

アイスランドは小国ですし、基本的には田舎国家です。ですからこのような事件が起きると途端に一致団結して事件の無事な解決を願うようなところがあります。今回も、まるで国民が皆捜査官になったような雰囲気ですし、火曜日の夜に持たれた、バウラさんの無事を願う祈りの会には、大きな教会を埋め尽くすほどの人が参加しました。

逆に、事件に関わりのないグリーンランド人の人たちが店から追い出されたり、通りで白い目で見られる等の、残念な差別も起こってしまっているようです。

私が思うのはやはりアイスランド人のこれまでの常識と、現在あるアイスランドの事実との間に「差」ができてしまっているということです。

今はこの国も国際社会の一部になってきているのです。多くの「現代的な常識」を持つ外国人たちが入り込んできています。以前は女の子が酔っ払って、夜中の通りをひとりで歩いても大丈夫だったのでしょうが、今はやはり危険なのです。

ただ、念のために付け加えておきますが、私はもしバウラさんが事件に巻き込まれたのだとしても、「被害者にも責任がある」などとは考えません。悪いのは加害者の方です。ですが、被害者にならないようにする警戒も必要だ、ということです。

最近、麻薬に関しても同じようなことを書きましたが、日本からいらっしゃる皆さん、アイスランドにも危険はたくさんあります。ある意味、「日本の常識」をお持ちになることも忘れないでください。

***

土曜となり、失踪から丸一週間が経過しました。バウラさんは未だ見つかっていません。容姿者ふたりは関わりを否認しています。




総動員されているレスキュー隊のメンバー
Myndin er ur Visir.is


金曜日、土曜日は朝からレイキャビクとハフナフョルズルを中心として、「車が往き帰りしてこれた距離」と「乗用車が乗り入れられる路面状況」を考慮して、相当な範囲での捜索が行われました。すべての地区のレスキューチームが出動しています。

警察の捜査指揮官のグリームル氏は、文字通り不眠不休で捜査の指揮を取っています。国民からの賞賛の声も上がってきています。私もこういう状況での「ひとりを大切する」というアイスランド人の気質というか根性は見上げるものがあると思います。

まだ終わってはいませんが、この一週間は捜査陣には文字通り、雪と汗と焦りの日々だったと思います。ご両親や家族にとっては、文字通りの地獄の思いでしょう。可能性は少なってきましたが、それでもなんとかバウラさんが無事に保護されることを願い、祈ります。

***

こちらの時間で日曜日の午後5時(日本時間では月曜日の午前2時)、警察が記者会見を開き、日曜の午後1時にバウラさんの遺体を、南海岸沿いのソルラウクスホブンという町から西15キロの海岸で発見したことを伝えました。

とても残念に思います。

ご遺族、お友だちだった方々に神の癒しと支えのあることを祈ります。


応援します、若い力。Meet Iceland

藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
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