レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

政権を一夜で崩壊させた「手紙」

2017-09-24 05:00:00 | 日記
前回冒頭でちょっとお知らせしましたが、アイスランドでは政界にスキャンダル的な事件が起き、それがもとで一夜にして独立党=ヴィスレイセン=明るい未来党の三党連立内閣が崩壊。国民総ビックリ状態の中で、10月28日を投票日とする国会選挙が決定しました。

どうやら、日本でも同じような時期に総選挙になりそうという噂を聞いていますが(というよりバイキングでしっかり見ているのですが)、これもかなり急な話しのようですね。

さて、アイスランドのビャルトニ·ベネディクトスソン内閣がなぜ崩壊したか?を説明したいのですが、これが結構難しいのです。政治とは直接には関係しないところで、しかも過去に起きた事件(複数)が、意外な形で政治の中心部にまで入り込んで来てしまったような感じです。

それらの事件とは児童猥褻事件です。そこではふたりの男性が、互いには関係なく、それぞれが事件を起こし逮捕されています。政権崩壊に直接に関係しているのは、ふたりのうちのひとりだけなのですが、双方の事件について記す必要があります。

変な話ですが、アイスランドの実態を知るには欠かせないトピックかもしれません。超人気のアルトナルドゥル·インドリーズスソンなら面白いミステリー小説にするのではないか、とさえ思えるのです。

が、残念ながらこれは実際に起こったことで、小説ではありません。実際にこれらのゲスな男たちのために生活を踏みにじられた女の子たちとその家族がいるのです。

そのふたりの男の名前は、ロベルト·アルトニ·フレイザースソン(71)とヒャルティ·シーグルヨウン·ホイクスソン(57)と言います。本名です。

このうち今回の政変に直接関係するのは、ヒャルティの方ですが、ロベルトの方が、ある理由から昨今こちらの社会の注目を浴びていました。で、もしロベルトの方がこれほど話題になっていなかったなら、ヒャルティの方もそれほど注目を浴びず、政変には至らなかったかもしれません。




選挙入りを伝えるモルグンブラウジズ紙
Myndin er ur Mbl.is


話しの順番としては、ロベルトの方を先に持ってくるべきなのですが、なぜ国会が解散するのか?ということを説明するのに時間がかかりすぎますので、先にヒャルティの方を持ってきます。

このヒャルティという男は、先に述べましたように児童猥褻の罪で逮捕され服役しました。有罪となったのは十年以上前の2004年です。この男、なんと後妻(または同棲女性)の連れ子を、彼女が五歳の時から十八歳になるまで、日常的に性的行為の相手としていたというのです。まさしくオエッ!です。

2004年に五年半の実刑判決を受けました。アイスランドの刑の標準で言うとかなり重い方ですが、もともと「アイスランドの裁判では性犯罪に対する判決が軽すぎる」という批判がこの十年来聞かれています。このことは覚えておいてください。

ですから、おそらく2010年くらいに刑を終えたはずです。詳細に彼の経歴を追ってはいませんので曖昧ですがご了承ください。次のステップが問題となります。それはいわゆる「名誉回復」です。

どこの国でもある程度同じでしょうが、アイスランドでも実刑判決を受けた人は、公民権が制限されます。例えば選挙権がなくなり、投票も立候補もできなくなります。またある種の職業、例えば警察官などになる資格も剥奪されます。

ですが、元犯罪者といっても、それぞれに固有の状況というものはあったかもしれませんし、中にはそんなに悪人でない人もいることでしょう。

そこで「名誉回復」のシステムがあるわけです。アイスランド語ではuppreist aeruウップレイスト アイルと言います。正直いってこれまで知らない言葉でした。「名誉回復」がなされれば、大半の失われた権利が帰ってきます。

刑が満期となって五年経つと名誉回復の嘆願申請をすることができるのですが、微罪の場合は五年以下でも良いそうです。もちろんその後の素行が良くなければならず、それを証明する推薦状なるものを知人に書いてもらい添付しなければなりません。

さて、ある元犯罪者が名誉回復の申請をし認められたとしても、それが公に知らされるわけではありません。まあ、それはそうでしょうね。ですから、誰にも気が付かれずに名誉、とうか公民権を回復し、完全に社会復帰することは可能です。

実際にヒャルティも昨年の2016年に「名誉回復」していたのです、誰にも気が付かれずに。

それが明るみに出たのが、実はもうひとりの児童猥褻者であったロベルトのせいなのです。彼の「名誉回復」が噂に登るようになったことから、その関連でヒャルティの名誉回復が明らかにされたわけです。

性犯罪者の場合、刑満了後にどのように処遇すべきか?ということが日本や米国でも大変難しい議論になっていることは、皆さんご承知のこととお思います。「人間なのだから、再チャンスを与えるべきだ」「いや、再犯率が高いからフォローすべきだ」とか。

アイスランドでも同じで、性犯罪者の処遇に関しては非常にデリケートな面があります。先にも書きましたが「刑そのものが軽すぎるのだ!」という批判が根底にあることも理由のひとつでしょう。

そういう背景がある中での名誉問題に関連して、ある新聞社が法務省に「名誉回復」関連の資料の開示を求めましたが、法務大臣はこれを拒否。結局、地裁に持ち込まれ、裁判所命令で資料開示が実現することになります。

私はこのヒャルティなる人物が、本当に改心したのか、最近どのように生活していたのかはまったく知りません。だから、この人物の現在のあり様についてはノーコメントでいきます。

で、渋々開示された資料により、ヒャルティの名誉回復の申請の際に、ビャルトニ首相の父親が推薦状を書いてあげていたことが明らかになったのです。

もちろん推薦状を書くこと自体は、犯罪でも不道徳でもありません。ですが児童猥褻犯、しかもかなりひどい罪を犯したヒャルティのような人物の名誉回復となると、世論に賛否両論が湧き上がるのは目に見えています。

ところが、そのことが明るみに出る前に、独立党のシーグリズル法務大臣は、同じ独立党のビャルトニ首相にだけはビャルトニ首相の父親がヒャルティに推薦状を書いてあげていたことを伝えていた、というのです。

ここで問題になるのは、首相に「だけ」ということで、連立パートナーの党首ふたりには一言もなかったのです。そしてその事実をヴィスレイセン、明るい未来党のふたりの党首が知らされたのが、新国会開会前日の9月11日。

「信頼関係が完全に損なわれた」と明るい未来党のプロッピェ党首が、連立解消を決意したのがそれから三日後、木曜の夜でありました。だから正確には「一夜で政権崩壊」ではなく「三夜」くらいでしたが。

というのが、今回の突然の内閣崩壊のストーリーの主なポイントです。強調しておきたいことは、「性犯罪」「児童猥褻」などに対して、こちらの社会は道義的にかなり厳しい目を持っていることです。

その反面で「司法的にはあまり厳しくない」という矛盾するような現実が存在することが、今回の騒動の足元にあります。これも本当のアイスランドです。

次回は、ウンザリするのですが、もう片方の男ロベルトのことについて書いてみたいと思います。オエッ!度がアップしてしまいますが。そちらの方も本当のアイスランドなので...


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com

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