レイキャビク西街ひとり日誌 (Blog from Iceland)

北の小さな島国アイスランドはレイキャビクの西街からの、男独りブログです。

貧困を逃れる人たち

2016-05-22 05:00:00 | 日記
先週の水曜日の夜に二組のアルバニアからの難民(庇護申請者)の家族が本国へ強制送還されました。そのうちの一家族は夫婦と三人の子供の五人家族で、約一年前の夏にアイスランドへやってきました。

長男は二十歳代でしたが、ウツ病がひどく治療を必要としていました。長女は利発な娘で、滞在中に通学し始めた高校でみるみるうちにアイスランド語を習得し、大学生になる資格を得るための試験にもパスし、優秀な成績でその高校を卒業する予定でした。

「予定でした」というのは、実は卒業式は今月の末なので、卒業式を終えないうちに送還になってしまったわけです。修業の集いでは生徒を代表してアイスランド語でスピーチをしたそうで、「目前の卒業式に参加させないで、送還とはあまりにひどいじゃないか」という声が一般の間にずいぶんあったようです。

実はアルバニア、マケドニアからの難民で、同じような状況にある家族は他にも複数あります。正直言って彼らが難民認定される可能性はゼロに近いと言わざるをえません。なぜなら、事実彼らが迫害や紛争を逃れてきた難民である可能性が非常に少なく、貧困を逃れてきた「経済難民」である可能性の方がずっと強いからです。

で、このような「経済難民」の人たち、特に小さな子供のいる家族が問題になると、非常に困ることになります。ふたつの点で困るのです。

第一は、法的な脈絡で外国籍者に保護を与える場合の「難民」は自然災害による一時避難を別にすれば、政治的迫害や宗教的弾圧、暴力を伴う紛争から逃れてきた人たちが「難民」であり、貧困という経済的な理由はそこに含まれないからです。

ですから、いかに周囲がその境遇に同情しても、「難民申請」というチャンネルでは筋が通らないことになってしまうのです。先に挙げた家族の例がこのケースの見本のようなものです。

困る点のふたつ目は、経済難民の人が庇護申請をすることによって、本当の庇護申請者の人の審査が遅れてしまったり、「難民受け入れ用」として準備されている家屋や予算が浸食されてしまうことです。

実際は経済難民であっても、庇護申請をしてしまえば一応は決まりのプロセスを通ることになります。その間は他の庇護申請者と同様に扱われることになるわけです。

ですから、もとより限りのある家屋や予算は、経済難民が増加した場合にはどんどん足りなくなっていってしまうわけです。

移民局の統計では、今年の第一四半期にあった庇護申請者は全体で147人。国別に見るとトップはアルバニアの35人。二番目はイラクの32人。三番目がマケドニアで24人、四番目がアフガニスタンの14人となっています。アルバニアとマケドニアで都合59人。全体の四割に相当します。

ここまで比率が増えてくると、やはり問題です。「経済難民は庇護申請をしないで!」と言えば簡単なのですが、じゃあ彼らはどうすればいいのか?と問われると代替になる答えがないのです。

本当に家族を食べさせてあげられない状況に直面するならば、誰だって他へ移っての生活を求めるでしょう。飢えないために庇護申請をしたとしても、それだけできつーい非難はしたくはない気がします。

昨今の基本的人権の解釈の流れから言いますと、「貧困は最大の人権侵害」ということになります。この解釈の弱みは、例えそうだとしてもそれを早急に改善することはできない、という事実があることです。

じゃあ、「先進国は貧困国の人たちが、貧しいとは感じなくなるくらいまでの経済的援助をせよ」などということが実際に合意されるとは思えませんから。

この貧しい国からの経済難民の問題にどう対処するかということは、これからアイスランドでは十分な議論をしていかなくてはならない課題だと思います。

実際にはあり得ないでしょうが、私には思いつきのアイデアがあります。アイスランド- アルバニア、あるいはアイスランド- マケドニア間で二国間条約をそれぞれ結び、アイスランドがアルバニア、マケドニアの人にEC国民と同じような権利を与え、つまり自由にアイスランドへ入国して仕事を探し、就労して良いことにするのです。

そうして家族の長が働いて送金できるようになれば、一家を挙げての庇護申請というようなことはなくなるでしょう。アイスランドは現在好況に転じてきており、外国からの労働力が必要であることは誰もが指摘しています。

アルバニアやマケドニアの人たちがここで職を得られれば、双方にとって益なだけではなく、本来の庇護申請者のシステムも普通に稼働するようになるでしょうし、「Win-Win-Win」になると思うのですが。

いずれにしても、本来の庇護申請者と経済難民の人を同じ土俵の上で語ることはもはや不可能になっています。誰もの権利が守られるような途を開かなければなりません。


応援します、若い力。Meet Iceland


藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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