昨日、夜7時半ごろ、多摩川に弓を持って行き、
「素引き」をしていたら、なにやら、凄くいい音色が聴こえてきた。
(素引きとは、矢をつがえずに引くことである)
なんという澄み切った美しい音色だろうか・・。
それでいて、どこか物悲しく、心の琴線に触れる冴えわたった音色だ。
横笛だろうか・・?
いや、これは・・・もしかしたら・・
そっと、音のする方向へ歩いていくと、川べりで尺八を吹いてる人がいた。
この音色は、尺八だったのか!!!
この美しく冴えた、幽玄さえ感じる音色は・・・!!!!
その音に耳を澄ませながら、俺は「素引き」をゆっくり繰り返した。
月が、雲間に朧(おぼろ)に輝き、とても不思議な気持ちで素引きをした。
たまたま散歩に来た人がいたら、この光景をいったいどう思っただろう?
一人が尺八を、いくらか離れたところで、一人が弓を引いているのだ(笑)。
そういえば、俺に初めて弓道を指導してくださったY先生は、
その庵に、尺八がたくさんあって、目の前で演奏してくださった。
当時、まだ青年だった俺は、「なんか不思議な楽器だなあ~」くらいに思っていたが、
上京してから、指導を受けたT先生が、しばらくすると、これまた、尺八を習い始めた。
なんでか知らないが、俺の弓の師匠は、皆「尺八」を奏でる。
まったく奇遇というか、不思議な縁がある楽器というか・・。
弓も、竹で出来ているが、尺八も竹で出来ている。
なにか、日本人の心に共鳴するものがあるのかもしれない。
昨日の夜は、月明かりの中で、その音色の美しさに、心が安らいでいた。
遠くはるかに過ぎ去り、いつしか失ってしまった世界が、また見えてきそうな感じ・・。
はるかに失ってしまったもの・・・・捉えきることのできないもの。
尺八の音色から感じとれるあの不思議な感覚はなんだろうか・・・・。
俺は、弓を引くときに、弦音を非常に重視しているが、
尺八のあの音色も、なかなかに俺の心をゆさぶるものがあるのだった。