『ジブラルタルの風』は、加古隆さんの、ピアノ・ソロ・ベスト版である。
名前は聞いていたが、どんな曲を作っている人か、知らなかった。
だが、昨日今日と、聴いてみて、思わず、瞼に涙が浮かんでしまった。
一番好きになったのは、「ポエム」という叙情的なピアノ曲だ。
イメージは、木々の間を、風に乗ってゆっくりと流れていく霧に包まれた森・・だそうで、
曲に浸っていたら、まさしく、その霧の森を漂う詩人の姿が見えてきた・・・。
やがて、そのさまよえる詩人は、霧の中に幻を見る・・それを追う。
だが、その幻は、実は、詩人の心の中にこそ、生きているものなのだ・・。
この美しい霧の森の中では、どんな心の傷も、悲しみも、
何もかもすべてが、静かに優しく、いたわるようにしっとりと包みこまれてしまう・・。
そんな深い優しさに触れたとき、人は、思わず涙がこぼれる・・。
何も言葉は要らない・・ただ、ピアノの旋律に心をゆだねていればいいだけだ・・。
そういうピュアーな、繊細な、抒情感溢れるピアノに、俺ははじめて触れた気がする。
海外では、アンドレ・ギャニオンが素晴らしいが、国内ではこの人が最高かも・・。
加古隆さんは、まさしく「ピアノの詩人」だ。
5月の涼しい夜に、1人、しみじみ聴くピアノソロは、俺の心に、どこまでも深く沁み込んでくる。