*テーマ:「栄養のお仕事 in 発展途上国 〜途上国の病院で栄養管理システムをつくりたい編〜」
*日時:4月23日(土)19時〜21時
*場所:さくらcafé *参加人数 14名
*発表者:カトゥンドゥ麻里さん (栄養専門家)
ザンビアの保健プロジェクトのアドバイザーとしても、日頃よりTICOがお世話になっているカトゥンドゥ専門家からのお話は、専門分野である途上国の栄養についてです。
<ミクロネシアとザンビアの現状>
近年、注目を集める栄養ですが、ミクロネシアとザンビアでの栄養問題について、ご自身の経験を踏まえた報告はとても興味深いものでした。
ミクロネシアでは、食生活と生活スタイルの変化により生活習慣病の増加が問題になっているそうで、便利な生活と運動不足は切っても切れない深い関係があるのが伺えます。
かたやザンビアでは、状況は改善してきているものの小児の死亡率も依然高く、子どもの死の40〜50%は低栄養に起因しているとさえ言われているそうです。新生児死亡の多くは早産や低体重での出生に関係していますが、それらを引き起こす要因として、母親の栄養状態や生活環境に起因するものが多いのが特徴的とのこと。母親の教育レベルと家庭の裕福さが、子どもの低体重の発生率に影響することは、なんとなく想像がつくと思います。母親の教育レベルが低い家庭の子どもが慢性的な栄養不良になりやすいと言える一方、母親がある程度教育を受けていても、ある一定の数の急性栄養不良が子どもに起こっているという研究結果は印象的でした。
このことは大切な視点を投げかけている気がします。地域における感染症の蔓延、不衛生な環境、病気にかかったときの適切な処置等、これらを改善しない限りは、子どもの急性栄養不良はなくならない。つまり、問題が表面化するのは個人のレベルだとしても(病気や低栄養などの形で現れる)、それは決して個人だけの問題ではなく、家庭や地域、更には国のシステム等に根本的な原因があるということ。そのことが、現在世界中でも広く認識されるようになってきたとのことでした。
日本でも、近年食育や子どもの貧困の問題が取り上げられるようになりました。直接接する母親や家庭の影響は当然大きいものの、学校や近隣住民、地域社会のあり方や国の社会保障の仕組みが、問題の根底にはないだろうかと改めて考えさせられます。
<病院での栄養管理>
話は変わり、ザンビアの最高峰であるザンビア大学の栄養学部で指導されていたこともあるカトゥンドゥ専門家から、面白い事例が共有されました。ザンビア大学病院で、出されている給食の栄養アセスメントを行った時のこと、まず入院患者が何を食べているか分からないという壁にぶつかったそうです。病院では患者さんが好きな食事を持ち込んだり、付添人と食事を共有したりしているそう。給食における栄養量の決まり事も存在せず、その日手に入った材料でメニューが変わるという柔軟ぶり日本の病院では、栄養士の方がきっちり栄養バランスを考えてメニューを作り、それに基づいて材料が揃えられ、配膳されますよね。特別食や経腸栄養も少ないと言います。病院で出される食事が、シマ(主食)と焼いたチキンとレイプという葉っぱ(=ザンビアといえばこれ!という位代表的な食事)なのには驚きでしたもっと野菜を多く使ったり、多品目にもできようものの、それをしていないのが実際のようです。
ミクロネシアの、種類の異なるバナナばかりが並ぶ病院食を見たときは、さすがのカトゥンドゥ専門家も呆れたようです。それでも、理由があるはずだからと、怒らずにまず理由を聞いてみたというエピソードに、一栄養士としてのプロフェッショナルとしての責任と、その国の現状を踏まえて寄り添い、その環境の中でベストを模索しようと葛藤される姿を感じました。
途上国の病院において栄養管理を進めていく上で、予算やリソースの不足など様々な課題があるものの、医療者による適切な指導も重要で、栄養士だけではなく特に医師の理解が必要だとも話されていました。
今、注目を集める栄養分野。文化や社会の姿がそのまま反映され、行く先々で全く違う顔を見せてくれるからこそ、面白くもあり難しい。カトゥンドゥ専門家のお話しを通じて、その醍醐味に触れられた気がします。
文責:事務局(国金)