*テーマ:「ムィニルンガ(ザンビア)の生活と医療事情」
*日時:5月29日(日)17~19時
*場所:さくらcafé *参加人数 8名
*発表者:鈴記好博さん (徳島大学大学院総合診療医学分野・助教)
2015年5月よりザンビアへ渡り、2016年3月まで北西部国境の町、ムィニルンガの郡病院にいらっしゃった鈴記先生。鈴記先生は、ムィニルンガ郡病院で医師として活動されながら、今後この地での支援の方向性、可能性を検討するための視察を行うことを目的とされていました。ザンビアでの生活や地域の疾患の現状、課題等を、アットホームな雰囲気の中お話しいただき、その後の質疑応答も活発に行われました
<ザンビアでの生活>
ムィニルンガは、アンゴラとコンゴとの国境に近い町で、首都のルサカからバスで16時間もかかる地方部です。人口は12万人、スーパーマーケットはなく買い物は屋外の市場で。ドナーと呼ばれる支援団体も入っていない地域で、鈴記先生は珍しい“外国人”だったようです。治安は概して悪くなく、電力事情も停電が頻発するルサカよりは良かったとのこと。鈴記先生のお人柄もあるのだと思いますが、いわく、それ程日々の生活にもストレスを感じられなかったようです。
<ムィニルンガ郡病院に見る医療事情>
この郡病院には、鈴記先生以外に医師が3人、准医師が2人、歯科医1人、看護師48人、放射線技師2人(うち1人は就学中で不在)、薬剤師6人(うち3人は就学中で不在)、理学療法士3人、臨床検査技師5人、その他事務局スタッフらがいます。一見してそれなりの人員がいそうですが、町には、この位の規模の医療機関が他にないことを考えると、ザンビアの医療人材不足が伺えます。
調べてみると、例えば人口10万人に対する医療従事者数は日本とザンビアでこんなにも差があります。
日本では医師が244人 歯科医師81人 薬剤師226人
ザンビアでは医師がたった6人 歯科医師2人 薬剤師2人
(参照:厚生労働省「平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」、WHO “HRH fact sheet”2010)
また気づくのは、在籍していても不在という医療従事者も少なくないことです。その間の人員の埋め合わせも徹底はされておらず、ただでさえ少ない人材の中、何とか対応するしかない現状がうかがい知れます。
<地域の疾患、診療状況>
興味深かったのは、10月から4月までの雨期に、入院や外来患者の数が増えること、特にマラリアに罹患した人が増えるようです。入院患者の6割は感染症によるもの。この原因として、収穫前のこの季節は食料も枯渇する時期であり、十分な栄養が取れず免疫力が低下することで感染症が増えるのではということでした。
また、HIVの陽性率も高いザンビアでは、治療と共に予防対策にも重点を置かれてきたはずですが、この地域では性感染症らに対する知識がまだまだ乏しいようです。10代の女子学生の妊娠、中絶等も非常に多いようで、コンドームなど避妊用具があまり使用されていないと考えられます。国の啓発教育では「HIVは、慢性的な疾患で怖い病気ではない」と説明をしていることから、こうした教育のあり方に疑問を持つ現地の人もいるとのこと。HIV陽性者への偏見や差別をなくし、検査を促すためのメッセージだったのだろうと思われますが、直接伝える人が、言わんとするところの狙いは何か、それが相手にどの様に受け止められるかまでしっかり認識していることが必要なのだと感じました。
<今後の支援の方向性>
・低年齢妊娠に対する教育的介入
・HIVを含めた性感染症に対する知識向上のための教育的介入
・マラリア、嘔吐下痢などに対する知識向上のための教育的介入
・病院職員への教育
鈴記先生が共通して挙げられたのは、子どもから青少年、両親、教師等、広く住民に正しい知識を伝え行動変容を促す教育的介入と、それを可能にする地域での教育リーダーらの育成です。また、患者さんへの対応や医療倫理、カルテやレントゲンの保管方法に対する整理整頓の徹底、薬など備品の注文方法の指導など、病院職員への教育もやはり必要と言います。技術指導のための研修の実施なども有用ですが、職業意識や患者さんへの対応等は、むしろ同じ職場で同僚として働き、日常を共にする中で、長い時間をかけてゆっくり伝わっていくことなのかもしれません。
辺境の地でお一人、思いもよらない出来事や思うようにいかない環境の中でも楽しみを見つけ、前向きに活動されていた鈴記先生本当にお疲れ様でした。
文責:事務局(国金)