TICOブログ

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ザンビア心臓血管外科技術移転事業についての報告(2019年10月7日分)

2019年10月15日 | 合宿

TICOのザンビア心臓血管外科技術移転事業の一環として、2019年10月7日にザンビア大学付属教育病院にて手術を行いました。その状況についてご報告させていただきます。

心臓血管外科医 松村武史

 

2019年10月7日、ザンビア大学付属教育病院にて現地の心臓外科チーム及びTICOチームによりザンビア人の女性(25歳)の手術を行いました。

彼女は、すでに4か月前から心臓内の右心房に腫瘍が指摘されており、その腫瘍が血液の流れを悪くし、三尖弁の機能も悪くし、胸水や腹水を合併した重度の心不全の状態でした。TICOチームがザンビア大学付属教育病院を訪問した10月1日に手術の依頼が病院側よりありましたが、もう少し良くなってから手術したほうが望ましく、そうでないと手術のリスクが高すぎると判断させていただき、薬剤を調整しました。しかし利尿剤に対する反応も思わしくなく、日ごとに体重が増加し、酸素飽和度が低下していきました。

内科的な治療では死を待つばかりになるため、ご本人とご家族に対して主治医ムテマ医師と松村から病状説明を行い、リスクは高いのですが手術を行うしか選択肢がない事をお話し、手術に対する同意が得られましたので10月7日に手術を行いました。ムテマ医師が執刀し、日本人スタッフ3名(医師1名、看護師1名、臨床工学技士1名)がサポートしました。

 

手術では、開胸して人工心肺へと移行し、心停止下に腫瘍を摘出、三尖弁には問題ありませんでしたので右心房を閉じ、人工心肺を離脱しました。人工心肺離脱時には頻脈と血圧低下がみられ、肺高血圧も疑われました。そのため麻酔科による薬剤調整を行いました。状態は改善し、閉胸をおこなっていましたが、胸を閉じようかとする少し前に急に血圧が下がり徐脈となりました。不整脈の薬剤が投与されたのと時間的には重なります。すぐに装着されていたペースメーカーを作動させ、胸を再度開き、閉胸前の状態にしましたが改善が見られず、再度人工心肺を装着し、状況の改善を試み、手を尽くしましたが、あきらめないといけない状況になり、低心拍出症候群で死亡されました。人工心肺を離脱して閉胸してICUに入室、ご家族には主治医ムテマ医師と松村から説明をさせていただきました。病院へのインシデントレポートは10月11日に提出されました。

 

何も対処しないでいるより数日死期を早めた結果となりましたが、難しい事例だからと手術をせず、患者さまを見捨てる選択はできませんでした。もう少し早く手術できれば救うことができていたと思われます。そういう意味でも心臓手術ができる人材を育成する必要を痛感しています。

今後、同様に重症患者さんに出会った場合、今回の事例を踏まえた上でも、「救いたい」という想いは変わらないと思います。救える可能性が少しでもあると判断できれば、それにチャレンジしていきたいと考えています。

 

今回は患者さまの重症度が高く、相当な覚悟で臨んだ手術でしたが大変残念ながら患者さまを救うことは出来ませんでした。今後、彼女のように苦しんでいる方々を救えるよう、改めてチームメンバーのコミュニケーションを十分にとると共に、使用する機器や試薬類においても万全の準備を行い、手術を安全にかつ適切に実施できるよう配慮したいと考えます。

謹んで患者さまのご冥福をお祈り申し上げます。


第2回心臓血管外科トレーニング開始のお知らせ

2017年11月01日 | 合宿
予定通り本日
ザンビアのUTHにおいて
心臓血管外科医育成事業の
第2回トレーニングが
始まりました

内容は
小児の心臓血管外科手術で
講義、手術のビデオ視聴
WetLaboによる実技を行います
約2週間の予定です

対象は
第1回トレーニング履修者です

写真などは入手次第
UPしていきます

ザンビア循環器医療技術移転 第1回トレーニング終了のお知らせ

2017年10月14日 | 合宿
2017年9月25日から10月13日まで
ザンビアUniversity Teaching Hospitalにて
心臓血管外科チーム 第1回トレーニングを行いました

内容は
心臓外科医(4人)の修練 講義と実技(WetLabo)
体外循環士(1人)の修練 講義と実技(デモ機の使用)
手術室看護師(2人)の修練 実技(WetLabo)

今後の予定
2017年10月31日から1週間 第2回トレーニング
内容は小児心臓外科手術

2017年11月13日から2週間
体外循環士の日本での研修

2018年1月
ザンビア人により初めての心臓外科手術

これからもご支援
よろしくお願いいたします

ザンビアの心臓外科事情について

2017年10月08日 | 合宿
ザンビアにて3週間滞在中の松村です

疾患としては
先天性心疾患(国や人種を問わず一定の割合で生まれる)
リウマチ性心疾患(弁膜症、子供の時の感染症であるリウマチ熱が原因)
が多く、患者のほとんどが小児、もしくは20台まで

今のところ、成人病が分からない状態であり
冠動脈の検査、心臓カテーテルや冠動CTができない状態で
狭心症が放置されている状況なので
成人の症例はほとんどありません
というか、診断でさえできない状態です

小児に関しては
手術待ちが常に400人とのこと
しかも、常に400人ということは
毎年100人の神官がエントリーされ
毎年100人が治療を受けられず死亡している
こんな状況です

心臓外科はUTHにはありますが
外国人の出稼ぎ集団で
とくに人工心肺の機材がそろわず
ほとんど手術していない状況
また、積極的に手術しようとしていないように思います

他国からの援助としては
イタリア人が手術物品すべてと
ICUナースにいたるまで全スタッフをつれて
年に数回手術に来て1週間で10例手術を行う

インドの病院は年間に40-50人を手術を
受け入れているとのこと

これでは手術待ちがへらず、
悲劇が繰り返されている状況です

なんとかこの状況をかえないといけないと思います

5月地球人カレッジ♪

2016年06月16日 | 合宿

*テーマ:「ムィニルンガ(ザンビア)の生活と医療事情」

*日時:5月29日(日)17~19時

*場所:さくらcafé  *参加人数 8名

*発表者:鈴記好博さん (徳島大学大学院総合診療医学分野・助教)

(画像をクリックすると拡大します) 

2015年5月よりザンビアへ渡り、2016年3月まで北西部国境の町、ムィニルンガの郡病院にいらっしゃった鈴記先生。鈴記先生は、ムィニルンガ郡病院で医師として活動されながら、今後この地での支援の方向性、可能性を検討するための視察を行うことを目的とされていました。ザンビアでの生活や地域の疾患の現状、課題等を、アットホームな雰囲気の中お話しいただき、その後の質疑応答も活発に行われました

 

<ザンビアでの生活>

ムィニルンガは、アンゴラとコンゴとの国境に近い町で、首都のルサカからバスで16時間もかかる地方部です。人口は12万人、スーパーマーケットはなく買い物は屋外の市場で。ドナーと呼ばれる支援団体も入っていない地域で、鈴記先生は珍しい“外国人”だったようです。治安は概して悪くなく、電力事情も停電が頻発するルサカよりは良かったとのこと。鈴記先生のお人柄もあるのだと思いますが、いわく、それ程日々の生活にもストレスを感じられなかったようです。

 

<ムィニルンガ郡病院に見る医療事情>

この郡病院には、鈴記先生以外に医師が3人、准医師が2人、歯科医1人、看護師48人、放射線技師2人(うち1人は就学中で不在)、薬剤師6人(うち3人は就学中で不在)、理学療法士3人、臨床検査技師5人、その他事務局スタッフらがいます。一見してそれなりの人員がいそうですが、町には、この位の規模の医療機関が他にないことを考えると、ザンビアの医療人材不足が伺えます。

調べてみると、例えば人口10万人に対する医療従事者数は日本とザンビアでこんなにも差があります。

日本では医師が244 歯科医師81 薬剤師226

ザンビアでは医師がたった6 歯科医師2 薬剤師2人

(参照:厚生労働省「平成26年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」、WHO “HRH fact sheet”2010)

また気づくのは、在籍していても不在という医療従事者も少なくないことです。その間の人員の埋め合わせも徹底はされておらず、ただでさえ少ない人材の中、何とか対応するしかない現状がうかがい知れます。

 

<地域の疾患、診療状況>

興味深かったのは、10月から4月までの雨期に、入院や外来患者の数が増えること、特にマラリアに罹患した人が増えるようです。入院患者の6割は感染症によるもの。この原因として、収穫前のこの季節は食料も枯渇する時期であり、十分な栄養が取れず免疫力が低下することで感染症が増えるのではということでした。

また、HIVの陽性率も高いザンビアでは、治療と共に予防対策にも重点を置かれてきたはずですが、この地域では性感染症らに対する知識がまだまだ乏しいようです。10代の女子学生の妊娠、中絶等も非常に多いようで、コンドームなど避妊用具があまり使用されていないと考えられます。国の啓発教育では「HIVは、慢性的な疾患で怖い病気ではない」と説明をしていることから、こうした教育のあり方に疑問を持つ現地の人もいるとのこと。HIV陽性者への偏見や差別をなくし、検査を促すためのメッセージだったのだろうと思われますが、直接伝える人が、言わんとするところの狙いは何か、それが相手にどの様に受け止められるかまでしっかり認識していることが必要なのだと感じました。

 

<今後の支援の方向性>

・低年齢妊娠に対する教育的介入

・HIVを含めた性感染症に対する知識向上のための教育的介入

・マラリア、嘔吐下痢などに対する知識向上のための教育的介入

・病院職員への教育

鈴記先生が共通して挙げられたのは、子どもから青少年、両親、教師等、広く住民に正しい知識を伝え行動変容を促す教育的介入と、それを可能にする地域での教育リーダーらの育成です。また、患者さんへの対応や医療倫理、カルテやレントゲンの保管方法に対する整理整頓の徹底、薬など備品の注文方法の指導など、病院職員への教育もやはり必要と言います。技術指導のための研修の実施なども有用ですが、職業意識や患者さんへの対応等は、むしろ同じ職場で同僚として働き、日常を共にする中で、長い時間をかけてゆっくり伝わっていくことなのかもしれません

辺境の地でお一人、思いもよらない出来事や思うようにいかない環境の中でも楽しみを見つけ、前向きに活動されていた鈴記先生本当にお疲れ様でした。

 

文責:事務局(国金)