日本郵船の2012年3月期の連結経常損益は100億円前後の赤字(前期は1141億円の黒字)になりそうだ。100億円の黒字だった従来予想から一転、2期ぶりに赤字となる。
採算の悪化が目立つのは、衣類や機械など幅広い製品を運ぶコンテナ船事業。クリスマス商戦向けの荷動きが盛り上がらず、代表的なアジア発欧州航路の運賃は前年に比べ3割強下落している。
郵船は東日本大震災で打撃を受けた主力の自動車輸送船事業が7月からほぼ正常化しているが、タイの洪水被害が拡大し、輸送需要に不透明感が漂い始めた。連結売上高は1兆9000億円程度と前期並みにとどまる見通し。
ただブラジルから中国向けの鉄鉱石輸送は堅調で、資源・エネルギー輸送船事業は回復している。
商船三井は有利な輸送契約が多く、郵船は航空貨物や物流など独自の収益源が全体を下支えしそうだ。
内部留保を元に年間配当は従来予想通り郵船が4円、商船三井は5円とする方針。
●日本郵船、北海で原油輸送、伊公社と長期契約、パイプライン代替
日本郵船は原油の短距離海上輸送事業を拡大する。欧州の北海油田に権益を持つイタリア炭化水素公社(ENI)と、産出した原油を陸上貯蔵基地までシャトル輸送する長期契約を結んだ。
受注額は400億円程度とみられる。北海やブラジルでは深海での油田開発の増加で、パイプラインからシャトル輸送に需要がシフトするとの見方が強い。日本郵船は専用タンカーを10年以内に現在の倍の60隻まで増やして対応する。
ノルウェーの傘下企業でシャトルタンカー専業大手、クヌッツェン・エヌワイケイ・オフショア・タンカーズ(KNOT)を通じ、ENIと最長10年間の定期用船契約を結んだ。
2013年夏から、深海油田の洋上生産施設で原油を積み込み、陸上の貯蔵・精製施設に輸送する。重量12万3000トンの中型タンカー2隻を投入する。
ENIが権益を持つゴリアテ油田はノルウェー沿岸から85キロメートルに位置する。水深は360~420メートルで、原油埋蔵量は2億バレル弱。
北海ではこれまで、水深が浅く陸地からも近い油田が多く、パイプラインで直接陸地まで運ぶケースが多かった。最近では油田開発が沖合の深い場所に移っており、洋上プラントで産出した原油を専用タンカーでシャトル輸送した方が効率的なケースが増えている。
日本郵船は昨年末、2億ドル強(約152億円)を投じてKNOTの株式約50%を取得。原油価格の高騰や新興国での需要拡大が、難しいとされていた深海油田の開発を後押しし、北海やブラジル沖でプロジェクトが多数計画されているためだ。
KNOTのシャトルタンカーの保有隻数は現在29隻(建造中を含む)で、10年の売上高は2億5221万ドル(約191億円)。カナダのティーケイ・オフショア・タンカーズに次ぎ世界2位のシェアを持つ。
日本郵船は北海やブラジル沖を中心に受注を拡大し、19年までには60隻規模の船隊として、売上高も5億~6億ドル(約380億~456億円)に引き上げたい考えだ。
当社はこのたび、ノルウェー王国のクヌッツェン・オフショア・タンカーズ社(Knutsen Offshore Tankers ASA、以下KOT社)への資本参加を決定しました。同社の新株を引き受けることで、同社総株式の50%を取得します。これに伴い、KOT社は社名を「クヌッツェン・エヌワイケイ・オフショア・タンカーズ社(Knutsen NYK Offshore Tankers AS)」1に変更します。
KOT社は、世界2位の規模を誇るシャトルタンカー2事業をグローバルに展開しています。当社はシャトルタンカー事業を、ブラジルをはじめとする陸上から離れたエリアでの深海油田開発の拡大に伴って今後さらに成長する分野と位置付け、このたびの出資を決定しました。新会社は、世界で建造中も含めたシャトルタンカー全82隻のうちの約30%を占める24隻を保有することになり、今後も主要プレーヤーとして同分野をリードしていきます。
今回の資本参加により当社グループは、従来の原油輸送サービスに加え、サプライチェーンのより上流分野におけるサービスを拡大することが可能となります。これは、当社グループが長年の原油輸送事業で培った洋上での危険物荷役ノウハウと、グループ会社による地球深部探査船"ちきゅう"の運航を通じた定点保持システムを中心とする海洋事業ノウハウの2つを同時に活用できる領域であり、日本の海運会社として初めてのこの分野への参画となります。
クヌッツェン・エヌワイケイ・オフショア・タンカーズ社は、今後当社の世界最大級の船員規模と財務基盤を活用しながら、KOT社の革新的先端技術を積極的に活用し、より広範囲で質の高いサービスをお客様に提供していきます。
1クヌッツェン・エヌワイケイ・オフショア・タンカーズ社概要:
本社所在地: Smedasundet 40, 5504 Haugesund, Norway
事業内容: シャトルタンカーの保有および運航
隻数: 保有24隻、運航21隻
2009年度売上高: 248百万米ドル(約210億円)
出資比率: NYK50%、TSSI(TS Shipping Invest AS)社50%
2シャトルタンカー:
別名Floating Pipelineとも呼ばれ、海底油田上にある石油生産・貯蔵・積出し施設などから海上に停泊したまま油を積み込み、陸上の原油貯蔵施設または石油貯蔵基地までピストン輸送に従事するためのタンカー。潮流や風などの激しい海象条件下でも、海上での荷役が行えるようほとんどの船はダイナミックポジショニングシステム(動的定点保持システム)とバウローディングシステム3を備えている。
3バウローディングシステム:
海象の荒い地域で、より安全に荷役するために、船首部分で荷役を行う仕組(通常のタンカーは船側で荷役を行う)。また、緊急時に速やかに離脱する目的で、荷役ホースの接続および切り離しが通常のタンカーの荷役システムと比べて容易である