硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-30 19:38:38 | 日記
「八咫鏡」

盾を繰り出し、真正面から付きで攻め入ると、その者は、いとも簡単にふらりと右へかわした。澪は、そこに死角が出来ると読み、その者の側面に回った瞬間、突いた剣を水平にして右腕だけで、横へ振りぬいたが、その者は、巧みな剣さばきで、澪の剣を受け止めると、剣を交じ合わせたまま、身体を右へ流し、草薙剣を上にはねのけ、そのまま剣を振り下ろし澪に襲い掛かった。
バランスを崩した澪は、すぐさま八咫鏡で身を守ったが、その者の剣は、強固であった八咫鏡から蒼白い火花を舞い上がらせ、叩き割ってきた。
澪も反射的に草薙剣で防御し、ぎりぎりでいなしたが、背中に冷やりとした汗が噴き出していた。 防御した剣を素早く突きに転じてその者を引かせると、素早く間合いを取りなおすと、その者は、不敵な笑み浮かべ、

「絶対や完璧など、思い込みに過ぎない。」

と言った。完全な盾があっさりと破壊されたことに驚きつつも、その者との間には、精神的な心持に雲泥の差があるのを痛感した。これは歯が立たないと思いながらも、感覚としては、稽古をつけてもらっているかのようでもあったが、真剣の戦いに理屈などないのだった。

「考えるよりも、感じろだ!」

気合を入れなおすと、すぐさま反撃に出た。

「おおっ。楽しませてくれるね。」

その者は澪が全力で打ち込む剣を軽くいなしてゆく。

「くそっ! まだまだだっ ! 」

東京の上空で剣と剣が交わるたびに、甲高い金属音と波動が地上に伝わった。助かった人々は、がれきの街の中から、その様子を静かに見守っていた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-29 21:15:33 | 日記
澪は、息を吐きながら、ゆっくりと中段に構えなおし、相手の隙を探ったが、その者には全くもって隙が無かった。

「小賢しい真似をするより、全力で行くしかない・・・か。」

しかし、これは、ルールのない真剣による勝負である。斬られれば自身が死してしまうかもしれないのだ。戸惑いと恐怖が頭をよぎる。剣を交える前から、相手に飲み込まれていては、勝てる勝負も落としてしまう。澪は自身を奮い立たせ「大丈夫、僕には怪物の前で圧倒的な強さを誇った矛と盾がある」と、自分に暗示をかけた。

「八尺瓊勾玉!」

勾玉が発光し、剣が蒼白い光を放つと、大太刀が普通の剣に変化した。

「応えてくれるのか草薙剣。」

澪は己の剣に感謝すると、柄を握りなおした。

「参る! 」

超高速でその者に切りかかると、ふらりと右に交わされた。それは澪も想定内であった。間髪入れず、振り下ろした剣を素早く右斜め上に振り上げると、その者は鞘から剣を抜き、難なく草薙剣を受け止めた。

「受け止めた・・・。」

「両断できると思っただろう。なぜ、切断できると思った? 」

その者は、女性のように、にこりと微笑むと、澪を軽々と押し返した。

「いいね。君。そのまま、全力で来ていいよ」

正攻法で攻めても勝ち目はないと悟った澪は、間合いを保ち、中断の構えで、その者をけん制しながら息を整えると、なりふり構わず攻めようと決めた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-28 20:29:27 | 日記
「目で見える事が全てであるなら、人の死は何だと思う。その死に人が何も見えなくなるとなぜ言い切れる。」

確かに、言い切れることは出来ない。人の死は生きている者の主観でしかない。澪は言葉に窮した。

「分からぬであろう。では、改めて問う。なぜ、君は私の前に立ちはだかる。それが、宿命とするなら、なぜ、君は、怒っている? 愛と呼ばれるものを知っているからか? それとも、君が正義だからか?」

「・・・・・・わからない。」

「わからない・・・か。まあいいだろう。君は、今までの者と違い、考える者のようだな。」

二人の間に、沈黙が訪れる。澪は考え続けたが、正解がない事だけは分かった。それでも、その者に、なにかを語らねば、前には進めないと感じ、手探りで言葉を絞り出した。

「僕は・・・。父の言葉を信じてきた・・・。代々の人々もそうしてきたのだと思う。それが習わしだったから疑わなかったのだと思う。恐らく・・・、僕の先祖はあなた達と戦ってきて、なにかを得たから、地球に留まり・・・。プログラムとするなら、機能するために存在し続けた・・・・。もし、それが僕にとって、先へ進む手続きだとしたら・・・・・・、正義が何であるかを問うより、ここで、あなたと剣を交えなければならないのではと思う。」

「なるほど。賢明だ。では、どうする。」

澪は、その者に一礼すると、剣を上段に構え、「お手合わせ・・・願います。」と言った。

「いいだろう。かかってくるがいい。」

その言葉に、圧倒的な強さを感じた、畏怖といっても過言ではなかった。剣を持つ手に力を入れると、初めて武者震いを感じた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-27 20:48:28 | 日記
「悩め、若者よ。さて、悩んている君に、もう一つ質問だ。君は、私を、女性とみるかな? それとも、男性とみるかな?」

その者は不敵な笑みを浮かべ、予想だにしない質問を澪に投げかけた。落ち着いて観察すると、フォルムだけを捉えれば中性的であるが、男性としては少しばかり線が細い印象がした。

「女性・・・ですか? 」

すると、その者は再び笑みを浮かべ、

「私はどちらでもないのだよ。シンギュラリティを超えた、ハイテクノロジーは、ポストヒューマンをジェンダーフリーへと昇華した。性交の快楽も手放し、出産も女性の身体を必要としなくなった。身体は均一となり、頭脳は標準化し、暴力は無くなり、労働からも解放された。聖書と言う物語で例えると、アダムとエバが楽園への帰還を赦されたといえるだろう」

「それは、本当なのですか?」

「もちろんだ。したがって今の我々とって、この惑星は無なのだ。巨神兵は我々の祖先が開発したものだが、地球に送られる巨神兵は我々の手によるものではないのだよ。では誰が? と、問うだろう。我々は知ったのだ。ハイテクノロジーが行きつく先は、それを『知る』ことだという事を。」

「・・・・・・・。」

「ある選択肢の先に危機ある。その危機というプログラムの中に巨神兵というバグが潜んでいるだけなのだ。ただそれだけだ。君は理不尽だと怒るだろう。日常を破壊しておいて、それがプログラムでしかないと。しかし、よく考えてみるがいい。この日常は、本当に現実だと思うか? 時間も、空間も、隣人も、愛と呼ばれる感情も、仮想だとは思わないのか? 」

「なにを言っているんですか。」

澪の言葉に怒りを感じた。それでも、その者は、話をつづけた。



「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-26 19:57:30 | 日記
「なんだって・・・・。」

澪は、ため息を吐くように呟いた。その者が語る物語、父が語った物語、どちらも、信じがたい事ばかりであった。

「なんだ。虚偽だとでも言いたいのか? だとしたら、何故虚偽だといえる。」

その者は鬼神の能面の中の澪の感情を読み取っていた。その事に、焦りと苛立ちを覚え、ここで話を断ち切り、怒りのままに剣を振るう事も考えた。しかし、戦う理由のない相手に対し刃を向けるは、剣の道ではないと自制を働かせた。

「ほう、少しは成熟しているとみえるな。では、話を続けようか。開発者は自身のコミュニティーに被害が及び始めたという情報をいち早く聞きつけ、ナノマシンに活動無効プログラムを発動させたが、独自に進化を遂げたナノマシンには受け入れられず、開発者の望んだ通り、マシンの痕跡を残すことなく、人類と共に滅んでいったのだ。皮肉なものだろう。敵対する者を滅ぼすために開発した兵器が、自身をも滅ぼす事になったのだからな。」

どちらかに真実はある。それによって、これから、その者と剣を交えるとしても、巨神兵との戦いとは、違う意味合いを持つのではないかと澪は思った。
「ハイテクノロジーを手にしても、自身の感情すらコントロールできない。人類とはじつに愚かなものだろう・・・。だから、君達の祖先は原始からやり直す事を選んだのだよ。だが、歴史はどうだ。同じことを繰り返しているとは思わないか。」

澪には返す言葉がなかった。その者はいったい何が言いたいのかという疑問が頭の中をぐるぐる回っていた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-25 21:24:17 | 日記
「驚くのも無理はない。しかし、これから私が語ることは、すべて事実である。聞き入れる準備は出来ているか?」

澪は、いつでも攻撃に転じれるよう下段の構えをして、大きく頷いた。そして、その者も、それを察知していたうえで語りだした。

「真実はこうだ。君たちの先祖は、我々の祖先が巨神兵を実践投入する準備段階において、対抗するために開発していた高出力エネルギー兵器を止め、ウィルス系ナノマシンの研究開発へとチェンジをした。そして、秘密裏に我々の生活圏のあらゆる場所に散布された後に彼らは突然敗北宣言をしたが、それが彼らのシナリオだった。我々の先祖は、ようやくの事で掴んだ勝利に酔いしれ、危機感を喪失し、取り返しのつかない所まで感染を広げた。その結果、我々のコミュニティーは混乱し、命をかけて共に戦った隣人ですら、疑い、差別し、いがみ合うようになってしまったのだ。それに引き換え、君らの先祖は、理不尽な賠償請求をのみながらも、静観していれさえすば、敵対している相手は、じわりじわりと滅んでゆくのだから、笑いが止まらなかったであろう。しかし、ナノマシンの開発者は、自身の能力と技術に溺れ、人は移動するものであり、一人では生きてゆけない生き物であるという人類の本質を無視し、高みの見物を決め込んでしまったのだが、それが大きな過ちだった。ハイテクノロジーを備えたナノマシンは、移動と増殖を繰り返しているうちに自我が生まれ、独自にアップロードを繰り返し、生存するために、すべての人類に入り込んでいったのだ。」

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-24 19:33:15 | 日記
「ほう。私の語ることに耳を傾けるか。いい心がけだ。さて、君は、旧人類は滅んでしまった真実を知っているか。」

「もちろんです。」

「それは恐らく、君がさっき倒した巨神兵と、君たちの祖先が使用した高エネルギー兵器によるものだと聞いているのではないか? 」

「その通りです。」

「それが間違いなのだよ。」

「・・・どういうことですか?」

「眼下に広がる街を見るがいい。高エネルギーなど使えば、地球には緑さえ残らないのはわかるだろう。」

澪は戸惑った。その者の言う通り、高エネルギーで地上を焼き尽くしてしまえば、地球は荒野と化し、緑豊かな自然を再生することは出来ないはずである。

「気づいたようだね。君の父は口伝されたものを引き継いだのみで、真実を知らない。勝者が語る歴史は、勝者にとって都合のいいように改ざんされるものだ。そうやって、真実は歪められ、歴史的な屈辱は、憎しみを心深く食い込ませ、真の和解を生じにくくさせるのだ。」

澪はまた迷っていた。父を信じるべきか、目の前で語る人物を信じるべきかと。その揺らぎを、その者は捉えていた。

「迷っているな。それでいい。迷いなく信じられるものなど、真実からは、程遠いものだからな。その上で、聴け、迷える若者よ。旧人類が地上で滅びた理由は、君たちの祖先が作ったナノマシンの暴走によるものなのだよ。」

「ナノマシン・・・。」

澪は絶句した。現在でも科学の最先端技術としてナノマシンの存在を知ることが出来るが、それが、どのようにして人類の滅亡に結びつくのかが理解できなかった。


「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-23 20:49:16 | 日記
「巨神兵など、もはや無用の長物だな。」

その者は、あきれたように呟いていた。澪は、その動向を静かに観察し、いつでも攻撃に転じれるよう気をはると、その者は見透かしたように、「力が入りすぎているぞ。私は攻撃しか知らぬ巨神兵のようなバカではない」と言って、剣を腰の鞘に納めた。

澪も、剣をゆっくり下ろすと「あなたは、敵、それとも、味方」と問うた。すると、その者は笑みを浮かべ、

「敵か味方か? 初めての問だな。 だが、それは、誰にとっての事だ。」

と、質問を返され、澪は言葉に窮してしまった。それは、この戦いには、最初からどこかしらに迷いがあったからだ。

「だろうな。君は、きっと、宿命だからと、正義は我にあると思い、ここへ来たのだろう。愛すべき街が不条理に破壊され、憤怒しただろう。怒りは己が剣に力を与えただろう。だが、君の心はどうだ。すっきりしないだろう。むしろ虚無感を覚えているのではないか。君が鬼神の面を通して見聞した事は、君自身にとっては全く関係のない事だからな。君の街は、この戦いと同様、弱者は切り捨てられ、強者が生き残ることを優先としている。しかも、倫理的に無秩序な者が統治する社会だ。それは、君が命を賭して守るに値するものなのか? 」

澪は、自身の住む国の事をそこまで考えたことがなかった。そして、目の前に立つ者の存在は、鬼神の能面にも記録されておらず、敵対する理由が見つからない。さらに、自身が正義であるという確証もない。さすれば、今はむやみな攻撃は回避し、善悪さえも見分けがつかぬその者から語られる言葉を傾聴してから判断しても遅くはないと思った。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-22 18:04:59 | 日記
澪はスイッチを入れなおすと、攻撃を仕掛けてくる巨神兵に向けて刃を振るった。草薙剣は巨神兵の槍を両断し、八咫鏡は巨神兵から放たれる炎を全て跳ね返した。
その光景は、一見、圧勝しているように見えた戦いであったが、澪自身にとっては終始不安定な戦いであった。それは剣道の試合と違って、鬼神の力いう他力が常に補助してくれていると感じていたからで、心技体が一体でないと、打ち込むときに感覚が鈍るという澪自身の心得に反していたからであった。それでも、自身と他力の力を信じて最後まで戦い抜き、巨神兵を殲滅した。
澪が来るまで、苦戦を強いられた自衛隊は、突然現れた謎の使者によって集結した戦いを唖然として眺めていた。

澪は息を整え、上空から街を見下ろすと、数時間前まで平凡な学生生活を送っていた街が灰燼に帰していた。悔しさは残る。それでも、被害の拡大は食い止められた。これ以上できる事はない。自身の強さも知った。戦いにも勝利した。しかし、なぜか幸福を感じることが出来なかった。

「家に帰ろう」

そう思った時、澪の前にオレンジ色の粒子が集合し、激しく発光すると、その中から人の影が現れた。
澪は再び剣を構え、攻撃に備えた。それは本能であった。
発光が収まると、銀色の髪、色白の肌、ギリシャ神話に登場する神々のような絹を纏い、両腕には金色の腕カバーをつけた、女性とも男性とも取れない『人』が現れ、その者の左手には剣が握られていた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-21 20:53:34 | 日記
巨神兵は炎を放ったが、澪は左手を前方にかざして、八咫鏡を発動させると、炎は盾の力によって裂かれてゆき、首まで達した時、青白く光る剣を水平に構え、目にもとまらぬ速さで横へ振った。
すると、剣から放たれる蒼白い光は、いとも簡単に巨神兵の首を切り落とし、頭と胴を灰に帰した。
すると、それまで、縦横無尽に街を破壊していた巨神兵達は、突然現れて、一瞬にして仲間を倒した使者に対して、一斉に攻撃を開始した。
ある巨神兵は炎を放ち、ある巨神兵は右手の槍を振り上げた。
しかし、澪はひるむことなく、さらに動きを加速させ、槍をかわし、巨神兵の口から放たれた炎を、列をなす巨神兵達をに向けて八咫鏡で放ち返し、炎上させ、間髪入れず斬り込んで次々に巨神兵を灰に帰した。

その時、数時間前まで過ごしていた廃墟になった大学の近くの公園で、浅田みゆがしゃがみこんで泣いているのが見えた。

「みゆちゃん」

澪は、巨神兵の攻撃をかわしながら、浅田みゆの所まで行くと、泣きじゃくっているみゆを強引に抱きかかえ、超高速でその場を離れた。

みゆは突然の出来事に、何が起こったのかわからなかった。しかし、気が付くと公園から随分離れた被害の及んでいない場所まで移動していた。
澪は両腕に抱きかかえたみゆを地面に下ろすと、

「ここにいれば安心だよ。」

と優しく言ったつもりであったが、みゆは鬼神の能面に動転し、悲鳴を上げて恐怖した。

「えっ。ごっ、ごめん!」

想いを寄せる女子から恐れられ、居た堪れなく成った澪は、逃げるように戦場へ戻った。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-20 21:12:24 | 日記
巨神兵の実態を理解すると、澪は急上昇し、攻撃を行うために急降下する戦闘機の背に乗り、戦闘機と共に巨神兵へアタックを開始した。
それに気づいた巨神兵は、口を大きく開き炎を放つ体制を取った。

恐怖心。というものが沸き上がってくる。街を焼き尽くす炎を放射する得体のしれない怪物を前に、ひるまない方がどうかしていると思った。しかし、恐怖に支配されれば、死だ。意識を保て。迷いを棄てよ。己の力を信じよ。そう、心の中で念じた。
その瞬間、戦闘機からミサイルが発射され、戦闘機が反転動作に入ると、澪は素早く戦闘機の背から離れ、ミサイルの上に載り、巨神兵めがけて突っ込んでいった。

「八咫鏡!」

左手から鏡を放り投げると、鏡は大きくなり、澪の前方で盾となった。巨神兵の放った炎はミサイルを直撃し破壊したが、澪を防御する盾は炎を切り裂きながら、そのままの速度で巨神兵に向けて降下した。

「草薙剣! 」

右手に持っていた短刀は2m近くの大太刀に変化し、両手で柄をしっかり持ちなおすと、上段の構えのまま、巨神兵に向けて降下した。

「八尺瓊勾玉!」

勾玉の名を呼ぶと、胸の勾玉が発光し、大太刀が蒼白く輝いた。澪は巨神兵の頭上に至ると同時に、無心で大太刀を振り抜くと、剣先から蒼白い光が放たれ、その閃光は巨神兵を頭から真っ二つに斬り裂き、二つに割れた身体は、左右に倒れながら灰のようになって消えていった。
澪は最終兵器の凄さに驚いたが、此方へ炎を放とうとしてる右斜め後ろの巨神兵に気づくと、再び、超高速で移動しながら剣を構えた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-19 20:17:12 | 日記
「これは。」

自身の意識と身体が分離しているのが分かった。意識はあるが、身体はもう一人の誰かによって動かされているようでもあった。しかし、不思議と手も足も自身の意志通りに動き、違和感はあるが、コントロールできないものではないと思った。

「平常の身体のこなし方を戦いのときの身のこなし方とし、戦いの時の身のこなし方を平常と同じ身のこなし方とする・・・か。」

伊佐木は、意を決した澪を見て、「決して恐れるな。恐れは迷いを招く。迷いを招けば、覚悟が鈍る。覚悟が鈍るというは、戦いにおいて、死を意味する。よいな。」と、戦いの心得を説いた。

澪は大きく頷き、深呼吸をすると、矢の如く爆発音が響く都心へ向けて飛びたった。

空を飛ぶという感覚。鳥とはこういう感覚なのかと脳内のどこかで思うのであるが、身体は分離しているが如くに、大気を切り裂いて飛んでいるという感覚がなかった。

黒い煙に覆われる都心に近づいてゆくと、巨神兵の群れがゆっくりと歩行しながら、口から火を噴き、無造作に攻撃を繰り返しているのが見えた。未知なる生物を迎撃する自衛隊の戦闘機やヘリの重火器は、無力に等しく、隊員達の懸命な努力も、得体のしれない怪物を前には足止めする事すら困難な状況であった。

新宿や池袋の高層ビル群は崩れ去り、人々はパニック状態に陥り、巨神兵は人々のありふれた日常を一瞬のうちに奪い去った。

余りにも無残で無慈悲は光景を見て、怒りという感情が沸き上がってくる。

—なんて、ひどい事をするんだ。― と、無意識に澪の口から言葉がこぼれた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-18 20:41:34 | 日記
「これで、僕にどうしろと? 」

伊佐木は、黙って神殿に向かうと、柱の上に飾られていた鬼神の能面を外し、澪に渡した。

「これは。」

「能面をつけてみなさい。」

澪は、ためらいながら鬼神の能面をつけると、身体と脳が活性し、鬼神の能面をつけて戦った代々の者たちの壮絶な戦いがダウンロードされるように脳内に入り込んだ。

「父さん。」

「行きなさい。力は解放した。小学生の時、全国制覇をしたであろう。あの後、自信過剰にならぬように意図的に力を封印したのだ。」

試合中に肝心なところで身体が動かなくなる。その理由は理解した。それでも、澪は半信半疑であった。己の技術不足が全てだと思い込んでいたものが、力の封印によるものだと分かったところで、身体は自由に動くようになるものなのかと。

「しかし。」

「疑うな。自身の力を信じろ。そうすれば、鬼神は戦い方を教えてくれ、手にしている盾と矛を自在に操れる。」

その時、戦闘機の轟音が窓や扉を揺らしたが、澪は驚きもしなかった。鬼神の能面をつけた事で、自身の宿命を理解したからだった。
遠くから爆発音が響いてきた。澪は八咫鏡を袖にしまい、草薙剣を右手に握った。

「始まったようだ。さあ、行きなさい。『巨神兵』は、もういるはずだ。」

「わかりました。では」

澪は、立ち上がり、社殿の扉を開けると、晴れ渡った空を見上げ、ふわりと体を浮かせた。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-17 21:13:00 | 日記
「痕跡か。我々の兄弟は、宇宙船の超光速航行できる技術があるのだぞ。デブリなぞ粒子レベルまで分解可能だ。」

「・・・そうですか。」

「その技術を最大限まで縮小し武器に転用したものが、完全なる最終兵器なのだ。」

「完全なる最終兵器。」

「最初の戦いでは未使用に終わったが、後に繁栄していった人類が、使用した記録の一部は、ヤマタノオロチの物語として残された。」

訳が分からない。やはり、父はお伽話を語っている。そうとしか思えなかった。

伊佐木は「これが、その最終兵器であるが、現在は三種の神器と呼ばれている。」と言って、勾玉を手にし、澪の首にかけた。

「これは、空間に漂うすべてのモノをエネルギーに変換し、体内に取り込む」

次に丸い鏡を手にとると、

「これは、あらゆる物質を跳ね返すものだ」

と言って、正座する澪の膝の前に置いた。そして、短刀を両手に取ると、

「この短刀は、あらゆるものを斬り、粒子に分解する。」

と言って、両手を差し伸べた澪の手にのせた。澪はその短刀をじっと見て、湧き上がる疑問を飲み込むことが出来ず、伊佐木に問うてみた。

「これが・・・三種の神器・・・ですか? 」

「そうだ。」

「しかし、三種の神器は天皇家が保有しているはずでは? 」

「それは、これの偽物だ。」

それを聞いて愕然とした。なぜ、本物が我が神社にあり、偽物が国の象徴である天皇家にあるのかと。しかし、考えてみた所で到底理解することは出来ないのだ。そして、それが須佐之家の伝承ならば、澪には思考する余地も残されていないという事になるのだった。

「巨神兵東京に現る」 週末を超えて。

2020-04-16 21:11:18 | 日記
伊佐木が語ることには、懐疑的にならざるを得なかったが、伊佐木は澪の気持ちに構うことなく話をつづけた。

「そして、船に残ったものは、地球を去る前に、なぜ人類が滅んだのかを徹底的に調査し、判明したのは、思想を分けた者達は『巨神兵』という強力な兵器を用いて、我々を殲滅しようとし、我々の祖先も、対抗するために、手に余る高出力エネルギー兵器を使用した。だが、結果は、相殺し合っただけであったのだ。」

「・・・・・・・。」

「そして、我々の祖先がコミニュティーの再構築を図り、新たな文明が繁栄した頃、相手の調査船が帰還し、変わり果てていた地球をみて驚いたのだが、文明が後退していた事に気づき、領土を奪還するために攻め入ったのだが、原始的な営みを選んだ者達には防衛する手立てがなく、口伝で伝えられたSOS信号を発信し、それを傍受した新たな惑星でコミニュティーを築き上げた、我々が防衛に駆け付けたのだが、理解できぬ科学力を目の当たりにした彼らは、我々を神と呼んだのだ。」

澪は、神殿を前に、神の存在を否定する伊佐木の言葉に違和感を覚えた。神は人類の創造物でしかないと言っているようなものではないかと。

しかし、人類最大の謎である神の存在など、澪の与り知らぬところである。それよりも、地上で争われたものなら、痕跡が残るはずであり、痕跡を発見すれば、考古学者が異を唱えるはずである。澪はその疑問を伊佐木にぶつけてみた。

「大きな争いがあったのであれば、なにかしらその痕跡が残るのでは? 」

その問いに、伊佐木は笑った。