硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 週末を超えて。

2020-04-09 21:46:04 | 日記
澪の実家である須佐之神社では、澪の父、須佐之伊佐木が箒を手に、石畳の参道の落ち葉を掃きながら、深まる秋を感じ、平和の有難さをかみしめていた。
目立たぬ小さな神社ではあったが、神社の名前の由来を知ってか、勝負事で願を掛けたい人が時々訪れていた。無論、通常の神社としての役割も果たしていたが、剣道の道場も併設されている為、剣道愛好家たちが試合の前には必ず参拝する習わしもあった。
しかし、神主であり道場主であり師範である伊佐木は、澪と同様に、勝敗などには全く興味のない人物で、その教えは、道を極める事で、人生を豊かにするという思想が主柱となっており、ここに集う者は皆、その教えに惹かれ、稽古に励んでいたのであった。

伊佐木は集めた落ち葉を箕にいれ、袋詰めにすると、腰に下げた手ぬぐいで、額の汗をぬぐい、澄み渡る青空を見上げた。すると、遠い昔に覚えた、同じ胸騒ぎがし、目を凝らして、青空のさらに遠くを凝視した。

「いよいよきたか。小賢しい真似をしよって。」

伊佐木は、作務衣の袖から携帯を取り出すと、手際よく電話を掛けた。

「もしもし、私だ。どうしたって? 緊急を要する事がある。すぐ実家に戻ってきなさい。」

簡潔に伝えると、電話を切り、速足で自宅へ入ると、妻に向かって

「澪を呼んだ。すぐに、お祓いの支度を。」

と言うと、作務衣を脱ぎ装束に着替えはじめた。妻は何も問わず、手際よく準備を進めた。