講座が終わると、すぐさま席を立ち、浅田みゆに軽く会釈をすると、「またねぇ。」と返事をされ、今、この瞬間の幸福を噛み締めた。
しかし、其の幸福も瞬間的なものでしかなく、夢想を打ち破るように、携帯の着信音が鳴った。我に返り、携帯をカバンから取り出し画面を見ると「父」とあった。
「何の用だろう。」
電話に出ると、至急実家に戻れとだけ言われ、質問は受け付けないと言わんばかりに、電話が切られた。しかし、普段から、父から電話がかかることは滅多になく、しかも要件だけを告げられたのだから、なにかあるのだろうと察知し、足早に大学を出て、大学前の地下鉄の駅から都心とは逆方向に向かう車両に乗り込んだ。
この時間に都心を離れてゆく人は少なく、車内は比較的空いていた。澪は、これまでの緊張を解いて、窓際の席に座ると、同じ大学に通う女子たちが、明け透けにおしゃべりしているのが耳に入ってきた。
「ねえ、知ってる? 理学部の滝本さん。」
「知ってる。知ってる。皆から、預言者と呼ばれている子でしょ。」
「そうそう。でね、噂ではその子、教育学部の正宗君、フッたんだって。」
「あの御曹司のイケメンを! うそでしょ!」
「ちょっと美人だからって、そういうのって、なんかムカつくのよね。」
「ああ~。わかるぅ。」
澪は、どうにも、この手の話が嫌いだった。カバンから手際よくウォークマンを取り出すと、イヤホンを耳に付け、彼の風貌からは予想だにしない、お気に入りのDEATHを流し、一切を遮断した。
しかし、其の幸福も瞬間的なものでしかなく、夢想を打ち破るように、携帯の着信音が鳴った。我に返り、携帯をカバンから取り出し画面を見ると「父」とあった。
「何の用だろう。」
電話に出ると、至急実家に戻れとだけ言われ、質問は受け付けないと言わんばかりに、電話が切られた。しかし、普段から、父から電話がかかることは滅多になく、しかも要件だけを告げられたのだから、なにかあるのだろうと察知し、足早に大学を出て、大学前の地下鉄の駅から都心とは逆方向に向かう車両に乗り込んだ。
この時間に都心を離れてゆく人は少なく、車内は比較的空いていた。澪は、これまでの緊張を解いて、窓際の席に座ると、同じ大学に通う女子たちが、明け透けにおしゃべりしているのが耳に入ってきた。
「ねえ、知ってる? 理学部の滝本さん。」
「知ってる。知ってる。皆から、預言者と呼ばれている子でしょ。」
「そうそう。でね、噂ではその子、教育学部の正宗君、フッたんだって。」
「あの御曹司のイケメンを! うそでしょ!」
「ちょっと美人だからって、そういうのって、なんかムカつくのよね。」
「ああ~。わかるぅ。」
澪は、どうにも、この手の話が嫌いだった。カバンから手際よくウォークマンを取り出すと、イヤホンを耳に付け、彼の風貌からは予想だにしない、お気に入りのDEATHを流し、一切を遮断した。