硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「巨神兵東京に現る」 終末を超えて。

2020-04-23 20:49:16 | 日記
「巨神兵など、もはや無用の長物だな。」

その者は、あきれたように呟いていた。澪は、その動向を静かに観察し、いつでも攻撃に転じれるよう気をはると、その者は見透かしたように、「力が入りすぎているぞ。私は攻撃しか知らぬ巨神兵のようなバカではない」と言って、剣を腰の鞘に納めた。

澪も、剣をゆっくり下ろすと「あなたは、敵、それとも、味方」と問うた。すると、その者は笑みを浮かべ、

「敵か味方か? 初めての問だな。 だが、それは、誰にとっての事だ。」

と、質問を返され、澪は言葉に窮してしまった。それは、この戦いには、最初からどこかしらに迷いがあったからだ。

「だろうな。君は、きっと、宿命だからと、正義は我にあると思い、ここへ来たのだろう。愛すべき街が不条理に破壊され、憤怒しただろう。怒りは己が剣に力を与えただろう。だが、君の心はどうだ。すっきりしないだろう。むしろ虚無感を覚えているのではないか。君が鬼神の面を通して見聞した事は、君自身にとっては全く関係のない事だからな。君の街は、この戦いと同様、弱者は切り捨てられ、強者が生き残ることを優先としている。しかも、倫理的に無秩序な者が統治する社会だ。それは、君が命を賭して守るに値するものなのか? 」

澪は、自身の住む国の事をそこまで考えたことがなかった。そして、目の前に立つ者の存在は、鬼神の能面にも記録されておらず、敵対する理由が見つからない。さらに、自身が正義であるという確証もない。さすれば、今はむやみな攻撃は回避し、善悪さえも見分けがつかぬその者から語られる言葉を傾聴してから判断しても遅くはないと思った。