はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

夏への扉

2011-01-02 07:51:30 | 小説
 新年あけましておめでとうございます。今年最初の更新。

夏への扉[新訳版]
ロバート・A・ハインライン
早川書房


 ぼくが飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にたくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ。そしてこのぼくもまた、ピートと同じように夏への扉を探していた……

「夏への扉」ロバート・A・ハインライン

 発明家にして生粋のエンジニアのダニエルは、仕事上のパートナーだったマイルズと、プライベートでのパートナーだったベルに騙され、会社から追い出され、意識不明の状態で無理矢理コールドスリープさせられてしまう。
 目覚めた30年後の世界で、ダニエルはなんとか自分の生活を確保すると、マイルズの義理の娘でダニエルとピートの最高のガールフレンドだったリッキーを探し始める。ただの感傷かもしれないけれど、彼女は自分のことを覚えていないかもしれないけれど、自分という存在を確立させてくれるだろう唯一の女性にすがることしか、もう彼には残されていなかった……。

 名作と名高い「夏への扉」の新訳版。旧訳は読んだことがないので比較はできないのだけど、いずれにしろ名作であることは疑いない。筋立てはシンプルで、先も読めるのだけど、それがまったく不快じゃない。みんなが思うダニエルにこうあってほしい未来。それがじわじわと訪れる感覚の及ぼす幸福感が素晴らしい。
 キャラも良い。発明品を形にするのが好きで、猫のピートが好きで、リッキーのことも大好きなダニエル。まっすぐに自分の好きなことだけを追う彼のたたずまいは、まさしく発明家のそれで、素直に好感が持てる。ピートは猫らしい猫で、自らの存在に誇りを持っていて、だから戦うときは容赦なく戦う。ダニエルのために、友のために牙を爪を振るう姿には、涙を禁じ得ない。リッキーは、実際にはそれほど登場シーンがないのだけど、おしゃまで可愛くて賢くて、ダニエルとピートのことが大好きで、そんな女の子が魅力的じゃないわけがない。敵役のベルもマイルズも、小悪党らしくてけっこう良い味を出していた。
 タイムスリップものとしての完成度も高く、ラストの余韻もうまいこと引けていて、とても楽しい読書の時間を味あわせてもらった。