はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ジョジョの奇妙な冒険 ファントム・ブラッド

2007-02-15 10:35:26 | マンガ
19世紀!
それは産業と貿易の発展が人びとの思想と生活を変えた時代だッ!
依然!
食糧不足や貧富の差が激しいにも関わらず大人も子供も「自分もいつか金持ちと同じようなくらしができるッ」このような幻想を抱いていたッ!
それは嵐のようなすさまじい渇きだったッ!

「ジョジョの奇妙な冒険 ファントム・ブラッド」荒木飛呂彦

19世紀後半の英国。ヴィクトリア女王の治世下で、貴族と呼ばれる特権階級の人口は0.4%にしか満たぬのに、国土の半分以上を所有していた。
エリート教育を受け、スポーツに励み、古典と信仰を学び、領土と階級の保護下に送る恵まれた人生。貴族は生まれてから死ぬまで貴族であり、程度の差こそあれ貧しさに悩むことはなかった。貴族以外の誰もが、その富裕ぶりを羨んだ。最下層に生まれたディオ・ブランドーだって例外ではない。
ましてや時代であった。第1次・第2次の産業革命を経て、海外植民地からの原材料と労働力を得て、石炭・石油など新燃料による工業の発展を見て、イギリスは富み栄えていた。その富が、つまりは金が、上・中・下と三つに分かれた階層社会の垣根を取り払いつつあった。
亡父のツテを頼り、名門ジョースター家に潜り込んだディオは、そこで運命的な出会いをする。ジョナサン・ジョースター。通称ジョジョ。悪を憎み、義を重んじる英国紳士の卵だ。
いずれジョースター家を乗っ取るつもりでいたディオは、ジョジョを徹底的にいじめ抜く。学問、スポーツ、遊び、愛犬、友人、恋人。ありとあらゆる分野でいたぶり、ジョジョに精神的ダメージを与えていく。打ちのめされたジョジョに、自分のほうが上であることを見せ付ける。しかしジョジョはくじけない。孤独とストレスに耐えながら、瞳の光を消さない。
やがて時は経ち、ディオとジョジョは親友になった。共に名門の大学へ進学し、輝かしい未来へ歩みを進めていた。……と、思っていたのはジョジョだけだった。ディオは相変わらずの邪悪さで、むしろより狡猾に事を運んでいた。それはジョジョの父、ジョージ・ジョースター1世の殺害。人知れず毒を盛り続けることによって毒殺し、一気にジョースター家当主の座を狙っていたのだ。
ところが……というところでようやくメインストーリー。アステカ民族に伝わる禍々しき石仮面の力を手中にし吸血鬼となったディオと、仙道波紋の技を習得した吸血鬼狩りジョジョの戦いのドラマ。それは本作だけでは終わらず、子々孫々の代にまで及ぶ長い戦いとなった。
ジョジョには多くの魅力的人物が味方してくれる。後の妻エリナ・ペンドルトン、師匠ウィル・アントニオ・ツェペリ、友人ロバート・E・O・スピードワゴン、戦友ポコ。
一方で、ディオに味方と呼べる人物は一人もいない。ワンチェンにしても切り裂きジャックにしても、黒騎士タルカスとブラフォードにしても、あくまで支配者と奴隷の関係に過ぎない。心を許せる者がいない。いるとすれば、それはただ一人、ジョジョのみなのだ。幼き頃から争い続け、憎み続け、何度も命のやり取りを交わしたライバル。彼のみが、最後にディオのことを友と呼んでくれた。船の中で抱き合うようにして、共に最後の時を待っていた……。

勇気・友情・勝利という少年漫画の三大原則を守りつつも毒に満ちたこの作品は、発行から十数年経った今も、色褪せることのない面白みに満ちている。数多くのジョジョの中の最初の一人。ジョナサン・ジョースターの潔癖さは、以降の作品の中にもしっかり受け継がれている。それはまるで血液のように。

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