はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

オー・マイ・ガアッ!

2008-02-25 09:04:54 | 小説
オー・マイ・ガアッ!
浅田 次郎
集英社

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 ギャンブラーなんてろくなもんじゃない。金を時間を食い潰し、手元に残るのはわずかな欲の欠片。周囲の期待を裏切り続け、気づけば1人孤独な風の中。寝酒と共に見る夢は、胴元相手の一発勝負。億万長者(ミリオネア)かくすぶりか、行き着く先はただ賽の目のみぞ知る。

「オー・マイ・ガアッ!」浅田次郎

 共同経営者が残した莫大な借金に追われ恋人に逃げられた大前剛。
 一部上場企業のヤンエグから立ちんぼ娼婦に堕ちた梶野理沙。
 シルバースターに輝いたベトナム戦争の栄光にすがって生きる失業者ジョン・キングスレイ。 
 アメリカン・ドリームの都ラスベガスのカジノ「バリ・ハイ」を訪れたのはいずれ劣らぬ人生のくすぶり3人。フルベットで30ドルもの投資が必要なハイリミット・スロットマシン「ダイナマイト・ミリオン・バックス」が抱え込む5400万ドルの賞金を狙う彼らの前で、3匹のライオンが揃って火を噴き、ラスベガス史上最高の大当たり(ジャックポット)が飛び出した。
 大前が座っていたマシンにジョンが投資したところを理沙がレバーを引いたという込み入った状況の中、なんとか話し合いで解決を見た3人。しかしスロットネットワークの管理会社に5400万ドルもの大金を支払う能力はなく、代わりに送られたのは伝説のヒットマン「山賊(バンデット)」ジョー……。

 こんなコメディ全開の筋立てからハードボイルドを描いてみせるところはさすが浅田次郎。ラスベガスの歴史や日本の戦後、アメリカ人の精神といったお堅い背景も柔らかく調理し、「プリズンホテル」や「王妃の館」を思わせる良質のコメディに仕上げた。
 キャラクターのユニークさ、設定の巧み。それ以上に心に残るのはラスベガスという場所の大きさだ。巨大なホテル。奇抜な演出。24時間営業のギャンブル・サンクチュアリ。非常識であることや非日常であることをあっさりと許容する懐の深さ。ラスベガスに魅入られて「おかしくなって」しまった人々の行く末を思いながら、いつしか米ドルを握り締めて空港のエントランスに立つ我が身を想像して怖気を振るった。危ない。危ない。