魔界の塔山田 悠介幻冬舎このアイテムの詳細を見る |
「魔界の塔」山田悠介
ニートだが天才的ゲーマー・嵩典の2人の後輩が植物状態になり病院に運ばれた。別々の日付、別々の部屋で発見されたのにも関わらず、彼らには多くの共通事項があった。共に白目を剥いていた。同じタイトルのゲームをしていた。同様に最後のボスに引導を渡され、「お前も、石にしてやるわ」というメッセージが画面に表示されていた。
最後のボスを倒せないゲームが存在する。数年前にプレステ2で発売された「魔界の塔」という名のRPGに付随するある噂の真偽を確かめるため、彼らは病院送りになった。いまだ快復の兆しは見えず、家族は深い困惑と悲しみに包まれている。
半信半疑のまま「魔界の塔」に挑戦した嵩典もまた、最後のボスにはかなわなかった。死亡寸前にリセットボタンを押したことで、最悪植物状態になることはまぬがれたものの、ゲームの謎を解くことはできなかった。自キャラを最高レベルに鍛え上げてもダメ。薬品類を満タンに装備してもダメ。途中の町をすべて回ってもダメ。「逃げる」コマンドを選択しても逃げられない……。
完全にお手上げ状態となった嵩典の前にいきなり開けた社会復帰の道、それは叔父に紹介されたゲームメーカーの社員というものだった。慣れない社会人としての生活に四苦八苦しながらも徐々に成長していく嵩典。あのゲームのこともいつか遠い記憶になろうとしていたその時、彼は気づいた。同じゲーム会社に勤める上司が、かつて「魔界の塔」の製作に携わっていた者の1人であったことに。
年齢制限マークや「ゲームステーション2」のプリントが施された装丁のおかげでまるっきり攻略本にしか見えない本作は、「リアル鬼ごっこ」の山田悠介の手によるゲーム・ホラー。
山田悠介らしいというか、文章は相変わらず下手。デビュー作「リアル鬼ごっこ」の時と比べればさすがに成長しているものの、まだまだ文章だけで読者を楽しませる域には達していない。
主人公の嵩典が性格悪すぎて感情移入できなかった。周りの人間に対する態度も、後輩を救うためというよりはゲームをクリアしたいという欲求だけのプレイ動機も気に食わない。そのくせ就職はうまくやろうというのだから虫が良すぎ。恋人のメイドガール・絵里香を生かせばもう少し話が膨らんだと思うのだが、けっきょく投げっぱなしになってしまった。
ゲームソフト・魔界の塔自体に興味が抱けなかったのもマイナス点。プレステ2のゲームという設定のくせに、ビヨビヨ(なんの略だったかすら覚えていない)クラスのチープさ。いっそスーファミくらいに落とせばよかった。攻略方法も無理矢理すぎて釈然としない。
後味も悪い。それはホラーだからとかいう以前の問題で、やりたいことがわからない筋の甘さが要因。