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はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

セルラー

2007-09-10 21:59:39 | 映画
「セルラー」監督:デヴィッド・R・エリス

 ラリー・コーエン脚本ということで、お題はやはり電話。かの実験的作品「フォーン・ブース」とは異なり、バランスのとれたスリラーに仕上がっている。
 始まりはある晴れた日。たくさんの若者で賑わうビーチでナンパにいそしむライアン(クリス・エヴァンズ)の携帯に、見知らぬ番号から電話がかかった。ジェシカ(キム・ベイシンガー)と名乗る女は切羽詰った様子で、自分が誘拐監禁されていること、今いる場所がどこかわからないことなどを告げる。しかし軽薄で享楽的な今時の若者ライアンは取り合わない。すぐさま通話を切ろうとする彼を、ジェシカは必死に制止する。一度は破壊された電話を修理して使っている。この通話を切られたら、自分は死ぬしかない……。
 半信半疑のライアンの耳に、ジェシカを追い詰める男・イーサン(ジェイソン・ステイサム)の罵声が飛び込んだ。事ここに至ってようやくこれが本物の事件であることを理解したライアンは、顔も見たことのない女・ジェシカを救うためにLAを駆け回る。
 着眼点。その一言に尽きる。コール音、圏外、充電、ハンズフリー、リダイヤル、動画撮影etc……。携帯電話というありふれたギミックを使いたおすことで多様な演出を生み出している。互いの状況が音によってのみしかわからない緊迫感もよい。それでいて、話の中心が常に「人」にあるのも好印象。
「LAコンフィデンシャル」以来ひさしぶりのキム・ベイシンガーはかなりよかった。歳の数だけ芸に磨きがかかっているという感じで、適度な美貌の衰えもむしろ武器にしている。暴力や死の恐怖、あってはならない終末の気配と戦いながら、同時に我が子や夫の身を案じる妻の凄絶な表情に説得力があった。
 しかしこの映画最大のめっけものはライアン役のクリス・エヴァンズをおいて他にない。軽すぎるという理由で恋人クロエにフラれたライアンは、当然真摯な若者でもタフガイでもない。暴力も運動神経も、知能や運転技術だって水準を下回る。だがある種の図太さと、見も知らぬ家族の命が自分の肩にかかっているのだという自覚が彼を突き動かした。セキュリティ会社(米国のセキュリティは銃も逮捕権もある)の車を奪い、弁護士の車を奪い、銃を片手に携帯ショップに乗り込み、と様々な法を破る一方、電話越しでは常にジェシカを励まし勇気付ける。ラストでは、まったく同一人物とは思えないほどの変貌ぶりに、クロエも思わずびっくりしていた。
 心地よい自己改革とすっきりした余韻。この手のジャンルではあまりない、爽やかな後味のスリラーだ。

夕凪の街 桜の国

2007-09-01 00:05:17 | 映画
 わかっているのは「死ねばいい」と誰かに思われたということ
 思われたのに生き延びているということ

「夕凪の街 桜の国」監督:佐々部清

 1958年。原爆被災者たちの居住する原爆スラムに平野皆実(麻生久美子)はいた。設計事務所・大空建研で事務員を勤めながら、仕立て屋を営む母・フジミ(藤村志保)と共に親子二人で暮らしていた。
 ピカで父と妹を失い、疎開先の親戚に弟・旭(伊崎充則)をとられ、自らの体には原爆症の重い傷を宿し……と救いようのない苦境。13年前のあの夜に負ったトラウマは、皆実にわずかな克己心の成立する余地すら与えない。徹底的に打ちのめされ、誰にも迷惑をかけず細々と暮らしていくことを選んだ彼女の生活は、それゆえ穏やかで物悲しい。控え目に、夢など見ずに、飢えない程度の給金をやり繰りして日々を送るだけの静かな生活。
 そんな皆実を見つめている男がいた。同じ事務所に勤める打越(吉沢悠)だ。彼女を縛るすべてのものの存在を理解したうえで受け入れるといってくれた初めての男。
 その瞬間、世界が変わった。みんな死んでしまったのに、身の程知らずにも生き残った自分。幸せになる資格なんてないと思っていた。このまま誰と結ばれることもなく、誰に必要とされることもなく死んでいくだけと思っていた。だけど、私だって幸せになれるんだ。私だって、生きていていいんだ。私だって、私だって……。

 こうの史代の同名漫画を映画化したもの。皆実を主人公とした「夕凪の街」と、旭の娘・七波(田中麗奈)を主人公にした「桜の国」の二部構成になっている。若い身空で命を落とした原爆被災者・皆実と、その親族、二世世代を取り巻く環境を描いた話題作だ。
 麻生久美子のベタな(いい意味で)演技のおかげで、原作にあった、物悲しい中にもほのぼのと温かい雰囲気をうまく出せている。細部まで表現しすぎた佐々部演出の野暮ったさは気になるものの、漫画原作の映画としてはまず成功した部類だろう。その野暮ったさにしても、8月という公開時期や作品の持つ意味合いを含めて考えれば、むべなるかな、とうなずける部分がある。作中、皆実が「私らのことを忘れないで」というシーンがあるが、これなどまさしくメッセージそのもの。ぼかすことのないストレートパンチが、原爆被災国民の鳩尾を抉る。
 個人的には「夕凪の街」での皆実の心象風景が怖かった。血に染まり、肉が爛れた原爆被災者の群れを描いた絵。その稚拙なタッチの絵のバックに流れる「助けを求める子供の声」を聞いた瞬間ぞっとした。つまさきから頭のてっぺんまで震えが走った。その時感じた胸苦しさを、今も覚えている。1945年に実際にあったであろう出来事の重みを想像してしまった。忘れることなどできそうにない。

RENT

2007-08-26 19:49:25 | 映画
 自分しかない 今しかない
 後悔してると人生を逃してしまう
 他に道はない 方法もない
 あるのは今日という日だけ

「RENT」監督:クリス・コロンバス

 52万5600分。それは一年を分で計算した数字。1989年12月24日のクリスマスイブ。ニューヨークのイーストヴィレッジのとあるアパートメントでは、元ロッカーのロジャー(アダム・パスカル)と映像作家志望のマーク(アンソニー・ラップ)が、家主から滞納している家賃(レント)の支払いを要求され困り果てていた。家賃なんて払わんぞと気勢を上げてみても、代替わりした家主ベニー(テイ・ディグス)の圧力は強いし、夢がかなうどころか今日の飯代にすら事欠く自分達のお先はまさに真っ暗。時に酒に酔い、見通しの立たない未来や悔やんでもどうにもならない過去を思ってはため息をつく。
 しかし根が明るく陽気なボヘミアン・イーストヴィレッジの芸術家連中。元MITの講師コリンズ(ジェシー・L・マーティン)やドラッグクイーンのエンジェル(ウィルソン・ジャーメイン・ヘレディア)。ヌードダンサーのミミ(ロザリオ・ドーソン)。パフォーマーのモーリーン(イディナ・メンゼル)と、その彼女にして優秀な弁護士のジョアン(トレーシー・トムズ)なども加え、決して暗くなりすぎることはなく、絶望の泥沼に片足突っ込みながらも能天気で奔放な日常を送っていた。
 死んでしまった昔の恋人の亡霊を跳ね除け結ばれたロジャーとミミのHIV感染者カップル。コリンズとエンジェルのHIV感染者+ゲイカップル。性別の境を越えて結ばれたモーリーンとジョアン。マークにいたってはモーリーンが行った過激な政治ライブのドキュメント映像が認められ、映像業界への道が開かれ、といいことづくめ(?)。しかし世の中うまくはいかない。当然の如くそれぞれに死期は近づき、そのために気持ちは乱れ、あれほど仲の良かった彼らの関係は千々に切り裂かれ遠ざかっていく……。
 1996年の初回公演前に急逝したジョナサン・ラーソン(原作・作詞・作曲・脚本)の存在と、その観客への訴求力により脅威のロングランヒットを記録した伝説の舞台を映画化したもの。貧困と病魔。ゲイ、レズビアン、バイセクシャル、HIV感染にドラッグと様々なものに蝕まれた若者たちの「ある一年」を生きてゆく姿が印象的だ。小さくて頑丈な箱の中で窒息死するのを待ちながら見る夢。その儚さと甘美さ、残酷さが、きっと多くの人の心をとらえて離さないのだろう。一本筋の通った良い映画だ。

オーシャンズ12

2007-08-14 20:22:31 | 映画
「オーシャンズ12」監督:スティーブン・ソダーバーグ

 ラスベガスのカジノ王テリー・ベネディクト(アンディ・ガルシア)から1億5千万ドルを奪うことに成功したオーシャンズ一味は、分け前を元手にそれぞれの暮らしを送っていた。成功した者も失敗した者もいる。ダニエル・オーシャン(ジョージ・クルーニー)は元妻でベネディクトの恋人だったテス(ジュリア・ロバーツ)とよりを戻し、仲良く隠居生活を送っていた。しかし盗みへの飽くなき欲求に耐えがたく、現役復帰を志してとある宝石店の下見をしていたところ、テスから電話が入る。通話口で動揺を隠しきれない彼女は緊急事態用の符丁を口にした。「地下室で水漏れがあって電気がショート……」。
 3年ぶりに居場所を突き止められたのはダニエルだけではなかった。ラスティ・ライアン(ブラッド・ピット)やライナス・コールドウェル(マット・デイモン)、イエン(シャオボー・クィン)、フラック・キャットン(バーニー・マック)、バシャー・ター(ドン・チードル)、バージル・モロイ(ケイシー・アフレック)、ターク・モロイ(スコット・カートン)、ルーベン・ティシュコフ(エリオット・グールド)、リヴィングストン・デル(エディ・ジェイミソン)、ソール・ブルーム(カール・ライナー)と芋づる式に見つかり、ベネディクトから奪った金に利子をつけて返せと無茶な要求を突きつけられる。不足分も当然生半可ではない。到底まっとうな手口では返せぬと悟った一同は、ヨーロッパへ出稼ぎに出かけた。
 古物コレクター・バンデルバウデの所持するお宝(東インド会社発行の一号株券)を、屋敷ごと持ち上げるという大技で奪取に成功したかと思われたその時、しかし株券のあるべき位置には一匹の狐の置物が置いてあった。狐は世界一の泥棒を自称するナイト・フォックスことフランソワ・トゥルワー(ヴァンサン・カッセル)のトレードマークであった。彼はダニエル・オーシャンの名声が気に食わず、個人的に宣戦布告してきたのだ。
 勝てばベネディクトへの借金を代替わりしてくれることを条件にナイト・フォックスと対決することになった一同。狙うはファベルジェの戴冠式のエッグ。追うは警察と、ユーロポールの捜査官にしてラスティの元恋人だったイザベル・ラヒリ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)。世界が認める大泥棒同士の智謀知略を尽くした戦いに加えられた横槍は、二転三転したうえ誰もが予想だにしないほうに結果を転がしていくのであった……。
「オーシャンと十一人の仲間」のリメイク「オーシャンズ11」の続編。今夏公開される「オーシャンズ13」に先立ちテレビ放映された。
 実績、知名度ともに抜群の俳優・女優を綺羅星の如く散りばめた絢爛豪華な作品。これだけの面子が一同に会するわけだから、出演料だけでも相当なものになるだろう。一本の映画に全て投入するのがもったいないくらいだ。
 肝心の中身はというと、正直かなり回りくどい。前作のシンプルさは影を潜め、またところどころわかりづらい伏線が張ってあるので、初見ではいまいち納得のいかない部分も多かった。大泥棒が「いきがかり上やむを得ず」盗みを働いている点もどうだろうか。情けないイメージがあり、個人的にはマイナス点だ。
 ユーモア部分はベタ。ブルース・ウィリスの友情出演や、テスがジュリア・ロバーツに成りすますシーンはたしかに面白い。けどベタにすぎて粋ではない。

県庁の星

2007-08-09 22:26:20 | 映画
「目の前の問題から逃げ出す人は、人生のいかなる問題からも逃避する人だ」

「県庁の星」監督:西谷弘

 中学、高校、大学と常にトップの成績で合格し、愛するK県県庁に入社した野村聡(織田裕二)は、商工労働部産業政策課係長としてバリバリ働いていた。キャリアに加え、県有数の建設会社社長の娘・貴子(紺野まひる)との結婚も秒読みに控え、まさに順風満帆。しかし自身の立案したケアタウンリゾート「ルネッサンス」の計画に対して市民団体から反対運動が起きたことから徐々に歯車が狂い始める。
 民間のノウハウを学ぶため、帰庁後の昇進を約束された上で、半年間の期間限定で民間企業との人事交流計画の研修メンバーに選ばれた7人。その中に野村もいた。配属先は三流スーパー満天堂。
 消防法を無視して積み上げられた在庫のダンボールが通路どころか店長室にまで溢れたバックヤード。やる気のない店員とがらがらの店内を見て、野村は行き先の困難さを思った。しかしK県を愛する気持ちと士気の高さだけは誰にも負けない。教育係のパート・二宮あき(柴咲コウ)から「県庁さん」なんて呼ばれてお荷物扱いされながらも、必死に仕事をしようとする……ものの、すべて空回り。万引き犯に翻弄され、寝具売り場を勝手にいじり、カードの使用限度オーバーを堂々と客に告げ、お客様相談窓口すらも満足に務まらない。機転と臨機応変さを必要とされるサービス業では、県庁で培ったマニュアル対応がまったく通用しない。無力感に苛まれる日々。
 惣菜売り場の厨房に回された時に野村はある事実に気づいた。芽の出たジャガイモでコロッケを作り、二度も三度も揚げ直した惣菜の値札を貼りなおす杜撰な衛生管理。防火体制む含めて、このスーパーはいい加減すぎる。人一倍正義心の強い野村は分厚い業務マニュアルを作り戦闘態勢に入るが、上申はことごとく却下されるか無視される。
 同じ頃、県のケアタウンリゾートの着工が早まったが、自分以外の6人の人事交流メンバーが県庁に呼び戻されたのに自分だけ呼ばれないことを知る。婚約者の貴子の心変わりというとどめもあり、一気にどん底まで突き落とされた野村はやけ酒を呑んで夜の街を彷徨する。信じていた未来と、自分が正しいと思っていたものすべてに裏切られた彼には、壊れてしまう以外の術がなかった。
 二宮もまた困っていた。保健所と消防署の抜き打ち査察が入り、基準とする値をクリアできていない上に売り上げ不振で店舗解体すら有り得るという最悪の状況。店長も頼りにならないし、16の頃からずっと勤め続け、裏店長と呼ばれるまでに知り尽くした我が子のような満天堂が取り潰されるのは見るに耐えない。
 二人の利害が一致した時、満天堂のルネッサンス(再生)は始まる。自負心を粉々にされ、地の素直さが浮き彫りにされた野村と、満天堂マスター・二宮。二人に触発された店員全体のバックアップもあって、見事防火衛生の基準をクリア。前年度売り上げ比130%を達成し、本社にも面目が立った。
 半年の研修を終了し県庁に戻った野村には、また別の戦いが待っていた。県政を牛耳る古賀県議会議長(石坂浩二)との、ケアタウンリゾート総工費削減策のぶつけ合いだ。民間のノウハウを会得した県庁キャリアは、皮肉な事に民意を代表した強大な敵として、県庁の前に立ちはだかるのであった……。
 どことなく伊丹監督の「スーパーの女」を思い起こさせるようなスーパー再生もの。しかし主演の織田裕二の、県庁キャリアらしい、いかにもな傲慢さや鼻持ちのならなさなどはそれにはなかったものだ。親組織である県庁に牙を剥くくだりなどは、痛快さもあり、時代世相を反映していて独特の面白さを醸し出している。
 とにかくこの映画の肝は「県庁さん」にある。マニュアル対応しかできないお役人が、サービス業習得する際のどたばた劇。そのギャップが笑いを誘う。個人的には漫画版(作:今谷鉄柱)の野村のほうが「K県愛」が目に見えて好きなのだが、映画の野村も悪くない。何せ織田裕二が適役だ。美形で歯が白くて、どこか偉そうだけどどこかコミカル。カッコつけの決め台詞も含めて、この俳優ならではの味を出せている。

ルパン三世~霧のエリューシブ~

2007-07-29 16:05:07 | 映画
「ルパン三世~霧のエリューシブ~」

 今年もやってきました、ルパン三世テレビスペシャル。恒例のこの行事も、ルパン生誕から40周年の節目ということで製作サイドのスタッフの気合いも違う。有名俳優や女優を声優に起用したり、大昔の適役・魔毛狂介をいまさら再登場させたり……あれ?
 2007年夏。北海道は霧多布。ルパンと次元は海に沈んだシャイン家のお宝探しをしていた。船上ではトップレスの不二子、車中では腕組みしてじっと待つ五ェ衛門と、いつもの面子が集っていた。ということはもちろんあの方も来るわけで……。
「逮捕だ~!」の呼び声を振り切り振り切り逃走をはかるルパンたち。不二子とは離れ離れになったものの、五ェ衛門と合流し、車でチェイスを続ける。そんなルパンの周辺で、不可思議な現象が起こり出す。追い越した車の運転手が手品のように消えていくのだ。
 大事故の連鎖を命からがらくぐり抜け、たどり着いたは霧に包まれた灯台。何者かに故意に誘導されたような居心地の悪さを感じる一同の目の前に、光に包まれた怪しげな男が現れた。男の名は魔毛狂介。2800年代の未来から、ルパンの子孫ルパン三十三世への個人的復讐を果たすためタイムマシン乗ってやってきたのだという。魔毛狂介の体を包む閃光が輝度を増すと、一同は遥かな過去に放り飛ばされた。500年前の霧多布。アイヌ同士の小競り合いの真っ只中へと……。
 タイムマシンなんてそのものズバリのギミックを使ってくるとは思わなかったので正直面食らった。しかしルパン一味の小気味の良いやり取りは相変わらずだし、魔毛狂介の薄汚さや(タイムマシンで飛行しながらハンドロケットを撃ったりする)、不二子の先祖お不三の初々しさ(不二子ほどスレてない)、五ェ衛門とシャイン家の女王イセカとの仄かなロマンス(終わりはあっさり)など、見所も随所にあり見ていて飽きない。
 メインのネタは冒頭からもろバレだし、お不三役の関根麻里の棒読みぶりにはダメージを受けたものの、タイムスリップものということでそこそこには見れる(ベタだけど)。テレビスペシャル故の尺の短さに泣かされた、踏み込みが足りない部分を補完できればなあと思いつつ夏の夜は過ぎていった。

ホテル・ルワンダ

2007-07-23 03:40:21 | 映画
 自分を見つめる皆の真剣な眼差しを意識しながら、ポールは告げた。
「外国の有力者に連絡してくれ。私たちの危機を知らせて。お別れを……。だがその時、電話を通して相手の手を握りなさい。手を離されたら死ぬと伝えるんだ。彼らが恥じて救援を送るように」

「ホテル・ルワンダ」監督:テリー・ジョージ
 
 1994年アフリカ中部ルワンダ。少数派ツチ族の反乱軍RPF(ルワンダ愛国戦線)と政府の間に和平協定が結ばれた。ようやく訪れた平和に酔いしれる人々。しかし続く凶報が、未曾有の悪夢の到来を告げた。大統領が暗殺され、フツ族過激派フツ・パワーと民兵が銃と鉈を手にとり、ルワンダ全土を血で染め上げる大虐殺を始めたのだ。
 当初ツチ族だけに絞られていた標的も、ツチ族を家族に持つフツ族、ツチ族を匿ったフツ族と基準が曖昧になり、やがては目につくもの皆殺しの惨劇が展開される。
 外資系ミル・コリンホテルは比較的平和なポジションにあった。海外マスコミや平和維持軍が長逗留しているし、国軍ビジムング将軍が懇意にしているホテルでもあったからだ。
 1キロ圏内で虐殺が横行する戦況になり、ホテルに避難してくる人は絶えない。自分の家族の安全にのみ執着していた支配人ポール・ルセサバギナ(ドン・チードル)だが、ホテルマンとしての職業倫理、隣人への博愛精神という内なる心に突き動かされ、己の能力のすべてをかけて皆を守ることを決意する。
 賄賂、哀願、恫喝。武力に頼れない者にできるあらゆる交渉術で、ポールはホテルへの脅威を退け続ける。だが彼は知っていた。どれもこれもその場し凌ぎの時間稼ぎにすぎない。本質的な解決方法は、やはり外の力に頼らざるをえないのだと。
 国連平和維持軍の増援部隊がホテルに到着したとき、ポールは努力が報われたことを神に感謝した。しかし救われたのは外国人だけだった。現地の避難民はそのままに、増援部隊はホテルを去った。オリバー大佐は帽子を地面に叩きつけて激怒し、ベネディクト記者は「恥ずかしい」と己を恥じながら脱出バスに乗りこんだ。
 武力では守れない。四ツ星ホテルとしての品格もすでに剥げた。いよいよもって切羽詰るミル・コリン。だがポールは最後まで諦めない。自分の肩には愛する家族と、1268人の隣人の命がかかっている。そのためにできることはなんだろう。自分にできる最善の手は……。模索し希求し続ける彼の脳裏に、一筋の光が差した。かすかな明かりであったけれど、彼はそれにすべてを賭けた……。

 じわりときた。泣くかと思ったけど泣かなかった。「ユナイテッド93」を観たときの衝撃に似ている。実話の重みに打ちのめされた。
 そう、これ実話なのだ。ポール・ルセサバギナも実在の人物。半年にも満たない期間で100万人が虐殺されたルワンダ紛争も、外国がそれに対して無力だったことも。
 この監督のすごいのは、誰も責めていないこと。代弁者であるところのポールが誰も責めていないこと。平和維持軍やマスコミの無力。国軍の身勝手さ。フツ・パワーや民兵の暴力こそ恐ろしく不気味なものに描かれているが、それだって長い年月をかけて集中し熟成された敵意、という責めようのないものとしてしかとらえていない。
 だからよかったのだ。被害者加害者どちらの側にも偏ることなく、ただ愛すべき隣人を護るホテルマンとしてのポールの姿が目に焼きつくのだ。

マッハ!

2007-07-17 22:27:40 | 映画
「マッハ!」監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ

 タイの英雄トニー・ジャーの出世作。全世界にムエタイ旋風を巻き起こした衝撃のアクションムービー……という割にはさほど金はかかってない。ノースタントのアクションや流れるような殺陣など、スタッフと役者の熟練度の高さによってのみ生み出し得る驚愕の映像が、この作品を作り上げた。
 タイの奥地、ノンプラドゥの村から、村の守り神であるオンバク像の首が盗まれた。犯人ドンを追いオンバク像の首を取り返すため、一人の若者が選ばれた。
 ティン(トニー・ジャー)。ムエタイの秘儀を体得した彼は、ケンカは滅多やたらに強いが、純粋素朴な一本槍で世事に疎い。ドンの足跡を追いバンコクへ辿り着いたはいいが、もちろん道にも不案内。村の出身者で現地に住まうハム・レイを訪ね協力を求めるが、このハム・レイが曲者。ギャンブル狂いの借金大王で、ティンの路銀をくすね、地下闘技場の賭け試合に向かってしまった。
 武器反則急所攻撃なんでもありの野蛮な賭け試合が夜毎行われている地下闘技場。無益な戦いを拒否しながらも巧みに状況に取り込まれ、試合を余儀なくされるティン。すると発揮されるのは鋭く研ぎ澄まされたムエタイの技。彼は一夜にして地下闘技場のチャンピオンとなる。
 すると石像泥棒の親玉コム・タンが、ティンに目をつけた。見知らぬムエタイ戦士をネタにギャンブル仲間とどんどん賭けを行い、そしてどんどん負ける。休憩も与えず子飼いの選手を三連戦で挑ませるもことごとく退けられ、挙げく石像の隠し場所を警察に通報され怒り心頭に達した彼は、かつてのムエタイ王者サミンに薬を打ち、ハイパーストロングムエタイマシーンとしてティンに対抗させる……。
「トム・ヤム・クン!」に比べて肘と膝を多用しすぎるきらいがあるものの、トニー・ジャーのマンガの様な身体能力は相変わらず。肩を踏み台にして人の群れの上を駆け抜けたり、横回転しての蹴りを二連発して一発一倒したりとやりたい放題。
 もちろん弱点はある。ストーリーなどあって無きが如しのくだらなさだし、トニー・ジャーの大根役者ぶりも同様。しかしそれでも心をとらえて離さないのは、一重に動的部分の突き抜けぶり。常軌を逸した異次元アクションは、デビュー作にしてすでに伝説の領域に達している。

ティアーズ・オブ・ザ・サン

2007-07-15 20:15:29 | 映画
「ティアーズ・オブ・ザ・サン」監督:アントワーン・フークア

 1億2千万。日本と大差ない人口の中に250もの部族がひしめき合う国、ナイジェリア。宗教や石油など様々な利害がぶつかり混沌としながらも、民主主義の名の下になんとかまとまっていた国に、軍事クーデターが発生した。瞬く間に国の中枢を掌握した主謀者ヤクブ将軍の指揮下、民族浄化の嵐が吹き荒れる。虐殺と暴行で無数の罪無き命が奪われていく中、 一機のヘリが辺境の村の上空を通過した。ウォーターズ大尉(ブルース・ウィリス)率いる8名の海軍特殊部隊を落下傘で降下させて。
 アメリカ人医師リーナ・ケンドリックス(モニカ・ベルッチ)を救出せよとの命令を受けたウォーターズは、「自分ひとりでは行けない、全員一緒だ」とごねるリーナをなだめすかして自力で歩ける者だけを連れてヘリの着地地点まで向かった。いざ目的地についたらリーナだけを乗せてさっと飛び去ってしまう予定が、帰り際に目に入ったのは焦土と化したリーナの村。虐殺された怪我人達……。
 今まで何度となく目にしてきた光景なのに、その日その時その村だけは、ウォーターズには違って見えた。眠っていた義侠心を胸の奥から引っ張り出した彼は、ヘリを引き帰させると、老幼者をヘリに乗せて送った。あとに残ったウォーターズは、部下とリーナ、そして多くの村人を従え、カメルーン国境までの危険極まりない道程を踏破することを決意したのだった。
 人物造形が甘い。話の抑揚に欠ける。軍事協力は完璧なのに、行動が不用意すぎる。ゾンビ映画か何かかと見まがうほどにツッコミどころ満載のこの映画、米軍礼賛の気が強すぎて萎える。「ダイハード」シリーズの4作目になる予定だったという話を聞くが、しなくて正解。ジョン・マクレーンをこんな映画のために無駄使いする必要はない。

キングダム・オブ・ヘブン

2007-07-05 06:36:51 | 映画
「キングダム・オブ・ヘブン」監督:リドリー・スコット

 フランスの片田舎の丘の上、白い十字の墓標の下に、数人の司祭達が穴を掘っている。時は明け方か暮れ方かわからない。薄暗がりの中、積もることの無い粉雪が静かに舞っている……。 
 陰鬱だが、引き込まれる出出しだ。本作は「ブレードランナー」、「エイリアン」、「ブラックレイン」、「グラディエーター」、「ハンニバル」など多くのヒット作を手がけた巨匠リドリー・スコットの手による歴史ものだ。ハッティンの会戦、エルサレム攻防など史実を基にした十字軍戦争をモチーフにしている。
 フランスの片田舎で鍛冶屋を営んでいるバリアン(オーランド・ブルーム)は、日々悪夢に苛まれていた。息子の死を悲しんだ妻が自殺した。そのことを思い出さぬように一心不乱に金てこを振るい、熱く焼けた鉄を見つめていた。そんな彼の前に、ゴッドフリー(リーアム・ニーソン)と名乗る騎士が現れる。彼は自らをイベリンに領土を構える貴族であり、100人の騎士を抱え、何よりバリアンの父であると告げる。
 エルサレムへ一緒に行こうとの誘いを断るバリアン。しかし妻の死体から十字架を奪った司祭を殺した罪で追われる身となってしまい、結局ゴッドフリーと行動を共にすることとなる。だが教軍の追手は容赦なく、ゴッドフリーの手勢もろとも襲撃されてしまう。
 死に至る深手を負った父の遺志を継ぎメッシーナから船出したバリアンは、難破したり馬泥棒として殺されそうになったりと危難を乗り越えようやく聖地エルサレムに辿りついた。キリスト教徒とイスラム教徒、複数の言語が飛び交う猥雑な活気に満ちたエルサレム。バリアンはそこで様々な人々と出会う。王妹シビラ(エヴァ・グリーン)、シビラの夫ギー(マートン・チョーカシュ)、ゴッドフリーの友ティベリウス卿(ジェレミー・アイアンズ)、イベリン騎士一行。
 イベリンへたどり着いたバリアンは、そこで答えを得た。エルサレムでもゴルゴダの丘でも得られなかった救い。神の不在を埋める回答がそこにはあった。10000エーカーの土地に100の家族。キリスト教徒もユダヤ教徒もイスラム教徒も関係ない、活気と平和に満ちた、ある種の理想郷……。
 鉄仮面を被ったライの王ボードゥアン4世(エドワード・ノートン)は、20万の兵を擁するサラディン(ハッサン・マスード)と喧嘩しないよう外交を進めていた。ギーやルノー(ブレンダン・グリーソン)といった無頼の貴族の暴走であわや開戦の危機に陥っても、政治的手腕でなんとかしのいできた。彼の死後、戦況は劇的に動く。新王として即位したギーはあっさりと開戦し、しかも敗れる。残った僅かな手勢と民兵を率いてエルサレムに立て篭もったのは、鍛冶屋あがりの貴族バリアンであった……。
 戦争映画ではない。大規模会戦や剣戟、肉弾相打つシーンの迫力に騙されそうになるが、この映画の根源は救いだ。救いと、それを求めても得られない魂の彷徨を描いた作品だ。
 人殺しの罪を悔いているくせに次々と殺しを重ね、妻の死を悼んでいるくせに人妻と姦淫する。矛盾だらけのバリアンの生き様は、そのままエルサレムの存在と重なる。およそ求めるものと正反対のものしか得られない苦痛の聖地。天の王国を巡って起こる様々な悲劇を捉えるリドリー・スコットの瞳は、暗くて深い。