おもに一人暮らしの高齢者に巧みに近づき、時に法律の専門家であることを強調し、または任意後見制度という公的な仕組みを利用することで安心させて、不必要な住宅リフォーム、なんの利益にもならない多額の投資、持ち家や土地の不当に安い価格での売却といった深刻な被害が起きています。
そもそも、任意後見制度とはどんなものか。
将来、認知症などにより判断能力が低下した場合に備え、あらかじめ「信頼できる人」と任意後見契約を結んでおき、実際に判断能力が低下した際にこの「任意後見人」から財産管理等の必要な支援を受けられるようにするものです。契約をスタートさせるときは、家庭裁判所が、任意後見人の行為を監督するための「任意後見監督人」というチェックする役割を果たす人を選びます。したがって、任意後見人がこの制度を悪用して、ご本人の判断能力の低下に乗じて本人に不利益な財産処分などを好き勝手に行うことはできないような仕組みになっています。
どこに問題があるのか。
任意後見制度の手続きの流れを見ると
①任意後見契約締結
②判断能力の低下
③任意後見契約発効(任意後見監督人選任)
という流れになります。この中で①と②の間に判断能力が低下する前の金銭管理等について、「任意代理契約」を締結する場合がありますが、ここで財産侵害等の被害が多く発生しています。
そこで、任意後見制度を利用する場合の確認点は
(1)契約は公正証書で作らていますか?
任意後見契約は、公正証書で作られなければなりません。
任意後見受任者と本人同士で契約するだけでは、任意後見契約としての効力は発生しません。
(2)契約の効力が生じる時期を知っていますか?
任意後見契約の効力が生じるのは、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからです。本人の判断能力が低下した場合には、家庭裁判所に任意後見監督人の選任申立てをすることになりますが、申立てができるのは、任意後見受任者、配偶者、四親等内の親族になります。なお、判断能力があれは、本人も申立てをすることができます。
(3)任意後見受任者のことを知っていますか?
親族でなくても、友人、専門家といった個人や法人なども任意受任者になることができます。
任意後見受任者が個人の場合のチェックポイント
*金銭的にルーズな人ではないか
*契約の内容を丁寧に説明してくれているか
*専門家の場合、万が一の事故に備えて、損害賠償保険に加入しているか
*専門家の場合、専門職団体に所属し、所定の研修等を終了しているか
任意後見受任者が法人の場合のチェックポイント
*直接の担当者はどのような資格を持っているのか
*法人は担当者にどのような研修をしているか
*担当者の活動を法人に報告するといった監督のしくみが、
契約内容に盛り込まれているか
*法人が、これまでにすでに発行している任意後見契約を複数件受任しているか
(4)契約内容の確認を確認していますか?
契約内容は自由に決めることができますが、契約の中に本人が必要としていること以上のことが盛り込まれていないか、契約内容については、通常「代理権目録」という書類にチェックしていくことになります。例えば、入院の手続きや入院費の支払いだけを必要としているのに、預貯金の管理まで契約に含まれているようなことがないか
(5)任意後見人には取消権が認められていないことを知っていますか?
本人の自己決定権を尊重するという観点から、任意後見人には、同意権・取消権がありません。したがって、本人が不利益な契約をしてしまったときでも、それを任意後見人が取消すことができません。
(6)任意後見に報酬が発生します、前払いしていませんか?
一般的には、任意後見人を専門家等の第三者に依頼した場合には、報酬を支払うのが通常ですが、親族の方が任意後見人になる場合には、無報酬のことが多いようです。報酬額は自由に定めることができますが、おおむね月額数万円のことが多いようです。また、任意後見人への報酬の支払いは、任意後見監督人が選任された後に必要になります。契約を締結した時点で前払いをする必要はありません。
(7)任意後見監督人にも報酬が発生することを知っていますか?
任意後見監督人が選任された後は、任意後見人だけでなく、任意後見監督人にも報酬の支払いが必要になります。任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が決定します。また、この報酬も、本人の財産から支払うことになります。
(8)任意代理契約をしている場合の内容確認を行っていますか?
①契約内容は自由に決めることができますが、契約の中に本人が必要としていること
以上のことが盛り込まれていないか
任意後見契約については、任意後見監督人が監督の役目を担いますが、
「任意代理契約」では、この監督の役割を果たす人がいません。
②本人が判断能力が低下したときに、適切に任意後見契約に移行することができますか
本人の判断能力が低下した場合に、任意後見監督人の選任の申立てができるのは、
任意後見受任者(任意後見人になることを引き受けた人)、配偶者、四親等内の親族
となります。したがって、もし本人や親族に、この任意後見監督人の選任の申立て
ができない場合、任意後見受任者が申立てを行うことになります。このとき、
任意後見受任者が意図的に任意後見契約に移行せずに、不適切な金銭管理を行い
続ける事例などがいくつか見られています。
以上の事を踏まえて、任意後見契約に伴って「任意代理契約」を結ぶ際には、
以下の事を考慮する。
*日常生活に必要な程度の金銭管理など、契約内容を限定する方向で、弁護士会、
司法書士会、社会福祉会といった専門機関に相談する
*特に財産の処分などの重要な項目については、契約内容に盛り込まずに、
その都度、個別に専門機関に相談して決める
すでに契約を結んでしまっている場合で、任意後見契約は、いつでも解除することができます。なお、任意後見監督人が選任される以前であれば公証人の承認のある書面でする必要があり、任意後見監督人が選任された後は家庭裁判所の許可が必要になります。
ただし、任意後見契約に伴う「任意代理契約」の解約については、契約内容を確認してみる必要があり、解約できる場合もできない場合もあります。契約内容については、個別に専門機関に相談するようにしましょう。