治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
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ギョーカイはとっくにわかっていたんだね

2014-10-23 10:07:38 | 日記
「アスペルガー症候群の難題」井出草平著 読み終わりました。
最初の予感が当たっていて、私にとっては意義深いけど結論尻すぼみの本でした。
でも読む意義はじゅうぶんありました。犯罪と障害特性との関連性もはっきり数字で示してあったし、ギョーカイの隠蔽ぶりが逆に自閉症者のためになっていないだろうという持論を共有していることも確かめられたし。
どこがどう最後にがっかりしたかというと、一つは犯罪の要因となる自閉症者の特性がほぼ「粗暴性」しか分析されていないこと。違うでしょそれは。問題は粗暴性じゃなくてモンダイな想像力じゃないの? って私は思っています。
もう一つはこの事態を解決する方法をギョーカイ内に求めていること。私ほどギョーカイに絶望していないんだと思います。見切りをつけていないのね。

それにしてもねえ、たいした狸だ、ギョーカイメジャーたちは。
事件が起きると「報道するなあ! 自分たちが傷つく!」と理由にもならない理由を並べて規制に走っていた一方で(著者の井出氏はきちんと、この態度を批判しています)、厚生労働省にはきちんと「アスペルガーの特性は犯罪と強い相関性があります。そしてそれに対して医療はなすすべがありません。以上」って報告していたんですね。国のお金を使ってきちんと研究して。
JDDの会長にして自閉症スペクトラム学会会長の泣く子も黙るギョーカイ大大大メジャーであらせられるところの市川宏伸先生の研究結果についての部分、ちょっと長めですが引用させていただきます。

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 精神科医の市川宏伸らも、アスペルガー症候群である者の犯罪種別の報告をしている。都立梅ヶ丘病院に通院歴のある自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)の者のうち、触法行為とみなされる行動の履歴がある13のケースを検討している。

 13の症例で計18件の触法行為が認められ、その内訳は傷害(強盗傷害を含む)が4件、卑猥行為が3件、放火が3件、窃盗が3件、ストーカー行為が3件、恐喝、脅迫行為が各々1件であった。(中略)7件の触法行為が梅ヶ丘病院に初診する前に為され、11件の触法行為が梅ヶ丘病院に初診した後に為されていた。

 傷害・性犯罪・放火・窃盗・ストーカーといった犯罪が起こりやすい傾向が見られる。このデータは病院経由でとられたものである。
 医療が関わっていれば、犯罪は防げると期待するかもしれない。しかし、この研究からは医療が関わっていても犯罪行為は起こることがわかる。
 市川らは次のように分析する。

 今回の実態調査で重要な結果だと考えられたのは、18件の触法行為のうち11件が医療機関の受診後に為されているということと、触法行為後の処遇として入院が選択された5件の触法行為の後に4件で再犯が認められているということである。いずれの結果も、医療機関での治療が自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害)患者の触法行為の抑止のため充分ではないことを示唆している。その原因の1つには、精神科医療の技術的な問題が挙げられる。早期にはじめる、一貫したルールをつくる、社会性を伸ばす訓練をするという、一般的な対応策は提示されているが、根拠を持って自閉症スペクトラム障害者(広汎性発達障害者)の触法行為に対して有効であるという治療法の報告はなく、医師それぞれの試行錯誤によって治療方針が決められているというのが現状である。

 病院に行って医療による支援を得られたとしても、犯罪は起こる可能性がある。医療につながることは必要だが、医療だけで犯罪の再発を防止することは難しいようだ。市川らが言うように、触法行為や再犯を防ぐ手立てはいまだ試行錯誤の途上にある。

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 ギョーカイが事件のたびに報道規制することを、私はギョーカイの「健常者に人権なし」の思想の表れだと受け取ってきました。一方で「社会の理解を!」と訴えているのなら、実像を知ってもらう必要があるでしょう。なのにどうして負の面は隠すのか。負の面だって実像じゃないですか。そこをきちんと訴えて必要な資源を勝ち取るのも支援者の仕事じゃないですか。第一一般人の知る権利をまったく考えていない。
 井出氏はわりあいこの点で、私と同じベクトルの考え方です。途中まで。だから花風社の本が好きな人はこの本は好きだと思います。途中まで。

 ま、ともかくここに引用されているギョーカイによる研究をカンタンにまとめると

・犯罪を犯した自閉っ子を13人見ました。13人で18件の犯行。つまり再犯があります。
・そのうち11件が医療的介入の後のこと。つまり入院させても効果はありませんでした。
・今のところ悪いことする自閉っ子に医療は無力です。おわり。

 っていう報告であり、これこそ「早く言えよ専門家!」って世界です。以前ギョーカイがついていたウソは

・自閉症者は心のきれいな人たちなのです。
・悪いことをすればそれは支援者のせいです。
・犯罪を犯してしまう自閉症者がいたとしたらそれは支援につながっていない人たちが事件後に診断がついたのです。

ということでした。けれども私が被害にあった犯罪の加害者はどこに出しても恥ずかしくない立派なよこはま発達クリニックで診断治療を受けていたひとなので

・悪いことをすればそれは支援者のせいです。

 とおっしゃっている佐々木正美先生にご報告したわけです。
 ところがギョーカイの別の一角で国のお金で市川大先生が

・今のところ悪いことする自閉っ子に医療は無力です。おわり。

 という報告を国にしているんですからね。

 じゃあどうすんのよ。

それに対して井出氏は「家族が防波堤」と書いてます。今は家族が殴られても傷つけられても必死に身体を張っていると。
でも家族にだって人権があるはず。家族だから被害にあっていいわけではない、と。
この辺の問題意識も私は共有している。ギョーカイはどうなんだろ。

それと特別支援教育の問題。
より問題のある子がより問題の少ない子に被害を及ぼしても現場が無力だということですね。
これはぜひ「自閉っ子のための友だち入門」の栗林先生のところを読んでいただきたいもんですが。



栗林先生くらい胆力のある先生じゃないと、この問題に立ち向かえないわけです。
それを私は死んだふりと呼んでいるわけですが。

なんでこんな事態が起きたんだろう。
どうやったら解決するんだろう。

皆さんは、どう思いますか?