赤毛のレドメイン家 THE RED REDMAYNES |
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読了日 | 2016/08/24 | |
著 者 | イーデン・フィルポッツ EDEN PHILLPOTTS |
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訳 者 | 宇野利康 | |
出版社 | 東京創元社 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 436 | |
発行日 | 1970/10/23 | |
ISBN | 4-488-11101-7 |
狂したリオのオリンピックも終わり、台風も過ぎてようやくおだやかな青空が戻ってきたような感じだ。まだ蒸し暑さは変わらないが、朝夕のちょっとした涼風と、空の高さが秋の気配を感じる今日この頃だ。夏の終わりのこの時期に思い出すのは、「秋来ぬと 目にはさやかに見えねども 風の音にぞ驚かれぬる」という歌だ。
確か中学生の頃の教科書で習ったような記憶があるが、定かではない。誰の作かとNETで調べたら、藤原敏行 (ふじわらのとしゆき)という、平安時代の歌人で36歌仙の一人だということだ。
世間は相変わらずのわけのわからない事件も起こって、かまびすしい毎日だが、宇治拾遺物語(秋来ぬと・・・の歌はここに収められている)などひも解いて、優雅な気分を味わいたいものだ。
現在はあまり目にすることもなくなったが、僕がいわゆる探偵小説に興味を持ち始めた昭和20年代の終わり頃には、出版各社が“探偵小説ベスト10”とか“推理小説全集”などという企画を打ち出して、競っていた。
欧米には探偵小説の黄金時代と言われる時代があったが、僕は自分が探偵小説に目覚めた頃が日本の探偵小説黄金時代だと思っている。
その日の小遣いにも不自由していたから、大人になったらそうした全集を揃えて、本棚に収めて片っ端から読 んでやろう、そんな夢を抱いていたものだ。雑誌などで著名人の書斎などの写真で、ぎっしりと書籍の詰まっ た書棚を見て、儚い将来の夢を膨らませたものだった。
雑誌の広告にも、全集のお知らせはいろいろと載っており、海外探偵小説の中にいつも顔を出していた内の1冊が本書「赤毛のレドメイン家」だ。
うしたベスト10や、全集の目録を見ても、集めることは出来なかったが、少しずつは神田の古書店街を探しては、全集崩れを買って読んだのだが、エラリイ・クイーン、ディクスン・カー、ヴァン・ダイン各氏らの著名な作家がどうしても先になって、イーデン・フィルポッツ氏が無名だというわけではないものの、後回しになってとうとう今まで、手を付けることがなかったのは不思議な感じがする。
読み始めて、途中デジャブのようなものを感じるところもあるが、記憶がよみがえらないところを見れば、多分読んではいなかっただろう。
半世紀以上も前のことは当たり前のように記憶が薄れて、何を読んだかも思い出せないのが、少しもどかしい。
若い頃の読書の記録は、およそ1500冊ほどの蔵書目録を、ガリ版印刷で作っていたが、いつも間にか散逸してしまって、影も形もなくなった。中学3年のころから読み始めた文学作品の文庫が主な蔵書だったことしか覚えていない。
こうしてネット上に自分の読書記録を、保存できるなんて言うことが当然すぎて、ありがたみも感じていないだろう今の若者をうらやんでも仕方がない。
僕がミステリーを好んで読んだのは、昔、江戸川乱歩氏や高木昭光氏の著書に、探偵小説初心者向けの解説書があって、そうしたものならたくさん読めば僕にも書けるかもしれない。そんな浅はかな思いもあったことは否めない。
だが年を経るごとに、そうした思い上がりも消えて、ただただストーリーの面白さだけを追求するようになった。ミステリーの古典的名作を読んでいると、そこはかとなくストーリーとは関わりのない、どうでもいいようなことだけが頭をよぎる。
読みたいと思った時から、60年もの歳月を経て、ようやくここに読むことになり、言い知れぬ感慨を催して、というのも貧乏だった昔(それは今でも大して変わりはないが)まで思い出して、少なからずセンチメンタルな気分になった。
ーク・ブレンドンというロンドン警視庁―僕は通称スコットランドヤードというロンドン警視庁の呼名が、シャーロック・ホームズの冒険譚で初めて知った時から、この名を見ると何となく心ときめいたものだった―の名刑事といわれた彼が、休暇でダートムアを訪れてマス釣りを楽しんでいた時のこと、すれ違ったジェニー・ペンディーンに心を奪われた時から事件は始まっていた。
そのジェニー・ペンディーンの夫・マイクルがジェニーの叔父・ロバート・レドメインに殺害されるという事件が勃発する。ジェニーから事件の解明を依頼されたブレンドンは、休暇を返上して事件の犯人であるロバート・レドメインの逮捕に奔走するが、警察の捜査をあざ笑うかのように姿を消した。
前半はブレンドンと所轄の警察の捜査がメインとして描かれて、ブレンドンの名探偵ぶりはいつ発揮されるのかと期待するも、彼とジェニー・ペンディーンの淡い恋模様などもあって、事件の解明には一向進まない状況が続く。そして後半になるとなんと別の名探偵が現れるという、まったく予期しなかった様相が展開されるのだ。
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