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【今月のフォーカス】どうなる北海道のマダラTAC導入

2023-03-07 21:19:22 | 今月のフォーカス
マダラ北海道太平洋・日本海の資源管理手法検討部会
資源評価の精度に疑問、漁業者の理解は得られず
TAC導入に向けたステークホルダー会合にも反対の声

 

 水産政策審議会資源管理分科会の資源管理手法検討部会(田中栄次部会長)が3月3日午後から札幌市市内の会議室で開催され、マダラ北海道太平洋、同日本海の資源評価と資源管理の基本的な考え方が示され、沿岸、沖合の代表延べ17人の参考人が意見陳述した。その中で、資源評価の精度に対する疑問などが出され、沿岸漁業の漁獲努力量に関するデータが反映されていないことやロシアとの「またがり資源」であることの判定が行われていないことが指摘され、TAC導入に向けたステークホルダー会合に「漁業者の納得が得られていない」ことを理由に反対の声が多数を占めた。
 マダラ北海道太平洋・日本海の資源評価に関してはすでに1月5日に札幌で開かれた説明会で水産研究・教育機構からデータが少なくMSYの算定は断念し、それに代わる「余剰生産モデル」による2系の推定による算定漁獲量が示されていた。マダラの漁獲量は2021年から急増しており、水産研究・教育機構が算定した「太平洋2万1,000㌧」「日本海1万1,500㌧」は実態をかなり低く抑えたもので、科学的知見なしの規制強化を危惧する声が出ていた。2021年マダラ漁獲量は太平洋2万6千㌧、日本海1万1,200㌧で、沿岸が沖合を上回っているが、資源評価には双方の漁獲量のほか、沖底(かけ回し)のCPUEのデータしか反映されていない。
 水産庁からは藤田仁司資源管理部長、永田祥久資源管理推進室長らが出席し、今後のスケジュールが示されたが、これまでの論点や意見を踏まえステークホルダー会合で具体的な管理の方向性をとりまとめるとしており、資源管理基本方針案を作成し、パブリックコメントを実施したあと、水政審資源管理分科会において諮問・答申を経てTAC管理を導入する意向が示されるなど、検討会では「スケジュールありき」の取り進めに強い不安、不信が表明された。

太平洋の参考人・委員の意見・コメント
 参考人の主な意見は、太平洋では「多くの漁業者が操業する沿岸の実態を無視した内容には納得できない」(上見孝男えさん漁協組合長)、「マダラ資源はロシア水域に産卵場をもち、国内だけの資源評価では正確性を欠き、漁獲規制は地域への影響が大きい」(高澤豊歯舞漁協理事)、「マダラは魚価が乱高下する上にスケソウ刺し網の混獲魚種であり、現状の漁獲量だけで評価するのは乱暴すぎ、ゴールの見えない資源管理は納得できない」(小松伸美日高中央漁協専務)、「マダラは加工業者の依存も大きく、根室市内の命綱だ。日ロ漁業協定の対象魚種であり、急激に増加した場合、TACが不足する」(相川泰人根室漁協専務)、「資源評価のレベルは相当に低く、ルールが成熟していない。近年の突発的な漁獲増はまたがり資源的な要素が高い」(山口浩志道総研中央水試研究主幹)、「マダラの漁場は本州から北海道にかけて広くつながって多様な漁業が利用しており、変動が激しく、海域全般にわたりしっかり調査してほしい。個別漁獲割合の導入は日本漁業を否定するものであり、先行きが見えない」(金井関一釧路機船漁協組合長)、「マダラの資源評価を聞いてTAC導入に賛成の人は浜にいない。マダラの生態が不明で、資源を将来どうするのかも不明。漁業者の納得のいかない中で進めるのは間違い」(本間新吉室蘭漁協副組合長)、「マダラの資源評価に信頼性がないし、スケジュールありきで進める印象が強い。TACに値する資源評価か疑問であり、漁業者の納得が得られない」(柳川延之道機船連専務)、「北海道には資源管理の経験知があり、マダラ資源が減って困っているわけでもないので、水産庁は意見を尊重してほしい」(富岡啓二全底連会長)といった意見が聞かれた。
 委員からは、「資源の状態は良いが、資源管理の枠組みが必要という水産庁の意向であり、算定漁獲量は微妙な数量だ。価格が安くて獲らないという場合もあるので、漁業調整の努力も必要で、TAC導入には経済原理の発想を入れてほしい」(木村伸吾東京大学教授)、「全体にTACありきで進んでいる。資源の持続性も大切だが、漁村・地域の持続性も考慮して議論すべき。ロシアとのまたがり資源という点には触れられていないので、説明する必要がある」(部会長代理・川辺みどり東京海洋大学教授)、「お互いの信頼性が大切で、これまでも資源管理は話し合いで解決してきた。このままでは信頼性を損なうので丁寧な説明をしてほしい。資源管理のビジョンもないのでは漁業者も不安になる。ただ行政機関としてTACを着実に進めたい水産庁の立場もわかる」(部会長・田中東京海洋大学教授)というコメントが出た。

日本海の参考人・委員の意見・コメント
 また、日本海では「スケソウにTACを導入すれば資源が増え水揚げも良くなると思っていたが、この20年間で地域経済の衰退はすさまじく、マダラは浜が疲弊しない方法を考えてほしい」(茂木隆文東しゃこたん漁協組合長)、「マダラの生態は明らかではなく、捕食関係なども解明が必要だ。漁業者にわかるよう情報提供し、資源評価の精度を高め、浜と乖離しないよう対応すべき」(蝦名修北るもい漁協専務)、「マダラの漁獲は安定せず、一定の周期で増減している。漁獲量の平均では豊漁時に対応できない。卓越年級群を獲り残し、うまく資源を利用すべきだ」(湯田博明香深漁協専務)、「マダラの資源管理規則案は漁業者にとって相当にきつい。資源水準が下がった時の状態を理解してもらう必要がある。高位捕食者のマダラが超高水準にある状態はよいのか。微小な漁獲が多く、混獲問題もある」(山口浩志道総研中央水試研究主幹)、「漁獲量だけで資源評価を判断されると困る。価格が安いから獲らない場合もあり、苦労している漁業者の経営をさらに苦しめる。沖底には様々な魚が入るので、1魚種のために操業ができなくなる不安が大きい」(伊藤保夫小樽機船漁協組合長)、「TAC魚種の拡大には賛成できない。混獲の問題で現場が混乱する。現行のTAC魚種も多くが漁獲低迷にあり、増やす必要は感じられない。軽々に推定し、拙速に規制せず、現場が納得する管理を求める」(風無成一稚内機船漁協組合長)、「太平洋も日本海もマダラの漁獲増加は域外からの流入しか考えられない。資源評価がはっきりしない魚種はTAC管理から外してほしい。スケソウに続いてホッケ、マダラを数量規制されれば、日本海の漁業が成り立たない」(柳川延之道機船連専務)、「マダラ資源を増やす理由、漁業の将来イメージを浜に伝える必要がある。現状の数量を上から規制する意味があるのか浜は理解できない」(富岡啓二全底連会長)といった意見が聞かれた。
 また、委員からは「TACの対象になっているが、データのない魚はあり、混獲、またがり、遊漁の問題などなかなか解決できない。環境収容力やレジームシフトなども考慮しなければならない。データの少ない魚の資源評価を説明するために知恵を絞り、漁業者もデータの収集に協力し自ら提案してもらいたい」(木村東京大学教授)、「資源評価は納得がいかないので、沿岸のCPUEのないことの正当性を、データを補完するパイロット的なものを含め検証してもらいたい。水産基本法にある水産業の健全な発展をめざすTACの道筋がみえない」(川辺東京海洋大学教授)、「経済的な視点で考えれば、社会は3年くらいで大きく変わる。速効性のある管理措置でないと意味がない。時間経済的な感覚が足りない」(部会長・田中東京海洋大学教授)とのコメントが聞かれた。

今後の取り進め
 太平洋、日本海とも参考人から文書で意見が寄せられており、会議でも説明されたが、会議での参考人の意見、検討委員からのコメントを受け、意見の整理を検討委員に一任し、今回加えられた意見を盛り込んだ「まとめ」を水産庁のホームページで公開する。水産庁からは「ステークホルダー会合に向けた宿題を与えられたので、これを精査して回答したい」との意向が示された。
 ステークホルダー会合は複数回開かれることも想定されているが、沿岸、沖合ともに漁獲シナリオの合意には相当な抵抗が予想される。

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