6月11日(日)午後2時からは、ミニシンポ『内水面における漁場管理の展望と課題』を開かれ、水産庁・櫻井政和防災漁村課長(前栽培養殖課長)が司会・コーディネーターとなって研究、現場調整、行政の専門家3人による報告を受け、議論を交わした。その中で内水面の漁場管理における課題と対応方策の提示を受け、提示された課題を共通認識として今後の漁場管理の展望や管理の主体となる内水面漁協の対応策について認識を深めた。漁業経済学会として内水面漁業を取り上げる初のシンポとあって大勢の関係者が参加した。
内水面(河川、湖沼)においては漁業法に基づき第五種共同漁業権の免許を受けた内水面漁協が、増殖事業や遊漁者サービス等の漁場管理を行なっている。今秋には共同漁業権の一斉切替が行われ、多くの内水面漁協が今後10年間にわたり漁場の管理を続けている。現状は組合員の減少や高齢化が進展していることに加え、従来から問題とされてきた資源の不安定化、食害などの事態の深刻化が進行している。
第1報告は、中村智幸氏(水産研究・教育機構)は「日本における内水面の漁場管理の現状」として組合員も減少、高齢化する組合員、赤字経営、漁業者ゼロといった現状を踏まえ、内水面漁協が資源増殖を含む漁場管理によって多面的機能、行政代行機能を担っているとした。第2報告の瀬川貴之氏(クリアウォータープロジェクト代表)が「内水面漁業・遊漁の構造的課題と再活性化提言」としてアンケート調査の結果を踏まえ、内水面漁協が10年後には消滅の危機にある状況を示し、職員の給与負担と増殖・遊漁料徴収による経営を分離するよう提言した。第3報告の鈴木聖子氏(水産庁)は「内水面漁協が果たす多面的機能維持活動への社会的意義・評価に対する一考察」として内水面の多面的機能の定量化に基づく河川税の創設など、持続可能な内水面漁協のあり方を提起した。
コメントでは、大森正之氏(明治大学)が「内水面による食料供給、文化保存的な価値の可能性」を問うた。また、工藤貴史氏(東京海洋大)が「内水面の望ましい姿がこれまで追求されて来なかったが、内水面振興法では自然環境の保存が求められる」と提起した。
総合討論では、櫻井氏が論点を整理し、第5種共同漁業権として増殖が義務付けられている内水面漁協に特有な課題、特に環境保全を内容とする多面的機能の評価、方向性などをめぐり、会場を交えて議論を深めた。
櫻井課長は「多面的機能をどう捉えるかが内水面を考える鍵になる」と提起し、工藤氏は「現場に対する政策支援を考える上で出てきた」と述べ、中村氏は「一般国民からみれば漁場管理は内水面漁協の役割であり、多面的機能への支援は当然あるべき」とした。文化の継承など多面的機能の評価について様々な意見が出る中で、佐野会長は「遊漁料の徴収は完全に経済事業であり、一方多面的機能は漁業生産と一体で外部経済性(市場外)に発生する価値であり、内水面漁協に河川の環境保全まで追わせるわけにはいかない」と陸域の環境行政との区別を明確にするよう助言した。
多くの内水面漁協が事務、運営の費用(人件費)を賄えない状況を受け、櫻井課長は「漁協による委託可能性には線引きがない。今後どう委託していくかが経済的持続性との関係で課題になる。しかし、営利ではない漁場管理を委託することはできない。主体性がなくなった場合は、組合の存立条件を失う」と述べ、市町村、漁協系統の現場からの意見を求める姿勢を示した。