降版時間だ!原稿を早goo!

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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★読売だ!=「北海タイムス物語」を読む (147)

2016年07月31日 | 新聞

(7月28日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第147回。

【小説「北海タイムス物語」時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬。北海タイムス札幌本社ビル。
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身、早大卒23歳。整理部勤務
▼萬田恭介(まんだ・きょうすけ)=北海タイムス編集局次長兼整理部長。青学英文科卒45歳
▼松田駿太(まつだ・しゅんた)=野々村と同期入社の整理部勤務。バイトとして校閲部にいたため社内事情に詳しい。名古屋出身の北大教養部中退24歳。小説作者・増田さんの投影キャラ

【 以下、小説新潮2016年2月号=連載⑤ 344〜345ページから 】
相手チームは胸に筆記体で〈YOMIURI〉❶と入っている揃い❷の濃紺ユニフォームを着、金属スパイクを履き、カラフルな今風のグローブをしていた。
一方のタイムス勢はユニフォームどころかジャージすら誰も着ていない。

(中略)
「多々良、てめえ遅えんだよ」
秋馬さんが血走った❷を向けた。
「まあまあ。あいかわらず空手家の先生は力入りすぎですなあ」
多々良とよばれた人が僕のほうを見て右手を差しだした。
「君が❷の整理の新人か。俺、昨日休みだったから今日が初顔合わせだ。よろしく」
慌ててその手を握り返すと、僕の肩をもう一方の手で鷲づかみ❷にし「頼むよ」と言ってニッと笑った。すごい握力だった。
松田さんがベンチに座りながら多々良さんの腰を叩いた。
「こいつは制作局❸の多々良純(たたら・ただし)っていうやつだ。高校時代、レスリングで活躍してた男だ」
今度はレスリングか……勘弁してほしい……。


❶〈YOMIURI〉
読売新聞北海道支社で北海道版を発行しはじめたのは、1959(昭和34)年5月。
小説の後述でもあるが、あとから進攻した新聞社が現地で編集・発行するためには、地元紙からの引き抜き(現地採用)が手っ取り早い。
〈給料アップだぞ!全国紙だぞ!新しい職場で社風をつくろうぞ!〉
道新や他ローカル紙のほか、北海タイムス編集局・印刷局が草刈り場になったのだろう。
*全国紙の北海道進攻は1959年
▽朝日新聞北海道支社で発行開始=1959(昭和34)年6月
▽毎日新聞発行開始=同年4月


❷揃い/眼/噂/鷲づかみ
いずれも漢字表にない字。
株式会社共同通信社発行「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」では、
〈平仮名にしましょうね〉
としている。
整理部的にはそろそろ「揃い」あたりは使えるようにしてほしい。
*見出しに漢字でつかうこともできるけど
例えば、見出しで「勢揃い」をつかうには、本文で「勢揃(ぞろ)い」と送りルビを振ればいい。
校閲さんによっては処理してくれる人もいるのだけど、たいがい見出し「勢ぞろい」と1字増やしてしまうのだ。


❸制作局
編集局整理部にとって、制作局スタッフは時間内に同じ仕事をする仲間。
仲良くしていると、一旦緩急のとき、
整理部「悪いねっ、早めに処理して!」
制作局「仕方ねぇなぁ。そこ置いときな」
となることがないわけでもない。
仕事は、日々のコミュニケーションが大事なのでございます。

———というわけで、続く。