降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★輪転は爆音だった=「北海タイムス物語」を読む (136)

2016年07月07日 | 新聞

(7月6日付の続きです。写真はイメージです)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第136回。

【小説「北海タイムス物語」時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬。北海タイムス札幌本社ビル。
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▼萬田恭介(まんだ・きょうすけ)=北海タイムス編集局次長兼整理部長。青学英文科卒45歳


【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 470ページから 】
「入るぞ。うるさいから覚悟しろ」
萬田さんがドアを引くと、ホームを特急列車が通過するときのような凄まじい轟音が渦になって響いていた❷。
高さ一〇メートル、幅約十メートルはある恐竜のような巨大機械が、轟々と唸りをあげている。
「これがうちのオフセット輪転機だ! 一時間に十二万部以上刷る❸ことができる!」
萬田さんが僕の耳元で大声をあげた。
輪転機のあちこちに複雑に鉄製階段が張りめぐらされ、印刷部分の回転に合わせ、鉄の反射光が天井や壁を走りまわっている。
警告音だろうか、ときおり「ビィー」「ビィー」という大きなブザーがあちこちで鳴っていた。
「こら、若いの! 危ないから近づくな!」
上から怒声がした。



❶「入るぞ。うるさいから覚悟しろ」
北海タイムス・萬田局次長が、整理部新人の野々村くんを連れて、同社地下3階印刷工場を案内するシーン。
……整理部は、できれば輪転機とは関係を持たないほうが無難なんだけど、僕はケズリのために輪転機と仲良くしてしまった。
( ↑ 新聞社地下に輪転機工場があった時代ね。現在はサテライトだから輪転機とは仲良くできない、笑)。

輪転機工場のドアは分厚く重く、開けるのが大変。
重厚ドアとはいえ、輪転機の唸る音と振動がけっこうあるので、萬田さんもドアを引くとき
「ウッムムムムムッ」
って力む感じだったと思う。

*ケズリ
読者に見られたくない(笑)決定的ミスや誤字を直す最終手段。隠しちゃえって感じ。
活版印刷時代、紙型のヤバい(=間違った)部分を、整理部・校閲部の指示に従い、印刷局スタッフがピンセットでガリガリ削っていたので、ケズリ。
印刷された紙面では、削った数文字分がシロくなって読めないようになった。
そこに、どんなコトが隠されていたのか類推することも楽しいかも(←整理は楽しくない、笑)。
オフセット印刷では、筆ににじませた薬品でチョコチョコっと刷版を消すようになった。これもけっこう熟練のわざなのだよ、と聞いた。


❷ホームを特急列車が通過するときのような凄まじい轟音が渦になって響いていた
高速か、超高速輪転機かにもよるけど、たしかに凄まじい暴力的な爆音。
僕には空気も揺れているような気がした。仕事とはいえ、印刷局スタッフは大変。

「轟音」——。
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社発行)では、
ごうおん
=号音(合図の音)
号音一発
=轟音(漢字表にない字)→ごう音(とどろき渡る大きな音)戦闘機のごう音
(小さな声=とどろき渡るって、この表記でいいのかしらん)
——平仮名プラス漢字「ごう音」にしましょうっていってるけど、著作物なのでかまいません、このまま行ってください。

❸一時間に十二万部以上刷る
小説当時(1990年)の北海タイムス紙はだいたい20万部ほどだったようだから、1時間ちょいで刷り上げてしまう計算。
このオフセット輪転機、昔は設置面積が広く要る〈横置き〉型だったけど、タイムス印刷では、下部で刷って→上部にあげ→再び下部におろす〈縦置き〉型だったのかもしれない。

————というわけで、続く。