降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★整理の上にも3年?=「北海タイムス物語」を読む(139)

2016年07月15日 | 新聞

(7月14日付の続きです。写真は本文と関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第139回。

【小説「北海タイムス物語」時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬。北海タイムス札幌本社ビル。
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▼萬田恭介(まんだ・きょうすけ)=北海タイムス編集局次長兼整理部長。青学英文科卒45歳
▼秋馬(あきば)=北海タイムス整理部記者、空手を愛する体育会系
▼桐島美鶴(きりしま・みつる)=30代、北海タイムス社長秘書

【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 471ページから 】
「あの……お聞きしたいんですが……」
「どうした」
「さっき秋馬さんが言ってたんですが、整理部に配属されたら三年は異動がないんですか?」
「おう、そうだ。三年は我慢してもらわないとだめだ❶。三年で一人前になれなきゃそのまま勉強続ける。とにかく一人前になれ」
僕は唾をごくりと飲み込んだ。
いったいどうして僕ばかりこんなめに遭わなきゃいけない❷んだ。
いま聞くしかない。いま聞かないと永遠に聞けないかもしれない。ここで謝ればまだリカバリーできるかもしれない。
「へんなことお聞きしますが……」
「なんだ、質問の多いやつだな」
「社長秘書の桐島さんのことなんですが……」
「美鶴がどうした?」
「桐島さんて……萬田さんの愛人なんですか……?」
萬田さんが驚いたように立ち止まり、僕を見た。
「誰が言ってた」
ほんとうなのだ。
「社会部の先輩たちが……」


❶三年は我慢してもらわないとだめだ
整理部3年で一人前——?
新聞社にもよるだろうけど、2年ぐらいではないだろうか。

整理部に新人が入ってきたとき、我らが整理デスクは近くのドトールに連れ、こう言ってきた。
「2年、整理部でがんばれ、なっ(肩を叩く)。
そうすりゃ、俺たちも喜んでお前を推してやれるし、ウチの部長は顔がきくから好きなところに出してやれる。なっ!(再び肩を叩く)よーしっ、やろーぜ!」
と2年をエサにしてきた……ではなく、申し上げてきた。
季節(1クール)を2回こなせば、だいたいいっちょまえ。
整理デスクの言外には、
(2年先のことなんか分からないし……)
があるのだけど、実際は1年半ほど経つと
「内勤ローテ職場の整理部っていいかも」
「今さらソトでアタフタしたくないかも」
と言うコもけっこういるのだ。

*伊集院静さんは言っている
若者はあらゆることを覚える折に、急ぐ傾向がある。
それが若いということだが、若い時に何かひとつでいいから、基本を、ゆっくり丁寧にくり返す時間があった方がいい。
そのためには、今くり返しやっていることが、将来何の役に立つのかなどと考えないことである。
ゆっくり丁寧に学んで行けば、己だけのために生きることが、金銭、名誉なども、生きることの脇にあることが見えるだろう。
わかったようなことを書いて申し訳ない。
(講談社『不運と思うな。』大人の流儀6「誠実なもの」から)


❷僕ばかりこんなめに遭わなきゃいけない
この小説が、お仕事小説であり、青春成長物語であることは分かっているけど、主人公の野々村くんに感情移入できないのは、このあたり。
……あ、小説に入れ込み過ぎた。

❸「誰が言ってた」……「社会部の先輩たちが……」
誰が言った?と聞かれ、ハイ、社会部の先輩です、と即座に発言者を明かしてしまうのはいかがなものか、野々村くん。
さらに、「愛人ですか?」と目上の局次長にたずねる質問の内容も内容だけど、その受け答えかたにもコドモ感があるよねぇ、野々村くん……。

————というわけで、続く。