降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★日経は1行ナン字?=「北海タイムス物語」を読む (146)

2016年07月28日 | 新聞

(7月26日付の続きです)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第146回。

【小説「北海タイムス物語」時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬。北海タイムス札幌本社ビル。
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身、早大卒23歳。整理部勤務
▼萬田恭介(まんだ・きょうすけ)=北海タイムス編集局次長兼整理部長。青学英文科卒45歳
▼秋馬(あきば)=眼鏡をかけたガニ股の空手愛好家。北海タイムス整理部武闘派
▼松田駿太(まつだ・しゅんた)=野々村と同期入社の整理部勤務。バイトとして校閲部にいたため社内事情に詳しい。名古屋出身の北大教養部中退24歳。おそらく小説作者・増田さんの投影キャラ

【 以下、小説新潮2016年2月号=連載⑤ 344〜345ページから 】
「金巻さんは車オタクだから本当はいい車に乗りたいらしいんだけど、給料悪いから買えないでいるんだって。
あの人はオタクでいろんなことに詳しいんだ。
新聞オタク❶だしね。新聞のこと聞いてごらんよ。タイムスの歴史はもちろん、明治時代からのあらゆる新聞の歴史を話しだして止まらないから。
それから野球オタク。札幌北高時代に名キャッチャーだったらしい。いい選手だったって地方部のおじさんたちに聞いた❷よ。だから朝野球に真剣なんだよ、きっと」
そんなにすごい選手だったとはとても思えない現在の風情である。
「よし。行こうか」
松田さんがウィンドブレーカー❸を羽織り、「お、これを忘れちゃいけない」と流し台の上の一升瓶を汚い袋に入れた。
「酒なんか持っていくんですか」
「気付けだよ。眠気覚ましだ」
二人で部屋を出て鍵をかけた。松田さんは裸足にサンダルをつっかけてついてきた。
「おおい、遅いぞ」
金巻さんが車の窓から手を振っていた。
急いで後部座席に乗り込んだ。松田さんが続いて乗ってきた。



❶新聞オタク
降版後の深夜、各社整理部の集まりがあり、新聞クイズをやったことがあった(マジっす)。
【問題】
⑴現在、朝日新聞の1段字数は12字です。
では、日経新聞は何字でしょう?
日経さん以外のかたがお答えください。
⑵たまに、サンケイスポーツには珍しいフォントがつかわれます。
1段15字どりの、そのフォント……1文字分の天地は8Uですが、左右は何Uでしょうか?
産經さん以外のかたがお答えください。
⑶朝日新聞がCTSをスタートしたのは……1980年でした。
当時、フロント1面左下「天声人語」の上にベタ白ヌキ細Gで社告のようなコピーが展開されました。
そのキャッチコピーは
「目に◯◯◯い朝日文字」
でした。◯◯◯は何でしょう?
朝日さん以外のかたがお答えください。

【答え】
⑴11字です。(正解でーす!)
15段編成の、1段11字組みです。
他紙は12段編成12字、15段編成10字組みだけど、日経さんは情報量が命なのです。
⑵12Uです。(正解でーす!)
つまり天地1倍(88ミルス=8U)左右1.5倍(176ミルス=12U)の、強烈な扁平フォントです。
⑶目にやさしい朝日文字です。(正解でーす!)
CTS始動後から、朝日は文字サイズを拡大していきました。
CTS開発途上だった他社にとっては、とても大迷惑なコノヤロな文字拡大競争でした。

❷地方部のおじさんたちに聞いた
だいたい地方版整理や出稿部は、定年退職後や間際の方たちが(比較的)多いので、
松田くん(24)には
「地方部のおじさんたち」
という表現になったのだろう。
*整理部の〝整理〟がはじまった
関係ないけど、いよいよ地方版整理の外注化が本格的にはじまり、
整理部の整理なのだ。
校閲部、整理部に波及した外注化の波は、次はアノ部だ(たぶん)。


❸ウィンドブレーカー
新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」(株式会社共同通信社)の外来語の書き方では、

原音で「ウィ、ウェ、ウォ」の音は固定している語を中心に「ウイ、ウエ、ウオ」と書き、原音に近く書き表す場合は「ウィ、ウェ、ウォ」と書く。
「ウイ、ウエ、ウオと書く例」

ウイット、ウインドー(窓)、ウエーブ、ウオーター、ウオッチ、ハイウエー

——新聞表記では「ウインド」ブレーカーだけど、著作物なのでかまいません、このまま行ってください。

————というわけで、続く。