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「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★輪転は「!」連発だった=「北海タイムス物語」を読む(137)

2016年07月12日 | 新聞

(7月7日付の続きです。写真はイメージです)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目——の第137回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ報道部記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


【小説「北海タイムス物語」時代設定と、主な登場人物】
1990(平成2)年4月中旬。北海タイムス札幌本社ビル。
▼僕=北海タイムス新入社員・野々村巡洋(ののむら・じゅんよう)。東京出身23歳、早大卒
▼萬田恭介(まんだ・きょうすけ)=北海タイムス編集局次長兼整理部長。青学英文科卒45歳

【 以下、小説新潮2016年1月号=連載④ 470ページから 】
輪転機のあちこちに複雑に鉄製の階段が張りめぐらされ、印刷部分の回転に合わせ、鉄の反射光が天井や壁を走りまわっている。
警告音だろうか、ときおり「ビィー」「ビィー」という大きなブザーがあちこちで鳴っていた
❶。
「こら、若いの! 危ないから近づくな!」
上から怒声がした。
見上げると、輪転機の三階へ上がる鉄製階段からヘルメットをかぶった年配の作業員が見下ろしていた。
「おはようございます!」
萬田さんが声をあげた。
「おお、萬ちゃんか! 誰だ、そいつは!」
「整理にきた野々村っていう新人です! よろしく顔覚えてやってください!」
「おお、わかった!
❷」
片手を上げて機械のなかへ消えていった。
唸り❸をあげる輪転機の下から、Tシャツ姿の三十歳くらいの人が大量の新聞を抱えながら出てきた。
顔も腕もインクまみれで、そのシャツは汗で胸に張り付いている。
「萬さん、こんにちはっす!」
大声で挨拶しながら萬田さんの横にどさりとそれを置いた。



❶輪転機のあちこちに複雑に……大きなブザーがあちこちで鳴っていた
小説作者・増田さんの記憶力は素晴らしい(あるいは中日新聞印刷センターでの取材かも)。
北海タイムス夕刊の刷了後、賃刷り(委託印刷)の新聞をちょうど印刷しているところ。
輪転稼働中を意味する黄色い点滅ランプがクルクル回り、ビィービィーというアラームが鳴り響いているシーン。

❷「おはようございます!」……「おお、わかった!」
萬田局次長、年配の作業員の会話すべてに
「!」(ビックリマーク、アマダレ)
が付いている。
大声を張り上げなくては聞き取れない。
それくらい稼働中の輪転機は轟音・爆音なのだ。

僕がケズリ(→7月7日付136回みてね)で地下の輪転機工場に駆け込んだとき、遮音ドアを開けたとたん、
グアーン! ドアーン!
たじろぐほどだった。
僕に気がついた印刷局スタッフが階下から見上げ、腕をグルグル回しながら、
(どーしたぁ〜!あんちゃん!ケズリかぁ!……聞こえないから中2階の事務室に行けっ!わーたっかぁ!)
と指さしてくれた。
事務室に入って、ようやく印刷局デスクにケズリの個所を説明できた。
ブザーと爆音の印刷工場だから、やはり「!」連発になるのだ。

❸唸り
赤鉛筆を行間に薄く引きながら読んできた校閲部の手がピタリと止まるところ。
「おお、やっとチェックする字が出てきた!」
唸り——。
待ってましたっと新聞社のルールブック「記者ハンドブック・新聞用字用語集第13版」をめくる。

うなる
(唸る=漢字表にない字)→うなる

平仮名表記に、としているけど著作物なのでかまいません、このまま行ってください。

*やっとチェックする字が出てきた
校閲部はゲラを読んでいて、直すべき語句や確認すべき文字づかい、おかしな表現が無いと心配になってくる。
「ヤベェ、何か見落としてないか、俺」
「ヤベェ、初めから読み直してみよう」
職業病である。
他紙を読むときでも、校閲部記者は傍に記者ハンドブックが無いとなんとなく不安になるのだ、と聞いた(知人談)。


————というわけで、続く。