Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「鬼の橋」伊藤遊著(福音館書店)

2007-07-24 | 児童書・ヤングアダルト
「鬼の橋」伊藤遊著(福音館書店)を読みました。
平安初期の京都、妹を亡くし失意の日々をおくる少年篁(たかむら)。
彼は、ある日妹が落ちた古井戸から冥界の入り口へと迷い込みます。
そこではすでに死んだはずの征夷大将軍・坂上田村麻呂が、いまだあの世への橋を渡れないまま、鬼から都を護っていました。
この世とあの世、鬼と人間、少年と大人。二つの世界を隔てる様々な橋が、大人になる手前で葛藤する篁の前に浮かびあがります。
家族を亡くし、ひとり五条橋の下に住む少女、阿古那(あこな)と、田村麻呂に片方のツノを折られ、この世へやってきた鬼、非天丸(ひてんまる)。
それぞれに何かを失った痛みを抱えて生きる人々との出会いのなかで、篁は再び生きる力をとりもどしていきます。

この作品の主人公は平安時代に実在した文人、小野篁(おののたかむら)をモデルにしています。彼にはこの世と地獄を往き来したという伝承がある人物。
この作品は児童文学ファンタジー大賞を受賞しています。

少年篁の悔恨や迷い、大人になることへの疑問と不安が丁寧に描かれています。
鬼である非天丸の優しさ、孤児・阿古那の清らかさと思いやり、ふたりをはじめ、周囲のさまざまな人間とのかかわりの中から自分の非力さを思い知り、自分が頼られるに足る男になりたい・・・と思う篁の心の変化がとても好ましいです。
都で生まれ育った篁の眼に蝦夷の地はどのように映ったのでしょうか?
続編も読みたい。

最新の画像もっと見る