Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「龍使いのキアス」浜たかや著(偕成社)

2009-03-24 | 児童書・ヤングアダルト
「龍使いのキアス」浜たかや著(偕成社)を読みました。
アギオン帝国は、初代神皇帝アグトシャルの夢の呪縛にもう三百年もの間、くるしめられていました。
一方巫女見習いのキアスは、その出生の秘密を知らず、大巫女マシアンさまを探しに旅に出ます。
巫女がいる神殿と、戦士のいる大都市という組み合わせ、どことなくゲド戦記の「失われた腕輪」を思い出します。ほかにも日本神話のイザナギ・イザナミとその三人の子の話を思い浮かべたり。海へ、山へ、都市へ、辺境の地へと旅する壮大な物語です。

物語の舞台はロールという架空世界。
主人公キアスは女神ノアナンに仕えるモールの神殿の巫女見習い。
ある日モール林に捨てられていたのを巫女ナイヤが拾い育てた赤い髪の少女、キアス。
モールマイ族は女児が生まれるとモールの苗木を植えます。それがその子の「根」となり、その子が死ねば「根」も枯れます。
キアスは三百年前に生きていた大巫女マシアンの木がまだ生きていることから、まだマシアンさまが生きていると確信し、マシアンさまを探すたびに出ます

一方この世界で強い力を持っているのが戦神アーグを掲げ、武勇にすぐれたアギオン族でした。
自分たちの宗教と法を他民族に押し付けるアギオン族。
そんなアギオン族の頂点は三人。皇帝アグトシャトル、大神官キーオ。「内の外の賢者」、竪琴を背負う放浪詩人のイリット。
この三人は初代神皇帝(しんこうてい)アグトシャトルの三人の子からずっと同じ名前をひきついでいる一族です。

アーグ神殿では、「近く帝国を崩壊させるほどの力をもった巫女があらわれるだろう」と神託がくだり、巫女狩りが始まります。
生まれてから一度も夢をみたことがないという皇帝の秘密とは?
そして皇帝の前で弾いてはいけないと語り継がれているイリットの竪琴と皇帝との結びつきとは?

この物語はメインの物語の面白さもさることながら、脇を固める人々の個性も魅力です。
特に私が好きなのはダグニ族のフル。
悪口大会で一等賞をとった「おろかな賢者」。でも彼に悪口を言われると作物は見事に実り、人は生き生きとしてくるのです。

それからオーラーの神殿に仕える巫女の長ジルさま。
鳥に姿を変えた恋人の巫女マヌを追い、軍を脱走したゴア。
「若者の無謀なふるまいをいましめるのが、年長者の義務だとこころえますが」といさめるイリットに、
「そういって、年長者はいつも若者の牙をぬいてきました。」とひややかに答えるジルさま。かっこいい・・・。
若者の無謀をとめるのは思いやり?結局自分が面倒をさけたいだけなのかも。

「なにより大事なのは、もしマヌを助ければこの若者はとても貴重なものを手に入れたことになるということです。その貴重なものとは、もちろんマヌのことではありません。そして、もし助けに行かなければ、その貴重なものをうしなうことになるのです。」
貴重なもの・・・恋人に対する誠意、闘いにひるまない勇気、自分の気持ちを自分は裏切らなかったという誇り・・・かな。

それから「好き」ではないですが、印象的なのが闇を抱える男、大神官キーオに仕えるオゴス。
「アグトシャトルの血をひくなら、捨て子の血をひきたかった。」と語るキオスに、
「おろかだな、キアス。外にいるものは、中の世界にあこがれるものだぞ。」と返すオゴス。
なんだか「カラマーゾフの兄弟」のスメルジャコフを思い出します。

キアスの出生の秘密、マシアンさまの行方・・・
最後の最後まで読みどころたっぷりのおすすめファンタジーです。

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