Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「彼岸花はきつねのかんざし」朽木祥著(学研)

2009-01-29 | 児童書・ヤングアダルト
「彼岸花はきつねのかんざし」朽木祥(くつき しょう)著(学研)を読みました。
おきつねさんは、人を化かす。おばあちゃんは、しょっちゅう化かされます。
そして少女・也子(かのこ)の前に現れたかわいい子ぎつね。
きつねは聞きます。「あたしに化かされたい?」
お互いの存在を気にし、時を過ごすうちに段々とかけがえのない存在になっていく、也子と子ぎつね。
ですがある夏の日、あの恐ろしい爆弾が落とされます。

物語は民話のような、子ぎつねと也子のとてもかわいらしい物語。
その温かな時間が原爆によりぶつっと断ち切られてしまいます。
爆弾によって一瞬で亡くなってしまった沢山の人々。
原爆症により、時間がたってから命が切れてしまった人々。
そして命を失った沢山の生き物たち。

著者は広島県生まれの被爆二世だそうです。
実際に戦争と原爆を経験した親の世代を間近に見て育ったことを思うと、朽木さんはこの物語をどのように書こうかと、きっと思い悩んだことだろうと思います。

物語の大半は原爆の悲惨さよりは、也子の子どもらしい生活がメインで描かれています。
あとがきで著者は「そんなあたりまえの暮らしが奪われることこそが戦争の悲しみなのだと、わたしはいつも考えています。」
この本を読めば、小学生であってもきっと「なぜこんな日々が突然になくなってしまうのか?どうして?」と疑問に思わずにはいられないでしょう。
これが起きたことがほんの60数年前という事実が胸に迫ります。

朽木さんのあとがきの最後のことば。
「子どもが子どもらしく生きることのできる日々が、いつまでも続いていきますように。」
私も本当に本当にそう思います。


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