ウォール街のリスク志向、ZIRP期のセオリー覆す-誰もが強気
Justina Lee、Lu Wang
2024年5月18日 14:10 JST
13-17日の週は株式や債券、商品など全ての主要資産が上昇
財政刺激策や長期の低金利政策で市場にはまだ大量の資金が流通
The New York Stock Exchange in New York. Photographer: Michael Nagle/Bloomberg
ウォール街の守旧派には、必然のように思われた。債券が再びまともな利回りを提供し始めれば、金利がゼロだったころに隆盛を極めたリスク志向は失われるだろうと。
しかし、現実はそうではない。2年物の米国債利回りは4月の大半、5%前後で推移していたが、見込まれていた投機の後退はまだ実現していない。
ビットコインが上昇し、株式とコモディティーは急伸。2021年のミーム株熱狂の再来としてゲームストップとAMCエンターテインメント・ホールディングスの株価が一時急騰した17日までの5日間を考えたい。
リスクフリーレートは健全だが、オプションを売る上場投資信託(ETF)や仕組み商品といったより手の込んだ形の利回り追求を抑えることはほとんどできなかった。
グローバルX・ETFsがまとめたデータによると、デリバティブ(金融派生商品)を利用して現金支払いを増やすETFには、1-4月に130億ドル(約2兆円)の新規資金が集まった。
投機的資産や複雑な投資商品への熱狂は、投資家がより安全な市場に代替手段を見いだせなかった直接的な結果だというセオリーが、ゼロ金利政策(ZIRP)時代に流行したが、今市場で起きていることはそうした見方とは相いれない。
ロンドンの資産運用会社エブリン・パートナーズのチーフ資産運用オフィサー、エドワード・パーク氏は「財政刺激策によるものであれ、超低金利が長期間続いたことによるものであれ、市場にはまだ大量の資金が流通している」と指摘し、「ゲームストップなどはその兆しだろう」と語った。
Gambling Spirits Are Back | Off-exchange volume by one measure exceeds 2021's meme stock craze
ギャンブラースピリッツの強靭(きょうじん)さは、従来の常識を覆し続けている。トランプ前米政権で国家経済会議(NEC)委員長を務めたゲーリー・コーン氏は、投資家のリスクテークを妨げているのは高金利の長期化だと論じた。
モルガン・スタンレーのトレーディングデスクが16日に発表したリポートによれば、現在の主な脅威は過度な悲観論よりもむしろ、ヘッジファンドをはじめとする全ての投資家が強気過ぎて、市場が高揚感の重みで崩壊する危険性があることだという。同じ銘柄への集中が進み、投資家のポジショニングは高水準が続き、何か問題が起きれば、その結果はすぐに出る。
クリストファー・メトリ、アマンダ・レベンバーグ両氏らのチームは、「こうした力学が市場の脆弱(ぜいじゃく)性を高めている」とし、「リスクが絡み合っている。ヘッジファンドのロングとS&P500種株価指数の重複が大きいことから、ヘッジファンドのリスク回避が市場全体を下落を引きずり込む可能性がある一方で、マクロのショックはヘッジファンドのポートフォリオを引きずり込む公算が大きい」と分析した。
FRBプット
13-17日の週は株式から債券、コモディティーに至る全ての主要資産が値上がりし、今年最良の市場横断的な相場上昇となった。米国の小売売上高軟化とインフレ鈍化に関するデータが、米連邦準備制度理事会(FRB)が間もなく引き締め政策を撤回するとの楽観論を後押ししたためだ。
S&P500種株価指数は4週連続高と、2月以来最長の上昇局面。ダウ工業株30種平均は史上初めて終値で4万ドル台に乗せた。
取引所外市場の取引は全体の52%を占めるまでに急増し、過去最高の割合となった。ゴールドマン・サックス・グループのマネジングディレクター、スコット・ルブナー氏は17日のリポートで、「24年に個人投資家が再び結集する。これは私がまた毎日モニターしなければならないことだ」とコメントした。
High Rates Have Yet to Kill Animal Spirits | Risky assets are up more than two years after Fed tightening began
米国の貯蓄がいかに枯渇しているかという議論が沸き起こる一方で、裕福な投資家などの間では財布のひもは緩みっぱなしだ。バンク・オブ・アメリア(BofA)がまとめたEPFRグローバルのデータによれば、15日までの1週間で120億ドル近くが株式ファンドに流入し、高利回り債重視のファンドは2週連続で資金流入となった。
強気派の目には、長年の量的緩和が残した金融環境がまだ悪化していないと映っている。もちろん、米経済が堅調に推移し、リスクテークを後押ししていることも支援材料だ。
リスク選好の持続性に絡むセオリーでは、いわゆる「FRBプット」があまりにも長い間、市場に存在し、FRBが市場の救世主として準備万端であるかのように行動すると人々は条件付けられたままのように見える。
ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのモヒト・クマール氏らストラテジストは17日のリポートで「利下げというオプションが残っている限り、FRBプットは俎上(そじょう)に載っており、リスク資産を支え続けるはずだ」との認識を示した。
直近のBofA調査では、FRBが利上げを開始する直前の22年1月以来、最も株式配分が高いことが明らかになった。10人中8人が今年7-12月(下期)に利下げがあり、リセッション(景気後退)はないと予想している。
関連記事:
米国株はピーク近い可能性、ミーム銘柄急騰が示唆-MLIV調査
株高はスタグフレーションのリスクにさらされている-ハートネット氏
ボラティリティーを味方につけろ、債券市場は不安定な新時代
原題:Wall Street’s Risk Binge Turns ZIRP-Era Yield Theory on Its Head (抜粋)
最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中