【市場心理は「恐怖」に転換】中東情勢の悪化、米国のインフレ再燃懸念がもたらした悲観相場の行方
2024/04/21 19:15
(マネーポストWEB)
上昇を続けていた株式市場も、4月に入って以降、下落する局面が目立ってきている。今の相場をどう分析し、今後の見通しをどう立てればよいのか。個人投資家、経済アナリストの古賀真人氏が解説する。
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イランは4月13日から14日にかけてイスラエルに向けて多数のミサイルと無人機を使った大規模な攻撃をおこなった。当初イランはイスラエルに対して攻撃を行わないとの観測も多かっただけに、マーケットにはサプライズとなり、株式市場は下落した。3月まで下落を続けてきていた原油価格も85ドルまでの急騰を見せた。そこにイスラエルも反撃したことで、中東情勢は混迷している。
また、アメリカの景気過熱によるインフレ再燃懸念も収まらない。昨年、一昨年の度重なる利上げによって、今年はアメリカの景気過熱が収まり、利下げが行われるという見方も多かったが、その目論見は大きく外れた格好で、米国の景気過熱は依然として陰りを見せない。その結果、利下げ観測どころか再利上げ観測まで出てくる状況になっている。昨今の金利上昇はそれを反映した現象といえる。金利と株価は基本的にシーソーの関係なので、金利が上昇している今、株価の上値は重くなっている。
地政学的リスクの顕在化と、米国の景気過熱がダブルで発生している今、相場は「総悲観」となっており、連日の下落を続けている。相場の強気・弱気を示す指標「Fear & Greed Index」を見ると、長らくGREED(貪欲)だったのが、ここにきて一気にFEAR(恐怖)に突入している。
今回は、相場を悲観させている要因として考えられる中東情勢とアメリカの景気過熱、そして日本の株式マーケットについて分析し、今後の相場展望を考える。
中東情勢の状況
イランは4月13日から14日にかけてイスラエルに初の直接攻撃を実施した。これを受けて株式市場は下落し、原油価格も高騰した。
これは4月1日に在シリア・イラン大使館に対して行われたイスラエルからと見られる空爆への報復と報じられている。イランは、「自国民に対する面目を保ち、これ以上緊張を高めるつもりはない」との姿勢を強調した。
しかし、それで黙っていないのが報復を受けた側のイスラエルである。イスラエル軍参謀総長は「イランがイスラエル領土に向けて多数のミサイルやドローンを発射したことに対し、対抗措置を取る予定」というコメントを出し、19日には、イスラエルがイランの施設に対しミサイル攻撃での報復を行った。
これに対し、次はイランがさらなる報復に向かう懸念が出ており、事態が収集のつかない混迷へと向かっている。当然、相場はネガティブに向かっている。
米国経済の状況
15日に発表された小売売上高は予想前月比+0.3%に対し結果+0.7%と大幅なサプライズとなり、また、2月の数字も+0.6%から+0.9%に上方修正され、個人消費の強さを示した。これを受けて金利は上昇を続けており、米国2年債利回りは17日、一時5%台を付けた。
また、その後発表された18日の失業保険申請件数も予想21万5000件に対し、21万2000件と予想を下回る結果となり、同日18日に発表されたフィラデルフィア連銀製造業景気指数に至っては予想1.5に対し15.5という、過去2年を見ても最高レベルの数字を出してきている。
くわえて、30年住宅金利は7%を超える状況にもかかわらず、住宅販売の状況も非常に好調で強い需要を示しており、アメリカ経済が活況であるのは明らかだ。
この状況では当然に利下げができるわけもなく、再度の利上げ懸念が生まれるのも当然と言える。株式マーケットがこの金利を跳ね返して上昇していくのは難しいと言わざるを得ない。
日本経済の状況
日本経済は円安ドル高が止まらない。節目であった1ドル=150円を突破し、19日には154円を突破し、いよいよ155円が射程圏内となってきた。
円安は日本株にとって追い風と言われてきていたが、それももう通じなくなってきている。
年始からの一本調子の上昇は一服してきており、前述した政情不安や軟調なアメリカ相場の影響で、日経平均、TOPIX、グロース250ともに大きな下落を見せている。
岸田文雄首相は、日本の首相として9年ぶり2人目となる米議会上下両院合同会議でジョークたっぷりの講演を行い、聴衆に大受けしたにもかかわらず、日本における支持率は低迷を極める。これも相場にとって好材料とは言えないだろう。
今後の見通し
さて、今まさに総悲観が相場に漂っている。ここで、相場を悲観に導いた政情不安、アメリカ経済を検証してみたい。
まず、イラン・イスラエルの政情不安について。イランは攻撃前に周辺国に通知しており、イスラエルはアメリカ、イギリス、ヨルダンと連携しこの攻撃をほぼ完璧に防ぐことができ、このことがイランが「収束」と言わざるを得ない状況に追い込んだと見ることができる。19日にイスラエルはイランに対して再報復の爆撃を行ったが、アメリカがイスラエルに対し、待ったをかけている状況であり、イスラエルがアメリカの顔を潰してまで事態を混迷に向かわせるとは考えにくい。現状では、両国は抑制的な対応にとどまっているといえる。
中東情勢は落ち着く方向に向かっているのではないだろうか。
次に、アメリカの景気過熱についてだが、高金利の維持という状況が相場全体の重しになる一方で、銀行の好決算を生むことも期待できる。また企業業績はAIブームの到来を受け非常に強いことが期待できることからも、昨今の軟調な相場は中長期的に見て買い場となる可能性も期待できる。
日本株については外国からの買い、新NISA(少額投資非課税制度)の買いが止まることはないとみられており、業績に比べて割安と言える水準が続いている。
こうした見方に立てば、「悲観で買う、楽観で売る」という相場格言通り、今は買い場だと捉えることもできるが、はたしてどうなるか。今後の推移を注視したい。
【プロフィール】
古賀真人(こが・まさと)/個人投資家、経済アナリスト、会社経営者、投資系YouTuber。1978年、埼玉大学経済学部卒業後、国内大手金融機関、外資系金融機関勤務を経て独立し、株式会社ライフサポートを設立。25年以上の株式投資経験を活かし、チャート分析からはわからない経済分析、個別企業分析をYouTube「カブアカちゃんねる」で展開。全決算を最速分析しているnote「カブアカマガジン」(https://note.com/masatokoga)を日々更新中。