HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

コートは助け合いのためにある。

2011-10-30 08:05:43 | Weblog
 先日のコラム、「節操がないファッションイベント」の大反響は予想だにしていなかった。ライターとして行政とイベント業者の蜜月、公金利用の問題点、事業目的の不明確さに警鐘を鳴らしたつもりだったが、ツイートしていただいた方々の多くは宮崎やTGC、東国原元知事そのものに関心を示されたようだ。

 不思議な巡り合わせだが、東国原氏の元妻、かとうかず子氏がかつて出演した三陽商会の広告がある。同社はもともとコート専業メーカーで、80年代まではそのプロモーションに力を入れ、彼女が出演したのも「サンヨーコート」の広告だった。
 テレビCMはセットを組んだ電車の停車場にコートを着た彼女が佇む映画女優風のシーン。ところが、新聞広告は確か俳優藤達也との共演で、これが実に意味深なつくりになっていた。キャッチコピーは「見せたいからコートを着る。隠したいからコートを着る。コートはしのび逢いのためにある」と記憶している。コートを「逢瀬」の道具として表現する。それが制作者の意図だったようだ。

 それほど三陽商会はコートに力を入れていたのだが、会計士出身の中瀬雅通氏が社長になってからは経営効率の追求で、多くの売上げが望めるウエアに資源を集中。コートについてはオリジナルを企画するどころか、バーバリーのライセンスを手っ取り早く拡販する戦略に変わってしまった。それも2020年までの契約から、15年に短縮されたが。
 そんな三陽商会のニューヨーク法人が限定のトレンチコートを企画したとのニュースが舞い込んできた。東日本大震災の復興支援を目的としたもので、米沢産シルクを使用し同社系列の青森工場で縫製。 内側の胸元には金糸で「希望」の文字が刺繍されている。また、ニューヨーク在住のグラフィックデザイナー、ウィリアム・タイ氏のイラストに「希望HOPE」などの文字も入り、生産地や意図を説明した特製タグも付く。まさに正真正銘のサンヨーコートだ。

 今年4月、ニューヨーク法人がサックス5th Ave.に震災復興を話しを持ちかけたところ、同店が共鳴して復興支援コート発売に相成ったそうだ。サックスはニューヨークでは最もファッションが売りの百貨店だが、キリスト教的な博愛精神を打ち出すところはいかにも米国の商業界らしい。
 ただ、筆者が目を見張ったのはサックスより三陽商会の方だ。同社の中にコート専業メーカーのDNAがずっと生き続けていたからである。ライセンス販売なんかのイージー路線に走るのではなく、カッコいいコートをもっと企画してほしいものだ。
 復興コートの価格は795$と日本製オリジナルにしては値ごろ感がある。10月24日からサックスの店頭、さらに同法人のWebサイトでも「ホープ・フォー・ジャパンコート」として販売をスタート。初期目標は56着で、売上げのほぼ全額がジャパンソサエティーの日本大震災復興基金に寄付されるという。

 マンハッタンは初冬を迎え、摩天楼の間を縫う風は冷たい。街中を足早に行き交うニューヨーカーにとって、コートが重宝する季節だ。ただ、 彼らが見せたいからコートを着ようと、隠したいからコートを着ようと、そんなのはどうでもいい。このコートは「助け合いのためにある」とコートを売り、着てくれるニューヨーカーに、一日本人として感謝の意を表したい。Thanks !

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景気減速の米国に期待する?ユニクロ。

2011-10-25 11:20:15 | Weblog
 日本で4期ぶりに減益となったユニクロが海外戦略の試金石にする、米国ニューヨークの「フラッグシップストア」が立て続けにオープンした。同社はここ数年、世界の大都市に次々と出店し、その集大成と位置づけるのが、この14日と21日に開業したニューヨーク五番街53丁目のグローバル旗艦店、五番街と六番街の間34丁目の旗艦店である。
 そこではグラフィックデザイナーの佐藤可士和がプロモーション、デザイナーの滝沢直己が商品デザインを担当した、ユニクロ・イノベーション・プロジェクト(IPJ)と銘打つ新商品カテゴリー、隣接するニューヨーク近代美術館(MoMA)とUTのコラボ商品などを投入。世界のファッション激戦区で勝つ戦略を整え、日本やアジアに逆輸入する考えを打ち出している。

 ただ、店舗を見る限り、単に多層化した大型店に過ぎず、極端に絞り込んだマーチャンダイジング、最大公約数的な工業製品的アイテムを自社流のVMDで大量陳列するのは同じ。 IPJにしてもその内容はスポーティーカジュアルとタウンカジュアルの2パターンで、アメカジライクなベーシックさは相変わらず、スポーツライクな商品もヒートテックで貯えた素材開発のノウハウをパーカーやウインドブレーカーに落としこんだ程度に過ぎない。
 一方、これまでと大きく異なる点と言えば、店舗運営にかかるランニングコストだろう。五番街店の家賃は年間20mil$、15年契約で総額約230億円程度(300mil$)と言われ、地下鉄をはじめとした市内のあらゆる広告媒体をジャックするなど、米国流の広告マーケティング戦略にも、莫大な投資を行なった。
 それもニューヨークに乱立するザラやH&Mなど世界的なSPAブランドに対抗して、新しいユニクロイメージの浸透とブランド力のさらなる向上を目指すためのようだが、勝算の度合いは現時点では未知数である。

 米国経済は減速の真っただ中にあり、各地のデモでは「1%の富裕層が国全体の所得の25%を受け取っている」といった所得格差が叫ばれるほど、中間層の没落は著しい。だからではないが、これから米国人のマキシマムが生活を切り詰めていくのであれば、「ユニクロは最も適したブランドですよ」という皮算用もあるだろう。柳井社長の頭の中には、そのぐらいの計算はあると思われる。
 ただ、このNY戦略がペイするかどうかは疑問だ。ニューヨーク・マンハッタンは圧倒的に平日昼間人口が多く、約340万人と言われている。仮にこの1割が五番街、ミッド&ダウンタウンで買い物するとして34万人。彼らがユニクロで1回平均40ドル(1ドル=76円、約3000円)の買い物を年4回したとした場合、年間売上げは40億円程度にしかならない。
 これを既存のソーホー店と今回オープンの2店舗で按分すると、1店舗あたりの売上げは13億円程度。五番街店の家賃にもほど遠い額である。ニューヨークの一等地で店舗を運営するには、人件費などの販売管理費を加えると、最低70億~80億円は稼がないと厳しいだろう。 

 広告宣伝費やブランディング構築という言い訳はあるにしても、上場企業としてこのような無謀な投資が許されるのかという疑問も残る。 バーニーズ買収断念で残った潤沢な資金、巨額のキャッシュフローにものを言わせた出店だったのかもしれないが、米国でユニクロ人気をあげられなければ海外戦略の逆輸入もアジア攻略の追い風にはならない。 さすがに赤字に落ちるとまでは言い切れないが、米国経済を考えると先行きが不透明なのも確か。とすれば、むしろ「ジーユー」の方が期待できる? そんな戦略もあながち否定できないのではないだろうか。
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節操がないファッションイベント。

2011-10-24 10:06:03 | Weblog
 東京ガールズコレクション(TGC)が12月23日、宮崎県のフェニックス・シーガイア・リゾートで開催される。宮崎は東国原元知事が去ったあと、すっかりメディア露出が少なくなったが、本来の基盤産業である「観光」の強化を名目に、中長期的な地域産業の活性化に取り組んでいくらしい。

 そのプロジェクト第1弾が「TGCスイートクリスマスエディション・サポーティッド・バイ宮崎恋旅」と銘打つ企画で、TGCと共同でF1層と呼ばれる20代から30代前半の女性を呼び込む構えのようだ。
 宮崎としてはまずは独身女性に来訪して宮崎を体感してもらい、あわよくばイベント当日に地域の男性などと、カップル成立まで行ってもらえばとの思惑なのか。
 かつて新婚旅行のメッカと言われた街だけに、プロジェクトにはその復活はもちろん、新しいカップルの旅先をめざす狙いもあるようだ。イベントの次ぎはドライブでも婚前旅行でも何でも良いから、宮崎に来てほしいということだろう。恋旅という意味深なタイトルに、宮崎の下心が透けて見える。

 一方、TGCの実行委員会やイベント会社F1メディアにとっても、地方自治体との共催にはメリットがある。タレントのギャラ、ステージの設営などイベントの「原資」を不確かなチケットやスポンサーの収入に頼らず、「税金」という安定資金で賄えるからだ。
 自治体を味方に付ければ、地方では難しいスポンサー営業や協賛金回収のリスクもない。ファッションイベントの新しいビジネスモデルになりつつあると言える。
 出演タレントは西山茉希、トリンドル玲奈、道端アンジェリカなどだそうだが、地元だから蛯原友里も出演するのだろうか。まあ、東京でもモデルのギャラはたかが知れているし、不況によりCMのタレント契約も頭打ちだ。それゆえ、タレント事務所はアカウント先として限界値の見える東京より、収益が確実な公共事業、いわゆる「地方営業」に狙いを定め始めたと言えなくもない。

 もっとも、「コレクション」と言う名称を使う限り、正しい意味はデザイナーがシーズンごとに発表するモードなクリエーションのお披露目の場である。しかし、最近は東京ガールズをはじめ、名古屋、神戸、福岡アジアと地方都市名がつく○○コレクションは、中国製などチープなトレンドファッションをタレントが着てランウエイを闊歩する「客寄せ興行」と化している。
 高額なアリーナ席のチケットを手に入れてやってくるお客のお目当ては、ファッションというよりリアルなタレント見たさ。つまり、主催者側にとって「集客性があれば『目的』は何でも良い」わけで、それはよそからお客を呼びたい自治体の思惑とも合致する。
 もちろん、宮崎の場合、観光客を呼んでお金を落としてもらうのが、地域経済を活性化させる上で重要なのことは承知している。その意味で今回のプロジェクトは理解できるし、行政がファッションイベントに公金を拠出するのは止むなしかもしれない。

 ただ、福岡を見ると、行政が「ファッション産業の振興」「人材育成」「情報発信」をイベントの目的にしながら、その達成度合いは十分に検証されず、地元業界の大半は置き去り。それどころか、完全にローカルテレビ局や他県のイベント会社、東京のタレント事務所の収益対象になってしまった。はたしてこのような公共事業が許されていいのか。
 テレビ局やイベント会社がプロモーターになって、チープなSPAブランドとタレントで仕掛ける客寄せ興行に異論を唱えるつもりはない。勝手にやればいい。
 しかし、その収益の保障がないからと税金という安定資金に目を付け、何でもかんでも口実にして行政にすり寄る業者がいるのも、宮崎のケースを見れば明らかだ。ファッションがずいぶん軽く見られているし、あまりに節操がないやり方である。
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業界人としての評論にご理解を。

2011-10-23 11:54:37 | Weblog
 拙書、阪急メンズ東京のコラムは思わぬ反響をいただいた。ほとんどが共感、同感だったが、「福岡の人はそう思うだろうね」とコメントされた方がいらっしゃったので、誤解なきよう言っておきたい。
 筆者は70年代から新宿伊勢丹で買い物し、日本橋の三越や高島屋にも通った。都内の百貨店はパルコなんかのショッピングセンターとともにファッションに目覚める10代半ばからずっとチェックしてきている。
 大学の2年時には、過激派対応で厳戒態勢の成田空港からニューヨークに飛び、高級店のバーグドルフ・グッドマン、エレガンスが売りのヘンリ・ベンデル、壮年向けのロード&テイラーなど米国百貨店を目の当たりにした。
 ただ、バーニーズ・ニューヨークはまだ婦人服専門店の域を出なかったし、ブルーミングデールズはアドヴァンスだったものの、メーシーズ、サックスは大衆的だった。最もカルチャーショックを受けたのは、木製のエスカレーターと単品ハンギング展開の大量在庫。
 あとから考えると、ニューヨークの百貨店は、階級社会と物量作戦の象徴で、VMDはギャップの手本にもなって30年以上も変わらない、売り減らし&プッシュ型の典型だと思う。
 百貨店がひしめく中、すでにカルバンクラインの高級ジーンズは99ドル50セントでディスカウントストアのウィンドウを飾ざり、ダウンタウンで倉庫を改装したストリートカジュアル店の方がニューヨークファッションと言われていた。某SPA企業が名前を流用した「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」である。 それが80年代初頭のニューヨークの流通事情だった。
 
 業界で働き始めてからはそんな体験を通じて、都内の百貨店を主観・客観的に見て来たつもりである。西武セゾンのクリエイティブ戦略の産物、渋谷公園通りのシード、スペイン坂下のロフトのMDは、それなり評価した。ファッションの伊勢丹を手がけた山中鏆氏がプロデュースし、駄洒落コピー「ビギンザ・ギンザ」の松屋銀座では、紅茶フォーションのテーブルロールがお気に入りだった。東急の文化村シアターコクーン前はよく待ち合わせに利用した。ただ、空前の好景気と言われながらも、利用機会はそんな程度だったから、次第に百貨店から離れていった。
 その後、日本ではバブルが崩壊したにも関わらず、東武がメトロポリタンプラザを開業するなど百貨店が構造改革に踏み切れない中、ニューヨークではティファニー裏のボンウィット・テラーがのナイキタウンに変わり、パリで苦戦のギャラリー・ラファイエットは米国に活路を求めるなど、世界では百貨店の再編が進んだ。
 日本の既存店売上げは92年以降、96年を除き前年割れを続け、総売上げも98年以降、連続して減少。マスメディアはその要因を平成不況によるもの、お客の嗜好の多様化などで片付けたが、最大の要因はNBアパレルとの委託&消化仕入れが9割程度まで増えて、結果として同質化と「価格に対する価値」が低下したからである。

 一方、アパレルは百貨店側の歩率拡大による利益減少をカバーするために製造原価率を圧縮させ、結果的に価格に対する価値が低下。ユニクロなどと比べると割高感が強まってしまった。さらに、これ以上の歩率負担は企業の生き残りに関わると00年以降、負担が百貨店の3分の1以下で済む駅ビルやファッションビルや郊外SCに進出していった。それが今日のルミネの好調を生んだのである。
 これが百貨店を取り巻く状況なのに、Jフロントリテイリング傘下、大丸のメンズ担当課長は講演で、ゴルフウエアをファッションイベントでプロモーションするなんて、ノー天気なことを語っていた。夕方のユニクロで上場企業のビジネスマンがコットンのテーラージャケットやパンツ、ポロシャツのセットを1万円にも満たない価格で購入している時代なのにだ。何に着るのかはアイテムを見れば一目瞭然だし、ユニクロ側も承知の上でのMDなのである。
 博多阪急の営業統括部長も「メンズをテコ入れするには」の取材に、「メーカーがない」からできないと語るばかりだった。できないのではなく、リスクを踏んでまでやりたくないのが本音では。百貨店業界では売上げ状況が悪化しても、委託&消化取引を抑えて買取りの自主編集を増やすなどの動きは、全く進んでいないのである。
 また、駅ビルやファッションビルとの競合が激しいOLやヤングビジネスマン向けの商品を縮小し、中高年向けや高級品にシフトする動き、高級ブランドの大量導入の方が目立つ。

 高級ブランドを増やしてNBアパレルの売場を縮小し、低下した歩率をNBの歩率に上乗せして儲けるのが百貨店の狙いのようだが、そんな姑息な手法はもはや限界だろう。
 阪急メンズ東京はその典型的な事例ではないだろうか。筆者は業界人としてコラムを通じ評論しただけ。別にローカルに住む消費者の素人感覚で述べたわけではない。失礼な言い方かもしれないが、できればこのコラムでは行間までちゃんと読める方々にツィートしていただきたいとせつに願う。

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阪急MEN’S TOKYOに見た百貨店の限界。

2011-10-19 19:21:14 | Weblog
 久々に東京出張があったので、時間を作って銀座に寄った。愛用のダイアリー「NAVA settegiorni」は伊東屋しか扱ってないので、この時期に出張があれば必ず店で購入している。せっかくだから、百貨店業界が起死回生を狙う「阪急MEN’S TOKYO」も覗いてきた。
 率直な感想を言えば、エントランス上部にスーツ姿の市川海老蔵を大写しにした写真をドーンと飾り、ジェットセッタースタイルストアと銘打って、有名なラグジュアリーブランドをずらりと並べるなんて、バブル時代そのまま。「これって、今の東京で本当に売れるの」と、思わず口から出てしまった。
 有楽町マリオンの開業をリアルタイムで知っているものとして、クリエイティブの西武と格式の阪急のシンクロはそれなりに評価していた。しかし、時代ともに百貨店が衰退し、一向にデフレが収束しない日本で、バブル再来を望むかのようなラグジュアリーストアは、何とも滑稽に感じる。
 それとも、百貨店が起死回生と狙うターゲットとは、銀座を訪れる中国人の富裕層なのだろうか。そうであれば、多少の期待はできるかもしれないが、4階を占めるクリエーターズブランドやスタイリスト野口強氏がセレクトする「ガラージュD.エディット」は、バブリーでセンスレスな中国人にはそぐわないと思うし、理解できないだろう。
 さらに5階以上は普通の百貨店と何ら変わらないので、百貨店がメンズオンリーで1館作り上げるのは「これが限界です」と、青息吐息状態と言えなくもない。自らをファッショニスタと言うのはおこがましいが、DCブランドやインポートを着こなし、もはやファッションに対する感性も欲望も成熟(自分オリジナルを求める境地)してしまった人間にとって、ついに買いたいものには出会えなかった。
 売場や商品展開として参考になったのは、ダイアリーを買った伊東屋がユナイテッドアローズと共同で仕掛けた「伊東屋WITHユナイテッドアローズ」。箱入りのエンベロップは伊東屋らしい舶来イメージを出したかったのだろうが、ビジネス用に使うにはもったいない代物。
 かといって、コンケラーのような洋封筒はすでに使いつくされ、目新しくはない。紙の質感で勝負するなら、ハグルマ封筒の製袋を加えてはどうだろうか。UAのトラッドニュアンスというより、スタイリッシュなイメージだが。
 ビジネス的に総括すれば、商品はオリジナル編集や洋品の一部を除き、委託&消化仕入れになると思う。伊勢丹がメンズ館を立ち上げた頃から、ブランドのハコを取っ払って商品を編集する手法が取られてきたが、これでブランド派遣のスタッフは自社の商品だけ売りきれるのだろうか。お客さんはそんなことを考えて買い物に来ているわけじゃないし。
 また、売上げや在庫の管理はブランド横断の売場では非常に手間がかかり、かえって残業などコストがかかるのではないか。大きなお世話かもしれないが、小売り専門店を経験したものとして、商品は買い取るから自由に編集できるのだし、一生懸命売りきらなければならないのだ。でも、委託&消化仕入れが慣例の百貨店にそれができるとは思えない。
 阪急を後にして羽田空港に向かう道すがら、改めて東京らしい店とは何だろうと考えた。それは銀座から地下鉄で数駅の裏日本橋や御徒町あたりにヒントがあると思う。リノベーションしたビルの一室でひたすら創作に励むクリエーターの作品こそ、どれも刺激的だし、江戸技の復活と時代の息吹を感じさせる。
 そんなみずみずしい感性を完成度の高い商品としてプロデュースする方が、よほど今の時代に合っているように思う。そう感じるのは決して私だけではないだろう。
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ネット通販に待ったをかけるのは。

2011-10-17 12:55:11 | Weblog
 インターネット通販のファッションウォーカーは、ファッション通販サイトなどを運営するファッション・コ・ラボに事業を譲渡した。同社はもともと、携帯通販サイトのガールズウォーカードットコムや東京ガールズコレクション(TGC)を運営するゼイヴェル(現在のブランディング)が、2005年に設立したPC向け通販サイトだ。

 11年8月期の売上高は約80億円、TGCに登場するものなど300ブランドを展開し、60万人ものメルマガ登録会員を抱える。その規模はゾゾタウンのスタイルトゥデイ、マガシーク、スタイライフに次ぐ。譲渡先のファッション・コ・ラボはNBアパレルのワールドが100%出資する子会社だから、メディアはワールドが事実上買収することになるとの論調を伝えている。
 年商3000億円超のワールドからすれば、80億円程度の企業は中堅ブランド一つ分の程度の売上げに過ぎないが、買収の背景には自社が一番弱いF1層向けに新たなブランドを開発するより、既存のプラットフォームを手に入れた方が手っ取り早いとの考えもあるだろう。

 それ以上に3期連続で減収減益のワールドにとって、売上げ回復は待った無し。長らく専門店卸や百貨店SPA、バイイングSPAなど「店舗販売」を主なチャンネルとしてきただけに、ネット通販においてはマーケティングも、商品開発も遅れをとっている。
 これだけスマートフォンが普及すれば、携帯ショッピングがPCサイトに一本化されるのは時間の問題だし、店舗や販売スタッフなどコスト面を考えてもネット通販は魅力的だ。経営戦略的に買収は売上げ回復ととともに、販売チャンネルに対する選択と集中、業態バランスを見据えてのことだ。

 でも、このまま店舗販売とネット通販が逆転してしまうのだろうか。ネット通販業界はその業況指標をアクティブ率(顧客が1年以内に商品を購入した比率)やコンバージョンレート(アクセス数に対する購入比率)で表す。アクティブ率はゾゾタウンが38%でダントツだが、マガシークやスタイライフは同20%強程度に止まる。それでも良いという考え方もあるが。
 ただ、ネット通販の場合、購入後の商品の動きはわからない。顧客の中にはイメージとそぐわなければ、そのままオークションやユーズドに流すものもいるだろう。それではブランド力が低下する恐れがあると、ネット通販を拒否するアパレルメーカーも少なくない。
 小売り側にもネットチャンネルで直販するメーカーとは、実質バッティングを認めたとして取引しないとところもある。店舗や人員に莫大な投資をしているにも関わらず、業界の不文律がなし崩しになるからだ。

 今の状況を考えると、ネット通販はまだまだ伸びシロがあると思うが、いくらサイトがあっても新しいコンテンツ(商品)が増えなければ売上げは拡大しない。地デジに変わってチャンネルが増えても、視聴率が伸びないテレビを見れば一目瞭然である。
 IT事業者が好きなマーケティングには、既存の市場を捨てたところに新たな市場が生まれるという考え方もある。インターネットにぜったい馴染まない人肌の温もりを感じるブランド。中小零細の専門店系アパレルが得意とする加工や染めの技術を生かした商品。それはリアルな接客でないと感じることができない。こうしたコンテンツの復活こそが、ネット通販に待ったをかけるのではないかと思う。
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減益の宿命を背負うユニクロ。

2011-10-13 18:21:15 | Weblog
 ファーストリテイリングの2011年8月期の連結決算が発表された。売上高は対前期比0.7%アップの8,203億円と微増だったが、本業の儲けを示す営業利益は12.1%減の1163億6500万円で4年ぶりのダウン。売上高の7割以上を占める国内のユニクロ事業が失速したのが主な要因だという。
 柳井正会長兼社長は「商品政策が違っていた。売り場に行ったら欠品だらけだった」と、減益の理由にマーチャンダイジングの失敗や販売ロスがあったと語った。
 でも、同社の業績が芳しくないときは、いつも似たような理由を聞かされる気がする。言い方は「マーケティングとマーチャンダイジングを間違った」とか、「商品がばらけていて、売るべき商品がその能力を発揮していなかった」とかいろいろだが、真意は同じと見られる。

 ただ、ビジネスモデルが変わらない限り、これらのコメントが繰り返されるのはしょうがない。なぜなら、ユニクロはパーツとしての良質安価の衣料をコンセプトとし、製造コストをできるだけ抑えるために素材から生産ラインまで極度に絞り込んだマーチャンダイジングを取っている。
 このモデルから生まれるのは、極端にミニマムかつ大量生産的な工業製品であって、品揃えの中心には最大公約数的なアイテムばかりが並び、毎シーズン商品の顔ぶれはほとんど変わらない。 売れる時期に売れる商品を簡単に読み切れるはずはないし、売れ残りを抑えて少なめに商品を投入することもできない。
 春夏になればポロシャツやTシャツ、秋冬にはフリースやダウンが並ぶフラットな商品構成で、何年もたつと品揃えの陳腐化は否めない。毎シーズン大差ないアイテムを企画していては品揃えに変化も鮮度もなくなり、「もう、何年同じ品揃えかよ」「お客は飽き飽きしているのにいい加減気づけよ」と、お客にそっぽを向かれて当然なのである。

 トレンドや消費者の嗜好の変化によって品揃えを変えていくのが小売業なのだが、ユニクロが品質や機能性など企画生産に重点を置くサプライチェーンである限り、SKUごとに投入量を変えたり、売れた商品をクイックでフォローするなんてことはできない。限られた在庫では欠品が出るのは当たり前だし、売れない時期にも売れない商品が並ぶのだ。
 販売スタイルもヘルプ・ユアセルフだから、セレクトショップようにスタッフが一人一人のお客に対し、一生懸命商品を売って売上げを下支えすることはできない。売れるアイテムを当てられなければ、販売ロスどころか、膨大なマークダウンロスを出してしまう。
 それでも、柳井社長はマーチャンダイジングの失敗のせいにして、何もしない執行役員や店長に対し、「いかなる理由があっても、売上げと利益を取りにいかなければダメだ」と叱責する。本部や各店舗が収益を上げる方法を考えて実行し、それを全店に広げていくのが自身が標榜する「全員経営」と思うからだ。

 ユニクロがビジネスモデルの手本にしたギャップでさえ、好調は最長7期程度しか続いていないし、その後には長い低迷期が続き、短い好調の後には短い低迷が来るというパターンを繰り返している。だとすれば、4期ぶりの減益だから、4期程度の低迷が続くと考えられなくもない。
 今月開店のニューヨーク旗艦店ではIPJの商品を試しながら、こうした海外戦略を日本にも逆輸入し国内での販売向上も狙うという。しかし、すでに国内でも販売されているブロックテックマウンテンパーカ(9990円)などは総じて割高感が否めないし、新商品であるがゆえに販売ロスと在庫の山を生むリスクもはらむ。
 ユニクロがサプライチェーン優先のプロダクトアウト型SPAを続ける限り、アジアでの大量出店による売上げ増はあっても、減益という宿命も背負っていかなければならないのである。
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利権と化すファッション。

2011-10-12 17:30:14 | Weblog
 国や地方の事業は一度予算がついた以上、絶対に行なわれる。代表的なもので、緊急雇用対策による雇用創出の基金事業がある。ただ、この事業には委託業者が実際に雇用を履行しているか疑わしいものや、他の事業では予算がないため無理矢理に雇用対策に結びつけて行なわれているものも少なくない。
 さらに業者の選定は一般競争入札で行なわれるはずだが、最初から他が入札できないような事業もある。福岡県が行なう「ファッション事業」で、その事例を見てみたい。

 福岡県商工部の中小企業振興課が募集した「FACoブランド販売力強化事業」がある。これは福岡県と福岡商工会議所が中心となった福岡アジアファッション拠点推進会議が主催するファッションイベント、福岡アジアコレクション(FACo)を告知する紹介パンフレットとDVDの作成を行なうものだ。
 雇用創出の事業であるがゆえ、「パンフレット及びDVD制作」のスタッフとして10名を雇用し、制作期間は15日との条件付き。委託業者にはRKB映画社が選定されている。
 ここで疑問なのが、 FACoはローカルTVのRKB毎日放送がプロデュースし、イベントの映像や写真素材も同社が管理しているはずだ(実際の撮影はRKB映画社もしくは下請け会社と思われる)。ならば、他の業者が入札して委託業者に選ばれたとして、RKB側がおいそれと映像や写真素材を提供するかである。

 というのは、FACoのようなファッションイベントは、東京ガールズコレクションをはじめてとして、今や地方都市でも行なわれている。これらはファッションデザイナーが創るモードなクリエーションをお披露目する、いわゆる“コレクション”ではない。中国製などのチープなトレンドファッションをタレントが着てランウエイを闊歩する「客寄せ興行」で、TVやCMなどの露出が減ったタレントにとっては、絶好の地方営業の場となっている。
 ただ、押切もえや蛯原友里、マリエなど出演するタレントの肖像権管理はとても厳しい。業界紙誌の報道にも関わらず、タレント事務所は平然とタレントのステージ写真は「使うな」と横やりを入れてくる。天下の大新聞やキー局でさえ、無償の報道なら大引か、無名のモデルの映像、写真しか使えない。

 09年に2700万円もの雇用創出基金を使いながら、単年度事業のために昨春の稼働からほとんど更新されていない「Fashion Site Fukuoka」(https://fashionsitefukuoka.jp/ja/tp/tp010)のメーンビジュアル(FACoの超大引写真で、何が写っているかわからない)がそれを如実に表す。
 つまり、RKB毎日放送およびFACoに携わる業者でなければ、肖像権管理はできないという大義名分がつくわけだ。とても他の業者が入札できるような余地はないのである。
 と言っても、RKB映画社は映像専門の会社でパンフレット制作のノウハウは持たないだろうから、印刷会社か、グラフィックデザイン会社に丸投げのはず。おそらく何もせずに幾許かのマージンを中抜きできることは、入札時から計算済みだろう。従来の代理店商売を今度は制作会社がやっているのである。

 事業を所管する県商工部の中小企業振興課は、内容にそって分離委託すべきなのだが、「事務作業が煩雑になる」なんて行政特有の言い訳で、事業委託を一本化したのは想像に難くない。
 しかし、重要なことはFACoブランド販売力強化事業として紹介パンフレットとDVDを制作する理由である。FACoには福岡アジアファッション拠点推進会議関連事業のメーン事業として、 福岡県と福岡商工会議所、福岡市などが年間2000万円程度を拠出している。
 しかし、RKB毎日放送がプロデュースする関係やタレント事務所の肖像権管理が災いして、他のメディア露出はほとんどない。また、全国で似たようなイベントが目白押しなこと、それ以上に地元ファッション業界にはそれほど貢献しておらず、認知度、波及効果とも今イチである。

 だから、推進会議の関連事業を所管する中小企業振興課としては、広報活動の一環として紹介パンフレットとDVDの制作となったのだ。(本当は関係諸官庁にこれだけの事業をやってますよ、との理由づくりためだろうが)
 ただ、FACoだけに年間2000万円も拠出しているから、とてもFACo関連の広報活動まで予算がまわらない。そこで、中小企業振興課は使いきらなければいけない雇用創出予算を無理矢理くっつけたのではと、勘ぐりたくもなる。
 もちろん、FACoはRKB毎日放送の手中にあるのだから、委託事業が同社や関連会社に流れる図式も成り立つ。ここまで書けば、察しのいい方はお判りだろう。利権の匂いがプンプンするのである。
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反抗という名の勲章。

2011-10-09 08:31:20 | Weblog
 デザイナーの山本耀司氏が10月3日、フランス芸術文化勲章の最高位「コマンドゥール」を受章した。今年の春には叙勲される外国人として報道されていたので、別に驚くほどものではなく、この日はセレモニーが行なわれただけだった。
 同氏はこれまで同系の勲章でローワーランクのシュバリエ(騎士/30歳以上の芸術家が対象。北野武監督も受章)、同ミドルランクのオフィシエ(将校/前等級から5年経過または新しい功績者が対象)、日本の叙勲でも学芸・スポーツの功労者に与えられる紫綬褒章を受章している。
 受章の度にいろんなコメントを出しているが、紫綬褒章を受章した時は歯切れが良く、実に面白い内容だった。

 「(55歳以上が叙勲の対象に)迷いはありましたね。引退勧告かなぁとかね。…大体この職業は若さや新しさを背景とするから、長くやること自体によくないイメージがつきまとうけれど、もう分かったよ言われても、分かられてたまるかという気持ちで続けているつもりです。…(紫綬褒章について)これはいただいておこうかと決めたのは、日本のファッションがあまりにも認知されていないから。全国どこでもイタリアやフランスのブランドが入る中で、日本のファッションデザインに国がお褒めの言葉を下さるのですから」

 日本では文化勲章を受章される方のほとんどが、「自分の仕事を地道に続けてきた結果です」とか、「周りの皆様に支えられてきたおかげで」とか、どうしても日本人気質で謙遜気味にコメントされる。
 ところが、山本耀司氏は堂々と自分の思いのたけを語った。お上からの恩典にもひるまぬ物言いは、自分のクビは自分で切る覚悟ゆえにできることか。先にコマンドゥールを受章した北野監督も、歯に衣着せぬ言動では同氏と同じ。いかにも個人主義を重んじるフランス人が好みそうなキャラクターだ。

 かつて何かの評論文で読んだが、「勲章を好むのは、日本や旧ソ連に多い傾向」とあった。日本の場合、明治天皇と昭和天皇の誕生日である4月29日と11月3日に授章することからして、国の政治や歴史、伝統文化に関する国民の忠誠心を昂揚させる役割もあったわけだから、理解はできる。
 ソ連は旧共産圏に共通する英雄称号のように国家に対する功績を称えられた証しという、社会主義ならではの平等意識の中でのステイタスではないか。米国では戦争映画の中でよく上官が部下を擁護する台詞として「彼は勲章をもらっている」という行が出てくるが、叙勲された側の自負心や誇らしさが強調されることはほとんどない。そんな感覚なのだろう。

 山本耀司氏はファッションデザインを続けていく中で、過去の人間たちが作った価値観に対して感じる矛盾、 既成の概念を叩きつぶしたいという思いがエネルギーとなって創作意欲をかき立てられたと、繰り返してきた。言わば、叙勲はそうした反抗心に国家からお墨付きをもらったという意識ではないか。
 だから、勲章そのものは否定も肯定もしないし、くれるのならもらっておこうということだろう。かつてのちに総理大臣となる自民党の有力政治家が叙勲を辞退した時、ライトウイングの方々からお仕置きを受けた事件があった。まあ、イチローのように「現役で発展途上の選手なので、…引退した時にいただきたい」と、たとえ褒賞や授章を固辞しても、フランス人なら刃を向けることもないだろうが。
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店長のマネジメント力頼み。

2011-10-07 12:34:57 | Weblog
 キャナルシティ博多のイーストビルを見てきた。すでにテナントの顔ぶれ、戦略内容には触れたし、福岡流通戦争の勝算度についても、否定的な意見に変わりはない。だから、あえて期待するとすれば、店長の指導力とスタッフの販売力。そこで、各店の接客・サービスのレベル、モチベーションの高さなどをチェックしながら、店長のマネジメントで気づいた点を以下に列記する。

 まず、同施設に再出店を果たしたユニクロ。過去、オーパに出店していた時は、SS(スーパースター)店長のひとり、弥永利司久留米上津店店長が兼任していた。その時、店長がスタッフに口酸っぱく言い続けていたのが「作業を仕事に変えろ」だった。
 同社の販売スタイルは“ヘルプ・ユアセルフ”で、スタッフはサイズ、色柄、商品特性などの受け答えができれば十分だが、マニュアル通りなら作業でしかない。自分で考えて行動するのが仕事なのだ。
 同店でもフロア店長らしいスタッフが大きな声でお客を迎え、質問にも丁寧に答えていた。また、レジ打ちや商品陳列もほとんどのスタッフがこなせるなど、店長の指導・管理のレベルは上々だ。
 しかし、コミュニケーション能力となると?がつく。「ブロックテックボンディングパーカは静電気が気になるんですが」の問いに即答のアドバイスができるスタッフがいないし、インナーに何を着ると静電気が起こるかも理解できていないスタッフがいた。素材知識の重要性はヒートテックだけではないはずだ。
 また、購入客に対する感謝の気持ちという点でも、出口近くに入るスタッフのフォロー挨拶もない。柳井正社長が求める店長の使命の一つ、「CS(顧客満足)」が今イチで、不満が残った。

 次に訪れたのはコレクトポイント。ウィメンズは平日ながら多くを集客。特にヤングミセスが入口付近の集中しているにも関わらず、新人スタッフは商品整理に没頭。行動が予測できない子供に配慮する様子もない。逆に中堅スタッフは接客を重視するあまりに周囲に目配りができずにいた。
 オリジナル商品で構成する大型店にも関わらず、入口から奥までの客動線が計算されておらず、スタッフ全員がバランスよく接客に当たれる態勢が作られていない。これは非常に残念だ。
 逆にメンズはお客が少ないにも関わらず、新人スタッフは「いらっしゃませ」のかけ声と「メルマガ会員への20%割引」の案内を繰り返すのみ。試しに商品を探す振りをして売場を2回、3回と巡ってみたが、アプローチに入る態勢すら見せない。
 売場はセレクトショップ感覚で、VMDもそれなりの完成度を誇る。あとはきちんと接客して売るしかないのだ。来店して滞留するお客への対応を、もう少し指導すべきだろう。

 H&Mはオープン直後で、お客でごった返し。こちらはファストファッションでセルフ感覚の業態だから、 一段落しても念入りな接客はしないだろう。ただ、同店の正否が今後の出店戦略に影響を及ぼすのは間違いない。その意味で顧客管理やCS、挨拶などは徹底されるべきだ。また、VMDや在庫管理は本国のオペレーションで行なわれているはずだから、それをどう売上げに繋げるかは店長の力量になる。
 欠品を出さないように基準在庫を守り、機会ロスを防ぐ感覚をスタッフに身につけさせるのは、店長のマネジメント次第。オープン景気が去った後に再度チェックしてみたい。

 ザラは既存店で実績もあることから、リロケートにひるむこともなく、入店客の一人一人に丁寧な挨拶や応対をしていた。さすがに「ザラはファストファッションではないんですよ」と説明するスタッフはいなかったが、「この秋はさらにモード色が強まっています」と、あるスタッフのトーク。本部の指示なのか、店長のマネジメントの賜物か。どちらにしても接客レベルが他のストアより高いのは確かだ。
 ザラの妹ブランドBershkaはまだまだ知名度が低く、入店客はまだまだ少ない。裏原系グローバルSPAのDesigualは、アングラな店内やクセのあるプリントが影響してお客はまばら。それだけに店長はスタッフにお客を呼び込ませるなど、せっかくのオープン景気を自店の集客に繋げる工夫が欲しかった。

 キャナルシティ全体ではお客がイーストビルに集中し、ノースビルやサウスビルは閑古鳥が鳴く有り様。ギャップはお客がほとんどいないので、ザラと一緒に館内移動させてもよかったのではないか。ただ、ザラとフランフランの跡にテナントが未入店な点も気になる。前述したようにデベロッパーの福岡地所がファストファッション戦略を強調するあまり、他の業態が進出に二の足を踏んだと考えられなくもない。
 同社も集客対策はとってはいるようだが、無印良品のポイント5%セールくらいでは効果は上がらないだろう。もっとも、目玉のH&Mにしてもショッピングバッグを持って退店するお客は意外に少ない。やはり目標達成は、各店長の指導力とスタッフの販売力にかかっているのは、間違いないなさそうだ。
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