ユニクロが国内全店で、4月27日からシューズを発売した。 アイテムは「スリッポン」と「シューレース」の2モデルで、カラーは各5色。サイズは23cmから28cmまでの「1センチ刻み」で、どれも2990円(税抜き)の安さだ。
ユニクロは2009年にも、シューズを発売した。この時は柳井正社長自らが会見していたのをはっきり憶えている。いつもそうだが、他社に先んでて挑戦するときの柳井氏は、自信が漲っていて、懸念の余地さえ与えない凄みを感じさせる。
たとえ失敗しても持論であり、自著のタイトルにもある「一勝九敗」で、批判の矛先をかわせるからだろうか。この時も売上げが不振に陥ると、広報を通じ「デザインが服に合わなかったから」とすぐに撤退を表明した。
ユニクロに言われるまでもなく、売場の片隅に並んでいたシューズを見たが、どこかのブランドをパッくったようなそうでないようなフォルムに、ラインが入っただけの中途半端デザインだった。カラリングも中間色で、これでは服には合わないと思った。
しかし、ユニクロとてそんなことは、企画の段階からわかっていたはずだ。服ではファッションベーシックを標榜する同社が、シューズではデザインに凝ったところで、売れるアイテムになるはずがない。
ブランドには脈々と受け継がれるDNAというものがある。それは個々のデザインに現れ、全アイテムに映し出されて、初めてVMDに耐え得る売場づくりができる。それがブランドの顔を作るということだ。グローバルSPAにこそ、不可欠な条件でもある。
今回のスリッポンとシューレースは、ユニクロの売りであるベーシックというか、アメカジ系アイテムに似合う定番デザインに落ち着いている。悪く言えば、セレクトショップ各社やカジュアルチェーンが投入しているデザインの焼き直しに過ぎない。
シューズの場合、デザインは木型によって変わる。イタリアンタイプのようなシューっといた面長もあれば、アメリカンタイプのような機能美優先&万能型もある。日本人の足型、ファッション感性からすれば、アメリカンタイプの方が好まれる。
ブランドで言えば、コンバースのローカット、ナイキのコルテッツ、アディダスのスーパースター。これらは定番化したデザインの売れ筋で、販売チャンネルもセレクトショップや大手チェーンの牙城になっている。
オリジナルはもちろん別注やダブルネームも珍しくないので、他社が少々のデザインを発表したところで、勝負にならない。ただ、夏場に履くには熱いので、2~3年前から流行しはじめたのが、VANSラインのスリッポンやシューレースだ。
筆者が大学生の頃は、夏といえば「トップサイダー」のデッキシューズだった。最近ではVANSがアメリカンベーシックの最たるもので、履きやすく、服とのコーディネートでも親和性が高い。
おそらく、意匠権など存在しないであろうから、ブランド各社がスニーカーのデザインに取り入れているのだ。グローバルSPAのユニクロが乗り出すのも、時間の問題だったはずである。だから、今回、奇しくも実現したのは、それほど驚くことではない。
ユニクロの凄さは、大量調達によるコストダウン、利益率の高さ、大量消化できる販路を持っていることだ。服より靴は在庫を持たなければならず、管理が難しいと言われるが、今回はその辺の問題も十分検討した上での参入だったと思う。
ただ、筆者が懸念するのは、サイズが1cm刻みの点である。ここ数年で、スニーカーを素足で履くスタイルがすっかり定着した。さらにロールアップスタイルとの組み合わせで、冬でもくるぶしを見せて履く人が増えている。
となると、ジャストサイズでないと、足下は決まらないし、歩きにくいだろう。そのために、スニーカーソックスを履くのでは興ざめだ。
ファッションにこだわる人間だろうと、そうでない人間だろうと、靴は服よりもフィット感を重視するはずである。そう考えると、1cm刻みは販売戦略上、シューズの売上げに弾みをつけるとまではいかないのではないか。
ユニクロとあろうものが、なぜ1cm刻みなのか。そこにはやはり上場企業として、同じ失敗を二度繰り返せないだろうし、売上げ状況を見極める意味でも在庫過多のリスクを回避したのかもしれない。つまり、経営効率を優先したのである。
同じような例がある。大手眼鏡チェーンが拡販を図るため「フレーム+レンズ+技術加工料で19,800円のパッケージ販売」を展開したことだ。これで眼鏡が値崩れを起こしてしまったことについて、先日、経営者賞を受賞した某メガネチェーンの社長がこう語っていた。
「ジャストプライスは、手持ちの在庫を圧縮しているのでレンズ度数のレンジは広くなります。お客さんは自分の度数の上下どちらかで妥協しなければならならず、細かい度数対応には限界があるのです。今は多店舗化を進めることができても、必ずこうした課題から歪みが生じてくるでしょう」
これをユニクロのシューズに当てはめると、「在庫圧縮」「サイズ展開が広くない」「お客さんは自分のサイズの上下どちらかで妥協しなければならない」「細かいサイズ対応には限界」の部分で共通項がある。だから、歪みが生じてもおかしくないのだ。
安さには必ずカラクリがある。ユニクロの場合は、ベーシックデザイン、大量生産、コストダウンという効率を優先して、安さを成し遂げた。とすれば、そのしわ寄せは必ずどこかに出てくる。今回は靴のサイズがそうだろう。
服であれだけの実績をもつユニクロとあろうものが、それではあまりに弱気ではないか。靴においてもサイズは0.5cm刻みで展開し、マスマーケットの信頼を得ることがユニクロの真骨頂ではないのか。
ファッションとしても、ベーシックなデザインのシューズだからこそ、ジャストフィットで履きこなせてスタイリングが決まるのだ。たかがスニーカーだけど、されどスニーカーなのである。
発売されたばかりなので、現状では何とも言えないが、世界の市場攻略を狙うユニクロにこそ、スニーカーでも妥協してほしくない。そう思うのは、筆者よりもユニクロの顧客の方ではないだろうか。
ユニクロは2009年にも、シューズを発売した。この時は柳井正社長自らが会見していたのをはっきり憶えている。いつもそうだが、他社に先んでて挑戦するときの柳井氏は、自信が漲っていて、懸念の余地さえ与えない凄みを感じさせる。
たとえ失敗しても持論であり、自著のタイトルにもある「一勝九敗」で、批判の矛先をかわせるからだろうか。この時も売上げが不振に陥ると、広報を通じ「デザインが服に合わなかったから」とすぐに撤退を表明した。
ユニクロに言われるまでもなく、売場の片隅に並んでいたシューズを見たが、どこかのブランドをパッくったようなそうでないようなフォルムに、ラインが入っただけの中途半端デザインだった。カラリングも中間色で、これでは服には合わないと思った。
しかし、ユニクロとてそんなことは、企画の段階からわかっていたはずだ。服ではファッションベーシックを標榜する同社が、シューズではデザインに凝ったところで、売れるアイテムになるはずがない。
ブランドには脈々と受け継がれるDNAというものがある。それは個々のデザインに現れ、全アイテムに映し出されて、初めてVMDに耐え得る売場づくりができる。それがブランドの顔を作るということだ。グローバルSPAにこそ、不可欠な条件でもある。
今回のスリッポンとシューレースは、ユニクロの売りであるベーシックというか、アメカジ系アイテムに似合う定番デザインに落ち着いている。悪く言えば、セレクトショップ各社やカジュアルチェーンが投入しているデザインの焼き直しに過ぎない。
シューズの場合、デザインは木型によって変わる。イタリアンタイプのようなシューっといた面長もあれば、アメリカンタイプのような機能美優先&万能型もある。日本人の足型、ファッション感性からすれば、アメリカンタイプの方が好まれる。
ブランドで言えば、コンバースのローカット、ナイキのコルテッツ、アディダスのスーパースター。これらは定番化したデザインの売れ筋で、販売チャンネルもセレクトショップや大手チェーンの牙城になっている。
オリジナルはもちろん別注やダブルネームも珍しくないので、他社が少々のデザインを発表したところで、勝負にならない。ただ、夏場に履くには熱いので、2~3年前から流行しはじめたのが、VANSラインのスリッポンやシューレースだ。
筆者が大学生の頃は、夏といえば「トップサイダー」のデッキシューズだった。最近ではVANSがアメリカンベーシックの最たるもので、履きやすく、服とのコーディネートでも親和性が高い。
おそらく、意匠権など存在しないであろうから、ブランド各社がスニーカーのデザインに取り入れているのだ。グローバルSPAのユニクロが乗り出すのも、時間の問題だったはずである。だから、今回、奇しくも実現したのは、それほど驚くことではない。
ユニクロの凄さは、大量調達によるコストダウン、利益率の高さ、大量消化できる販路を持っていることだ。服より靴は在庫を持たなければならず、管理が難しいと言われるが、今回はその辺の問題も十分検討した上での参入だったと思う。
ただ、筆者が懸念するのは、サイズが1cm刻みの点である。ここ数年で、スニーカーを素足で履くスタイルがすっかり定着した。さらにロールアップスタイルとの組み合わせで、冬でもくるぶしを見せて履く人が増えている。
となると、ジャストサイズでないと、足下は決まらないし、歩きにくいだろう。そのために、スニーカーソックスを履くのでは興ざめだ。
ファッションにこだわる人間だろうと、そうでない人間だろうと、靴は服よりもフィット感を重視するはずである。そう考えると、1cm刻みは販売戦略上、シューズの売上げに弾みをつけるとまではいかないのではないか。
ユニクロとあろうものが、なぜ1cm刻みなのか。そこにはやはり上場企業として、同じ失敗を二度繰り返せないだろうし、売上げ状況を見極める意味でも在庫過多のリスクを回避したのかもしれない。つまり、経営効率を優先したのである。
同じような例がある。大手眼鏡チェーンが拡販を図るため「フレーム+レンズ+技術加工料で19,800円のパッケージ販売」を展開したことだ。これで眼鏡が値崩れを起こしてしまったことについて、先日、経営者賞を受賞した某メガネチェーンの社長がこう語っていた。
「ジャストプライスは、手持ちの在庫を圧縮しているのでレンズ度数のレンジは広くなります。お客さんは自分の度数の上下どちらかで妥協しなければならならず、細かい度数対応には限界があるのです。今は多店舗化を進めることができても、必ずこうした課題から歪みが生じてくるでしょう」
これをユニクロのシューズに当てはめると、「在庫圧縮」「サイズ展開が広くない」「お客さんは自分のサイズの上下どちらかで妥協しなければならない」「細かいサイズ対応には限界」の部分で共通項がある。だから、歪みが生じてもおかしくないのだ。
安さには必ずカラクリがある。ユニクロの場合は、ベーシックデザイン、大量生産、コストダウンという効率を優先して、安さを成し遂げた。とすれば、そのしわ寄せは必ずどこかに出てくる。今回は靴のサイズがそうだろう。
服であれだけの実績をもつユニクロとあろうものが、それではあまりに弱気ではないか。靴においてもサイズは0.5cm刻みで展開し、マスマーケットの信頼を得ることがユニクロの真骨頂ではないのか。
ファッションとしても、ベーシックなデザインのシューズだからこそ、ジャストフィットで履きこなせてスタイリングが決まるのだ。たかがスニーカーだけど、されどスニーカーなのである。
発売されたばかりなので、現状では何とも言えないが、世界の市場攻略を狙うユニクロにこそ、スニーカーでも妥協してほしくない。そう思うのは、筆者よりもユニクロの顧客の方ではないだろうか。