HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

メディアの退化に打つ手はあるか。

2014-04-29 18:02:23 | Weblog
 今回もメディアについて書いてみる。昨日、地元フリーペーパーの「ガリヤ」が破産手続きに入ったとの情報が入ってきた。大手ファッション誌の休廃刊は話題にはなるが、弱小出版社の倒産などさして珍しくなく、ローカルメディアで大上段の報道はない。

 東京に次ぐくらいフリーペーパーが乱立する福岡。商業都市を象徴する出版マーケットがあったのは今は昔、市場構造は完全に変わってしまった。紙媒体にとってネットメディアの隆盛が、ボディーブローのように効いていたのは間違いないだろう。

 そもそも、フリーペーパーは届ける、伝えるでターゲットを絞り込み、地域情報、クーポン、ネットワーク、配布、プロモーションなどの多面的な機能で、一時代を築いてきた。大手企業の広告出稿もあり、業界全体で活況を呈した時期もある。
 
 福岡でいつ頃からフリーペーパーが登場したのかは、よくわからない。地元にずっといた友人の話によると、ミニコミでは「シティ情報福岡」という有料のタウン情報誌の方が先だったという。

 こちらは「インフォメーションとコミュニケーション」をコンセプトに地域の読者と一体になって、埋もれた情報を掘り起こしていったとか。その頃はミニコミなんてそれほどないから、読者にとってかなり新鮮に受け取られたのではないか。

 一方、フリーペーパーでは先にガリヤの前身である「エルフ」が登場。地場広告代理店のN社が内部にエルフ事業部を設け、ガリアの代表であるN氏が編集長となり、地元OL向けの情報誌として刊行を続けた。

 編集スタッフには大手、中小を問わず企業に勤める現役のOLたちが名を連ね、取材やタイアップ企画に精を出し、年末には今でいう婚活イベントの走であるクリスマスパーティーも開催していたと聞く。

 N編集長は自らナビゲーター(当時のパーソナリティ)として、「FM福岡でエルフミュージックフレイバーって番組も持っていたよ」と、リスナーだったという同級生の女子から聞いたこともある。それぐらい、ローカルでは画期的なメディアだったということだ。

 こうしてエルフに代表される地場フリーペーパーは、ガリヤはじめ競合他誌に対し先鞭を付けたということだ。それでも、無料の情報誌なだけに記事やエディトリアルデザインが秀逸かというと、決してそうは思わない。



 最初にガリヤを見た十数年前、編集系メディアとしてはすでに体を成していないと感じた。巻頭の記事を除けば各ページがぶつ切りで、チラシの束のようだったからだ。ページ自体がビューティやエステ、グルメなどの企業がスポンサーの全面広告で、経営的にはかなり厳しいのではとの印象を受けた。

 N編集長はエルフ時代、営業を代理店側が受け持ってくれていたため、取材や編集、タイアップ企画などに専念できたと思う。ところが、独立してガリヤを設立すると、スポンサー営業も自社で行わなければならなくなった。

 媒体の特性から女性スタッフが中心になるので、営業力もつ人材を確保、育成できていたのか。編集作業についても、出版社並みに取材、原稿入れやデザイン、印刷などのノウハウをもつ人間が育っていたかというと?がつく。

 フリーペーパーが乱立する市場で、ガリヤが後発の競合誌以上に進化し、ブランド力や媒体価値を持っていたとは思えない。むしろ、経営効率を優先するあまり、年毎に誌面づくりは劣化していた。それはスポンサーとて手に取るようにわかっていたはずである。

 つまり、地域情報からクーポン、 ターゲットの絞り込み、 ネットワーク、配布、プロモーションまで、フリーペーパー成立の要件が時代とともに大きく変わっているのに、そうした変化に対応できていなかったのではないか。

 情報チャンネルはインターネットの登場で、フリーペーパーが足下に及ばないくらい拡大した。地域情報を発信するネットメディアはかなり増えている。クーポンについても、ペーパーレスかつローコストで、速効性ではネットには適わない。

 ブランドイメージの向上を図るメディアとしては優るだろうが、企業メッセージの伝達、商品や企業への理解促進では、ネットもひけをとらない。単なるプロモーションや広告コストでもネットを選択するスポンサーは確実に増えている。

 配布についてもネットは読者側が自由に選択すれば良く、ほしい情報を集約できるサイトインサイトもある。読者の属性がわかりづらいというのもペーパー側の言い分に過ぎない。読者にとっては自らの属性にあった情報を検索すれば、それでいいのだ。

 唯一、紙媒体に比べると会員募集やメルマガ送付など、読者とのネットワークづくりにはまだまだ希薄さはあるだろう。ただ、共通の話題を通じて二次的にコミュニケートするSNSが定着したことで、本筋のメディア以上の効力を発揮しだしている。

 もっとも、ローカルメディアとしてのフリーペーパーが、どれほどの機能を果たしてきたのか。むしろ、今の現状はなるべくして、なったという面は否めない。

 ペーパーが流す情報のほとんどは、「これならターゲットに受けるだろう」「これならスポンサーが喜ぶ」とかを計算して流してきたのように感じる。今どき、そんな情報が読者に必要なものかと思ったことが何度もある。

 これだけ情報が溢れているのだから、情報は少ない方が生活しやすい。ほしい情報は自分で探せばいいわけだし、プルできるネットの方が使いやすいに決まっている。プッシュしたい気持ちはわかるが、読者が必要でないものは必要ではないのだ。

 そこにはメディアに携わる一部の人間が自分たちの感性で嗅ぎ取り、加工した情報を流せばいいという錯覚があるのではないか。だから、本当にほしい情報は読者自ら足で探さないと手に入らない。そんな仕組みには読者も辟易しているのだ。

 そもそも、メディアにおける情報伝達の構造は、企業や行政という団体とテレビ局、新聞社、出版社という団体が単に情報をやりとりしてきただけに過ぎない。そこでは個人のほしい情報は完全に無視されてきた。

 また、真実を伝えるための取材は一切なく、ただの広報・宣伝のツールと化していた。これは既存メディア全体に言えることで、個人も団体の一員=マスとなって、はじめて情報の受けてとして認められるという図式だ。

 しかも、メディア側が企業や行政というスポンサーを重視すれば、真実の情報さえ加工され、歪曲されて伝えられる。そこには本音のコミュニケーションなんてあるはずがない。

 ミクシー、フェイスブック、ラインといったSNSがそれに100%変わるというつもりはない。でも、既存メディアにはできない双方向のコミュニケーションで、一定の成果は果たしつつあると思う。

 すでにコンビニは家庭に「ご用聞き」として入っていくことで、お客とのコミュニケーションを図り、それをマーケティングに生かそうとしている。であるからこそ、フリーペーパーもほしい情報を求める読者に入っていかないと、活路は見いだせないのではないか。

 それは非効率で、時代に逆行するというより、すっかり退化したメディアを活性化する方法として、避けられないと思う。
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ITはアパレルを軽薄短小化する。

2014-04-23 13:14:12 | Weblog
 前回、ファッション雑誌という紙媒体の限界について書いた。一方、それに変わるメディア、Webの隆盛は衰えることを知らない。特に今、アパレル業界で話題になっているのが、2月に開催された「第3回サムライモノフェスティバル」に出展した「誰でもブランドを立ち上げられるサービス」である。

 このイベントは「モノづくりとITを中心としたスタートアップの祭典」と銘打ち、ベンチャービジネスや新規事業を広くアピールするもので、このサービスが一躍、業界の脚光を浴びたというわけだ。

 ムーブメントとしての「誰でもブランドを立ち上げられる」は、別に目新しいものではない。10数年前、渋谷109を中心に「カリスマ販売員」が登場し、彼女たちの中から実際にビジネスを立ち上げて、自分のブランドをもったものもいるからである。

 そのすべてがファッション専門学校でデザインやパターンを勉強したかというと、決してそんなことはない。むしろ、少数派だろう。では、なぜ彼女たちがそれができたのかというと、デザインやパターン、素資材の手配などを「黒子」としてやってくれる会社があるからである。

 また、そうしたビジネスはトレンドがめまぐるしく変化し、商品生産のスピードを上げなくてはならない業界では、もはや当たり前になっている。名称はファッションソフトハウス、企画デザイン会社、OEMメーカー、ODM業者。それぞれの性格でいろいろ呼ばれている。

 言い換えれば、こうしたビジネスソースがあるからこそ、「誰でもブランドを立ち上げられる」は可能なのだ。

 一般にはあまり知られてはいないが、アパレルメーカーはトヨタ自動車やパナソニックのように自社で企画から生産まで行う製造業ではない。企画デザインやマーケティングはやっても、生産は外部のアパレル工場に任せ、上がってきた商品を小売店に営業する「卸売業」という解釈が正しい。

 さらにそれさえ、ぶつ切りになって前出のような業者が登場している。それが10数年を経過して、今度はITを組み合わせてさらに簡略化するモデルとして登場したということだ。

 今回の新サービスは、バンダースナッチという企業が手がける「STARted」。利用者は服のイラストを描くだけで実際に服が作れて、STARtedのECサイトで実際に販売することも可能だとか。アパレルにはいろんな中間業者がいるのだから、理屈としてできないことはない。

 この企業は過去にいろんなブランドを立ち上げた経験があるというから、アパレルというビジネスの仕組みを熟知しているだろうし、業者を介在させれば不可能ではないと踏み、事業化を目論んだのだと思う。

 このコラムでも以前に書いたが、欧米のSPAではデザイナーがファッションイラストを描いて、それから実物のパターンを起こしサンプルを作り上げるケースは少なくなっている。むしろ、IllustratorやPhotoshopを駆使してフラット絵型を描き、それをVectorで立体化してビットマップ画像化し、CADパターンを作成する作業が主流になっている。

 STARtedはここまで無機質でデジタル化されたものではないようだ。ベースが素人レベルのファッションであるところに、まだまだアナログ感覚が残り、デザイナー憧憬はあるがIT音痴の若者を惹き付ける「可愛げ」「幼稚さ」を感じる。

 でも、最終的には「10万円ほどで数着の服ができる」というサービスを目指しているというから、既存のアパレル事業者というよりも、それ以前の専門学校生や個人デザイナーにとっては光明かもしれない。

 筆者はグラフィックデザインの仕事もしているので、プロのイラストレーターとも付き合いがある。従来は商業デザインの一環として、ポスターやチラシなどの挿絵を描くことでギャラをもらっていた彼らだが、やる気があればアパレル参入も可能ということだ。

 というか、いろんなイラストレーターと仕事をすると、この人のセンスならファッションデザインを手がけても良いのでは思ったことが何度もある。その時は紙媒体で十分食えていたので、そこまで考えるイラストレーターはいなかった。

 しかし、次第に紙媒体が少なくなり、食えなくなっているイラストレーターも多い。実力も経験も実績もあるのだから、こうしたサービスは新たなビジネスチャンスかもしれない。その意味では、ディレクターとしてファッションセンスをもつプロのイラストレーターに、アパレル業界の活性化が託せるかもしれないと思う。

 ただ、現時点ではアイデアや企画デザインがサンプル化されるもので、その先のビジネスフローは明確にはなっていない。もちろん、量産化するためのパターン製作が不可欠だし、工場に縫製を頼まなければ商品化はできない。ビジネス化するには、工賃や納期の問題もクリアする必要があり、こうした流れは現状のままでいかざるを得ないだろう。
 
 ビジネス的に考えると、こうしたサービスが求められていくのは、間違いないと思う。アパレルは採用に二の足を踏んだとしても、ファッション専門学校は導入するかもしれない。そりゃ、高校生に「あなたが描いたイラストが実物の服になるよ」といえば、プリクラの加工写真どころの騒ぎではないはずだ。

 また、行政が絡むファッション振興事業でも、客寄せイベントの格好のギミックになる。企画担当者や子飼いの代理店は「公募で集めたイラストを商品化すれば、格好の話題になって事業が継続できる」と考えるはずだからだ。

 でも、個人的には決して納得はしてない。子供の頃、ブティックのオーダーサロンで、生地選びや採寸を目の当たりにし、縫子さんが生地に型紙を当ててチャコで印を付け、裁ちバサミでカットし、それを仕付け糸で縫い合わせて仮縫いを行う光景に日常で触れてきた。

 でき上がった服はお洒落の最先端を行き、身体にジャストフィットしていたのが、今でも頭に焼き付いて離れない。そして、そうしたフローを少しでも残しているブランドを今でも好んで着ている。

 ビジネスとしてはこうしたサービスがますます市場を切り拓いていくことになると思うし、その流れは止められない。反面、1mm単位でのパターンを仕上げ、サンプルを修正しないと、カッコいいデザインの服にはならないというのをずっと経験してきた。

 どちらにせよ、ITと呼ばれる情報技術が業種や職種をボーダーレスにし、アパレルをますます軽薄短小化するのは、もはや現実として受け止めなければならないようだ。
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雑誌廃刊で問われるプレス活動。

2014-04-17 06:35:09 | Weblog
 新年度がスタートしたが、2月に期初が始まるファッション業界は、すでに秋物の企画に入っている。そんな矢先、ギャル系雑誌「小悪魔ageha」などを出版するインフォレスト(旧英知出版)が事業を停止したというニュースが入ってきた。

 昨今、ファッション誌の廃刊は珍しくない。特にヤング向け雑誌はブームに乗じて発刊したはいいが、ものの2~3年で下火になると売上げはじり貧になる。発行部数が下がれば、広告収入も減少していくから、出版社として経営を維持できないという構図だ。

 インフォレストの負債総額は約30億円というから、紙や印刷、物流、販管といったコストがかかる雑誌の存続は、中小出版社には容易ではない。特に若者向けのようなターゲットを絞り込んだマイナーファッション誌では、もうコストに見合う収入は見込めないようだ。

 雑誌は広告収入で運営される。仮にあまり売れなくても、スポンサーが広告を出稿してくれれば、存続は可能だ。また、雑誌にブランド力があり、出版社の営業や広告代理店の新雑担当が「枠」を売りやすく、年契を結べることも条件だ。

 雑誌には「媒体資料」なる営業ツールがある。これに書かれている「発行部数」は、スポンサーにとって広告の出稿か否かの目安になる。そのため、営業担当が広告スポンサー探しに腐心しても、部数が少なければ簡単に広告は取れない。

 まして代理店になると、雑誌の発行部数よりブランド力でスポンサーに勧めることがあり、中小出版社やマイナー雑誌の営業にそれほど真剣に取り組まないことが多い。

 かつて旭通信社(現アサツーディ・ケイ)が扱っていたラグジュアリーブランドの雑誌広告も、数年前からは電通に一本化された。スポンサーにとっても、大手出版社に営業力を発揮し、優良な媒体の枠を優先的に確保できる代理店の方が都合がいいからだ。

 となると、弱小の出版社が発行するファッション誌が存続できる可能性は、ますます低くなっている。これまでは中小のアパレルや化粧品、エステ、健康食品、雑貨などのスポンサーが広告料が手頃だからという理由で出稿してくれていた。

 それが部数が減ってくれば当然、販促には結びつかなくなる。投資対効果が見込めなければ、雑誌に広告を出す意味は無い。かつてはアパレルの広告媒体として権威を誇ってきたファッション誌も、いよいよ限界に来ているようである。

 筆者はファッション関連の雑誌に携わって25年以上。当初はアパレルメーカーが雑誌に載せる「入り広」を制作していた。デザイナーとプロモーションイメージを打ち合わせ、シチュエーションに合わせたコピーを書き、ロゴをレイアウトしたラフスケッチを描く。

 それを絵コンテにしてカメラマンやスタイリストなどを交え、スタジオやロケで撮影し、上がったポジ(写真フィルム)をもとにレイアウトして、版下を作り入稿する。こうした作業の合間に担当営業とファッションについていろんな話をする機会があった。

 身内に洋裁師がいることから生地や付属品といった素資材、既成服のデザインやパターン、マンションアパレルのクリエイティビティについて語った。そこで「そんなにファッションのことが詳しいなら、記事も書きませんか」と言われたのがきっかけで、ルポも書くようになった。

 そして、書いた記事を別の媒体の編集者が見て、仕事の依頼が舞い込んだというわけだ。以来、20数年、ファッション業界関連のいろんな出来事に触れてきたが、幸い外部ブレーンとして参加だったので、雑誌廃刊の憂き目にあったことはない。

 残間里江子氏が編集長を務めた「Free 」のように創刊号の翌月に廃刊するのは例外として、ファッション関連の媒体も明らかにインターネット系のデジタルコンテンツに移行していると思う。というか、レスポンスを見ると、明らかに実感している。

 もちろん、すべてのファッション誌が無くなることはないだろうが、販路を通販メーンにしているアパレル、ターゲットの特性を考えてマーケットを広範囲に考えると、ネットのようにダイレクトに告知、販売までできるメディアは重宝する。

 ここで問題なのは広告料金や制作費だ。雑誌に比べるとネットの広告媒体料は安い。その分、収入も低いわけだから、制作費は潤沢ではない。 昨今、ネットでは「ライティング」や「デザイン」が数多く募集されているが、ギャラは1本数十円から数百円と素人内食の域を出ない。

 筆者はファッション関連メディアの仕事を20数年やってきて、それなりのギャラをいただいてきた。原稿料はネット内職とは2ケタも違う額で、ちゃんと「プロとしての力量」を評価していただいた結果だと思う。

 ネットメディアにおける広告の制作料金は雑誌やグラフィックデザインに比べると、半分から3分の1だ。当然、外部スタッフも雑誌媒体ほどのギャラはもらえないわけで、おそらくプロのスタイリストやヘアメイクは、ネットだけでは食っていけないと思う。

 メディア側はしきりにブランティングだの、ロイヤルティのアップだのを謳っている。しかし、現状のコンテンツイメージを見れば、そんなものは戯言に過ぎない。広告料金を上げる狙いがみえみえだからだ。

 4月に入り、メディアの業界を目指して勉強や就活を始めた諸君は、インフォレストの事業停止のニュースに見るファッション誌存続の厳しさ、一方でネットメディアを取り巻く収入の頭打ちにも念頭に入れて活動すべきだろう。

 肝心なアパレル側はどうか。広告料金は雑誌より安い。ターゲットによっては、適正な媒体だと言える。ダイレクトに売りにつなげることもできる。広告媒体として参入障壁は低いが、その分競合相手も多く、どこまで販促につながるかには?がつく。

 プルメディアとしての発信力はあるが、積極的にプッシュする媒体とまではいかない。ブランドロイヤルティを上げるほどの力にもほど遠い。雑誌媒体が厳しい状況にあるとは言え、ネットメディアが一人勝ちするようなこともないと思う。

 某バッグブランドのように商品の原価率は低いが、雑誌、ネットなどに莫大な広告費をかけてブランドロイヤリティを上げるのは、アパレルの常道とは思えない。商品が上質であるからこそ、バイヤーの目にかない、顧客満足を上げるのである。

 経費よりまず商品づくりにコストをかけるべきなのだ。そこで、資金力に限界がある中小アパレルにとって、プロモーションや営業にどんな媒体を使うかという課題にあたる。マスとソーシャル、プッシュとプル、紙とデジタルの使い分け。プレスにはこうした媒体戦略を考える能力がますます問われている。
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WEARの功罪から学ぶこと。

2014-04-14 16:04:55 | Weblog
 ゾゾタウンを展開するスタートトゥデイが、昨年の10月31日から運用を開始したショールーミングアプリ「WEAR」を4月30日で中止すると発表した。

 開始から4月初めまでのダウンロード件数は、約200万件。3月ひと月だけで利用者数は何と250万人に及んでいる。売りもののコーディネート投稿も、40万件に達したというから、WEARはスマホによる販売起点のイグニションになったことは、間違いないだろう。

 でも、実際の売上げは月間で1億円程度で、業界で注目されたほどマーケットは動かなかったようだ。ゾゾタウンと扱うブランドが競合する百貨店、駅ビル、ショッピングセンターは、ほっと胸を撫で下ろしたのではないだろうか。

 ただ、WEARを含めたオムニチャンネル化は、「デザインし作って売る」といたって古典的なアパレルビジネスをより近代化させるには不可欠である。特に大手セレクトショップがブランド力にものを言わせてSPA化を進め、量産した商品を売り減らすチャンネルとしかEコマースを見ていないのなら、顧客をなおざりにしているように思える。

 これだけ似通ったブランドやショップが溢れる中、作りすぎた服を顧客は高い金を出して買うはずがない。売り側はそうした在庫を捌くために、販売チャンネルを増やすというのも、おかしな話。いくら流通ルートを増やそうとも、売れない商品は売れないのである。

 ゾゾタウンのサイトを見ても、ビルインテナントの店頭を見ても、SOLD OUTの商品に共通するのは、上質でデザインが優れ、こなれた価格。だからこそ、店頭に流れる商品の在庫を最適化し、店頭では秀逸なMDのもとできれいな売場演出をしなければならない。

 売上げを上げるためには販売や機会のロスをなくしたいのはわかる。でも、余分な在庫投入で売場が汚いと店にも商品にも魅力を感じず、お客はドン引きしてしまう。無機質で整然としたラグジュアリーブランドの売場が良いとは言わないが、お客は見やすくきれいな売場で接客を受けるからこそ、買う気になれるというものだ。

 特にセレクトショップが専門店の位置づけなら、きちんと接客して販売し、セット率や客単価を上げるのが本筋だ。だから、大手であればこそ、商品を絞り込んでキレのあるMDを作り上げ、余分な在庫は物流基地にストックすればいい。

 Eコマースを店舗販売との連動ツールとしてオムニチャンネルを進めるなら、実店舗は余分なストックを排除できる。省スペース、省人数で低コストを実現できて、最大の売上げを期待できる意味で、大いに結構なことだと思う。

 もっとも、個店レベルなら、商品は自社在庫で、販売管理も自由にできるから、オムニチャンネル化は進めやすい。ところが、百貨店のように委託販売、あるいは商業ビルのようにテナントの歩率家賃で食っているところは、そう簡単にいかない。

 WEAR中止の背景には、「百貨店やデベロッパーが猛反発した」こともあると、業界では公然の事実として語られている。しかし、これだけインターネットが発達した中で、販売チャンネルを多面的にすることが、売上げを上げる有効な手段であるのは言うまでもない。彼らが自社の利害だけでそれに待ったをかけるのであれば、全くお客を見ていないということだ。




 先日、三越伊勢丹グループ傘下にある岩田屋の「ワイズ」に出かけた。メンズは休止中だから、シーズンデザインや素材のトレンドをチェックするには、レディスを見なければならない。そこで売場のスタッフから、「5階メンズのプロモーションスペースで、ヨウジヤマモトが期間限定ショップを展開している」という話を聞いた。「えっ、聞いてないよ」である。

 ヨウジヤマモトはかなり前に九州から撤退し、ブランドメーカー側の顧客管理ができていないのはやむを得ない。でも、告知は館内ポスターがエスカレーターの壁面の掲示されただけで、サイトにはいくら探しても見当たらない。これではせっかくの休眠顧客を逃し、販売ロスを生むのではないかと思う。

 オムニチャンネル化は、何も販売手法の選択肢を拡大するだけではない。チャンネルが広がることで、店舗販売だけでは捕捉で来ないミニマムカスタマーにアプローチできる機会が得られるのだ。その意味でも、ヨウジヤマモトのような顧客が限定されるブランドこそ、ネットチャンネルの方が捕捉できる可能性は高いだろう。

 駅ビルやショッピングセンターは、テナントの歩率家賃で運営するため、オムニチャンネル化になじまないところはある。むしろ、百貨店は場所貸しの委託販売、消化仕入れにより、自店の売上げを計上するのだから、ショールーミングとEコマースにもっと踏み出してもいいのではないかと思う。

 さらに発展してパリやNYのプレコレクション、あるいはこだわりをもつ国内アパレルの高感度アイテムについて、春夏と秋冬の年2回くらい期間限定ショップをやってもいいのではないか。ネットだけでは購入に二の足を踏むお客も、試着ができれば顧客化される可能性は高いからだ。

 ハコにして常時展開するには売上げが伴わないブランドでも、期間限定の催事ならお客を捉まえる可能性は高いはずだ。NBを中心に毎年デビューするものをただリーシングするだけでは、硬直化したマーケットを活性化できない。

 WEARがスマホによるショッピングの新たなスタイルを創造した点では、「功」である。それを百貨店やデベロッパーが競合相手として「罪」と見るなら、そこから何も学んでいないということになる。

 むしろ、ショールーミングとEコマースをオムニチャンネルと連動させることで、新たな顧客が発掘できると考えるなら、ビジネスは格段に広がるはずである。掘り起こせていない市場、休眠している顧客に目を向ける意味で、業界関係者はWEARから多くを学び、次なる展開を考えなければならないと思う。
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ショーは仕入れの決め手にはならない。

2014-04-07 17:23:38 | Weblog
 「Mercedes-Benz Fashion Week Tokyo 2014-15 A/W」では、東コレデザイナーによる秋冬物のクリエーションを堪能した。でも、今は小売りのMDレベルで盛夏物の手配が終わり、アパレルは秋物第1弾の生産にかかる時期である。

 かつては店頭でも、アパレルの展示会は春夏、秋冬の1回で、期中に修正やフォローをかけていくものだった。ところが、次第にマーケットはアパレルの企画通りには動かず、トレンド変化が激しくなり、半年前に半年後の流行を予測するなど、不可能になってきた。

 そこで、アパレルはQR(クイックレスポンス)なるシステムを投入し、企画デザインと消費者の嗜好の変化を両立させようと腐心し、小ロット・多品種のアイテムを短サイクルで製造するようになった。

 さらに製造から販売までを一貫させて、作って売り減らす効率追及のSPAシステムが登場。SPAは当初、DCブランドメーカーが採用したものだったが、ギャップやユニクロといった小売業も、こぞって導入していった。

 ファッションメディアがこうした技術革新や新しいビジネスモデルを取り上げることはほとんどない。依然として「ファッションの発信基地はパリだ」というスタンスを崩さず、年2回のコレクションが「最も権威あるもの」と信じて疑わないのである。

 というか、それを貫くことが雑誌のロイヤルティを維持し、読者や広告スポンサーを惹き付けるのだから、やむを得ない面はある。でも、バイヤーの間では少しずつ意識変化が生じていった。ショーを見ただけでは、商品を仕入れるかどうかの見極めがつかなくなったからだ。

 バイヤーには、ランウエイを歩くモデルの着こなしを見ただけでは、アームホールや脇つれ、肩線、ウエストラインなどのディテールはチェックはできない。現物の服を触ってはじめて素材感がわかり、試着して着心地や着脱の難しさ、全体のバランスがつかめるのだ。

 筆者がマンションアパレルにいた頃は、レディスなのに実際に羽織って着心地を確認し、姿見に映して見た目のシルエットを確かめる男性バイヤーもいたほどだ。

 店頭で売る商品となると、顧客の好みからサイズまで念頭におかなければならない。せっかくのクリエーションもお客が買ってくれて、始めてビジネスになる。こうした小売りのニーズ、マーケットの変化には、むしろメゾンの方が敏感に反応した。

 ブランドを守る上で、クリエーターは簡単に切れても、職人や加工業者、縫製工場は守っていかなければならない。そのためには膨大なコストがかかる。そこで、取られ始めた手法が「プレコレクション」というショーの前に行われる商品化のための「展示会」である。

 これを実施することで、バイヤーは店頭のMDに則した仕入れができ、メゾン側はシーズンにおける売上げの見通しが立つ。それは「自分の作品を創り、その作品が観客の喝采を浴び、名声を博したい」とのクリエーターの心情も汲みながら、ビジネスに向かせる懐柔策にもなる。

 コレクションがイメージ誇示の場とすれば、プレコレションはバイヤーから受注を取る、商売の場なのである。営業担当者はその会場で、取引先バイヤーの声、情報も収集する。それが企画デザイン、ひいてはクリエーターにもフィードバックされていく。

 すでに世界の3大コレクションの現場では、当たり前のこと。大手ファッションメディアも、大々的に報道こそしないが承知の上だ。でも、ファッション音痴のローカルメディアは、この辺のメカニズムを全く知らず、相も変わらずコレクションだの、情報発信だのと抜かしている。

 東京コレクションが終了した翌日の3月23日、「福岡アジアコレクション/FACo」が開催された。お馴染みの三文タレントを集めた客寄せイベントで、「地元ファッションの発信」を強調するも、ショーの尺が埋まらないため、NBも堂々と組み合わせるまやかしの企画に過ぎない。

 また、タイトルに「アジア」が入っていること、事業モデルを海外でも展開させるための布石から、今回は「タイ」のアパレルを登場させている。主催者側はショーのリリースで、「ファッション雑誌の編集者やバイヤーさんへ」とわざわざ断わった上で、告知したほどだ。

 実際、大手ファッション雑誌が取材に来ていたかはわからないが、地元のフリーペーパーレベルをファッションメディアと呼べるはずもない。そもそもそれらにタイのブランドを論評するような知識もないだろう。いかにもイベント資金を拠出する「行政」にアピールしようという主催者の思惑が透けて見える。

 もっとも、バイヤーを対象にしているのなら、まずは「展示会」を催して商談の機会を設けるのが先だ。商品に実際に触れてみなければ、仕入れに踏み出すことなどできない。その辺に企画の稚拙さ、詰めの甘さというか、ファッションビジネスを完全になめ腐った態度が露呈する。

 「ショーを見ただけでは仕入れの決め手にはならない」は、ファッション業界のセオリーである。平気でルールを破るあの企画運営委員長の御仁と、ファッション音痴のトータルプロデューサー。このお二人がいかに地元ファッション業界に向き合っていないかがよくわかる。
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1,000円商品券の背景にあるもの。

2014-04-04 16:53:29 | Weblog
 先日の夕方、久々に友人が事務所にやってきた。いつもなら政治に始まり、経済、地元の景況の話になるのだが、その日は来る途中にビームス福岡店に寄ったようで、オレンジの紙袋を持っていたので、ファッション談義に終始した。

 筆者は近くで仕事をしているので、よく店の前を通るがビームスの店内を覗くのはシーズンに1度くらい。数年前、亡くなった藤巻幸夫氏にも店舗でお会いしたが、その後に訪れたのは数えるくらいしかない。

 仕事柄、チェックを欠かさないレディスも、売場が天神イムズやアミュプラザ博多に移ってしまったため、そちらに出かけた時くらいしか見なくなった。個人的にもアメカジ嗜好ではないため、セレクトで買い物することは全くない。

 ただ、雰囲気としてビームスに感じるのは、以前よりは客足が減ったのではないかということ。自店舗の増加、オンラインショップやアウトレットの展開、競合店やユニクロなどの台頭etc.。要因をあげるとキリがないが、一時の勢いをなくしているのは間違いないだろう。

 試しに友人に「お客さん、多かった?」と聞くと、「いや、2階は俺1人だった。スタッフが2名、暇そうだった」との答え。平日の6時過ぎ、繁華街の天神や西通りから少し離れているとはいえ、歩いても5~6分の距離。それでも、お客がいないというのは、客足はかなり遠のいているということである。

 それを裏付けるわけではないが、友人は「2アイテムで2万円強の買いものをし、1,000円の商品券を2枚くれた」と、「BEAMS お買い物券」と書かれたホログラム付きチケットを見せてくれた。目を見張ったのは商品券の利用条件である。

 通常、紳士服量販店などが発行する商品券は、スーツ等の買い取りなどのキャンペーン時に渡される。シャツなど3,000円以上のアイテムを購入する時に1枚ずつ使えるような感じだ。 利用条件は非常に厳しく、商品券というより割引券で、大してお客にメリットはない。

 カジュアルチェーンでは、ポイントやスタンプのカードで500円以上買い物すると、5%のポイントがつく程度。デベロッパーが半期に1度行う10%オフやポイント還元などもあるが、これはハウスカード会員限定や入会キャンペーンを兼ねている場合が多い。

 ところが、ビームスの商品券は利用期間こそ4月1日~5月31日の2ヵ月間だが、購入客なら誰でももらえて、使える価格に規定はない。1,000円以下の商品ではもちろんお釣りは出ないが、千数十円の商品なら差額の数十円を払えばいいだけだ。2枚あると2,000円分として使えるので、お客にとっては非常にありがたい。

 おまけに友人は「ビームスクラブ」というポイントカードも持っているため、こちらのポイントも付き、年間の購入額に応じて3%以上の還元があるという。顧客にとっては、お得な買いものができるということである。

 一方で、1万円の売上げで1,000円の商品券が確実に使われると考えれば、その分、利益率は下がることになる。ビームスのようなセレクトショップの荒利益は、仕入れ商品で35%~40%くらいだろう。これで10%の値引きと3%の還元は決して小さくない。

 逆に商品券を発行したが回収率が悪いと、今度はリピーターに結びついていないことになる。顧客や一見客の購買レスポンスがどれくらいかはわからないが、印刷費用もかかっているわけだし、半分以上は使ってもらわないと、投資対効果は良くないと言える。

 ファッションビルや百貨店、SCで、どのくらいのポイント還元や商品券発行がなされているか、その実態はつかめていない。ポイントサービスは、販促の手段として非常に奏功していると聞くから、やはり「支払い金額」に対して大半の消費者は敏感ということだ。

 加えて、業界全体がオーバーストアの競合状態であることを考えると、割引販促はかなり常態化してきていると思う。この傾向はお客にとってはありがたいことだし、ポイントや商品券を上手に使えば、賢い買いものができるのは言うまでもない。

 ただ、各店がポイントサービスをしている状況で、一人勝ちするために割引や還元の比率をアップすれば、それは自分で自分の首を絞めることになるから、横並びがいいとこだ。でも、あのビームスがお買い物券を発行しても、お客は多くないのだから、リピーター化はそれほど容易ではないことになる。

 むしろ、Tポイントカードのように異業種・業態横断型の方が、その人間のライフスタイルで購買を区切ることになり、単独の割引よりも多少の販促効果は上がるかもしれない。

 購入履歴の分析は難しくなるが、今後はJR東海のSUICAや西鉄のNIMOCAのようなカードが全国で使えるシステムにしていくことが重要になっていくと思う。アマゾンや楽天といったネット通販に対抗するにも、リアル店舗の全国連携を抜きには考えられないからだ。

 もっとも、ファッションに投資する側の身になって考えると、どうだろうか。もう商品券をもらったから、ポイント還元があるから、セールが前倒しされるからと言って、簡単に購入する気になるとは思えない。

 別にお金が無いわけではない。そこまでされたところで、ちまたにあるアイテムにそれほどの魅力、価格に対する価値を感じることがほとんど無いからだ。リピーターや顧客の囲い込みはそう簡単ではないのだ。

 これは筆者だけでなく、DCブランド世代の多くの大人が感じていると思う。もっとお金を出していいから、感性にグッとくる商品の登場を願うばかりである。
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