HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

マンションも中古人気。

2017-12-27 05:35:17 | Weblog
 生活の基本は衣食住である。しかし、衣服が売れないのだから、雑貨や食に活路を求めるしかない。でも、それが一通り浸透すれば、住空間の攻略に移るのは順当なところだ。SPA化したアパレルや小売りで店舗デザインまで手がける企業が住空間のマーケット開拓に可能性を見い出し始めたようである。

 セレクトショップのユナイテッドアローズが来年1月からマンションのリノベーションサービスを開始。中古マンション再生を手掛ける「グローバルベイス」と組み、内装デザインや家具などユナイテッドアローズ(UA)がプロデュースした物件を販売する。

 題して「リ・アパートメント・ユナイテッドアローズ」。ユーザーが好む間取りや仕様にカスタマイズする上で、UAが内装をプランニング。ビューティ&ユースなどを手がける店舗開発のスタッフが関わり、リノベーションに店の床材や壁のタイルの意匠を使うほか、クローゼットやテーブル、収納にも店舗什器のデザインを流用するという。

https://senken.co.jp/posts/unitedarrows-globalbase-reapartment

 リノベーションではすでに無印良品が自社の家具や収納用品を活用し、老朽化した公団住宅の内装を一新して若者にルームシェアとしての利用やヤングファミリーに住んでもらうプロジェクトに参画している。UAのケースは物件がURの団地から民間のマンションに変わっただけで、進むベクトルは共通している。店内の什器や収納などセレクトショップのテイストを持ち込み、物件ごと販売する点では、一歩進化したと言えるだろう。

 住空間の商材には家具やインテリアがある。雑誌の定番企画でもあるが、販売される商品やその組み合わせ、読者が自らコーディネートした部屋を公開する程度に過ぎなかった。建築家向けの専門誌ではリノベーション特集はあるものの、気軽にできることではないため、一般誌のブルータスやカーサでさえ過去に何度かしか取り上げていない。

 家具というカテゴリーに限れば、かつての婚礼用に代表されるように一度購入すると一生使う物との感覚で、それが高価格、高荒利のビジネスモデルを支えていた。ところが、家族構成やライフスタイルの変化と中間層の没落で、このビジネスも成り立たなくなり、都市部近隣の家具店はほとんどが閉店を余儀なくされている。

 何とか頑張ってきた大塚家具もお家騒動を理由にするまでもなく、今のライフスタイルにあった家具やインテリアを揃えきれていないようで、業績の低迷に歯止めがかからない。代わって無印良品をはじめ、イケアやニトリを中心に低価格業態が攻勢をかけ、雑貨・インテリアのショップも低迷するアパレルの補完業態として、駅ビルや郊外SCに好んでリーシングされるようになっている。

 だからと言ってプレステージ、高価格、さらに高感度を志向するマーケットが無くなってしまったかというと、そんなことはない。家を建てれば良い家具を揃えたいし、マンションに住めば収納は必要でなくとも、テーブルやソファ、ベッドは不可欠になる。

 お客の側からすれば、ニトリが販売するようなフラッシュ加工の家具では、どうしても安っぽさは否めない。10年、20年と使うのならそれなりの強度と品質、感度を求めてしまう。それは一戸建に住む人間だけでなく、都市生活のマンション族だって同じはずだ。

 アクタスやカッシーナIXC、ボーコンセプトなど、海外ブランドの高級家具やスタイリッシュなインテリアを扱う業態もあるにはあるが、家具店は最低でも200坪以上のスペースを必要とするため、家賃が高い都市部での展開は難しい。東京駅前の新丸ビルにはコンランショップが出店しているが、セレクトショップの枠内で収められているので商品の絶対量が少ない。

 ライフスタイル、住空間に投資したい客層が仕事帰りに気軽に覗けて、商品を見比べて検討できる中価格帯以上、高感度、スタイリッシュな家具店、インテリアショップは極めて少ないのが現状だ。だから、こちらもネット通販で探すしかないのだが、服や雑貨と違って実際に現物を見てみないと、間取りやレイアウト、ライフスタイルに合うかどうかの感覚はつかみにくい。これも消費者心理なのである。

 需要が限られ、マーケットが小さいから、都市部に独立した店舗を構えてもなかなかペイしないのはわかる。大塚家具の業績を見れば厳しいのは一目瞭然だが、ニーズはあるわけだから角度や視点を変えた戦略が必要なのだ。そこにUAが目を付け、リノベーションという側面から市場開拓に挑むのである。

 話は少しズレるが、先日、地元の中堅ゼネコンからグラフィック関連の仕事を受けた。そこの担当者が仰るには、「建設業界は3Kや談合のイメージから若者の新規就業者が減っており、熟練工の高齢化で人手不足も深刻化している。そのため、国交省が主導するi-コンストラクション、情報化施工におけるマシンコントロール技術などの省力化・標準化で対応し、技術面では工場であらかじめ組立てた部材を利用したりして、省工数化や工期短縮を進めている」そうだ。

 また、担当者は「今後、民間のビル、マンションの新規建設は人口減少で少なくなるため、代わって既存の建築物のリニューアルがゼネコンのメーン業務になっていくだろう」とも言われていた。地震が頻発しているので軀体の耐震補強はもちろん、外窓を復層ガラスに入れ替えたり、内装では古い壁側のキッチンをアイランドに変える(階下の住人から水音でクレームがくるかもしれないが)なども増えて来そうだ。

 一方、プロモーションに携わるマンションデベロッパーの話では、キッチンに備え付けるガスコンロを使いやすくするためにバーナーの配置を決めたり、ウォークインクローゼットを部屋のどこに備えるかなど、女性の感性を生かすことが売れる条件(資産運用型賃貸含む)になるケースが増えてきているという。この会社では社内の女性スタッフによるチームを編成し、新規物件の企画では必ず彼女たちの意見を反映させるようにしている。

 先日、首都圏では来年度もマンション発売が4.4%増加するとの報道があった。地方都市である福岡市も人口増加によるマンションの建設ラッシュで、平均地価は対前年比で10.84%も上昇し、資金力に限界がある地元資本ではなかなか新規物件の建設が難しいと言われている。そのため、今後は物件の転売はもとより、賃貸用でも中古マンションのリノベーションは増えていくと思われるし、女性チームの参画もありうることだ。



 つまり、UAはビジネスで先行するゼネコンなどと対峙することになるわけだ。リ・アパートメント・ユナイテッドアローズでは、マンションの間取りや仕様にカスタマイズを施すとは言うものの、施工では畳をフローリングやシャギーに張り替えたり、押し入れをクローゼットに作り替えたりが主力になるではないか。その程度なら店舗で使っている床材や壁のタイルの意匠、収納にも店舗什器のデザインが生かすことができるからだ。

 詳細がわからないのでそれ以上は何とも言えないが、UAだけのノウハウではキッチンや浴室、トイレなどの水回りには踏み込めないと思う。あとは顧客の要望次第だが、提携するグローバルベイスの助けは借りないと、本格的なリノベーションとしては片手落ちになってしまう。

 マンション自体の価格を除いた「デザイン料込みのリノベーション費用は1200万~2000万円程度」というから、決して安くはない。地方では中古マンション1軒が買えてしまう価格だ。ただ、服が売れなくなっている中で、上場企業としていかに売上げを伸ばしていくか。1000万円以上する高単価の「サービス商材」も手がけて市場を開拓しないと、売上げの伸長はもちろん、株主や投資家の賛同は得られないとの思いもあるだろう。

 それに加え、トラッドショップをベースにストリート感覚も取り入れながら成長してきたUAのブランド力やテイストは、多くの顧客に浸透している。上質な服を購入してきた大人の顧客は、チープな家具やインテリアでは決して満足しない。そんな潜在需要があることもUAはつかんでいるはずだ。

 既存の家具店やインテリアショップが思うようにマーケットを攻略できていない点を考えると、ファッション、セレクトショップの店づくりから住空間の演出にアプローチできるUAには、有利に働くかもしれない。先行するゼネコンやマンションデベロッパーは、大したことはないと思うのか、多少は意識していくことになるのか。どちらにしても、リノベーションという市場が活性化するのは良いことである。

 ビジネス自体のポテンシャルはどうだろうか。若者がネットオークションやメルカリで、中古の衣料を気軽に売り買いしていることを見れば、住宅市場でも中古販売が広がってもおかしくない。中古ブランドを気軽に購入する若者が住宅を手に入れる年代になれば、中古のマンションであっても決して引け目に感じないはずである。

 ただ、今でもネットオークションやメルカリの商品写真を見ると、時々、圧倒的人気を誇る某ブランドがアパート風の鴨居にハンガー掛けで撮影されたり、畳の上で置撮りされていたりする画像を見かける。そんな出品者に限って「金欠によりやむなく出品します」というコメントが付され、興ざめすることがある。

 「ブランド品がインスタ映えするまともな部屋に住めよ」と、突っ込まれそうな感じもするが、UAとて、自社の中古品がそんな売られ方をされているのを見るにつけ、ブランド力の陳腐化は否めないと感じるのではないだろうか。それはゾゾタウンがユーズドの販売において自社で商品写真を提供したことも、バランドバリュを守りたい意図では共通する。

 UAはセレクトショップの展開当初から、日本のファッションについて「アイテムを『こなしている』かどうかとなると所有しているに過ぎないと思う。『着こなし』や『暮らしこなし』という面では、まだ地に足がついていない。ブランドに振り回されているようでは、本当の豊かさとはいえない」と、訴えてきた。

 その意味では住生活においても、中古マンションをきちんとリノベーションした部屋で「暮らしこなす」ことで、UAが販売するファッションアイテムも生きる。リ・アパートメント・ユナイテッドアローズの根底には、そんな思想があるような気がする。

 もっとも、リノベーション費用にマンションを足すと、物件価格は数千万円にも及ぶ。 ローンの支払いに追われ、働くばかりで自宅でのライフスタイルが楽しめない。リ・アパートメント・ユナイテッドアローズで手に入れる中古マンションは、くれぐれもそんなことにならないようにしたいものである。
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手段ではなく目的?

2017-12-20 07:14:04 | Weblog
 三越伊勢丹がセール戦略を転換した。2012年の夏から後ろ倒しにしていたものを今冬からは1週間早めて1月4日から行うという。正月3カ日は店休日にするという案も出ていたが、それは行わず初売りは3日から(三越日本橋店を除いて)。3日は福袋やお節に飽きたお客に食品などを販売し、翌4日から一気に冬物のクリアランスを行うようだ。

 他の百貨店ではそごう・西武が元旦から、大丸松坂屋、高島屋は2日からだから、他社より2日遅いが、 三越伊勢丹にしか置いてないブランドがあり、お客はそれらを目当てにセールにやってくる。

 現に今夏のセールでは、三越伊勢丹は他店より約2週間遅れの7月12日がセール突入だったにも関わらず、夏物衣料や子供服をまとめ買いするお客や、コムデギャルソンなどのデザイナーブランド目当てのファンが殺到。集客力とセール時期はあまり関係ないことが証明された。

 年末の今、お客のテンションは完全にセール待ちだ。すでにネットではクリアランスがスタートし、ショップでもシークレットセールを行っている。「時期を遅らせてプロパー販売の期間を長くする」と、大西洋元社長が言い放った大義なんて、ほとんど無意味と言っていいだろう。

 回転の鈍い商品をいかに消化して現金化するか。あるいは売上げを上積みして資金繰りに目処を付けるか。厳しい経営環境に置かれている百貨店にとって、セールの後ろ倒しはそれだけキャッシュフローの時期を狭めることになる。賢明な経営者ならセール時期を他社より数日ずらしたにしても、消化期間を確実に確保する方が得策だと考えてもおかしくない。

 現実問題としてはセールを起爆剤にして、セール対象外の商品や梅春の先物など、プロパーの販売に力を入れた方がいい。店頭で秋冬の持ち越し在庫を見て意外に興ざめするお客もいるし、ついで買いと思っていた食品やワインの方に目が行って買ってしまうケースもあるだろう。バレンタインまでのつなぎで、デパ地下に期待した方がよほど現実的ではないだろうか。

 プロパー時期ですら閑散としている百貨店系アパレルが30〜50%オフになったところで、お客にはそれほど魅力的には映らない。売れ残った2万円の商品が1万4000円に値下がりしたとしても、購入するには大枚をはたかないといけないのだ。賢いお客がそう簡単に財布の紐を緩めるとは思わない。

 実店舗だろうと、ネットだろうと、お客にとって魅力的な商品のプロパー消化率は総じて高い。パッと見でいい商品は完売しているケースが多いのだ。それが期中に少しでも値引きされるとなおさらだ。ファッション衣料は値下がり傾向だし、クリアランスまで待って買い逃すより、今買っていた方が後悔しないで済むというのは世界共通のメンタリティなのである。

 だから、売れていない秋冬物を次のシーズンまでタンスに寝かせて着ようというテンションにはなりにくいと思う。合理的な考え方を叫ぶなら、低価格のファッション商品をワンシーズンで着崩した方がはるかにいいのだから。

 全てがそうだとは言わないが、魅力的な百貨店系アパレルは、プロパー消化率も良いはずである。お客は通販サイトなども並行してチェックしているから、売場に出かけなくても、同じ商品の回転や売れ行きの動向は把握している。「これは今が買い時」「様子見しよう」と、賢い買い物をしているのである。

 つまり、プロパー販売で売り切っていれば、それだけセールにおける目玉商品が少なくなる。お客のハートを狙い撃ちする「弾」というか、有効打が少なくなれば、売上げ増という勝利も厳しくなる。メーカーさんの話によると、お客の買い控えを想定して企画していると言うから、全体的に市場に投入される数量は抑制気味だ。

 セールにかける魅力的な商品も、今回辺りは不足しているのではないだろうか。それでも、百貨店側からセールの体裁を整えるために、セール用の委託商品を求められているようで、これではSPA化しているセレクトショップと何ら変わらない。セール専用品が売場に並べば、なおさらお客にとっては買う気を削がれてしまうかもしれない。まったく悪循環なのである。

 30年以上前、雑誌アンアンのタイトルにこんなものがあった。「とうとう、バーゲン」。当時はデザイナーブランドの全盛期だったし、商品はほとんどが国産で、生地や素資材のレベルもそこそこ高かった。ジャケットで5万円、セーターで2万円程度はしていたから、いきなり50%オフはお客にとって相当に魅力的だった。

 デザイナーブランドは、雑誌メディアにとっての重要なコンテンツだったし、ファッションビルや百貨店にとっても、デザイナーブランドのセール品は集客、売上げに欠くことのできない商材であった。だから、ブランドメーカー側に値下げ圧力がかかっていたのも事実だ。

 しかし、ブランドメーカーの経営者の中には、「出版社や出店先はそう言う(セール要請)けど、このままではプロパーで売れなくなる。戦略を練りなおさないと」と、危機感を抱いていた方もいた。結果的にDCブームが去って、今では衣料品自体が値崩れしているのだが。ただ、セールを「目的化」するのは明らかに間違っている。あくまで「手段」なのである。

 ファッション業界誌に執筆していると、過去には何度か編集者から「専門店のセール手法」についてルポをまとめてほしいとの依頼を受けた。ただ、アポ取りの段階で取材先に「セールは店が勝手にやっているだけ。お客さんには関係ないこと。特にプロパーで買っている人には」と、言い返されたことがある。

 やはり、メディアやディベロッパー(百貨店含め)はセールを飯のタネという目的化しているような感じで、メーカーや小売りが考える手段との乖離を感じてしまう。

 今冬のセールは三越伊勢丹が時期を通常に戻したことで話題になった。その結果が好調、不調だろうと、お客にとって魅力的な商品が少ないことは続いたままだ。これにはメーカー側にも責任があるのは言うまでもない。目に見えた景気回復、個人消費の旺盛さはないにしても東京オリンピックを控え、国民が長期的な希望を持ちやすくなったことから、景況感は改善しつつある。

 ただ、ファッション業界、小売業、特に店舗販売は若者が敬遠する傾向が強くなっており、全国的に人出が不足している。五輪特需の景況感は一時的に過ぎず、商品面の課題が業界にもたらす閉塞感は続いたままだ。セール結果の良し悪しではなく、抜本的、構造的な問題に踏み込まなければ、何の解決にもならない。

 三越伊勢丹のような場当たり的な施策をとったところで、自社はもちろん、瓦解始めている百貨店業界自体にとっても、何の効き目もないような気がする。

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店に代わるもの。

2017-12-13 05:24:21 | Weblog
 店舗でのショッピングに関心がなくなったわけではないが、身近に買いたくなるような商品が並んでいないこともあり、どうしてもネット通販の話題には敏感にならずにはいられない。だから、ヤマト運輸が「通販の試着ができるサービスを始める」との話題にも即目が止まった。

 来年1月から東京JR大森駅ビルのアトレで実証実験を始めるというから、「いよいよ来たな」という印象である。このサービスはヤマトが売場の一部を借りて、無料の試着室を設けるもので、すでに三陽商会や靴専門店のかねまつなど数社が参加することが決まっている。18年度中にアパレルなど約40社に増やし、複数の駅ビルで展開する考えもあるという。

 ネット通販で衣料品や靴を購入する場合、試着できないというネックがある。これは当初からずっと指摘されてきたことだし、筆者も商品によっては試着は購入条件として決して譲れない点であった。

 ただ、通販事業者の多くは、それよりもブランドの拡販や市場拡大の方を優先し、根本的なテーマに対する解決策は後回しにしてきたのである。具体的なデータは分らないが、通販を利用するお客の大半が試着よりも「購入」を優先することから、事業者は「返品」を受ければ問題ないというスタンスでいたのだと思う。

 ところが、返品自由は逆に配送業者を疲弊させ、配送料値上げに追い込ませるという皮肉な結果を生んだ。通販事業者の中には、「届いた日から30日間返品OK」などサービスをエスカレートさせたため、返品された時点で再販できなくなっている商品も増えている。返品自由はかえって商品ロスを増やすという負のサービスでもあるのだ。

 どこもかしこもネット通販に参入すれば、サービス競争が加熱するのは言うまでもない。それが配送料の値上げや返品ロスに発展したのであれば、それを解決する新たな施策が生まれるのは当然のことだ。ビジネスモデルに完璧なものなどあり得ないわけで、効率を追う限り競争は止めどなく起こり、新たな施策を打たなければ勝ち目はないのである。

 では、試着サービスをいったいどこがやるべきなのか。これについては、 小島健輔氏がだいぶ前から提唱していらっしゃった。「返品率はどこまで上がるの?」http://www.apalog.com/kojima/archive/1934「コンビニからTBPPへ」http://www.apalog.com/kojima/archive/1935 

 同氏曰く、「『オムニチャネル化が進めば、店舗にEC同様な利便、ECに店舗同様なサービスが求められるようになる』と幾度も指摘して来たが、『試着して選ぶ』という店舗同様なサービスがECに求められるのは必然かも知れない。「ロコンド」は『買ってから選ぶ』と謳うが、『買ってから選んで返品』すれば‘返品’だが、『選んで買って残りは返す』なら‘返品’ではなく店舗販売同様な選択に過ぎないのではないか。
 この話がピンと来ないのは、『試してから買う』という‘通販商品お試し受け取り所’(Try Buy Pickup Point)が我が国にはまだ存在しないからだろう。返品が‘常識’になる近い将来、この「TBPP」が普及していないとEC事業者は再販不能な返品商品で経営が圧迫されてしまう
」と、警鐘を鳴らしておられた。

 さらにこのTBPPについては、「「TBPP」専門店には幾つかのアプローチが考えられる。最もストレートなのはアマゾンやスタートトゥデイがショールーム兼「TBPP」として直営するもの、あるいはコンビニのパンクで困る宅配会社が自ら設けるもので、ヤマト運輸はSCなど商業施設内に多店化している「宅急便サービスカウンター」を機能拡張すればよい。家電の設置・設定・修理まで代行する部隊を抱えているのだから、衣料品や靴のフィッティングや修理加工まで手掛けてもまったく不思議は無い。スペースに余裕があるロードサイドでは紳士服店やジーンズカジュアル店はもちろん、ブックストアやCDレンタル店なども挙って進出するだろう」とも、語っていらっしゃる。

 結局、ヤマト運輸は宅急便サービスカウンターではなく、駅ビルに独立した「試着室」をつくり、通販事業者からは商品代金の一部まで手数料として受け取るスタイルに落ち着きそうだ。消費者とっても駅ビルなら仕事帰りに気軽に寄れるし、店舗のように接客を受ける煩わしさもない。

 もちろん、「試着」できることで、 ネット通販の商品でも素材感や色、サイズをはっきり確かめられるのだからこの上ない。気に入らなければ買わずに返せばいいわけだから、販売スタッフに接客を受けた時のような後ろめたさも感じないはずである。

 ネット通販がここまで浸透し、サービス競争が激化すれば、店舗に代わるこの手の業態が求められるのは当然だろう。差別化のために参加するネット通販事業者は、相当増えていくのではないかと思う。ブランディングだの、WEBデザインやコンテンツ作りだのばかりを強調されていたEC礼賛の諸兄は、店舗と同様の「試着」サービスが求められてきたことについては、どうお考えなのだろうか。

 まあ、この手の実店舗ライクなサービスが返品自由による商品の劣化、再販不能もなくして経営圧迫を解消していくのは間違いないから、もう少し早くからネット通販、ECビジネスの俎上で議論されるべきではなかったかと思うのだが。
 おそらくネット通販で遅れを取る企業が先にこのサービスに乗っかるだろうから、Amazonはもちろん、ヤフー、楽天はいったいどうするのか。最終的に当たり前のサービスになっていくとするなら、出店場所はどこがいいのだろうか。都市部なら駅ビルでいいが、地方ならショッピングセンターになるかもしれない。スポット的に商店街の一角やスーパーの一部でも展開が可能かもしれない。

 そうなると、閉店の影が押し寄せている地方百貨店が参入できるかもしれない。ここ1年で大手百貨店の地方店は次々と閉店している。ざっと見ても、今年だけで西武八尾店、西武筑波店、三越千葉店、三越多摩センター店、堺北花田阪急と、5つの地方百貨店が閉店した。そごう神戸店、西武高槻店については、今年10月にエイチ・ツー・オーリテイリングに譲渡されたし、来年の春に向けても西武船橋店、西武小田原店、伊勢丹松戸店の閉店が決定している。

 閉店した三越千葉店の昨期の年商を見ると、地方百貨店のペイラインは150億円くらいではないだろうか。三越伊勢丹の大西洋元社長と言えど、売上げ回復の手段としては旅行やブライダルとの提携くらいしか打ち出せなかったのである。後任の杉江社長とて、リストラ策以外では、日常性を前面に出したMDや上質な商品やサービスといった漠然とした政策しか語れていない。 既存店と言えども相当に厳しいと思われる。

 そう考えると、ネット通販がこれだけ浸透したのだから、 閉店した百貨店跡地の利用では試着サービスの業態を出店させて、百貨店が運営してもいいのではないかと思う。できるできないは別にしても、一考の価値は十分ありそうだ。ただ、個人的にはネット通販市場をもう少し細かく分析し、アドバンスドの層を開拓するサービスもあり得ると思う。

 インターネットは世界中を情報網で繋ぎ、そのコンテンツとして商品が流通することで、通販市場が拡大していくというのが表向きのメソッドだ。しかし、そうは言っても、サイトに掲載されているすべての商品が世界中で購入できるわけではない。クレジットカード指定、国家、エリア、配送先限定等々、まだまだ制約は少なくないのである。

 ネットユーザーだって購入時には為替の変動を頭に入れているから、.jpを含めてどこが得になるかは考える。だが、欧米のサイトにあるような高感度な商品になると、諸外国では購入できないものが少なくない。例えば、Amazonでも.comではOKだが、.frや.ukでは無理という商品もあるし、端から.frや.ukでは購入できる国、配送のエリアを限定しているのもある。

 ブランドのサイトに直接アクセスしたにしても、クレジットカード指定、購入・配送先が限定されたりと、日本では購入できないものも多い。そんな商品に限って魅力があるものは少なくないから、消費者のストレスは計り知れないと思う。

 まあ、中小の購入代行業者も少しずつ増えてきているが、まだまだ法外な手数料を取られるし、企業数が少ないことで競争原理が働かず、フィーへの値下げ圧力もかからない。現地在住の日本人などにアルバイト程度でバイイングやオーダーを依頼しているようで、中には商品・サイズの違いや破損などのトラブルが発生するため、新規客を受け付けないところもある。

 お客は店舗に並ぶ商品に満足できないとか、地方百貨店が次々に閉店して高級、高感度なブランドが地方では購入できなくなっているとかの理由から、ネットで商品を探さざるを得ないのである。今後もそうしたアドバンスドな市場が拡大していくことを考えると、大手百貨店が地方店舗を閉店した後の受け皿としてこうしたサービスに参入してはどうかと思う。

 大手百貨店は世界中に駐在員を派遣しているし、現地の店舗に並んでいる商品ならその目で確認できる。同じ商品がサイトに掲載されているのならもちろん、ネット限定の商品も小売りを担うものとしては、お客ニーズに添う上では徹底してチェックしておくのは当然のことである。

 結局、百貨店のスタッフがビジネスとして購入すること自体は難しくないと思う。通関や配送の問題もあるだろうが、慣れればそれほど障害にはならないはずだ。後は購入した商品を受け取り、保管し、日本へ配送するスポットを確保すればいいだけである。まあ、さすがに試着、返品まで受け付けるかどうかはケースバイケースと思うが、注文代行、購入代行なら直ぐにでも参入できるのではないだろうか。

 EC、ネット通販がここまで身近になったわけだから、ビジネスの方向も進化していくのは自然な流れだ。それさえ煩わしいと考えるのなら、百貨店はEC、ネット通販から完全に置き去りにされるであろうし、高齢化した顧客とともに座して死を待つしかない。

 今でも百貨店の価値は「暖簾」であり、「信用」である。外商の力も十分にある。どこの馬の骨ともわからない事業者に購入代行を頼むくらいなら、百貨店の方が安心できるおいうお客は少なくないはずだ。中小零細の事業者しか参入していないのだから、十分に競争力を発揮できると思うし、参入することでネット通販市場を活性化できるかもしれない。お客が「欲しい商品、好きなブランドなら、高くても手に入れたい」ことを何より理解しているのは百貨店だろう。

 とても試着サービスや注文・購入代行で収益が拡大できるとは思えないが、既存のインフラを有効に活用できる点では十分に検討の余地はあると思う。百貨店は口先やコピーだけで世界中からブランドを集めたなんて語るのでなく、お客が本当に欲しい商品の購入を手伝う方が理にかなっているのではないか。

 日常の買い物、生活に必要な生鮮食品や食材、日用品は既存のスーパーはもちろん、ドラッグストア、ディスカウントストア、そして専門店で十分購入できるし、それにさえネット通販事業者が参入しようとしている。ならば、逆にそうしたカテゴリーを超えたアドバンスドな市場を狙わないと、ネット通販でも全くもって百貨店の存在価値はなくなる。もうブランドを争奪する時代ではないのだから。

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アイテムに見る人間性。

2017-12-06 05:20:57 | Weblog
 フリーでファッションやグラフィックのデザインに関わると、裾野に広がる関連業界のいろんな人間と知り合う。生地や材料の業者、工場、もちろん紙の商社や資材のサプライヤーまでいろいろだ。ところが、ITがビジネスに浸透して以降は、その顔ぶれもずいぶん変わってきた。

 アパレルでは異業種から参入してきた人であったり、グラフィックでもペーパーレスのデジタル関係者であったりする。そうしたベンチャー系の人々は、ビジネスの新しい可能性を探るべく、やたらコミュニケーションの場を持ちたがる。「今度、懇親をかねてセミナーを開きますんで…」と、もろ参加要請を臭わしてくる御仁もいる。

 行政や関係団体が企画したイベントに乗っかる場合もあるし、元締めのような会社が開くセミナーや勉強会もある。そこには少しでも取引先を開拓したい、自分の名前を売り込みたいなど、いろんな思惑の人々がやってきているが、どこまでビジネスに繋がるかは懐疑的だ。結局、お金が落ちるのは会場や飲食業者というのはハッキリしている。

 講演会やセミナーについては、フリーになって仕事で世話になった人からも、過去に何度か参加依頼が来ている。自分が興味をもったテーマなら、時間を作ってカネを出してでも行きたいが、そんな誘いに限って気乗りしないものばかりだ。まあ、無碍に断るわけにも行かないので参加するケースもあるが、中にはドイヒーなものもある。

 「ファッション業界誌にも執筆しているなら、役立つ話だと思うわよ」と、アパレル時代の女性上司から請われたセミナーがあった。全国5〜6カ所で開催し、福岡でもあるから、ぜひ参加してほしいとのことだ。テーマは「流通関係」というだけで、詳しい内容は聞かなかったが、入場は無料だったので時間の都合を付けて出かけてみた。

 会場は中心部の天神から少し離れた雑居ビル。参加者は口コミで集められたのだろうか、子連れの主婦やセミリタイアした人々たちが50名程度いて、スーツ姿のビジネスマンはほとんど見かけなかった。講演者は元グラフィックデザイナーの男性で、年齢は40歳手前くらい。今は転職したビジネスで大成功をおさめているという。

 話の脈略はデザイン専門学校を卒業後、デザイン会社に勤務していたことに始まり、残業ばかりの割に給料はもの凄く安く、これでは将来の展望が開けないと感じたと続き、自分で事業を興そうと思い立ったという流れに帰結していく。

 そこまではよくある話だから何ら問題はなかったが、話はとある商品との出会い、その商品の良さに惚れ込むうちに、それをいろんな人に勧めたくなったと、続いていく。ここまで来ると、「ああ、これはマルチまがいの商法への勧誘だな」というのは、だいたい想像がついた。

 元グラフィックデザイナーは、デザイン会社勤務時代には月に20万円ももらえなかった報酬が、この商品を売るようになっていきなり1ヵ月で50万円を超えたと豪語した。多い月には200万円を超え、少ない月でも100万円は下らないと捲し立てた。その後はお決まりの流れになっていったので、これ以上書く必要もないと思う。

 話の真偽は別にどうでもいい。ビジネスだから成功する人もいるだろうし、美味い話に騙されて酷い目に遭う人もいる。そんなもんだから、セミナーの途中からは胡散臭い話に耳を傾けるより、元グラフィックデザイナーの格好をじっくり観察することにした。



 少し長めの髪に、白のシャツとベージュのチノパン、靴はレザーのスニーカーらしかった。元職とは言えグラフィックデザイナーとしてはごくありがちな格好で、とてもセンスがいいとは思えない。ただ、身振り手振りで話すので、袖口からはちらちら時計が見えていた。当時、流行っていた高級時計の「パネライのよう」だった。

 筆者は時計に詳しいわけではないが、当時のファッション雑誌には頻繁に露出していたので、直ぐに「ルミノールマリーナらしい」と気づいた。元グラフィックデザイナーが付けていたのはクロコベルトだったから、本物なら価格は50万円以上する。月額の報酬が100万円を下らないのだから、パネライくらい買えるのは、何ら不思議ではない。

 でも、高級時計を身につけている割に着ていたシャツやパンツはあまりに安物だった。特にシャツは生地に張りがなく、型くずれしていた。仕立てもあまり良さそうではなかった。パンツも脇ポケットの縫い合わせ部分が擦れて毛羽立っていたので、良い生地ではなさそうだ。スニーカーもアッパーのレザーが擦れて、ところどころ色が剥げていた。

 50万円以上もする時計の割に、身につけているアイテムはどれも見窄らしかった。「今どき、ユニクロだって、2〜3年着てもここまでならないぜ」「いったい、どこで買ってんだろう」と、話の内容もそっちのけで、しばらく着ているアイテムばかりを注視していた。

 この御仁はあまりファッションには興味がないのだろうか。その割に時計がパネライというのもおかしい。ロレックスやオメガのように貴金属ファン御用達ならともかく、パネライはイタリア海軍向けのダイバーズウォッチで、高級ブランド時計でありながらファッション性も兼ね備えている。だから、ファッション雑誌が取り上げたのである。

 他の参加者が彼の印象をどう受け取ったのかはわからないが、元職が売れないグラフィックデザイナーだったということを考えると、その時は自分のファッションにはあまり興味がないのか、それとも急に年収が上がったので、購入するのは時計くらいしかないのかと思った。

 ところが、先日、以下のような記事がネットにアップされていた。「時計と靴と詐欺師について」https://gqjapan.jp/watch/news/20171028/the-look-of-a-con-man-174
 時計ジャーナリストが人と連れ立って、投資話を聞かされる話で、その時に話を持ちかけた人間が身につけている時計や靴で、相手の素性が見分けられるという内容だ。

 本当の詐欺師なら、時計や靴までも徹底して良いモノを身につけ、相手を信用させるのだろうが、そこまで行かないレベルの詐欺師もいるようだ。それでもコロッと騙される人がいるのだから、詐欺のニュースが後を絶たないのがよくわかる。

 ただ、筆者が話を聞いた元グラフィックデザイナーが付けていたパネライのルミノールマリーナがもし偽物だとしたら、ネット記事の内容と整合する部分も少なくない。これは事実と言えなくとも、参考にしてもいいだろうと納得した。以下は記事に書かれていた詐欺師を見分けるポイントである。

 「個人的に、詐欺師を見抜くポイントを挙げたい。相手が身分不相応な時計を持っていると思った場合、重さとベルトを見ること」

 「贋作は軽く、ベルトも安っぽい。本物だと思ったなら、ベルトの傷みと、靴のカカトの減りをチェックすべし」

 「そこで問題があったら、忙しくて直せないか、お金を持っていないことを意味する。仕事の話が大げさならば、怪しいと考えてよさそうだ」


 筆者は時計を確かめたわけではないから、真贋はわからない。ただ、セミナーでの話は非常に胡散臭かったし、グラフィックデザイナーとしても実力がなかったのは確かだ。おまけに身に付けていたシャツやパンツがセンスを疑わざるを得ないしろ物である。時計の真贋を見分けなくても、それを基準に他のアイテムをじっくり注視して、相手を判断することはできると、記事の行間からも読み取れる。

 少なくともデザインに携わる人間なら、どこかに拘るものだ。仕事では妥協できない部分が往々にしてあるから、使う道具はもちろん、持ち物や身につけるアイテムにも、自分の考えや生き方が宿る。それがデザイナーの感性をさらに磨き、仕事でも発揮されていくのである。

 ブランドか、そうでないかは関係ない。価格で決まるものでもない。要は選ぶ人間のセンスや世界観が写し出されているかなのである。その意味で、話を聞いた元グラフィックデザイナーが詐欺師だったか否かは別にしても、こいつはデザイナーとしては端からダメだなと確信した。誘っていただいた元上司には申し訳なかったが、講演者のセンスを判断してセミナーは途中で退散させていただいた。

 「人は見かけによらない」と言われる。確かに見かけや格好だけで、その人の人格が決まるものではない。一方で、有能な詐欺師のことを考えると、外見に騙されてしまうこともある。しかし、持ち物や身につけるアイテムをひとつひとつ突き詰めて見ていくと、どこかにその人間の人となりが滲み出てくるものだ。

 量産される商品を前提にプロパーでは買わない、価格が下がるまで待って買う、価格だけを手に入れるか入れないかの選択肢にした自虐ネタで喜ばれる方もいらっしゃる。自慢されるPVの数をみると、確かに賛同する方は少なくないようだ。だが、デザインの世界では、価格や品質以外にも価値を決める要素がある。それを持ち使う、人間が何を基準に選んだかで、その人間の価値さえ判断されると言っても過言ではない。

 当然、持ち物や身につけるアイテムは人間同士の付き合いの中で、相手が合うか合わないかの判断材料の一つにもなる。この人のセンスは自分には合わないなと思えば、付き合い自体をセーブして騙されるリスクを回避できるのではないかと思う。それが自分にとっては詐欺に遭わない一つの方法でもあると、セミナーの一件とネット記事で改めて思った次第である。

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