HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

穿き心地の良さは両刃の剣か。

2014-06-25 14:19:05 | Weblog
 ボトムのシルエットがストレートからスリム、スキニーに移って久しい。レディスは股上こそローライズからハイウエストに移行しているものの、シルエットトレンドが太めになることは、デザイナーズ系を除いて当分なさそうだ。

 筆者の専門外であるメンズも、クラシコイタリア系のスリムパンツが浸透し、今ではジーンズもスリム、スキニーが主流になっている。マスマーケットとは全く怖いもので、街中でリーバイスの501なんて穿いている人を見ると、野暮ったく感じてしまうから不思議だ。

 いくら細身のボトムが浸透しても、人間の体型は千差万別。ボトムは基本的にウエストサイズに合わせて選ぶから、わたりやヒップがキツいというの人は少なくないようである。メーカーやSPAはそれを想定して、パンツにもジーンズにも、ストレッチ性素材を採用するのが一般化している。

 ただ、いろんな素材が使われるパンツならまだしも、コアなジーンズファンからすれば、「綿100%でないデニムなんて邪道」かもしれない。また、「ジーンズはローやワンウォッシュを穿き込んで、柔らかくさせていく」というヴィンテージ崇拝も根強い。

 確かにそうした考え方も理解できなくはない。ところが、トレンドを仕掛け、マスマーケットを攻略する上では、穿きやすい=ストレッチも重要な要素だ。結果的に市場は敏感に反応し、ストレッチジーンズはメンズでもシルエット、カラーと並んで、選択肢の一つに躍り出たようである。

 こうした傾向はマス市場を狙うNBメーカーやSPAか思いきや、セレクトショップ向けの中小メーカーでも、2~5%程度の「ポリエステル混」は珍しくなくなっている。筆者が懇意にするフランスのメーカーも、レディスジーンズは2%のelasthanne(スパンデックス)混が主流になっており、生地の開発効率からメンズにも使用され始めている。

 パンツの場合、スラックスタイプなら多少のゆとりはある。でも、ジーンズはジャストフィットでないとだらしない。かと言って、パツパツでは窮屈だ。そこで、デニムの質感やシルエットを差し置いて、ストレッチという「穿き心地のいい生地」を優先させるようになったということだ。

 ひと度、ストレッチの効いたジーンズを穿くと、多くがその穿き心地の良さに慣れてしまう。そうなると、穿いているうちに身体に馴染むまでは待てない。ファッションが使い捨ての時代だから、なおさらだ。結果として、ストレッチジーンズは見事にマスマーケットを捉え、メーカー側としても、お客の購買動機の必須条件に位置づけたようだ。

 筆者はジーンズマニアでもなければ、デニムファンでもない。ただ、素材としては化繊混紡はあまり好きではない。天然素材の風合いが消されてしまうし、少しの混紡だけで体温は微妙に変化する。夏場には合繊のパーセンテージは、そのまま汗の量に比例する。

 では、冬はいいかというと、今度は静電気に悩まされてしまう。静電気は夏にも発生する。いくら洗濯機の櫓洗浄を行い、仕上げ剤を使用しても、黒の生地を使用したものには細かいホコリがもの凄くつく。ブラッシングがひと苦労なのだ。

 今春、ユニクロがサッカーの本田圭祐選手をCMに起用した「スリムフィットストレートジーンズ」のキャンペーンを行っていた。起用の意図は本田選手のキャラクターもあるだろうが、「サッカー選手特有の発達した太腿やふくらはぎにもフィットする」商品特性を伝えたかったのだと思う。


 この商品のブルージーンズタイプは綿98%、ポリエステルは2%。ストレッチが効いているのだから、当然である。ところが、墨黒のタイプは綿が70%程度で、ポリエステルが30%近くも混紡されていた。その時、ここまで合繊が入ると、自分にはこれから先は熱くてとても穿けないし、静電気で黒特有のホコリが目立つのではないかと思った。

 結局、 このスリムフィットストレートジーンズも、デザインやシルエットの前に混紡率が気になって購入にはいたらなかった。というか、筆者の場合、ユニクロが好きになれない第一の理由は、生地だ。合繊が30%近くも入っていれば、質感はもちろんのこと、体質的にもケアを考えてても、完全に却下だからである。

 先日、ユニクロのサイトを見ていると、この商品を購入したお客さんのコメントが掲載されていた。以下がその引用部分である。

 「履き心地は素晴らしく文句無いです。厚手でしっかりしているのに伸びるというこの生地は冬は暖かく、歩いてもしゃがんでも苦にならず、見た目も良いです。ただし最大の難点があります。チリやホコリをハンパじゃなくガッチリキャッチします。これではブラッシングが欠かせませんね。(中略)履き心地は最高だけに惜しい、あまりにも惜しすぎます」

 筆者が思ったことが購入客には、現実のものとなったようである。

 ユニクロ規模になると、マスマーケットで売れる商品を生産するから、ストレッチジーンズが企画の爼上に上がるのは、わからないでもない。でも、なぜ、この型番だけ合繊の混紡率が高くなったのだろうか。また、静電気が起こる懸念は、企画会議ではでなかったのか。ユニクロともあろう企業がこの点は解せない。

 今のファッションマーケットは、グローバルSPAが引っぱり、それに全部とは言わないが中堅アパレルの多くが追随するようになっている。それがテキスタイルメーカーの量産生地を追いかける傾向を生み、市場では同じような生地感の商品ばかりになっている。

 ジーンズに限らず、鹿の子のポロシャツでも、同じ綿100%の表示にも関わらず、ブランドによってホコリがつくものとつかないものがある。おそらく、多少の合繊が混紡されているのかもしれない。

 アパレルも、テキスタイルも、数が売れないとビジネスにならないのはわかる。しかし、テキスタイル生産のベクトルが一方向に偏り過ぎると、お客にとっては両刃の剣でもある。ただ、そんなことをいくら訴えても、世界中に浸透した「98% coton,2% elasthanne」から「pur coton」に戻ることは、当分起こりそうもない。
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大人のモードが帰ってきた。

2014-06-18 13:30:26 | Weblog
 5月初め、セレクトショップのユナイテッド・アローズが「アストラット」という新業態をオープンした。先週末、東京に出張する機会を得たので、青山詣でのついでに寄って見てきた。

 場所は国道246、青山通りのザラホームの脇から入った路地の一角。東に歩けばコムデギャルソン、その南にはY’s、アンダーカバー、ヨウジヤマモトが立ち並び、筆者にとっては昔から馴染みのあるエリアだ。

 アストラット青山店は20坪もあるだろうか。エントランスを中心にした横広いフラットな作りで、余分な虚飾を排したシンプルな内装になっている。

 南青山という場所柄でもないだろうが、事前の記者発表には「大人が満足できるクオリティと価格のバランス。インポートと同じ立ち位置で見てもらえるブランド」と、あった。

 だから、UA業態のアップグレード版かと思いきや、これが意外にコンテンポラリーで、モード感をもつ商品による構成。デザイナーズやインポートを除き、百貨店にも駅ビルにも「大人のモード」がないと言ってきた筆者にとっては、待望のショップと言える。

 アイテムはシャツ、ブラウス、パンツ、スカート、ジャケット、ドレスにアクセやシューズ、そしてフレグランス。コンテンポラリーモードを象徴するように、ウエアはモノトーンを基調にしたミニマルデザインが中心。セレクションとして極彩色のブラッシュプリントのボトムを差し色にして、メリハリを付けている。

 中にはエレガンスなブラウスもあり、UAらしさのニュアンスも残す。もっとも、「セレクション」を謳ってきた大手セレクトショップは、商社支配によってどんどんSPA化し、MDはトラッド&スウィートの売れ筋狙いにシフトしてしまった。これに飽き飽きしている大人の女性は少なくないと思う。

 かといって、インポートのラグジュアリーブランドは高くて手が出ない。その点、アストラットはカットソーが1万円以下、トップス&ボトムスが2万円代、ドレスが3万円代、ジャケットが7~8万円代と、価格はプレステージとベターの間。これなら港区界隈のビジネスウーマンにとっても、買いやすい価格帯と思う。

 それでいて、テイストはベーシックとアドバンスの中間で、インポートがもつモード感を漂わすのだから、大人の女性にとっては「待ってました」だったのではないか。チープな原宿やボリューム化した渋谷から、まさに「あか抜ける」ことができるのだから。

 かつて、南青山から神宮前、千駄ヶ谷にかけては、キャリアゾーンを狙う専門店系メーカー、マンションアパレルが多数あった。筆者もこうした商品に携わっていたから、この地にはメーカー、小売りを問わずコンテンポラリーな商品を発信する土壌があると思う。

 安倍政権は、「女性の力の活用」「社会参画の促進」が日本の強い経済を取り戻すために不可欠と、公言している。つまり、大人の女性がどんどん社会進出し、キャリアを形成していけば、まさのそのゾーンの服飾は大きなマーケットになる可能性をもつ。

 長らく低迷を続けてきたドメスティックブランド、専門店系&マンションアパレルにもようやくチャンスが到来するということだ。業界内部では「これからはミセスだ」と言う声もあるが、それは単なる「お母さん」「おばさん」でない。

 社会進出する大人の女性は、商品を見きわめる審美眼、商品が醸し出す世界観を見る目をもつ。うわべだけでなく、その商品が自分をどう演出して、「できる女」に仕上げてくれるかを本能的に察知して、商品を選ぶのだ。

 現時点で、アストラットは青山店の他に名古屋と大阪での出店のみで、実験的な要素が強いかもしれない。でも、福岡のようなビジネスライクな地方都市でも十分ニーズはあると思う。ただ、パッケージのままではUAの域を出ないし、百貨店やデベロッパーはそのままリーシングするだけだろう。

 しかし、国内アパレル仕入れによるセレクションは、地域専門店の方が得意としてきたものだ。それだけに顧客が高齢化したり、経営者の世帯交代が叫ばれている店舗こそ、一気にMDの若返りを図り、働く女性に向けたセレクションに舵を切ってもいいのではないだろうか。

 ICTを駆使してネット販売を並行したり、店内コレクションによる販売予約を仕掛けをたりと、ピンポイントのお客に焦点を当てて、チャレンジしてみるのも面白いと思う。
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公式スーツのワールドカップがあってもいい。

2014-06-11 18:19:53 | Weblog
 いよいよ6月12日から、「FIFAサッカーワールドカップ2014 ブラジル大会」が始まる。サッカー好きにとっては、世界トッププレーヤーのセンスや技術に触れられるし、各指揮官がどんな試合展開と采配をくり出すのかも、楽しみの一つである。

 一方、ファッション業界人としては、各国のユニフォームのデザイン、素材や機能性に興味があるところだ。先日、日本チームが契約するアディダス社のユニフォーム秘話は書いた。そこで今回は、各国代表のオフィシャルスーツについて考えてみたい。

 と言っても、公式発表しているところで、代表的な国はイングランド、イタリア、ドイツ、フランス、そして日本くらいだろうか。

 まずイングランド代表は、前回大会から「マークス&スペンサー」。こちらはファッションブランドではなく、英国を代表する小売業だ。傘下には百貨店やスーパーをもっており、いわゆるPB商品といった感じだ。日本で言えば、三越伊勢丹のドーランドハウスオブロンドンや大丸のトロージャンといったところか。

 価格も一着211ポンド(約3万6000円)というから、市販のものを選手たちにそのまま支給したようだ。色やデザインを見てもビジネススーツの領域を出ていない。生地はこのシーズンを意識して、ライトグレーのサージだと思われる。定番素材だから、別に目新しさは感じない。ただ、着る選手がカッコいいので何とか様になっている。

 イングランドは英国紳士に代表されるトラッドスーツの本場だ。特にセビルロウは英国羊毛をベースにした仕立て屋さんのメッカでもある。なのになぜ、その国のサッカー代表が百貨店のPBスーツなのだろうか。

 これは英国を取り巻く経済状況もあるだろう。英国サッカー協会は、単なるスポーツ団体だから資金は乏しい。当然、代表スーツを揃えるならスポンサー契約となるわけで、スポンサー側はスーツだけでなく、資金面でも協力しなければならない。

 となると、経済的に厳しい英国でどれだけのスポンサーがあるのか。プレミアリーグは儲かっているイメージがあるが、あれは世界中から集めた放映権収入がメーンで、国内で稼いでいるわけではない。また、一部のビッグクラブのオーナーが大富豪や投資ファンドなだけで、サッカー協会がお金を持っているわけではないのだ。

 もっとも、スポーツマーケティング的に考えると、マークス&スペンサーにとっては自社ブランドを世界にアピールできるわけだから、スポンサーになることを決断したのだ。特に経済発展が著しいブラジル進出にも期待できる。サッカー協会としても自国スポンサーに目を向けることは、結果として協会も潤うことと舵を切ったのだと思う。




 まあ、前々回のドイツ大会の時、イングランド代表はイタリアの「ジョルジュ・アルマーニ」と契約していた。デビッド・ベッカムがアルマーニと懇意することから、契約が決まったとの噂も流れたが、デザイン画を見ると何となくベッカムを意識したようにも感じる。ただ、こちらは流石アルマーニという出来。代表のためにオリジナルで作ったものだ。

 スーツはミッドナイトブルーの上質な生地を使い、シルエットがソフトなアルマーニデザイン。ローウエストのパンツ、パールグレーのボタンダウンシャツ、ブルーグレーのネクタイ、軽いウール素材で5つボタンのコート、おまけに腕時計、サングラス、ベルト、靴、下着までセットになっている。まさに全身アルマーニコーディネートだ。

 アルマーニがイングランド代表と契約したからではないが、同じイタリアの「ドルチェ&ガッバーナ」はその後、国内リーグセリエAのACミランのオフィシャルスーツに起用された。そして、そのままイタリア代表のスーツでも契約している。

 こちらは明るめのネイビーで、アルマーニより細めのシルエット。胸元のエンブレムがなければ、マフィアルックという評もあったが、実際はアズーリとブラジルの陽気に合っている。イタリア製のライトメードで上質な生地を使い、高級感を忘れていないところは、さすが世界に通じるブランドというところだろうか。

 フランス代表は蝶ネクタイを採用したクラシカルなルック。ただ、英国のようなトラッドスタイルではなく、シルエットや肩のラインでゆっとりを感じさせるところにフランスらしさがある。まあ、ひと言で言えば、ヌーベルアイビーの復活って感じだろうか。

 起用されたのはフランス最高のテーラーと言われる「フランチェスコ・スマルト」だから、エレガンスで美しいカッティング、太すぎず細すぎないパンツのシルエットにも特徴がある。選手にとっても既製品より、着こなしやすいかもしれない。



 ドイツ代表は前回同様に自国ブランドの「ヒューゴ・ボス」。こちらは高級ブランドがもつ質感やシルエットの妙より、ドイツ人に合わせたしっかりした作りが際立つ。なおさらドイツ代表は長身で筋骨たくましいから、柔なスーツでは似合わないのだ。

 濃紺のスーツにデニムのシャツ、同じトーンのネクタイ。移動機内や宿舎での環境変化を考え、アイテムにカーディガンが加えれている点は、格好より機能を優先するゲルマン気質らしい。今回のワールドカップでは優勝候補なだけに、このスーツでも世界のトップも十分狙えると思う。サッカーでもファッションでもレーヴ監督に期待だ。



 そして、日本代表は前々回の大会から英国ブランドのダンヒル。濃紺とライトブルーが織りなすプリンス・オブ・ウェールズ・チェック柄のウール地を使い、細かな採寸のもとに2か月かけて仕立てというから、各選手のフィット感も抜群なようだ。

 英国のテーラーメードを日本代表が着るというのも、なんか不思議な感じがする。だが、こちらは サムライブルー(SAMURAI BLUE)の「勝負服」として、一般向けの販売キャンペーンとも連動。契約するダンヒルとしても、日本、世界市場でしっかりスポーツマーケティングをしようという狙いが感じられる。

 個人的にはイングランド代表が着ていたアルマーニを気に入っていたが、今回はサッカー同様にドイツ代表のスーツに目を見張る。はたして世界の評価はどうだろうか。せっかくW杯には世界のファッションブランドも勢揃いするのだから、ぜひFIFAには前座で代表選手をモデルにしたファッションショーもやってもらいたい。

 ただ、不満なことは、オリンピックの公式スーツの時から言われる日本のデザイナーやブランドが起用されない点だ。業界内部ではブランドやデザインがどうのというより、スポーツ団体が紳士服量販店や百貨店に任せる構図が問題との指摘もある。

 日本のスーツ専業メーカーも決して世界に劣るわけではない。生地は海外調達するとしても、デザインは日本人デザイナーに任せてみようという度量も欲しい。英国同様に日本のスポーツ団体にも資金がない。

 だから、スーツの支給にあわせて契約金がほしいという気持ちはわからないでもない。ただ、そろそろ日本人デザイナーに門戸を開いてもいいのではないか。日本人のデザイナーが作るからこそ、オールジャパンでオリンピックやワールドカップを戦うと言う意識にもなると思う。もちろん、リターンも少なくないはずだ。

 そのためにはまず日本人が格安・量販ではなく、ディスティンクションレベルのスーツをもっと流行らせるべきかもしれない。安っぽいカジュアル一辺倒の生活から、ビシッとスーツを決めて仕事をする機運も、高めなくてはならないと思う。
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理不尽さにどこまで堪えられるか。

2014-06-04 15:14:18 | Weblog
 「2015年6月で三陽商会とバーバリーとのライセンス契約は終了される」。 先日、一般紙や経済紙までが大きく取り上げたニュースだ。海外ブランドとのライセンス契約終了はよくあるケースだから、業界人にとっては別に珍しくも何ともない。

 相手は世界市場の攻略を狙う海外ブランド。しかも、ロイヤルティを守りつつ、効率的にグローバル戦略を押し進めている。いくらアジアの中心マーケットで、生産ノウハウをもつ日本のアパレルメーカーと言えど、一取引先に過ぎない。

 契約なんて自社の利益のためなら、簡単に反古にするということである。図らずも日本市場だけを相手にしてきたアパレルのノー天気さを露呈させた格好だ。ただ、ある程度、予測はできたことだから、一方的に理不尽だと断じることはできない。

 業界にははるかに露骨なケースがあるからだ。海外ブランドがいつ頃から日本に入ってきたのか。60年代に「ブティック」という中高年の女性を対象とする高級婦人服専門店が直接海外に出向き、生地やプレタポルテを買い付けたのが始まりだと思う。

 当時、1ドルは360円で、為替の持ち出し額も制限されていた。だから、専門店のバイヤーの中には、「闇ドルをこっそり隠し持っていった」ものも少なくなかった。

 こうしてイタリアから仕入れた生地で注文服を受けたり、フランスの卓越したデザインと高いクオリティの既成服を販売し、ミセス層を少しずつ顧客化にしていった。ジバンシーやランバン、ニナリッチ。フェンディやミッソーニ、ミラショーンなどだ。

 こうして海外ブランドは、70年代にイタリアのアルマーニやベルサーチが上陸。さらに80年代にはヤングにも飛び火し、フランスのアニエスb.の登場につながった。

 仕入れのスタイルは現地の展示会でサンプルを見て、自店のお客にあったアイテムを少しずつ買い付けるもの。ブランドも側も規模がそれほど大きくなければ、そうした小口の取引先を優遇してくれたのである。

 ところが、ブランドがメジャーになると、メーカーはちまちました取引より、大量に買い付けてくれるところと取引したくなる。そう、「商社」のお出ましである。そして、さらに成長したブランドは、日本法人を設立して、直販に乗り出したのだ。

 いわゆる「ジャパン社」の登場である。専門店は同じブランドを売りたければ、ブランド側から商社経由の取引を指定された。となると、間に二次卸が介在することになり、同じ価格で販売すると、荒利益は圧迫されるというわけだ。

 こうしてメジャーとなったブランドは、百貨店に直営店が並ぶようになった。そうした光景を見せられ、「せっかく、うちが育てたブランドなのに。売れるようになると、商社と百貨店が根こそぎ持っていく」と、嘆く専門店経営者は少なくなかった。

 専門店側も新たなブランドを開拓するなどの手は打ったものの、既存ブランドについた顧客を呼び戻すまでの力は、簡単につかない。その時、海外ブランドとの取引の「理不尽さ」を思い知らされる。ブランド頼みの商売は、いずれこうなる運命ということを。

 ただ、ことはそれだけで終わらない。先日、懇意にするフランスの「卸」の担当者がある「一件」について話してくれた。この卸は自国はもとより、イタリア、スペインなどのアパレルの商品を開拓し、ニューヨークやミラノ、アムステルダムなどのセレクトショップに卸している。

 ユーロテイストのレディスが主体で、価格も値ごろだ。そのため、どの国のセレクトショップとも結構、売れている。しかし、某優良取引先から大量に返品を受けたという。理由は商品にあった「汚れ」や「疵」。中には「針」が混入していた例もあったとか。

 卸側は「メーカーの生産管理のもとで、商品をチェックして輸出している」のに、なぜなのか。しかも「他の取引先では何のクレームもない」。明らかに腑に落ちないという。もちろん、取引先ショップのお客さんがケガをしたわけでもない。

 ただ、心当たりが無くはなかった。この取引先は、セレクトショップとしての知名度が高まり、急速にSPA化を進めていたのである。バイヤーレベルではこの卸が提案する商品を気に入ってくれたが、はたして経営トップはどうだったのか。

 また、SPA化ではODMなど商品調達で「商社」が噛んでいるのは言うまでもない。店側も多店舗化を進める上では、商社の手を借りなければ商品確保はままならない。もちろん、商社側はトータルでMDに介在した方が売上げも効率もいい。

 当然、小規模な納入業者を排除する思惑があっても不思議ではない。その行動が商品にわざと「汚れ」「疵」を生じさせ、はては「針」を混入させたのかもしれないのである。真っ当な取引をしてきた卸にとっては、全く理不尽な仕打ちである。

 卸の担当者は「ennuie」と言っていたので、おそらく「嫌がらせ」だと気づいているようだ。取引先にはきちんと追跡調査を行い、報告書を提出したという。でも、ショップ側からは「お客さんのクレームが怖い」と、再納品が許されることはなかったそうだ。

 何の証拠も無いから、法的に訴えるのは厳しい。卸より小売りの方が規模が大きいから、このまま泣き寝入りするしかないようだ。こんな時に「ビジネスに完璧なことはない」というフランス人の意識も影を落とす。でも、今回、それを言われるのは筋違いだ。

 グローバルビジネスはいろんな相手と取引しなければならない。自国の価値観が通用しないというのは、三陽商会とバーバリーの一件を見ればわかる。ただ、世界中のどの民族も決して完璧ではないのだから、その分を割り引いて考えなければならないのだ。

 洋の東西を問わずアパレル流通の現場で、「理不尽なこと」は日常茶飯事で起きている。その中で、生き残っていくには、どこまで堪えられ、前向きに考えきれるか。並行してリスクヘッジも考えておかなければならないということだ。

 卸の担当者は起きたことはしょうがないから、「Recherche d'autres comptes.」と気持ちを切り替えていた。でも、自分ならどこまでの平常心でいられるだろうかと、つくづく考えてしまった。
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