HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

とりあえずスポンサーを。

2016-07-27 07:26:16 | Weblog
 日本ファッション・ウィーク推進機構(JFW推進機構)は、今年10月に開催する17年春夏の東京コレクションから アマゾンジャパンと冠スポンサー契約を結んだ、と発表した。アマゾンはすでにニューヨークのメンズファッションウィークのスポンサーも務めており、日本のデザイナーズファッションにおいても、アマゾンの影がひたひたと忍び寄ってきたといっても、過言ではないだろう。

 報道によると、アマゾンジャパンのジェームズ・ピータース副社長兼ファッション事業部長は、ECプラットフォームの活用で「日本のデザイナー認知を、外国でも高めることができる。消費者とブランドが直接つながる場を提供できる」と語った。とすれば、アマゾンのスポンサードは、東コレに出展するデザイナーズアパレルとの直接取引を視野に入れる狙いも伺える。

 アマゾンの前には12年春夏から16〜17年秋冬まで、メルセデスベンツが冠スポンサーについていた。東京ファッションウィーク(TFW)はメルセデスベンツのスポンサードで、高感度なイメージ発信が可能になったと言われる。だが、メルセデス側とすれば、それがベンツ車の販売につながったのか。結果的に見れば、そうではなかったようだ。

 前にこのコラムでも書いたが、 TFW期間中に開催される東京コレクションを見にくるお客はメディア関係者を除けば、国内外のショップバイヤーが大半である。デザイナーズ系ブランドの服が好きで、自店で販売している人たちだ。コレクションは販売する商品の仕入れを検討する場でもある。さらにバイヤーは自らも服に投資する比較的感覚の若い客層だから、ベンツのような高級車にまで投資する人間はごく限られてくる。経過を見れば、マーケティングや販売促進には、それほどつながらなかったというのが実情だろう。

 JFW推進機構側にしても、国(経済産業省)からの補助金がカットされたことで、イベントウィークの開催が八方ふさがりになりかけていた。その時、名乗りを上げたのがスポーツマーケティング会社のIMG(インターナショナルマネジメントグループ)であり、スポンサーとして連れて来たのがメルセデスベンツだったのだのである。今回のアマゾンのケースにIMGが関わったかは目下調査中だが、JFW推進機構にとって継続的にスポンサーを確保できたという点では、安堵したというのが本音ではないか。

 アマゾンは「ECとしてファッションとの親和性も高い。東京のデザイナーブランドは、卸し先の獲得に苦戦しているケースが多いので、その補完が期待できそうだ」と前向きに語っている。デザイナーアパレル側としては、アマゾンが大量に仕入れ売り捌いてくれれば、生産量や売上げの見通しが立って、好都合だろう。またすべてとは言わないまでもショップの中には、アマゾンがデザイナーズアパレルの専用コーナーを設けることで、売上げアップ、市場拡大に期待して出店しようというところが増えてくるかもしれない。

 海外のコレクションでは、バイヤー発注会という形ではなく、商品を消費者が即座に購入できるという試みも始まっている。ショップを通じて半年先に買うのではなく、コレクションがオンシーズンに近づくという地殻変動が起きつつあるのだ。アマゾンがスポンサードはそうしたデジタルビジネスの要素がファッションに加味されるわけで、お客にとってリアルタイムで「今はコレです」とトレンドを見せられると、買うしかないってことになる。アパレルメーカー側の生産態勢にも影響は必至であるのは言うまでもない。

 一方で、デザイナーズアパレルの中にはネット販売する小売店とは取引しないところがあった。小売店の中にもネット販売を嫌うところがあるのも確かだ。アパレルメーカーは小売店が自社のブランドを気に入ってくれ、責任をもって販売してくれるから卸していると自認する。それはショップが対象とするエリア内で、他の取引先の市場は侵さないという暗黙のルールを作り上げてきた。例えば、東京なら渋谷と郊外に数店舗、他は埼玉に1店や千葉に1店と取引するといった感じで、卸先エリアを分けていくというものだ。一方の小売店側もそうした売り方を守る形で、アパレルを口説いたり、取引を可能にしたりして、自店の商売を維持して来たのである。

 アマゾンのデザイナーズアパレルへの参入は、これまでアパレルメーカーと小売店の間で長年に渡って取り組まれてきた「バッティングさせない」という不文律を形骸化させることになる。ECの浸透により販売エリアはグローバル化し、事実上、意味を持たなくなってしてしまったということだ。

 バッティングさせなことは、ある意味、アパレルメーカーと小売店を共存共栄させてきた面はある。しかし、グローバルな自由競争が激化した今、こうした規制、談合のような古典的ルールは、かえってアパレル、小売りを弱体化してしまうとのご意見もあるだろう。しかし、デザイナーズアパレルを地道に自店のエリア内で売って来た中小零細の小売店としては、アマゾンの登場は死活問題になる。おそらく、アマゾンがポイントの導入などを進めていけば、小規模小売店の販売力など駆逐されるのは目に見えている。デザイナーズアパレル側も、取引先1社あたりの売上げはそれほど高くないわけだから、アマゾンの参入は救いの神として好意的に受け取らざるを得ないところか。

 もっとも、ことはそう簡単にはいかない。確かにアマゾンのセールスパワーは偉大だ。しかし、ネットにアップされる画像はサイズ、点数など決まっており、スペックや商品説明なども画一化されてしまう。ショップ独自サイトのようにセールスポイントや着心地などの訴求することはできないのだ。それに出店する店舗数は莫大な数に及ぶから、現状の検索機能程度では小規模なセレクトショップなど埋没してしまわないとも限らない。出店数が多い分だけ、お客がお目当てのデザイナーズブランドにヒットする確立も低くなるということだ。

 また、筆者がECでいつも指摘する「試着ができないこと」である。特にデザイナーアパレルは、服づくりに凝ったものが多く、お客の好き嫌いが激しくなる。着心地、素材感や色合いなど、実際に現物を見て試着してみないとわかりづらい。価格もそこそこ高いので、試着無しに購入するのはお客にとっては相当なリスクのはずである。つまり、アマゾンがデザイナーズアパレルを扱うことによって、どれほど売れる環境が活性化するのかは、まだまだ未知数だということである。

 ECに参入しない中小零細の小売店が唯一活路を見出すとすれば、肌感覚の対面販売ができることではないだろうか。ショップバイヤーは売場で常日頃から顧客とコミュニケーションし、好みやサイズを知り得ている。だから、東京コレクションの観覧、その後の個別展示会では、データに基づく仕入れ勘が働く。仕入れの段階で「この商品なら、あのお客さんが好むだろう」と、売り逃しや在庫過多のロスを抑えていけるのである。思いきって仕入れもできれば、今回は止めとこうともなるのだ。

 アマゾンでもレビューなどデータ分析することはできなくはないが、リアルな売場で得るきめ細かな顧客データではない。小売店はアマゾンに出店すれば、ネットの向こうに莫大な市場、顧客がいると考えがちだ。しかし、それはバーチャルやポテンシャルであって、実際のところはどうなのかわからない。特に小売り店にとっては顧客の顔が見えないのに市場規模ばかりに目がいってしまう。そこではかえって仕入れの感覚が麻痺し、余分な在庫を持ち過ぎ、ロスを生む可能性がなきにしもあらずだ。結果バーゲンすれば、ロスを生むのは言うまでもない。

 筆者周辺のアパレル関係者では、アマゾンのTFWスポンサードについて、「当面、JFW推進機構にとっては資金確保を優先した」との見方が支配的だ。とりあえず、カネを引っ張ってくるためのスポンサーに過ぎないということだろう。デザイナーズアパレルにとっても、アマゾンに直出店するもしくは取引先の小売店を通じて出店してもらうとなれば、EC部署の開設やスタッフ配置など新たな業務が増えてくる。販路が世界中に拡大する、売上げが増えるは、捕らぬ狸の皮算用かもしれない。

 おそらくJFW推進機構は、色めき立つデザイナーズアパレルに対し、「それほど簡単に売上げは伸びない」とクギを刺すとも考えられる。 アマゾンだって売上げ最重視の外資だ。売れない商品を好んで仕入れるとは思えない。その時にデザイナーズアパレルとしてどう対処していくのか。アマゾンのTFWスポンサードは、ビジネス面での新たなハードルになる諸刃の剣でもあるのだ。

 契約期間については明らかにされていない。報道によればジャパン社のジャスパー・チャン社長は「ロングタームの契約だ」と語ったようだが、短期に結果(効果)を求める外資系企業だけにいつ心変わりするかはわからない。デザイナーアパレルには、アマゾンへの出店の有無に関わらず、スポンサード中に売上げを積み上げるのは、ロングタームにする条件だと肝に命じるべきだろう。

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軟弱な教育では無理。

2016-07-20 08:12:18 | Weblog
 先日、業界での鋭い考察で有名な某プロフェッサーのコラムに「販売員の心得」が取り上げられていた。(http://www.apalog.com/kojima/archive/1772)業界では販売員不足を解消するために、様々な意見やアイデアが飛び交う中、「おもてなしの精神論」では店舗運営には実効性を欠くとのご意見である。

 販売員という職業が少なくとも安定するには、報酬を上げなければならないわけで、そのためには「客数と売上げを確実に向上させることが不可欠になる」。これはある意味、当たり前のことだ。その心得として、4つをあげられている。

1.顧客の購買プロセスを誘導するVMDのセッティング

2.売場のみならず後方ストック、他店やDC(商品配送センター)の在庫の掌握

3.顧客の購買労働負担を最小化し、購買利便を最大化する配慮

4.顧客が快適に購買できるクレンリネスと身だしなみの徹底

 とのことである。業界コンサルの重鎮であり、プロフェッサーの称号を裏づける理論家として、明快で説得力のある見解と言えばそうだろう。でも、これを若者の夢を煽るファッション専門学校、販売員を採用するアパレルの小売り部門、大手チェーン店やセレクトショップが、教育の目標や就職の条件、指導育成や戦力化の目的として、切実にとらえているかである。

 また、筆者がルポを書いて来た業界誌でも、こうした心得をテーマとする特集は定期的に組まれている。しかし、それは経営者や店長レベルの購読に止まり、小難しい内容をペーペーのスタッフが学習し理解し、売場で実践して来たかと言うと、それほど多くないだろう。だから、販売員の地位が向上しなかったとも言えなくはないが、正論だからと言って全てに納得、理解されるとは限らない。学生から就活生、新人、2〜3年目、中堅&チーフクラスとそれぞれの段階で、最終目標であるこの心得をよく咀嚼して、わかりやすく教育していかなければならないと思う。

 では、具体的にどうすればいいのだろうか。まず、専門学校では用語の意味からして、18歳、19歳で学習意欲が高くない学生にはほぼ理解不能だ。現状の授業で行われているものも1ないし4の基礎の基礎くらいで、それも知識学習の域を出ない。おそらく2年間在籍しても、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)とディスプレイの区別もつかないまま卒業しているはずである。プロフェッサーが解説するIP(アイテムプレゼンテーション)やLP(ルックプレゼンテーション)という用語すら、授業では取り上げられていないのではないか。ましてそれらを実践して、お客を誘導し購買意欲(デザイアー)を喚起する陳列方法を教育する授業なんて、知っている限りのファッション専門学校では見たことが無い。

 ある学校で学生に手持ちの服を持ってこらせ、数体のボディにトップからボトムまでコーディネートした授業課題を見たことがある。プロフェッサーがこれを見ると「全くLPになっていない」と酷評しそうなものだ。学生は自分の趣味嗜好で服を買っているわけだから、そんな手持ちの服でIPやLPを理解させようという講師、授業の方に問題があると言わざるを得ない。1を教育するには、アパレルや小売りとタイアップするなりして、実際の売場で販売する自分の嗜好と関係ない商品を使って、実践しないと無理である。

 4のクレンリネスは、美容系の専門学校が力を入れており、定期的に授業前の早朝に地域の清掃に取り組む姿を見かける。ただ、それが学生にどれほどクレンリネスへの認識をもたらしているかというと、いたって漠然としているだろう。まあ、インターンや見習いで店の掃除をやらされるのは、依然として徒弟制度が残る美容業界では当然だ。また、自分が美容師の仕事をするなら、店が汚くては話にならない。ただ、学生側はまだ「やらされている」という意識だろうし、きれい好き、ものぐさなど個人の性格もあることだからやらないよりも、やった方がいい程度のものかもしれない。

 ファッション専門学校では「クレンリネスの啓蒙」なんて、まず無いに等しい。掃除をさせる行為は、学生にとっては懲罰的な意味合いの方が強い。その程度の次元なのである。身だしなみのチェックにしても、せいぜい就職指導や模擬面接で行われている程度。これもかつては金髪でピアスをした学生が堂々と面接指導を受けていたし、学校側にも「学生の自覚に任せる」「そこまで深く指導しない」なんて妙な相互理解があるように感じた。最近はどうなっているかわからないが、就職指導における身だしなみチェックは、学校ごとでかなりの温度差があるのも事実。専門学校ではプロフェッサーが言うところの販売員の心得なんて、ほぼ習得させていないというのが実情ではないか。

 2、3はそもそも専門学校教育では限界だし、学生には理解不能と思う。

 では、業界ではどうなのだろうか。筆者は小売りの経験がほとんどないから、あくまで仕事で売場を訪れた時に触れたもの、経営者や店長との会話の中で見聞きしたことから、個人的な印象を述べてみたい。お客さんに商品を買ってもらうためのVMDは、百貨店や大手チェーン店での新人研修のカリキュラムには入っている。専門スタッフや担当部署でもキャリア教育として導入されている。それを社員募集のパンフレットやHPで訴えている企業も少なくない。

 しかし、一個人の教育目標としての販売員の心得で、ここまでを目指している企業がどれくらいあるのだろうか。どうしてもセールトーク偏重、売ることの能力や技術の教育に一生懸命で、VMDのセッティングは疎かになっているのではないかと思う。ただ、中堅企業や個店も同様にVMDに関心が無いかと言えばむしろ逆だ。指導に力を入れているところは意外に多いと感じている。3年ほど前にある企業の雑誌広告を制作したとき、そこの社長から聞いた話がある。数店舗を展開するセレクト業態で、クリスマス商戦の時にバイヤーが売上げ拡大を狙い、一気に商品を投入した。

 ところが、売場は在庫で溢れかえり、VMDはグチャグチャ。とても顧客を購買プロセスに誘導するような状態にはなっていなかった。たまたま店まわりをしていた社長は、それを見て激怒。「あんなに商品を詰め込んで、売上げや利益を得るのは目的なのか、手段なのか、どっちなんだ。12月はお客様の気持ちが一番華やぐ時だから、ウィンドウから人を楽しませてあげないと」と、店長やスタッフを叱咤したという。この話には続きがある。VMDのセッティングができない店があった一方、きちんとできていた店もあり、この社長はさっそく写真を撮らせて、VMD修正のために全店に送付させたそうだ。

 まさにプロフェッサーが言うところの基本原理は、店のお得意さんを買いたくなる過程に誘い、買おうという気持ちを起こさせる陳列なのである。それを自店なりの売場づくりの中で解釈し、商品分類をいかにわかりやすく安定的に配置していくか。店は一販売員にまでも会得させていくことが重要ということである。

 2の売場のみならず後方のストック、他店やDCの在庫の掌握は、大手チェーンではかなり浸透してきている。100店舗近くを展開するあるSPAは、商品の機会ロスをなくし、消化率のアップを目指すために売場単位でタブレットを導入した。これが販売スタッフのストックの棚割り整理、在庫把握にも貢献。何より接客中にタブレットを操作できることで、どこに在庫があるかわかり、客注は一番近隣の店舗から移動させている。お客に入荷予定が明確に伝えられ、時短にもつながっている。

 逆にお客からすれば、ネット通販を利用することで在庫状況の把握が当たり前になっている。「残りわずか」の情報が発信されると、購買に対するお客の切迫感を刺激する。こうした手法が良いか、悪いかは別にして、検索の時点でお客が在庫状況を確かめるのが当たり前になっていることを考えると、スタッフがストックや他店、DCの在庫までつかんでいるのは、販売におけるメリットだ。一方で、個店レベルでは取引メーカーとの在庫情報の共有がどこまでできるか。まだまだそれができるスタッフが多い状況ではない。機会ロス、販売ロスを低減し、消化率をアップするためにも、今後の課題になるのかもしれない。

 3の顧客の購買労働負担を最小化し、購買利便を最大化する配慮とは何か。購買労働とは店の中でのコーナー移動とか、フィッティングなどだろうか。セレクトはハイクラスではグルーピングが行き届いているから、それほどの負担には感じない。でも、ファストファッションはじめ海外ブランドの大型店舗、SPA化したセレクト、GMSの衣料品売場は結構商品を探すのに苦労する。特にGMSは在庫が多い割りに単品中心の配置で、スタッフも少なくサイズの適切なアドバイスを欠く店もある。そもそもがセルフサービスの売場づくりと「これください」的な対応だからしかたないと言えばそれまでだが、それならもう少し商品が探しやすい売場にしても良いのではないかと思う。これはグローバルSPAでも感じることだが。

 また、中国人旅行客の増加で売場では、置き引きの被害も増えていると聞く。かつて有名専門店では視線の配り方などかなり教育されていたスタッフが見受けられたが、最近は教育が行き届かず、無頓着な人が少なくないと感じる。百貨店では男性スタッフがフォローする光景も見られる。まさかお客の自己責任しているわけではあるまいが、もう少し注視することも必要ではないか。まあ、これもオムニチャンネルが浸透し、売場がショールーム化する一方、店舗の力を見せつけるにはそうした対応が行き届くところが求められるわけだ。やはりこれは指導教育の成せる技ではないかと思う。

 顧客の利便性という意味では、店舗のショールーム化、 ECサイトで販売している商品の試着、店舗受け取り、店舗購入の無料宅配などがあるだろう。顧客はすでにできるだけ手間とコストがかからないサービスを半ば当たり前のように感じている。これは販売員の心得というより、企業の方針、店舗の考え方になると思う。だが、服はまだしも、靴は試着をしないと、購入は難しい。こうした対応をしてくれるようなシステムが充実してくれば、オムニチャンネルも一気に浸透していくのではないかと思う。

 クレンリネスについては、ダメな店舗はあまり見かけない。たまにパッキンがそのまま放置されている店はときどき見かけるが、これはクレンリネスの問題とは違う。筆者が企画に携わるアパレルの取引先セレクトショップは、社長がクレンリネスを啓蒙している。定期的に抜き打ちチェックをして、気づいた点を自らレポートし、改善を促しているのだ。それを見せていただき、印象的だったのは、「ハンガーラックのパイプやバーまで奇麗に磨こう」という社長の指示。ラックのパイプはフックが接触して擦れ、光沢を失うからだろうか。拭くだけではなく、「磨く」という点がクレンリネスの奥深さなのだろうと、改めて感心した。

 身だしなみについても、洋服が好きで業界で働いている人がほとんどだから、不快にさせるようなら、周りのスタッフが先に気づくはずだ。筆者が業界に入った頃は、髭があまり快く思われなかった。それから20年くらい経って、百貨店でも髭のスタッフが増えて来たと、日経MJが特集した。最近の髭はあまり伸ばさないが、好感か不快かは接客を受ける方の価値観、年代でも違う。髪型も七三がトレンドになるなど、正統派が復活している。これらは企業側の指導教育というより個人の意識によるものではないか。そもそも売場が汚く、スタッフの身だしなみも悪い店は、販売員の心得以前の問題で、お客も寄り付かないと思う。

 昨今、ほとんどのアパレル企業、小売業で経営者はデジタルシフトを公言している。一方で、「店を鍛える」という観念論は聞こえてくるが、具体的にどうするのかは見えてこない。大手セレクトショップを訪れても、特段に接客、対応は変わっていないからだ。講演会やシンポジウムでは、ECをテーマにするところは枚挙に暇がない。それはぞれで時代なのだろうが、どうも真意は違ったところにあるのではないかとさえ感じる。

 売場のマンパワーに頼るビジネスはすでにコスト吸収が限界。だからいっそうのことそうした部分をカットし、デジタルに資源を集中して収益を上げた方が良い。 EC礼賛者の中には、そんな狙いがあるように思えてならない。でれじゃ、その分商品のクオリティが上がればいいのだが、お客は現物を見るわけでも試着するわけでもないのだから、その点はお客にはわからない。商品論が議論されないところをみると、コスト削減以外のどんな目的があるのかと問いただしたくなる。だからデジタルへの不信感は、くすぶり続けているのだ。

 これからデジタルシフトがどんどん進めば、当然、中途半端な販売員を抱えている店舗は駆逐、淘汰されていく。逆に店が生き残るとすれば、販売員の力によるところが大きいということだ。システム化、マニュアル化された販売員の心得を、自分の感性、能力で実践に移していけるか。アナログとデジタルを使いこなしていけるのは販売員という生き物にしかできないことだからである。
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実を取る決断の先には。

2016-07-13 06:51:19 | Weblog
 夏のセールも今イチ盛り上がりに欠け、秋物の第一弾を待つばかり。先日はユニクロがクリストフ・ルメールをアーティスティックディレクターに起用した「ユニクロU」を発表した。この新ラインはコラボレーションとは異なり、「あくまでユニクロのテイストで、デザイン、素材選び、縫製など、あらゆる面で既存の商品にない新しさを吹き込んだ」とか。そのため、シャツが2,990円、アウター3,990円〜1万2,900円と、通常の商品より多少高めの価格設定なのだという。

 ユニクロはここ1年ほどは値上げによる売上げダウン、その結果をみての値下げ、6月には業績を回復したものの、秋以降の売上げ動向がどうなるか、予断を許さない。今回発表のユニクロUにしても、デザインは「既存の商品にない新しさ」を謳うわりに、プレス写真を見る限りでは特に変わった感じはない。はたしてテイストはユニクロのままで、新しいデザインになるのか。現物を見てからでないとディテールまではわからないが、ジルサンダーとコラボした+J、滝沢直己をデザインディレクターに起用した2011年春ラインと、それほど差異はないと思う。
 
 もっとも、ユニクロがデザインで冒険すれば、縫製・加工で新たな技術を必要とする。そのため、既存の工場、技術スタッフが対応するには、それらを学習するか、新たにできる工場、スタッフを確保することが必要になる。これまで生産効率を追及して来たユニクロがそこまで深入りすると思えない。第一、ユニクロを求める大多数のお客は、奇を衒ったデザインなんて期待していないし、縫製もあの値段なら十分だと思う。素材はアイテムによってペラペラなものもあるが、レベルを上げたからといって急激に売上げが伸びるとは思えない。

 結果、テイストはユニクロのままだが、どこかに値上げする根拠が必要なことから、ユニクロUという新たなブランド、新たな価値創造ということではないか。陳腐化した既存MDを多少は活性化できるのかもしれないというのが本音だろう。効率優先というユニクロの遺伝子を考えれば、デザイナー入れ替えによる話題性とテコ入れしか、活性化の手だてはないような気がするのだ。

 ファーストリテイリンググループとしては、まだまだ売上げを伸長する目標を掲げている。しかし、ユニクロ業態でこれからどこまで達成できるのかは未知数だ。独立した別会社を作り、新規プロジェクトとして1からブランドを立ち上げる戦略。FR本社からすればできなくはないだろうが、単期で収益を上げないといけない上場企業として、成功が見えない冒険は許されない。結局、社内のデザインチームの人事をいじくり、多少の違いを打ち出すしかない。かといって、「ユニクロのテイスト」を大きく外すことも不可能だ。ディレクターとしては非常に難しいテーマで仕事に向うことになる。


 ただ、業界全体を見渡しても、そうそう思いきって「変化」できる環境にはない。大手企業の新規プロジェクトは、大半がメジャーブランドを活用し他メーカーとのコラボくらいに落ち着いている。スニーカーのダブルネームなんかがそうだろう。既存の「型」「デザイン」を活用して、ブランド名だけ変える程度のものだ。それで価格は上げられるのだから、ブランドバリュとは結構なものである。しかし、非上場企業とは言え、あまりにおざなりな企画ばかりだと、「ブランドって何」「もの作りの意味って」と思ってしまう。

 青山商事がこの秋にスタートするビジカジブランドの「モアレス」にもそんな一面を感じる。これは何といってもビームスのノウハウをもつ「ビームスデザイン」が企画監修にあたることだ。青山商事はこのブランドをSC向け業態の「ネクストブルー」、都市部の「洋服の青山」で販売するという。青山商事としてはスーツでは日本一の売上げを誇るが、少子化や人口減少などで需要が落ち込む中、ビジカジに舵を切り新たなマーケットを掘り起こす狙いのようだ。

 確かにド・カジュルな商品は履いて捨てるほどある。だから、チェーン店自ら新規に開発する意味はあまりないだろう。青山商事は「キャラジャ」という業態を展開しているが、リーバイスやコンバースなどのブランド編集で、他のシーンズショップなどと差別化できていない。店舗数も伸びないままだ。「ド・カジュアルではないが、スーツスタイルほどの型苦しさは必要ない」。マーケットはそんな良い塩梅のオケージョンの商品、テイストの服を求めているのは間違いない。ただ、青山商事が自社でブランド開発するのは難しいことから、若い世代に人気のあるビームスに白羽の矢を立てたということか。

 一方、ビームスは本丸ではないにしても、堂々とブランド名がつく子会社が参画する。自ら小売り業態を出店するわけではないが、相手方店のコーナー展開だろうから在庫や家賃の負担がなく、ビームスは一定のロイヤルティ収入が受け取れる。MDの基本路線はトラッドテイストだろうし、特別な企画・デザインのノウハウは必要とせず、ブランドバリュを背景にリスクを避けられると踏んだのだろう。当然、ファッション雑誌などは特集を組むだろうし、ネットメディアも食いつくはずだ。ただ、現時点では異色の組み合わせだけに、どう転ぶかは見当がつかない。

 従来なら郊外中心のスーツ量販店、特に価格破壊で規模を拡大した洋服の青山と、東京・原宿生まれで、インポート&国産の上質なブランドを仕入れてきたビームスがタッグを組むとは考えられなかった。量販店とセレクトショップは、そもそものコンセプトでも、販売スタイルでも接点はない。しかし、今の若い世代は洋服の青山をマイナスイメージでは捉えておらず、ビームスに対してもそれほどプレステージ性は感じていないのかもしれない。

 突き詰めて考えると、そんな時代になったというよりも、今回の協業は企業同士の思惑が色濃く出た結果だと思う。青山商事にすれば願ったりだっただろうが、ビームスにすればブランドイメージの低下から建前は協業したくないが、若者の服離れで既存業態が頭打ちの状況を考えると、背に腹は代えられない。セレクトショップのプライドもかなぐり捨てざるをえないわけだ。果たしてマーケットの反応はどうなのか。

 洋服の青山とビームスの提携は、戦略としては企業の本音が垣間見えるケースと言える。他にもブランドという体面は維持しながら、本音では売上げ重視を道を進んでいる顕著な例がある。パルコだ。同社が2017年2月期までの中期経営計画で掲げた事業戦略には「主要都市部での深耕」があるが、その戦術としての「都心旗艦店舗と周辺の開発推進」は、まさに売上げ重視を意図するものと言える。

 平たく言えば、店舗が古く情報発信機能が鈍化した渋谷パルコの建替えと、浦和や津田沼などの地方店のテコ入れを進めることと言える。渋谷店は日本で一番の尖った店として今後どんなテナントリーシングで、どんな情報発信機能を有していくのか。ファッション、服離れが深刻な中でいちばんの課題と言えば課題だ。一方、地方店は『ご当地初」などの冠を付けられるテナントが集めやすく、比較的リーシングは容易である。 牧山浩三社長が言う「若い感性を持つ人のスキルや力を活用した」福岡パルコ新館は別にしても、地方店では足下商圏にあったテナントを入れて収益を稼ぎ、それを原資に渋谷店に投資してチャレンジすると考えれば、戦略としてはわかりやすい。

 その証拠に浦和パルコや津田沼パルコのテナントを見ると、グローバルワークあり、ザラあり、カルディコーヒーファームあり、TKあり、ニコアンドありと、収益を稼げるテナントが目白押しだ。駅ビル系セレクト&ヤングブランドを除けば、郊外のリージョナルSCと、テナントは顔ぶれはほぼ共通する。戦略で謳う「主要都市部での深耕」とは、「RSCまでお客を行かせない」とも解釈できるのだ。

 とすれば、2012年にマーケットを賑わせたイオンによる敵対的買収の阻止は何だったのか。パルコは都市型ファッションビルとしてのブランドバリュを維持するために百貨店系のJフロント傘下入りしておきながら、売上げ伸張のためのマスマーケット攻略ではイオンと競合する。まあ、大株主のJフロントは脱百貨店を公言しており、パルコのビジネスモデルを喉から手が出るほど欲しかったわけだ。また、収益アップについてもシビアで、経営陣の交替すら容赦ないからわからないでもない。しかし、8.5%の株を所有するイオンとしては、ずいぶん舐められたものである。

 とどのつまり、ファッション販売に従事する全小売業、全てのデベロッパーがキラーコンテンツとなるブランド不足、混沌としたマーケットの中でパイの奪い合いを先鋭化させていると言える。そこではセレクトショップも量販店もファッションビルも無い。あるのは売れてなんぼ、利益がとれていくらである。ビームス+青山商事しかり、パルコの中のRSC系テナントしかり。仕掛ける側はブランドのロイヤルティ維持より、売上げという実を優先する。果たしてこうした経営判断の先にあるものとは成功なのか、失敗なのか。ここはアパレルがデベロッパーや小売りに振り回されるのではなく、本当に納得がいく商品をしっかり作る。そうした原点をじっくり注視していかなければならないと思う。
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三文イベントの陰に政争あり?

2016-07-06 07:20:29 | Weblog
 さる6月24日、東京ガールズコレクション(TGC)の実行委員会は、福岡県北九州市のホテルで昨年に続き「TGC KITAKYUSHU2016」を10月9日に、小倉北区の西日本総合展示場で開催すると発表した。会見には、出演を予定するモデルの他に北九州市の北橋健治市長、福岡県の小川洋知事も同席したが、この手のイベントが改めて行政とべったりで、公金頼みでしか収益が安定しないということを示すような会見だった。

 同日には福岡アジアファッション拠点推進会議も、オフィシャルサイトで来年の3月19日に開催する「福岡アジアコレクション(FACo)2017」の出展ブランド、デザイナーの募集を開始。要項には「福岡を拠点とするブランドと、FACoをプロモーションの場にしたいデザイナー」に参加を促す旨が記されているが、これまでのFACoを見る限りでは地場ブランド、デザイナーが増える様子は一向に見られない。

 FACo自体が終日近くダラダラ続くのだから、尺を埋めるためのNB(ナショナルブランド)もフリーパスで多数参加している。イベントプロデュースにあたるRKB毎日放送は、そうした姑息さに触れことはなく、福岡県をはじめ福岡市、福岡商工会議所からも多額の補助金をもらっているため、便宜上「福岡ブランド」を強調しているに過ぎない。実に白々しい限りである。

 ところで、北九州市がTGC KITAKYUSHU2016を支援するのは、別の見方もできる。大袈裟に言えば、北九州市と福岡市の対立、福岡県知事と北九州市長の政争である。俯瞰して見ると、両者の構図は先鋭化する。TGCに代表されるガールズコレクションは、モデル崩れのタレントなどを起用した「客寄せ興行」だ。代表的なものでは他に関西を拠点にする「神戸コレクション」がある。現在、TGCはキャラクター制作のディー・エル・イーが商標権を持ち、神戸コレクションはテレビ局のMBS毎日放送が主催者を成している。つまり、コレクションを謳っていても、アパレル、ファッション業界が主催するクリエーション発信の場ではないのだ。

 主催者側はそうしたビジネスフォーマットを「町おこしイベント」「賑わいの創出」として、全国の自治体に売り込んでいる。福岡でも2009年から福岡アジアコレクション/FACoが開催されているが、これも神戸コレクションを下敷きしたものだ。プロデュースするRKB毎日放送はMBS毎日放送の系列会社であり、広告収入に限りが見えているローカルテレビが、新たな収入確保のためにこの手のイベントを「事業」として指南されたと見れば、実にわかりやすい。

 そこでは自治体から公金を拠出させるために、「地元ファッション産業の振興」「情報発信」「人材育成」という公共事業としての大義が打ち出されている。福岡の場合は、2008年のスタート時は麻生渡知事が県の首長で、事業を推進する福岡アジアファッション拠点推進会議も県知事主導、福岡商工会議所が参画する形になっていた。こうした事業構造も神戸コレクションが前例なっている面を見れば、背景ではいろんなことが画策されていたようだが、コピー事業の詳細は(株)ぜんまいT社長のSNSを見れば、なるほどと思える箇所が随所に出てくる。福岡県と福岡商工会議所は事業開始から3年間はメーンの支援者として年2,000万円程度の資金援助したが、「その後は独自で事業化しろ」と、事業実行者であるRKB毎日放送に伝えていたのは、多くの関係者が語るところだ。

 ただ、ガールズコレクションは客寄せ興行だから、メーンの収入はチケット代になる。あとはスポンサーに頼るしかないが、これにも限界がある。RKB毎日放送として事業利益をひねり出すには自治体からの継続支援が欠かせないわけだ。そこで救いの神となったのがタレントの顔を持って福岡市長となった高島宗一郎である。就任後、福岡市の経済観光文化局の予算のうち、「コンテンツ関連産業の振興」費を使えるように、FACoの他、これもRKB毎日放送が事業実行者になった事業に、年2,000万円弱が振り向けられた。

 コンテンツとはいったい何か。コレクションと言っても客寄せ興行だから、「観光インフラ」の一つと位置づけたようである。ご当地タレントなんかと並んで、「福岡に集客するコンテンツ」とでも言いたいのだろう。まあ、こじ付けでしかないのがよくわかる。その証拠に福岡県では堂々とファッション産業の振興、 情報発信、人材育成を目的とした公共事業と位置づけて公金を拠出し、今も助成を継続している。それに対し、福岡市は全く別の目的で事業予算を出したということ。一つの事業なのに税金の使い途としては全く違うのである。

 言い換えれば、RKB毎日放送からすれば、縦割り行政をうまく活用して事業資金を確保できたのだから、高島市長誕生はまさに渡りに船だったと言える。まあ、FACoのスポンサーには福岡市の税収源である「福岡ボート」がついた年もあった。福岡市の事業だけで予算を確保するには限界があるから、高島市長が市の息がかかる公営ギャンブルの販促費を振り向けさせたと言っても不思議ではない。つまり、RKB毎日放送がやることは、どんな形でも行政から事業費を引き出す。それがFACoを自社事業として継続していくカギとなるわけだ。福岡県が事業の大儀、目的にした地場アパレルの振興、人材育成など全く眼中にないのがよくわかる。

 一方、こうした客寄せ興行が町おこしイベントとして行政のお墨付きを得ると、今度は自治体同士のせめぎ合いという構図も生まれてくる。それが北九州市がTGC KITAKYUSHU2016の開催を始めた理由と言えるだろう。福岡県が福岡市のFACoに対して予算的に一歩引いたとは言え、補助金を拠出し続けている点は変わらない。北九州市の北橋市長、市の関係者からすれば、福岡市ばかりが福岡県の恩恵を受けるのは面白くないはずである。

 それ以上に福岡県知事と北九州市長の間には二代に渡って同じ学閥出身者が就任するという対立軸がある。麻生渡前福岡県知事は京都大学卒、末吉興一前北九州市長は東京大学卒。現在の知事と市長も同じ大学出身なわけで、京大のライバルである東大卒の北橋市長が小川知事に噛み付かないわけがない。ソフトな言い方をすれば、「北九州市の町おこしイベントにも福岡県は支援すべきだ」と、言い出すのは想像に難くない。

 北橋市長は兵庫の甲陽学院高校から東京大学に進学。1986年に北九州市がメーン地盤の旧福岡2区から衆議院議員に出馬し当選した。当時の所属政党が民社党ということを考えれば、新日鉄労組などの支援を受けたわけで、東大エリートの中に一定層はいる社会主義思想の一人であるのは間違いない。一方、 小川県知事は名門の県立修猷館高校から京都大学に進学した。同世代の東大入学組には東京都知事を辞職した舛添要一、急逝した元法務大臣の鳩山邦夫など錚々たるメンバーがいる。時は70年安保闘争が盛んなりし頃で、小川県知事は東大が全共闘にジャックされている最中に受験を迎えた。そのため、政済界では東大を避けたのではと目されているほどだ。

 だから、革新系の北橋市長が保守系の小川県知事と真っ向対峙しているかはわからないが、東大卒の北橋市長からすれば自分が年下でも学歴は上だと、首長の力を誇示したい気持ちは無きにしもあらずだ。結果、「福岡市で開催されるFACoが3月の開催なら、北九州市のTGCは10月に開く。春夏、秋冬とイベントが重ならないから町おこし、集客などで競合せず文句はないはず。北九州市にも県から補助金を拠出してほしい」。両者の間でこうした談合、いや密約が交わされたと言っても不思議ではない。でなければ、わざわざ北橋市長と小川知事がTGC KITAKYUSHUの記者発表に同席する必要はない。両名がカメラの前で並立したという点から、メディアも何らかの手打ちがあったと推察していると思う。

 もっとも、FACoとTGC北九州の分離開催には続きがある。FACoの元になっている神戸コレクションと本家の東京ガールズコレクションの提携話があることだ。神戸コレクションを主催するMBS大阪毎日放送は、「神戸コレクションは、関東では『東京ランウェイ』という同様のイベントを企画してきたが、同様のファッションイベントが同じ地域でいくつもあることに、非効率を感じるようになり、互いの力を結集させれば、ビジネス含め、更に新しい展開ができるのでは考えた」と、企画提携の理由を語っている。



 これはFACoと言おうが、TGC北九州と付こうがイベント内容はほとんど変わらないと、主催者が認めたようなものだ。両者が春夏、秋冬開催に分かれたのは、単に出展、登場する商品のシーズンで分けたと言うこともできる。そこで問題となるの当事者の利害だ。TGC北九州はTGCをそのまま持ってくるだけだから、北九州市の関係者がプロデュースする立場ではない。しかし、FACoは違う。RKB毎日放送の収益事業になっている。冠につく「福岡アジア」は行政から公金拠出を受けるための手段で、本家の神戸コレクションがTGCと企画提携しても、自分たちの利権を守るために是が非でも、名前は残したいはず。だからこそ、福岡アジアファッション拠点推進会議のサイトで「福岡を拠点とするブランドと、FACoをプロモーションの場にしたいデザイナー」に参加を呼びかけているのである。

 地場からアパレルやデザイナーの参加者がなくNBだけで開催すれば、福岡アジアの冠は意味を持たない。行政は補助金を減額することも考えられる。RKB毎日放送としてはそれは何としても避けなければならないわけだ。問題は他にもある。FACoはTGCを始動させたゼイヴェル運営の通販サイトを真似て、楽天市場にオフィシャルショッピングサイト「MODEL STREET」を出店し、外部企業に運営委託している。サイトを運営する企業は地場でTGCなどに出展するNBの通販を一手に手掛ける某社で、 MODEL STREETで販売する地場ブランドは、リンクイットの「ブージュ・ルード」くらいしかない。



 アパレルメーカーは卸売りが基本なので、商品は小売店を通じて販売される。業界の不文律からしてSPA化しない限りは直販できない。しかし、昨年度のFACoに出展した地場ブランドはたった5社6ブランド。そのうちSPA化して小売り機能を持っているのは、レディスハトヤが出かけるラトカーレ、サリアくらいだ。O'sps.Creativeのプリパルプリは、独自のプリーツ技術を生かした商品を販売している。だが、母体のOEMメーカーオザキプリーツはスタッフの給料遅配があるなど厳しい経営環境にあり、他社サイトまでの商品供給には疑問符がつく。ロイヤルチエはファー系のプレタブランドなので、MODEL STREETの客層とターゲットが違いすぎる。小売り機能がなければ単なるPRしかできないのは当然だが、他はすべてNBが顔を揃える中で卸が地場ブランドとして情報発信することに何の意味があるのか。しかも「15万円もの費用を負担しろ」というのだから、唖然とする。

 いったいMODEL STREETがどれほどのアクセス率があり、コンバージョンレートはどれくらいなのか。そうした媒体資料さえ公開していないのだから、サイトの価値はたかが知れているだろう。運営会社にとっては自社サイトが主力だから、MODEL STREETはプラスαくらいにしか思っていないと思う。第一、MODEL STREETのアップされているブランドのほとんどが自社の通販サイトを持っており、イベントの来場者以外がわざわざアクセスして、購入する理由などない。ブランドのファンならなおさらだろう。地元ファッションなどMODEL STREETでは埋没してしまいかねず、ファッション情報の発信力などほとんどないと見る方が妥当だ。

 RKB毎日放送を含めた利害関係者は、FACo事業に福岡県や福岡市、福岡商工会議所から毎年数千万円もの公金を拠出してもらいながら、委託先企業がサイトを運営しているとは言え、FACoは地場のアパレルからは堂々と出店料をせしめようとする。本来は資金力に乏しいアパレル関係企業を支援するために税金が事業に投入されたはずである。オザキプリーツはその典型だろう。

 福岡市が予算拠出する「コンテンツ事業」を見ても、いつのまにか利害関係者によって都合の良いように事業がねじ曲げられているのがよくわかる。まあ、来年のFACoにどれほどの地場アパレルが出展し、フリーのデザイナーが賛同するのか。昨年の参加デザイナー8名のうち2名ほどは北九州市で活動する人間だった。この両名がTGC北九州に参加すれば、秋冬とは言えFACo、TGCの関係が問われることになる。あの企画運営委員長はFACoとTGCの「連携」を口にするかもしれないが、これこそご都合主義でFACoに中身がないことを言っているようなもの。ファッション業界から失笑を買うのはいうまでもない。
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