HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

経営者の発想転換が大事。

2016-01-29 10:51:03 | Weblog
 The FLAGから寄稿を頼まれたので、遅ればせながら当コラムで論じてみたい。

 若者がファッション離れしてきたと言われる。それは「買う方」だけでなく、「売る方」も減っているということだろうか。

 The FLAGの独自調査を見ると、ファーストリテイリングを筆頭に、16位のパルコまでは「従業員数」が増加している。

 だが、これらの企業は海外を含めた出店数が増えていたり、企業間の合併や同業他社の吸収などM&Aがらみもあるだろう。従業員の大半は販売スタッフかもしれないけど、MDやエリア管理なども含まれるはずだ。

 何より、本来は従業員に数えるべきパートスタッフを正社員化したことで、従業員が水増しされるという数字のマジックもあるのかもしれない。

 こうした状況の一方で、17位以下は従業員数が減少に転じる。だから、雰囲気的にはファッション業界で働く人々はトータルでは、減っていると見た方がいいだろう。

 都市部の再開発を含めて、商業施設の開発は今後も続く。販売スタッフを中心として必要なはずだ。ただ、イオンモールでは岡山市への出店あたりから、テナントがスタッフ募集をしても、中々集まらないとのニュースが流れた。

 岡山市という都市部でもそうなのだから、今後、純然たる郊外出店では販売スタッフ確保に窮するテナントが増えてくることは予測される。

 都市部は、交通アクセスやブランドの顔ぶれから販売スタッフは集めやすいと思うが、調査データを見る限りでは、知名度のある企業や人気ブランドでない限り、若者を中心とした人手不足は深刻になっていくのかもしれない。

 特に小売業は出店するにしても、販売スタッフが集まらないのでは、話にならない。デベロッパーもスタッフ不足で小売りが出店に二の足を踏むのでは、テナントリーシングもままならない。

 構造的な問題として、アパレル、小売り、デベロッパーの3社が取り組まなければならないというのが正論だろう。

 でも、それで解決策が出るかと言えば、現状のデフレが続く限り、個人的には無理だと思う。理屈として、高い賃金、良い待遇は、売上げに正比例する。

 売上げを上げるには、高い販売力やホスピタリティ、接客術などが求められる。だが、それが専門学校や大学の教育、入社後の企業研修くらいでどこまで習得させられ、本人が吸収できるか。

 一律で絶対数が揃うかどうかについては、筆者は懐疑的である。

 企業側は賃金が安い若年従業員を育てて、活用したいのだろうが、今の業界を見ている若者がそれに簡単に応じるとはとても思わない。優秀な人間ほど、高待遇な業界に流れていくし、条件として正社員などの待遇は譲れないだろう。

 日本のファッションマーケットは大半をボリュームゾーンが占める。その市場がデフレの影響を一番受けていることを考えると、企業は安い賃金しか払えないわけだから、新卒を中心にしたスタッフ確保は容易ではないと思う。

 スタッフ確保→正社員化→高賃金の約束→高度な能力→他業界、異業種に就職、転職という構図。いまのファッション業界がこれに簡単にくさびを打つことができるか。限りなく難しい状況だ。

 一方、発想を変えると、従業員は何も若者でなければならないことはない。いわゆる、主婦層の活用である。20代で、結婚、出産を経験すると、30代、40代では時間的な余裕も出てくる。

 IT業界のような業界は高度な技術を必要とする職種は無理だが、いたってアナログな接客はできなくはないという主婦層は相当数がいると思う。1日のうちで3時間でも5時間でも働けるなら、パートでも構わないという層だ。

 実際、そういうニーズは決して少なくないと思う。ブ左翼は「非正規雇用は悪だ」みたいに宣うが、働くのは個人の意思だし、働き方は多様化した方が企業にも、個人にもメリットは大きい。

 20代の若者はファッション離れかもしれないが、30代以降の主婦層が仕事に就けば街着やコスメも必要になり、需要が喚起されるのは間違いない。

 「若者向けのショップにおばさんが居ても…」というご意見もあるだろう。しかし、現実としてスタッフ不足は深刻だ。四の五の言える状況ではないはずである。

 それでなくても、日本は確実に少子高齢が進んでいる。ミドルエージを活用しなくて、誰が労働力の中心になるというのか。

 企業の中には、主婦層の起用を積極的に進めているところもある。郊外SCへのテナント出店で年商100億円を達成しつつある地場SPAだ。

 ところが、「田んぼの畦道を夜間に帰宅させるのはどうか」と、郊外店で働く主婦スタッフを案じ、経営者は脱郊外SCの必要性も語り始めている。

 現にSC業態で培った商品開発や店づくりのノウハウを生かし、昨年からは都市部でのOL向け業態の展開をスタートさせた。

 当然、ここでは郊外店での勤務経験をもつ主婦パートがキャリアアップして、店長などのポストにも就いている。

 もちろん、社内でも「主婦スタッフの取締役への登用」「店長、チーフクラスの待遇改善、その後のポストの創出」「パートから正社員への登用」と、体制整備には惜しみない投資を行っている。

 パートであっても、優秀な販売スタッフはホテルに一堂に会し、家族全員と共にディナーパーティを兼ねた表彰式も開催している。子供には母親に対する作文を読んでもらうサプライズ企画もあるという。

 もちろん、主婦向けにはどんなパーティウェアが良いか。マーケティングや企画立案にも役立てるなど、抜け目は無い。

 さらに自治体からも「子育て応援企業」のお墨付きももらうなど、主婦が働き易い環境整備には徹底して取り組んでいる。

 「世の中はスタッフ不足と言ってますが、うちは従業員募集で苦労したことはないし、働きたい人はどんどん活用していきたい」と、この企業の経営者は語る。

 The FLAGの独自調査にある16位までの企業でも、ファーストリテイリング、良品計画、三越伊勢丹、パルなどには、主婦スタッフがいることが従業員増加を後押ししているのではないだろうか。

 サマンサタバサにしても、今働いているスタッフが「無事」?に結婚、出産した後、再び働きたくて戻ってくる可能性は無きにしも有らずだ。

 とすれば、従業員が増加している会社の方針や経営者の考え方は、この企業とシンクロするのではないだろうか。

 要は企業の方針、経営者の考え方次第だと思う。
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ボリューム化する影響。

2016-01-27 14:54:37 | Weblog
 南国九州を襲った寒波、降雪もそれほどの影響はなく、次第に春めいていきそうである。

 いよいよ4月21日には、「博多マルイ」がJR博多駅前に開業する日本郵便の商業ビル、KITTE博多の核テナントとして出店。満を持しての福岡進出である。

 マルイの小売事業を担う(株)丸井では、以前から政令指定都市には出店する戦略を掲げており、人口152万人を擁する福岡市は、改革当初から候補地となっていたと聞く。

 ただ、都市型の商業ビルは、JR博多シティやパルコに見られるようにテナントの顔ぶれが違うだけで、ターゲットやテイストの同質化は否めない。

 冬のセールにおける「店頭」を見ても、知名度のあるブランドショップから末端のセレクトショップまで、未だにかなりの在庫を残しており、苦戦は免れなかった印象を受ける。

 おそらく若者を中心にしたファッション離れは九州でも例外ではないし、ECという目に見えない競争相手も出現している。

 だからからではないだろうが、マルイは福岡進出に際し、グループの総力を結集させて入念な開業計画を策定している。

 店舗形態は都市型ながらもSC型マルイのモデル店とし、幅広い年代をターゲットにして雑貨や飲食の売場を増やすなど、お客と一体になった店づくりを想定するもの。それは「ハードを作り、テナントを集め、ハイ、オープン」では決してないということである。

 2013年の福岡進出を決定すると、14年5月には博多区の奈良屋町に開業準備室を構え、早速、地元住民から意見や要望を聞き入れるためにオピニオンリーダーを募集した。

 8月からは「店づくり企画会議」をスタートさせ、インターネット上には「コミュニティサイト」を開設し、地域との情報共有を図るなど、地元密着にも余念がない。

 もっとも、企画会議を通じた店づくりは、2007年開店の有楽町マルイから始動している。有楽町は同じ東京都内でも渋谷や新宿とは客層が違うため、お客は商業施設に対して何を期待しているのかを見極めるためだった。

 そこでは商品面からハードまでのすべてで、マルイ自身が気づいていなかったことが判明したというから、MDの幅を広げ、アパレル以外も扱うライフスタイル型ストアにシフトするきっかけになったのは間違いない。

 店づくり会議は、14年8月から月1~2回のペースで、週末の金・土に開催されている。店舗のコンセプトから始まり、各フロアのゾーニング、イベント企画や商品面の最終詰めなどまで、段階的なステップを踏んでいる。

 参加人数も回を重ねる毎に増えているというから、すでに延べ3000名以上に及ぶと思われる。会議は開業を前に佳境を迎えているようで、お客からはかなり突っ込んだ内容の意見や要望も出始めているという。何とか売れる商品を集積しようと、商品部やテナントリーシングの担当者が奔走する姿が目に浮かんでくる。

 一方、JR博多シティや博多阪急のブランドやテナントの顔ぶれ、天神とのバッティングは、お客にとっても学習効果となっているのは言うまでもない。なおさら、老弱男女を問わず、ボリュームゾーンのお客ほどファッション離れが著しい。

 それを考えると、博多マルイを利用するであろうお客の側も、マルイに対しアパレルを中心としたブランド誘致に強い関心は示してはいないようで、イベント開催への要望や意見の方が多数を占めているとの話が伝わってくる。

 マルイ側としてもイベントは、集客の目玉でもあることでスペースを割き、賑わいを創造する上でも積極的に企画していく考えを持っているようだ。

 1月半ば、筆者のところにも博多マルイのプレスリリースが届けられた。それによると、飲食・食物販の充実が目立つ一方、アパレルは3割にとどまる。これまで通り、店づくり企画会議でのお客の要望が随所に生かされたかたちだろう。
 
 ただ、マルイでは完成した店舗がゴールとの認識はない。最初から100%応えられるということは考えておらず、開業後も企画会議は継続して開催していくようである。

 テナントとの定期借家契約の期間は、おそらくケースバイケースであるだろう。これをベースに時流やマーケットの変化に応じて、単期にテナントを入れ替えながらSCとしての最適化を目指していく戦略だと思われる。

 福岡では過去、大型の商業施設が開業する度に、地元メディアは「第◯次、流通戦争」と定義付けて報道してきた。

 ところが、2011年のJR博多シティの開業からは、天神と博多駅の競合、都市部と郊外の競争といった単純な図式では語れなくなっている。

 例えば、博多阪急は開業から4年、ずっと増収増益を続けている。かといって、天神や郊外がその分のパイを奪われ、売上げを下げたかと言えば、決してそんなことはないと思う。

 確かに国内外の高級ブランドやデザイナーズファッションは天神に集まる傾向が強いが、そうしたハンディを持ちながらも博多駅は独自でマーケットを広げている。インバウンド消費などを追い風にしつつ、天神との相乗効果を発揮して集客しているのだ。

 マルイはこうした福岡がもつポテンシャル、市場拡張力を背景に満を持して登場する。現時点で集客目標や売上げ規模は公表していないが、既存店の同規模の100億円くらいは売上げることができると踏んでいるのではないか。

 テナントは135区画中、50区画以上が「九州初出店」。しかし、メディアがこぞって取り上げるこの言葉こそお客にとっては、すでに陳腐化していると思う。

 新たにオープンする店名やブランドは違っても、中身や商品のテイストがほとんど似通っていることをすでに認識しているからだ。それほど、市場は成熟しているのである。

 プレスリリースであごだしの「だし処 兵四郎」や文具店の「スティロプリュス」がクローズアップされているところを見ると、服以外の商品の方にお客の期待は高いようだ。

 実際に東京でも、この手の業態が受けていることを考えると、福岡でも同じマーケットが形成されるつつあるのは否定できない。

 店づくり企画会議でお客の要望を聞き入れ、商品部のスタッフがテナント誘致に尽力した結果かもしれないが、お客が求めるトレンド商品は東京でも福岡でも大して変わらないということがよくわかる。

 従来の商業施設ではMDやテナント配置はあくまで自前で決定してきた。マルイがマーケットインというか、ローカルニーズに即した点は、これまでの商業施設とは違う点ではないか。

 それをどこまで売上げに結びつけられるかは、クレジットカードを含めマルイの営業戦略が問われるところである。

 店舗面積(1万5000m2)やテナントの顔ぶれ、商品政策のどれをとっても、マルイが既存の商業施設と真っ向勝負しようという感じには見えない。

 それはある意味、弱腰や無欲と捉えられなくもないが、独立独歩を貫く姿勢としては評価できる。

 むしろ、最激戦区の東京でしのぎを削った経験は伊達ではないし、クレジットカードのノウハウでは一日の長があるだけに、既存店には脅威に映るはずだ。

 では、マルイが及ぼす影響は何だろうか。考えられるは博多駅市場のボリューム化。商品のグレードや価格帯で、一番販売量が多いゾーンになっていく懸念である。

 博多駅は1日平均の乗降客数(2014年)は、約20万人。そこで生まれる小売り市場は、通勤通学客による日常の買い物、旅行客による御土産や飲食が主体となる。

 アミュプラザ博多や博多阪急のアパレルは、少子高齢の影響を徐々に受けて行くと思われるし、東急ハンズは雑貨主体で収益規模は大きくない。

 あとは飲食やデパ地下くらいである。外国人旅行客のインバウンド消費といっても、先行きは不透明で過度な期待は禁物だ。

 こうした状況下に博多マルイが加わると、博多駅市場では飲食、食品とデイリーユースの衣料・雑貨などがより際立って売れていくと思われる。

 高感度なファッションや希少なブランドは、ネットを含め博多駅以外に求めていく傾向が強くなるからだ。

 こうした予測は博多阪急が開業する時にも関係者から聞かれ、地元専門店の中にも博多駅のボリューム化を見越し、天神に店舗を移したところもある。

 ボリューム化は確実に収益が上がるわけだから、決してデメリットではない。しかし、博多駅以外への売上げの持ち出しを意識し、それを差し止めるために各社の商品政策にブレが生じると、かつての博多井筒屋のように戦略を見失ってしまう。

 どちらにしても、低姿勢のマルイがどこまで博多駅とそれ以外のエリアから集客できるか。

 今回の降雪のようにJRが麻痺すると、博多駅地区にある商業施設への影響は免れない。市場はボリューム化すれば、なおさらそうなるだろう。

 「雪が降れば、マルイが儲かる」。商品や価格以外の面でも、マルイの企画力が問われることは間違いなさそうだ。
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目的と執行の大きな矛盾。

2016-01-20 10:19:23 | Weblog
 地方自治体は前年度の「事業決算」を12月を目処にまとめて報告する。

 福岡市の平成26年度決算(平成26年4月1日~27年3月31日)も、各部局毎に分科会が開催され、詳細については資料に基づき説明がなされている。

 第三分科会には、農林水産業や商工業、観光、文化などの部局が名を連ね、2015年10月14日、15日には、経済観光文化局所管の事業について決算説明が行われた。

 http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/50945/1/26kessan-keizai-shiryo.pdf

 資料によると、事業の3番目に「コンテンツを核とした国際ビジネスの振興」がある。予算としては2億6937万1000円が拠出され、執行されている。

 資料には「クリエイティブ関連産業の振興について、…ファッション産業における民間主導による福岡アジアコレクションやファッションウィーク福岡の開催のほか…などにより、関連産業の集積を計るとともに、まちの魅力を高め、集客や経済の活性界につなげた」と記述されている。

 クリエイティブ関連産業の振興として執行された予算は、3373万8000円だ。

 その第二項目は、福岡アジアファッション拠点推進会議による事業展開、「福岡アジアコレクション/FACo」の開催、「合同展示会」(おそらくGOLDRUSHと思われる)、「ファッションウィーク福岡」となっている。

 成果、実績は福岡アジアコレクション/ FACoが入場者数7,546人、GOLDRUSHが出展者91社・93ブランド(数回開催)、ファッションウィーク福岡の参加企業260社とある。

 次年度の目標では、ファッションウィーク福岡参加企業が300社以上となっている。報告はこの程度で終わりだ。

 当コラムでは、2008年の福岡アジアファッション拠点推進会議発足以来、事業計画書に書かれた本来の目的と福岡アジアコレクション/FACoを中心にした事業内容とのズレや違いを指摘してきた。背景にある利害関係者の暗躍も含めてだ。

 そこで、今回は事業目的と予算執行に関する大きな矛盾、整合性を欠如を指摘してみたい。

 タイムリーなことに福岡アジアファッション拠点推進会議のサイトでも、3月に開催される福岡アジアコレクション/FACoのチケット発売が告知された。



 当然、平成27年度の経済観光文化局予算がFACoのためにプールされ、執行されるのはいうまでもない。

 http://www.fa-fashion.jp/index.php?action_detail_index=true&doc_id=288

 サイト告知では堂々と、福岡ブランドと全国の人気ブランド(NB)が繰り広げる「リアルクローズファッションショー」とある。

 これは福岡アジアコレクション/FACoが初めて開催されたときから、プロデューサーが声高に叫んでいることだ。

 そもそも「リアルクローズ」とは何か。我々ファッション業界で仕事している人間の間では、「パリコレのようなコレクションショーでの発表用=クリエーション(創作物)ではなく、普通の生活で実際に着られる服や、他のものと組み合わせて多用途に使える服」という解釈である。

 つまり、限りなく汎用性のある、一般のショップで販売されている服をさす。

 最近はパリコレでも、ビジネス優先、売れることが前提の服が大半を占めるようになった。

 コムデギャルソンの川久保玲氏は、読売新聞の年頭インタビューで、「パリコレはクリエーション(創作)をぶつける場と捉え、ビジネスを考えずに作りたいものを作ると決め、突き詰めた表現をするようにした」と答えたが、そうしたデザイナーやブランドはむしろ少数派になってきている。

 クリエーションと言っても、ファッションビジネスだから、売れる服とのバランスが重視されてきたのは以前から変わらない。

 どうしてもコレクション発表の中で、メディアが奇抜な服を切り取って、報道するするからそんなイメージができ上がったに過ぎないのだ。

 ただ、昨今は大手メゾン、ファッションコングロマリットほど、投資家やファンドが経営を支えていることがあり、単期に売上げを上げてリターンしなければならない。

 だから、クリエーション一辺倒から「売れる服」を重視したリアルクローズ偏重になってきているのも事実である。

 話を元に戻そう。つまり、福岡アジアコレクション/FACoがリアルクローズのファッションショーなら、なぜ福岡市はクリエーションを生み出すべきクリエイティブ関連の事業と位置づけるのか。まず、ここに大きな矛盾、整合性の無さがある。

 FACoを仕切るRKB毎日放送のプロデューサー、経済観光文化局の担当者は、事業の冠にある「コンテンツ」を引き合いに出して、「FACoがコンテンツを核にした国際ビジネス」には違いないと言い訳するだろう。

 でも、実際にはFACoは「クリエイティブ関連産業の振興」の事業とはっきり位置づけられ、予算は執行されるというパラドクスをどう説明するのか。

 服以外の企画内容も、クリエイティブ産業とはほど遠い。事業主体は福岡アジアファッション拠点推進会議になるが、福岡市が「民間主導」と言っている通り、FACoの制作はRKB毎日放送という放送事業者が行っている。

 しかし、民間主導は後づけで、そうする根拠は何も示されていない。しかも、RKBは東京の芸能プロダクションやモデル事務所に所属するタレントを呼び、ステージ設営、音響、照明などはすべてイベント業者丸投げで、イベントを仕切っているだけだ。

 ショーの演出なども、RKBの系列会社であるMBS大阪毎日放送が主催している「神戸コレクション」のノウハウをそのまま流用しているに過ぎない。

 こうした形態を見ても、福岡アジアコレクションという名称は、自治体から関連の事業予算を引き出すための「冠」に過ぎず、放送事業が頭打ちのRKBが税金を後ろ盾に「事業収入」に確保しようという「客寄せ興行」なところが明白だ。

 つまり、民間主導と言っても、それは単なるパクリ。言うなれば、クリエイティブ関連産業なんてレベルには遠く及ばないしろ物と言える。

 一方で、福岡アジアコレクション/FACoには、「福岡県」からも予算が拠出、執行されている。もともとは福岡アジアファッション拠点推進会議は、福岡県の麻生元知事と福岡商工会議所が主導するという?形で発足された。

 そのため、福岡県は当初、「福岡をアジアに開かれたファッション拠点都市を目指すこと」を目的として、どちらかというと地場ファッション産業の振興や情報発信、人材育成を目的にした事業に位置づけられた。

 ところが、事業開始から8年もたつのに、地盤産業の振興も人材育成もほとんど見られない。それどころが、福岡市と福岡県とも事業目的で実際に行われていることに整合性が見られず、相乗効果も疑わしい。

 事業者にとっては予算が降りると、いつの間にか事業目的=大義は形骸化し、事業主体の利害関係者にとっては、「予算を獲得できれば大義なんかはどうでもいい」「とにかく予算を得るためには何でもかんでも事業をでっち上げればいい」ようになっていく。

 地場ファッション産業の振興と言いながら、東京から三文タレントを呼び、神戸コレクションのノウハウそのもので、シンガポールやタイのバンコクで開催する客寄せ興行が、とても地盤産業の振興、情報発信、ましてクリエイティブ産業であるはずがない。
 
 クリエイティブと言えば、昨年、醜聞をまき散らした佐野研二郎氏が思い浮かぶ。同氏もフリーのアートディレクターだが、出身は広告代理店のH社だった。

 同社は、クリエイティブ関連産業の振興で、三番目の項目に上げられている「ファッションウィーク福岡」も2年連続で民間事業者となり、イベントの企画実施に携わっている。

 ところが、一昨年の事業では、市役所前広場での「ファッションマーケット」が参加者が思うように集まらず、企画として失敗に終わっている。

 昨年は代理店お得意の芸能人を呼ぶ企画にシフトしたが、これとて予算の都合からギャラが安い泣かず飛ばすのミュージシャンや三流モデルをブッキングせざるを得ず、それらが事業効果を生んだかについては極めて曖昧だ。

 決算報告書には、「ファッションウィーク福岡の参加企業260社・店」とあるが、この数字もサイトなどに無料掲載に応じた飲食店や理容美容店まで、すべて頭数に入れた計算である。行政がよくやる誇大な実績報告に過ぎない。

 ファッションウィーク福岡が対象とするエリアは、福岡市の中心部天神、博多駅と周辺の大名、今泉、薬院と規定され、参加できる企業や店舗は限定的だ。

 博多駅前に「マルイ博多」が開業すると言っても、オープンは4月21日だからイベントには間に合わないし、 1店ではどうしようもない。

 本年度はそれを「300店に増やす目標」というから、不参加店舗の目減りを想定すれば、この数字も根拠を欠く。それでなくても、過去3回の事業を見ると、さらに何でもかんでも数字に計上するような事態も予測される。

 合同展示会のGOLDRUSHにしても、もともとは地場アパレルのJACトレーディング(現リンクイット)が企画主導し、県内外のアパレルや雑貨のメーカーに呼びかけて実施していたものだ。

 それを利害関係者が無理矢理に一連の事業に加え、市からの支援を取り付けるかたちで、自らの企画という風に取り繕っているに過ぎない。

 来場するバイヤーは思ったほどなく、地場有力のセレクトショップや専門店が期待しているかと言えば、それも懐疑的だろう。

 まあ、行政の担当者は目標が達成できなくても痛くも痒くもないだろうし、利害関係者にとっては実際の参加企業数とは異なる架空の数値をいかに計上するか、今から色々考えているだろうが。





 福岡アジアコレクション/FACoが神戸コレクションの劣化コピーであるなら、ファッションウィーク福岡も、「神戸ファッションウィーク」の「パクリ」がうかがえる。

 筆者は永年、業界で働いてきたので、ワールドをはじめ神戸所縁のアパレルメーカーにも知り合いが多い。その一人が昨年、送ってくれたのが表紙に「18th KOBE FASHION WEEK」とローマ字表記されたパンフレットである。

 内容、ページ構成を見ると、第1回目、2回目のファッションウィーク福岡でパンフレットが制作されたと酷似している。

 参加企業や店舗の紹介からエリア地図、イベント内容の告知、広告ページ、そしてスポンサー企業の紹介などにいたる割り振りもそっくりだ。まさに「パクリじゃん」って言われそうである。

 発行人名を見ると、なおさらである。福岡アジアファッション拠点推進会議の発足総会の時に基調講演を行い、MBS大阪毎日放送とともにRKB毎日放送に客寄せ興行のファッションイベントを指南したT氏である。

 今でこそ、福岡アジアコレクション/FACoのステージングを担当していたイベント会社の代表は辞しているが、別の形で影響力を発揮しているようである。

 昨年のファッションウィーク福岡は、RKBや代理店一辺倒への予算配分を避けてか、FBS福岡放送の「情報番組」でもアピールしている。もちろん、10分程度の番組だから、パブリシティではなく、「有料」でVTR制作したのは間違いないだろう。

 昨年11月には、今回のファッションウィーク福岡の参加施設、コミュニティの募集、及び企画内容が募集された。

 RKBが福岡アジアコレクション/FACoに予算を使う関係から、ファッションウィーク福岡にも多くを避けないのか、昨年からイベントそのものは縮小気味である。

 また、参加企業に企画を考えさせ、ウィークそのものは集客や販促の共同キャンペーンを張る程度に落ち着いている。それにしても、福岡市民の血税が使われていることに変わりはない。

 問題の構図はそれだけではない。福岡市はクリエイティブ産業の振興として、福岡県は地場産業の振興や情報発信、人材育成として、それぞれ予算を拠出しながら、事業成果はいたって曖昧で何も見えて来ない。

 「とにかく大義なんかどうでもいい」「事業収入が上がればいい」「イベントやプロモーションでミーハーな若者(学生)を集めればいい」

 利害関係者にとっては、シンガポールやバンコクでファッションイベントを開催するのも、タレントを呼ぶのも、全く同じ感覚のようである。

 そこには地場ファッション産業の振興も、クリエイティブ産業の振興もないことだけでは、確かである。

 こうした問題に一切踏み込まれることなく、経済観光文化局所管の決算は素通りしていることは、やはり問題だと言わざるを得ない。

 県議会や市議会の議員さんは、行政担当者に税金の使われたと事業内容や目的に問いただしても吝かではないはずである。公聴会などを開いて、利害関係者を公の場に引っ張り出してもいいのではないか。

 何なら一連の事業に関して、議員さんが議会で審議するための質問状を作ってあげてもいいくらいだ。

 部局の担当者も答弁に窮するくらいのものは作れると思うし、公聴会の参加できるのなら利害関係者を論破するくらいの自信はあるのだが。
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EC右へ倣えはどうなのか。

2016-01-13 09:00:23 | Weblog
 今年は業界でどんなキーワードがビジネスのカギになるか。いろんなところから、アンケートが来ている。

 お題としてもっとも多いのが、「EC」だ。スタートトゥデイがアプリ「WEAR」を提供し、「メルカリ」や「フリル」はスマートフォンで個人が気軽に売り買いを行えるようにした。

 今度はスタートトゥデイが満を持して「ZOZOフリマ」を登場させ、お客がZOZOタウンで購買した商品のユーズド売買に乗り出した。

 その他、AI(人工知能)を搭載し、バーチャル試着を可能にした「デジタルミラー」など、ICTを活用した試みが次々と登場。低迷するファッションビジネスを活性化するのは、情報通信技術を除いてはないようである。

 恒例の年頭所感でも、企業経営者は判を押したように「デジタル化への一層の取り組み」を強調している。

 「お客とのコミュニケーション強化にデジタルツールを生かす」「ECをさらに整備し、顧客の利便性を向上させたい」「投資が少なくて済むインターネット販売に注力する」「ネット販売を主力とする新ブランドの立ち上げたい」等々。

 ただ、業界としてはEC市場が広がってはいるものの、反面、競争が激化し始めているのも気になるところである。技術やメカの発達は結構なことだが、それらが買う側の全てに受け入れられ、売る側が継続し続けられるとは限らない。

 当初はネット商店街も、出店料の安さを謳っていたが、いつの間にかリアル店舗と同等のコストがかかるようになったとの指摘もある。

 一説によると、某通販サイトにおけるブランド運営事業者のコストは、関連経費も含めて35%までに迫り、駅ビルやファッションビルのそれと変わらなくなっており、ECがコスト上では優位とは言い切れない。

 だから、コストのかからないスマートアプリ利用の個人売買に注目をズラし、プロパーサイトへの風当たりを抑えようしていると言えば、考え過ぎだろうか。

 はたして今年のECはどうなるのか。この先、どう動いていくのか。業界にとって本当にベターな状況なのか。SNSメディアとしてもいろんな意見を聞きたいようである。

 ネガティブな言い方かもしれないが、 筆者は猫も杓子も右へ倣えという考えには、諸手を上げて賛同はしかねる。

 確かにECに人気が集中するようになると、そこにはビジネスチャンスがあるのかもしれないし、全体の売上げを押し上げていくのは間違いない。

 でも、マーケットにシェア100%はあり得ないし、ICTビジネスほど変化が激しいものはない。次から次に新しいシステムが登場していくし、先発企業は後発の研究対象となり、優位性は次第に薄れていく。

 すでに参入企業がひしめき合っている。飽和状態とは言わないまでも、何らかの新しい価値提案でないと、珍しくも何ともない。

 そもそも論として「まずサイトに集客できなければ、何の意味もない」「大手ショッピングモールに出店しても4万店に埋没してしまう」「60万円程度の年間出店料を支払うと、あとに利益を残すことはできない」といった意見もある。

 ネットショッピング礼賛の中で、黙殺されてきたことだが、全くその通りである。冷静に考えてリアルな店舗ですらお客が来ないのに、ネット上にサイトを開設したくらいで、簡単にお客が集められるかということである。

 サイトには同じ商品が山ほど並んでいる中で、価格や送料無料による差別化も、既に陳腐化している。

 個人の小売り事業者が、ある程度のネームバリュウをもつブランドを仕入れて販売する場合、仕入れ価格はどの事業者でもほぼ変わらないだろう。

 つまり、売価を下げたり、送料を無料にすれば、その分荒利益は下がるわけで、儲かるはずはないのである。商品を仕入れている限り、競争激化のECで利益を出していくのは難しいと考えるべきだろう。

 マーケットはECを捨てたところにも出現する。お客さんにとって、服を通じて人肌で感じるものとは何か、一歩先を行くことを考える契機にもなってほしい。

 ECを100%否定するのではなく、ECをテコに進化させたビジネスモデルの構築が必要なのである。

 例えば、「ECから逆にリアル店舗へ誘導する手法」とか、「店舗でできる品揃えが限られるからこそ、型、色・サイズ違いバリエーションはネットで購入してもらう」とか、サイト購入一辺倒ではないビジネスが考えられるのではないか。

 一方、お客にとっては、店舗で売っている商品と同じなら、ネットで購入する理由は生活圏に店がないか、ポイントなどのメリットがあるか、くらいだ。

 それが行きつくところまで行っているわけである。だから、売る側が商品そのものを違え、ターゲット設定から変えて、別のマーケットの掘り起こしに進まなければならないのではないか。

 ECに活路を見出そうとするなら、自社サイトで運営管理コストをできるだけ抑えながら、その分のコストをかけた商品を扱って、差別化を謳い文句にしてサイトに誘導するような「工夫」も必要だろう。

 商品を差別化し、そのセールスポイントをキーワードにする。ターゲットはネットをみる不特定多数のお客ではなく、ネットで欲しいモノを探している「特定少数」を対象にするということである。

 ここでの少数はネットマーケットという莫大な規模の中での少数である。ある程度のキャパは想定できるというもの。要は既存のボリューム市場には飽き飽きしている層を想定し、掘り起こしていくのである。

 リアル店舗は足下商圏を攻略しなければならない。だが、ECは商圏がボーダーレスになるわけだから、「商品を絞り込むこと」で広域商圏の中で「それを欲しがるお客」をピンポイントで確実に攻略する方が競争優位ではないかと思う。

 検索エンジンにかかるキーワードは何か。写真や動画はどの程度まで表現すればいいのか。「上質」「センス」「仕立てが良い」「日本製」等々、在り来たりの言葉ではお客はなびかない。

 写真や動画を使って、質感やディテールを詳しく見せる。手軽に簡単がEC普及の原動力だった。しかし、競争激化になると、イージーなことをやっていたのでは勝てないということだ。

 ブランドの新品を購入し、ユーズドになるとフリマで売り捌ばけばいいと考えるのなら、そこまでしないと差別化はできないのかもしれない。これはプロパー商品を販売する場合も同じことだ。

 極論すれば、生地のこし、伸びから着心地、伸び縮みまで、動画で公開してもらえば、試着できないデメリットを少しは解消できる。

 大手アパレルメーカーのトップは、口々に「ネット販売を主力とする新ブランドを検討したい」と言っている。

 それが店舗や販売スタッフのコストがかかならい分、商品に投資するのであればいい。

 でも、どこを切っても同じようなブランドSPAがダメになった中で、ローコストを追求するような商品をつくるためのネット販売では本末転倒ではないかと思う。

 また、百貨店も、EC挑戦を堂々と言い始めている。しかし、商品を買い取らず、委託販売や消化仕入れを残しておいて、タイムリーに商品をお客に発送できるのだろうか。Amazonは注文から1時間以内の発送に取り組み始めているのに。

 洋服を作って、売る。店が仕入れ、人が販売する。

 ビジネスそのものは、有史以来行われてきたいたって原始的なもの。21世紀ではいい加減陳腐化しているのかもしない。仕組みや手法を変えるなど、新たなビジネスに踏み込まなければ立ち行かないということだ。

 それを変えて行くのはICTに他ならず、効率を重視する企業なら皆、同じ選択を踏まざるを得ないのはわからないでもない。

 ただ、猫も杓子もECに参入して勝ち目があるとは思えない。

 今回のテーマ、「ZOZOフリマはフリルを超える?」のは、どれだけプロパーで人気のブランド買った人がユーズドに出品するかが勝敗を分けると思う。

 人気の新車が売れないことには、中古車市場も振るわないのと同じことだ。 

 ただ、産地はもちろん、質感や着心地を抜きにブランド名だけで飛びつくのは、大多数は30代以下の若者だろう。

 商品を見る目が肥え、成熟した大人は、ECに対しても高い次元で見極めていくと思われる。

 そうしたニーズやウォンツにいかに応える商品を提供できるか。活性化策が必要な先行企業、百貨店などの後発組には求められる課題だと思う。
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売れ残りから何を読み解くか。

2016-01-06 07:41:11 | Weblog
 2016年が年を開けた。今年も初売り、服袋はお客を集めたようだが、それが冬物クリアランスに引き継がれると、たちまち失速してしまうようだ。

 セールと言っても店頭にあるのは秋冬のアイテムの売れ残りか、セール用に投入したもの。色は黒やネイビー、ブラウン、グレーなどのダークカラーが基調になる。素材もウールのメルトンやフラノ、ニット、アクリルが主体だ。

 売場サイドでは、こうした商品が年末商戦で不振なら、「それはセール待ちなのだから、年明けに捌けばいい」と思っているのかもしれない。

 しかし、初売りで1~2点は売れたところで、大半が売れ残っているのなら、シーズン的に厳しいのではないかということである。

 ショップ名は差し控えるが、冬物セール開始のレディスでは、チェスターやピーなど厚手のコートを残しているところが少なくない。年明けも暖かさが続いているので、セールにかけたところで、梅春を考えるお客は買う気にはならないと思う。

 ニット関連、トレンドのコーディガンですら、グレーなどダークな色は動いていない印象だ。昔のようにワゴンに堆く積まれることはなくなったが、それでもボディや什器ですら手にとるお客が少ないので、これでは売れないと思う。

 ミセスショップでは、昨年暮れから50%OFFに下げたところで、ようやくコーディガンに触れるお客がチラホラと見受けられた。それでも、他にトレンド不在のせいか、セーターやダウンコートの類いには手を伸ばす様子すらない。

 専門店チェーンの「しまむら」が行っているように、まだまだ冬が続く東北や北海道などに一気に在庫を移動させれば、消化できる可能性はあるだろう。だとすれば、なおさら気候的に春に近づく九州では、クリアランスは難しいと思う。

 昨年暮れは冷え込まず、年末商戦はそれほど盛り上がらなかった。だから、持ち越し在庫は初売りで商機を逃すと、もう「売れない」と判断してもいいのではないか。

 特に筆者が住む福岡市は、年が明けると陽射しが日に日に明るくなっていく。風が吹くと、気温は下がるので防寒衣料は必要なのだが、梅春を感じさせる陽気では、ダークな色合いはファッション的に不釣り合いだ。

 だから、冬のセールでは、いつも生成りやオフホワイト、そしてペールトーン、厚手のコットンや起毛系の素材を探すのだが、あるはずもない。やはり、売れ残りは売れ残りでしかないからだ。

 というか、プロパーでも一向に構わないのだが、レディスのアイテムを除き、メンズでは梅春トーンの投入は皆無といっていい。

 ブランドアパレルやセレクトSPAは、半年以上前に投入商品を手配しているので、期中の修正が利かないのはわかる。

 でも、それなら、企画の段階で差し色でもいいから、1点ないし2点くらいペールトーンを加えてもいいのではないかと思う。冬物アイテムが梅春気分で着こなせると、少しはお客の財布も緩むのではないか。

 日本のSPAが海外と差別化するにはいい加減、暖冬傾向やエリアMDを意識した企画を考えても良いはず。まあ、言うは易し、行うは難しであるのは、十分承知の上だが。

 専門店系アパレルなら、この時期には攻めの企画があってもいいと思う。防寒仕様、梅春素材、ペールカラーを取り入れたアイテムだ。

 この時期には厚手のコットン素材を使ったアイテムを思いきって投入する。 例えば、 トレンチコートに使用される厚手のコットンギャバ。できる限り、打ち込みを強めて風を通さないようにする。

 ユニクロのようにポリエステル地を裏貼りすると、ファッションとしては興ざめになる。だから、素材そのものを生かしながら、防寒に注力するわけだ。

 アイテムとしては、春先まで引っ張れるコート、ライダースやロングのジャケットを加えて目当たらしさを出してはどうだろう。

 ライダースはコーティングした厚手のデニムも面白いし、ロングジャケットはピケや起毛したドビークロスなんかもいい。SPAが多用するツイルなんかじゃ、堅牢さに欠けるし、素材感や風合いがない。

 色はオフホワイト、生成り、サンドベージュ、ペールやグレイッシュトーンのオリーブやサーモンピンク等々だ。汚れが付きやすい色合いだけに、コットン系の素材なら洗濯も利く。

 1~2度洗いをかけた方がザラついて、かえって春先にピッタリな風合いになるかもしれない。

 昨秋はMA-1がチラホラ見られ、トレンドアイテムとして復活を予感させた。素材はポリエステルだったので、春先こそコットンギャバやオフホワイトのデニム、目の詰まったスウェットなんかで仕掛けてはどうかと思う。

 寒さよけには取り外し可能なライナーを付けるとか、身頃にフェイクレザーや顔料などをボンディング、コーティングするなど、いろんな工夫はできると思う。

 それが厳しいなら表加工のゴム引き仕様なんかでもいいのではないか。

 15万円以上もするマッキントッシュのコートが売れ続ける理由を考えると、オリジナルがもつ防水機能ではないような気がする。(某ライセンスメーカーはテレビCMでそれを訴求しているけど)

 お客にとっては、むしろ寒さよけに機能転用されていると思う。これはセレクトショップが単品などとのコーディネートで、お客に着こなしをうまく伝えたからだ。

 懇意にするフランスのメーカーは、春先向けにコットン60%程度にポリミド、ポリウレタンを混紡した素材を使い、ライナーにもコットンを使用した「ジップジャケット」(139ユーロ)を企画している。

 コットンメーンだからこの時季のウールのように重たくないし、化繊混紡で表面が汚れても洗濯すればきれいになる。

 また別のメーカーでは、昨年冬からコットン100%や、コットン60%程度にナイロン30%、ウール20%のニット(49ユーロ)を投入しているが、暮れの時点で「エクリュ」(生成り)は完売したとのことだ。

 売れ残りはノワール(黒)、グレイメランジュ(霜降り)というから、欧州各国のバイヤーもライトな色合いは差し色に使い、結果的にそちらの方がお客には、目新しを感じられたのだろう。

 ウール20%の混紡率ではまだまだ寒いと思われるが、ダウンコートのインナーに着たり、春先向けアイテムとして先買いしたお客もいると思う。お洒落で先を行く人間なら賢い買い方をするはずだから、なおさらである。

 例年、この時期には同じようなことをブツクサと書いてきた。だからと言って店頭に並ぶ商品が変わるわけでもない。

 10年くらい前にスプリングコートをオリジナルで作って以来、梅春向けのアイテムを個人的にデザインし、作ってきた。一昨年はオフホワイトのコットンモールでパンツを作ったので、そろそろ穿くことができる。

 暮れに肉厚のドビークロスを手に入れたので、来年向けにいろんなアイテムデザインの構想が浮かんでいる。1点ものはコストと時間がかかるので、願わくば量産の市販アイテムがいいのだが、実現しないのは十分にわかる。

 ただ、新年の経済紙や業界誌に書かれたアパレルや小売りトップの所信表明には、今年も変化や改革といったテーマが目立つ。

 ピックアップすると、「客離れを覚悟で、新しいことに挑む」「地域ごとに専門店売場」「服屋はもっとリスクをとって闘わないと」等々の潔いフレーズが躍る。

 ならば、暖冬で外したアイテム、冬のセールで売れない色、素材から読み解き、ぜひとも今年こそはイノベーションを進めてほしいものである。
 
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