先日、ファーストリテイリングが国内のユニクロで働くパート・アルバイト社員の約3万人のうち、1万6,000人を正社員にするという計画を発表した。これを受けて経済誌、ビジネス関連の媒体は一気に色めき、同社の取材記事が相次いで発表された。
しかし、パート・アルバイトの正社員化を含め、地域限定社員などの多様な人事体制を始めたのは、ユニクロが最初ではない。TSIホールディングス傘下の「サンエーインターナショナル」が先で、ブランドのハコが増え始めた10数年前にすでに導入している。
ワールドも2006年には、子会社の「ワールドストアパートナーズ」で、百貨店やSCのブランドショップに派遣するパート、アルバイトの販売スタッフで85%を正社員化すると発表。これには約5,000人が応募している。
両社とも圧倒的に女性スタッフが多い。各業態の店長が実績を残すと、新規出店の切り込み隊長やエージアップによる大人業態への異動で、転勤せざるを得ない。ところが、女性スタッフだから結婚や出産によって自宅から通勤したいとか、転勤のある店長にはなれないが、販売は続けたいというニーズもあった。
そこで、地域限定の販売スタッフとか、店長職には就かないが、販売職は続けられるような人事態勢を設けたのだ。また、店長、ベテラン販売員といったキャリアポストだけでなく、パート・アルバイトを戦力化していく教育制度の充実も図られた。
もちろん、正社員化には待遇面でスタッフのモチベーションを上げ、販売職の魅力アップを図る意図があったのは言うまでもない。この頃はちょうど就職氷河期で、新卒の雇用情勢は厳しく、正社員についてもリストラが懸念されていた。
だから、この2社における正社員化は、新卒の学生にも好意的に受け取られたし、販売員離れが進む中で応募者増をもたらした。それ以上に人件費のコストダウンが叫ばれる業界では、画期的なこととして受け取られた。
まあ、両社ともSPA化を進める中、ブランド、店舗ともに増えていたため、人件費は十分に吸収できると踏んだのだろう。多店舗化を進める上でも、販売スタッフのスキルアップは、POSデータだけは読み取れない情報を企画にフィードバックさせるには欠かせなかったといえる。
では、ユニクロの正社員化にはどのような目的があるのか。いろんなインタビュー記事には、「店長やスタッフを改めて教育してスタッフを主役にした個店を作っていく」「自分の創意工夫や取り組みの結果を実感しながら働ける環境を作っていこう」
また「スタッフ全員が店舗の損益計算書を読めるようになって、利益を増やす方法を考えなくてはならない」「利益を出すにはどういう風に仕事をするのかをみんなで考える必要がある」「熟練した店長とスタッフが、さも個店を経営するかのような緊張感とやる気を持って店舗運営に当たる」とある。
さらに東京・銀座や大阪・心斎橋の旗艦店、東京・新宿の「ビックロ」といった大型店のSS店長やFC店の店長では、「スタッフの指導育成から経費の使い方といったコスト管理まで経営者として能力が要求されてきた」。そのため、これをレギュラーの店舗にも浸透させていこうという狙いらしい。
社員化では、特定の店舗や地域に勤務地が限定される「R(地域)社員」という位置づけだ。既存正社員も国内転勤はできるが海外は望まない、もしくはその実力がない「N(国)社員」と、海外事業にチャレンジする意思と実力を備えた「G(世界)社員」に分類されるという。
つまり、ユニクロの正社員化は、チェーン店企業にありがちな本部一元コントロールや一律の待遇改善ではなく、各店舗の店長に「個店経営者」としての意識、自覚を促し、「店とスタッフをマネジメントできる人間たれ」というのが真の狙いのようである。
ユニクロが生き残るには、経営感覚をもつ店長が求められるのは理解できる。いつまでも売れない商品が残る売場を見ると、この店は在庫コントロールができているのかと思うことがあるが、出店に店長育成が追いつかず、スキルがない店長もいたというから、当然のことだろう。
ただ、ユニクロは高級品ではないため、スタッフに高度な接客能力は必要ない。店長やベテラン社員が率先垂範で接客して、パート・アルバイトがそれを見て技術を磨くような売場環境でもない。販売力はマーケティング力を発揮する商品であり、陳列、ディスプレイ、照明、POP、ツールを効果的に使うVMDである。
また、ピンポイントで行うビジュアルプレゼンテーションや、客動線やゴールデンゾーンの作り方、スタイリング提案、什器の選び方などとった演出テクニックや売場づくりで、店長にはそれらをうまく使っていくオペレーション能力が求められるだけだ。
しかしながら、MDは本部主導で行われるので、店長は仕入れる商品のバランスを変える程度で、商品企画そのものに口出しすることはできない。お客から「こんな商品が欲しい」と言われても、一店長では他のメーカーから仕入れることなどできない。
バングラディッシュ店ではそれが可能となったが、あくまで緊急避難的なケースに過ぎなかった。商品に対する要望と言っても、せいぜい本部の商品部に上げる程度だろう。仕入れ責任者として「この時季にこんな商品は売れない」と思っても、「四の五の言わずに、本部が作った商品を売れ」となるのだ。
売場づくりについても、マニュアル化されているので、店長に裁量権があっても、できる範囲は限られている。売場は固定されているから、什器やケースを自分で選定したり、レイアウトや照明を変えたりすることもできない。
つまり、個店経営者といっても、できることは本部から投入された商品を売場でいかに売り減らし、利益を上げてくか。機会ロスを防ぐためには大量の在庫を抱えることを要求され、売れなかったら店長のマネジメントがマズいと追及され、結果はすべて数字で判断されるのである。
これまで決算レポートでは、売上げが伸び悩んだ理由に「天候不順」や「商品投入の不備」などがあげられることが多くかった。でも、これからは店長が個店経営者なのだから、各自の「能力不足」が真っ先にあげられるかもしれない。
極論すれば、「本部はちゃんとやっているが、店長がうまくコントロールできなかったから、売上げが下がった」と、言われることもあり得るだろう。でも、そこには本部サイドのご都合主義が見え隠れする。
パート・アルバイトにとって正社員化という「アメ」は、個店経営者としての厳しい重責という「ムチ」が課されるということ。果たして社員のモチベーション向上が先か、それともサービス残業などによる退職増、過酷な労働被害の訴え続出が先か。どちらにしても、ユニクロの新政策には明暗、功罪がついて回ることだけは、間違いないようである。
しかし、パート・アルバイトの正社員化を含め、地域限定社員などの多様な人事体制を始めたのは、ユニクロが最初ではない。TSIホールディングス傘下の「サンエーインターナショナル」が先で、ブランドのハコが増え始めた10数年前にすでに導入している。
ワールドも2006年には、子会社の「ワールドストアパートナーズ」で、百貨店やSCのブランドショップに派遣するパート、アルバイトの販売スタッフで85%を正社員化すると発表。これには約5,000人が応募している。
両社とも圧倒的に女性スタッフが多い。各業態の店長が実績を残すと、新規出店の切り込み隊長やエージアップによる大人業態への異動で、転勤せざるを得ない。ところが、女性スタッフだから結婚や出産によって自宅から通勤したいとか、転勤のある店長にはなれないが、販売は続けたいというニーズもあった。
そこで、地域限定の販売スタッフとか、店長職には就かないが、販売職は続けられるような人事態勢を設けたのだ。また、店長、ベテラン販売員といったキャリアポストだけでなく、パート・アルバイトを戦力化していく教育制度の充実も図られた。
もちろん、正社員化には待遇面でスタッフのモチベーションを上げ、販売職の魅力アップを図る意図があったのは言うまでもない。この頃はちょうど就職氷河期で、新卒の雇用情勢は厳しく、正社員についてもリストラが懸念されていた。
だから、この2社における正社員化は、新卒の学生にも好意的に受け取られたし、販売員離れが進む中で応募者増をもたらした。それ以上に人件費のコストダウンが叫ばれる業界では、画期的なこととして受け取られた。
まあ、両社ともSPA化を進める中、ブランド、店舗ともに増えていたため、人件費は十分に吸収できると踏んだのだろう。多店舗化を進める上でも、販売スタッフのスキルアップは、POSデータだけは読み取れない情報を企画にフィードバックさせるには欠かせなかったといえる。
では、ユニクロの正社員化にはどのような目的があるのか。いろんなインタビュー記事には、「店長やスタッフを改めて教育してスタッフを主役にした個店を作っていく」「自分の創意工夫や取り組みの結果を実感しながら働ける環境を作っていこう」
また「スタッフ全員が店舗の損益計算書を読めるようになって、利益を増やす方法を考えなくてはならない」「利益を出すにはどういう風に仕事をするのかをみんなで考える必要がある」「熟練した店長とスタッフが、さも個店を経営するかのような緊張感とやる気を持って店舗運営に当たる」とある。
さらに東京・銀座や大阪・心斎橋の旗艦店、東京・新宿の「ビックロ」といった大型店のSS店長やFC店の店長では、「スタッフの指導育成から経費の使い方といったコスト管理まで経営者として能力が要求されてきた」。そのため、これをレギュラーの店舗にも浸透させていこうという狙いらしい。
社員化では、特定の店舗や地域に勤務地が限定される「R(地域)社員」という位置づけだ。既存正社員も国内転勤はできるが海外は望まない、もしくはその実力がない「N(国)社員」と、海外事業にチャレンジする意思と実力を備えた「G(世界)社員」に分類されるという。
つまり、ユニクロの正社員化は、チェーン店企業にありがちな本部一元コントロールや一律の待遇改善ではなく、各店舗の店長に「個店経営者」としての意識、自覚を促し、「店とスタッフをマネジメントできる人間たれ」というのが真の狙いのようである。
ユニクロが生き残るには、経営感覚をもつ店長が求められるのは理解できる。いつまでも売れない商品が残る売場を見ると、この店は在庫コントロールができているのかと思うことがあるが、出店に店長育成が追いつかず、スキルがない店長もいたというから、当然のことだろう。
ただ、ユニクロは高級品ではないため、スタッフに高度な接客能力は必要ない。店長やベテラン社員が率先垂範で接客して、パート・アルバイトがそれを見て技術を磨くような売場環境でもない。販売力はマーケティング力を発揮する商品であり、陳列、ディスプレイ、照明、POP、ツールを効果的に使うVMDである。
また、ピンポイントで行うビジュアルプレゼンテーションや、客動線やゴールデンゾーンの作り方、スタイリング提案、什器の選び方などとった演出テクニックや売場づくりで、店長にはそれらをうまく使っていくオペレーション能力が求められるだけだ。
しかしながら、MDは本部主導で行われるので、店長は仕入れる商品のバランスを変える程度で、商品企画そのものに口出しすることはできない。お客から「こんな商品が欲しい」と言われても、一店長では他のメーカーから仕入れることなどできない。
バングラディッシュ店ではそれが可能となったが、あくまで緊急避難的なケースに過ぎなかった。商品に対する要望と言っても、せいぜい本部の商品部に上げる程度だろう。仕入れ責任者として「この時季にこんな商品は売れない」と思っても、「四の五の言わずに、本部が作った商品を売れ」となるのだ。
売場づくりについても、マニュアル化されているので、店長に裁量権があっても、できる範囲は限られている。売場は固定されているから、什器やケースを自分で選定したり、レイアウトや照明を変えたりすることもできない。
つまり、個店経営者といっても、できることは本部から投入された商品を売場でいかに売り減らし、利益を上げてくか。機会ロスを防ぐためには大量の在庫を抱えることを要求され、売れなかったら店長のマネジメントがマズいと追及され、結果はすべて数字で判断されるのである。
これまで決算レポートでは、売上げが伸び悩んだ理由に「天候不順」や「商品投入の不備」などがあげられることが多くかった。でも、これからは店長が個店経営者なのだから、各自の「能力不足」が真っ先にあげられるかもしれない。
極論すれば、「本部はちゃんとやっているが、店長がうまくコントロールできなかったから、売上げが下がった」と、言われることもあり得るだろう。でも、そこには本部サイドのご都合主義が見え隠れする。
パート・アルバイトにとって正社員化という「アメ」は、個店経営者としての厳しい重責という「ムチ」が課されるということ。果たして社員のモチベーション向上が先か、それともサービス残業などによる退職増、過酷な労働被害の訴え続出が先か。どちらにしても、ユニクロの新政策には明暗、功罪がついて回ることだけは、間違いないようである。