HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

+Jにみる企画の長短。

2020-11-25 07:01:23 | Weblog
 今回は、11月13日の発売された+Jで注目したアイテムを取り上げる。と言っても、発売当日はお客が殺到して完売した商品が多く、現物の入手はもちろん、チェックすらできなかった。そこで、記者向けに配信された情報と、今回運よく購入できた知人から見せてもらった1点に絞り、企画の方向性や商品のレベル、仕様など気づいた点を論じてみたい。




 アイテムはメンズの「ミドルゲージフルジップセーター」https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E435794-000/00?colorDisplayCode=69。これを取り上げるのは知人がたまたまゲットできたこともあるが、筆者はフランスのメーカーが企画した同系のアイテムを3年ほど前から着用しており、素資材からデザイン、仕様、編み立て、着用機会、ケア、価格までを比較しやすいからだ。



 ニットについて、それほど詳しいわけではないので、繊維流通研究会(http://www.apparel-mag.com/abm/content/about)発行の「ニットアパレルテクニカルブック」や、ニットメーカー・インプルーヴ(https://improve-knit.com)の鈴木弘美代表からご教授いただいた知識をもとに以下の項目で両者を比較する。


ジップセーター、ミドルゲージは企画の前進か

 まず、「企画」について。筆者はこれまでユニクロが企画した「ジップセーター」を見たことがない。ベーシックでコンサバ寄りを旨とする同社にとって、ニットにジップを使用するのは、企画の段階から却下されてきたのではないか。デザイナーズコラボならそのタブーにも挑戦できたはずだが、+Jの第1弾やクリストフ・ルメールとの協業でも見られなかった。それが今回実現した点は、一歩前進だろう。

 だが、ジップセーターはすでに多くのブランドが企画しており、別に目新しいものではない。しかも、+Jの「リブ編み」は複針床で編まれたダブルニットでは最もシンプルなタイプ。ユニクロの場合、デザイナーズコラボでも、ターゲットは世界中の不特定多数。サイズはXSからXXLまでの展開だし、尚且つゆとりを持って着てもらえるように横方向の伸縮性がいいリブ編みを選択したのだと思う。ただ、ジル・サンダーの監修ならば、編み地にももう少し工夫を凝らしても良かったのではないか。そこはマイナス点でもある。




 一方、仏メーカーのセーターは、インプルーヴの鈴木代表によると「ワッフル編み」(編組織は1×1の2コースタックを2コース毎に互い違いに編むスタイルか)との呼称とか。この編み地はSPAなどのプルオーバーで採用されているが、ジップアップ型は見たことがなかった。しかも、編み模様が幾何学的で小洒落ていたので、メーカーから送られた写真を見て即決した。ベタなリブではなく、ワッフル編みを採用したセンスの良さで、仏メーカーに軍配を上げたい。



 付属品のジップは+Jがダブル、仏メーカーはシングル。スライダーを適度に上げ下げしてインナーを見せるなど着こなしのバリエーションは、ダブルが勝る。ただ、アクセントになる色はユニクロはマットブラックで、仏メーカーはニッケル。どちらもYKKが製造する「エクセラ」のような高級品ではないが、ハイライトが効いてインスタ映えするのはニッケルの方だ。甲乙つけ難いが、コスト増を承知でダブルを採用したユニクロには天晴れだ。


毛80%、ナイロン20%の混紡率は邪道か
 
 糸は+Jが毛80%、ナイロン20%の混紡糸、仏メーカーが綿100%。ニットアパレルテクニカルブックによると、「基本的な混紡糸の組み合わせはポリエステルと綿や羊毛、レーヨンなどか、アクリルと綿、羊毛で、その他の組み合わせはほとんど見られない」とか。また、「ニットの方がピリング(毛玉)が発生しやすいため、ポリエステルと綿、レーヨンなどの混紡率はニット用で50/50%がほとんど」だそうだ。

 では、なぜユニクロがニット企画の常道を外れて毛80%、ナイロン20%の糸を選択したのかはわからない。ある識者はあくまで私見として、「ウール100%より、ナイロンをミックスした方が(マスプロダクトとしては)糸値(のコストが下がる)」「ナイロンを混紡することで糸の強度が増し型崩れしにくく、光沢が出るのでは」と語る。言われてみると、なるほどである。

 インナーにポリエステルやアクリル混のヒートテックを着用すると静電気が発生するかどうか。ユニクロのことだから、そこまで十分に検討したとは思うが、実際に着てみていないので何とも言えない。金属製のダブルジップを身頃に縫い付けるため、毛100%より身頃の耐性を高める目的でナイロン混を選択したとも考えられる。

 ニットでは編み目の密度を表すのに「ゲージ」という単位を用いる。前出のテクニカルブックによれば、ゲージは編機の針床1インチ(2.54cm)の中に何本のニードル(針)が入っているかを表すという。7ゲージの場合は7本/インチで1mに280本、10ゲージは10本/インチで同400本の針を持つとのことだ。また、5ゲージ以下はローゲージ、7、8、10をミドルゲージ、12ゲージ以上をハイゲージと呼ばれる。

 単純にこの理屈から考えると、針の数が少なければそれだけ密度が少ないので編み目が粗くなり、逆に多いと目が詰まってくることになるが、鈴木代表は「ゲージが粗くなることと密度の相関は一概に言えない」という。「12G→7Gは確かに1インチ間の針数は減るが、その分針も太くなるし、使用する糸の番手が太くなるので太い糸で度目を詰めて編めば、そこの密度が粗くはならない」そうだ。ニットのデザインを考える上では編み地が鍵を握り、それには針や編み目の密度が深く関わるということがわかる。

 糸の長さと太さを表すのが番手だ。1kgの中に糸が1kmあるのを1番手と呼ぶ。1/1と表記すれば1本の1番手の糸、2/12は2本の12番手の糸を表す。番手の数値が大きくなるほど糸は長くなるが、糸の太さは逆に細くなる。ただ、番手にはその糸に対して最も適したゲージの大きさ=適正ゲージがある。1/7(7番手)は7ゲージ、1/5(5番手)は5ゲージが適性となるが、あくまで目安で糸の素材や形、本数、編み方で変わってくる。

 +J、仏メーカーともミドルゲージ。見た感じでは両者とも8ゲージくらいだろうか。暖冬傾向が続いている最近は、SPA系の量販品ではミドル以下のセーターはほとんど見られなかった。ユニクロが企画するのもメリノやラム、カシミアなど梳毛系のハイゲージだ。ただ、これらは組織に変化がないので、デザインの面では特徴が出しづらい。だから「+Jは編み地で特徴を出せるミドルゲージを商品化しよう」と、企画が通ったのならば評価できる。レギュラーのセーターは代わり映えがしないため、ミドルゲージに飛びついたお客も少なくないと思う。


自分で「手洗い」するお客はどれほどいるか

 ニットの特性である保温力はどうか。+Jは編み地はやや粗いが、リブ=テレコの分だけ空気の層ができて保温力は高くなる。これをインナーに着て、アウターにダウンジャケットを重ねると真冬でも十分だろう。逆に九州のような南国では外を歩き回った後に暖房が効いた部屋に入ると、一気に汗ばむこともある。まあ、冬物なので、ナイロン混のウールは妥当なところだ。仏メーカーは目は詰まっているが、綿糸で保温力では劣る。だが、11月でも暖かい日が続くと、ウールより着用頻度は高い。筆者はレザージャケットのインナーで重宝している。

 もっとも、メンズ向けセーターなので、寒さ対策はレディスほど意識していないと思う。デザイン面で目先を変えたのと冬物としての保温力を両立させた結果、リブのジップアップセーターに落ち着いたのではないか。また、このアイテムは+Jという限定企画が希少性を生んで、店舗もネットも売り出し直後に完売している。毎年のように暖冬で冬物在庫を大量に抱えるアパレルが多い中、残品ロスを出さなかった意味は大きい。デザイナーズコラボは確実に在庫を捌くための戦術として、ユニクロも手応えを感じたのではないか。



 品質表示を見ると、+Jには「手洗い」と記載されている。つまり、ナイロンが入っていることから、汗など水溶性の汚れを落とすには水洗いが向くということ。ただ、ユニクロ級の商品を購入する層がニット製品をどこまでクリーニングするか。手洗いまで行って数シーズンも着用する人は一部のファンか、ユーズドとして売り捌くことまで考える層ではないか。

 最近はウール系のセーターでもニット専用の洗剤を使えば、ネットに入れて洗濯機で洗えるものが増えている。+Jはあえて他の方法を表示していないことから、手洗い以外での保障はないと受け取れる。まあ、手洗いするかどうかは、着用者の判断になるので、ユニクロ側も最適なケア方法を記したに過ぎない。仏メーカーは、液温は40 ℃を限度として洗濯機で洗濯でき、タンブル乾燥は禁止。またはパークロロエチレン及び石油系溶剤によるドライクリーニング可能の表示。筆者はネットに入れて洗濯機の弱回転で洗うつもりだ。

 最後に価格を考える。+Jは6990円(税抜き)、仏メーカーは49.99ユーロ(11月21日のレート(123.09円/ユーロ)換算で6153円程度)。+Jはジル・サンダー監修というプレミア価値が乗っているし、ダブルジップというプラスαを考えると、この価格にはお値打ち感がある。企画の面ではいろいろ課題もあるが、さすがユニクロのコストパフォーマンスだ。仏メーカーはモデレートの価格帯とすれば、こんなものだろうか。まあ、日本までの送料を考えると割高だが、グローバルな商品としてみると+Jとほぼ同等だと思う。



 以上、いろいろと比較してみたが、それぞれは同じターゲットに向けた商品ではないので、項目別で評価が違ってくるのは当たり前。ならば比較しても意味はないとも言えるが、そこはそれぞれの良いところも改善できる点もあることから、あえて論評させてもらった。今後の商品開発のヒントやニット選びの参考になれば、幸甚である。
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守られるべき権利。

2020-11-18 06:57:18 | Weblog
 菅義偉政権が発足して2ヶ月が経過した。10月26日に招集された臨時国会は、政府が学術会議の会員候補6名を推薦から外した問題をめぐり、立憲民主党や共産党は質問責めを繰り返しとても立法府の体をなしていない。新型コロナウィルス感染では第3の波が押し寄せており、その拡大防止と克服可能な経済構造に転換すべく雇用対策や消費喚起は、行政府の最優先事項。補正予算の執行と重要課題の解決は待った無しなのに、全く持って呆れ返る。



 メディアが詳しく報道しないところもあるが毎回、国会では議員立法をはじめ、諮問会議や審議会でまとめられたいろんな「法案」が内閣から提出され、審議の上に成立していく。特にグローバル化が進む昨今では、国内法では対処できない様々な問題が懸案となっている。海外事業者が運営する「越境EC」による「模倣品(コピー商品)」の販売もそうだ。この問題は「商標法」が定めるところだが、グローバル化に対応した法整備も急務と言える。大学時代から使っている法律学小辞典を開いて、あれこれ考えてみた。

 商標とは、文字図形または記号、もしくはこれらを結合またはこれらと色彩の結合であり、業(ビジネス)として商品を生産し証明し、または譲渡する者がその商品について使用するものを指す。商標法では、指定商品は商標登録を受けた「商標」(ロゴやマークなど)を独占的・排他的に利用し得る権利=「商標権」が認められている。指定役務(サービス)についても同様に該当するが、ここでは触れない。

 平たく言えば、商品で使用し、またその証明を行うロゴやマークは登録しておけば、使用・証明者が独占して使うことができ、第三者に侵されることのない権利を有するのだ。アパレルやバッグは製造するだけならそれほど難しくない。そのため、ロゴやマークを商標登録することで、ブランドをコピー商品や偽物から守ろうというのが法の趣旨である。

 ただ、現行の商標法は「国内の事業者」を対象にしたもので、そちらが輸入・販売する商品が模倣品であれば、商標権の侵害にあたるが、「個人」が輸入する商品についてはこの限りではない。また、「海外の事業者」が国内の事業者に模倣品を直接販売したり、送り届けたりすることについても、商標権を侵害するかどうかには明確な定めがない。

 つまり、法の網の目を掻い潜れば、偽のブランドを個人輸入して、違法に販売することもできるし、業者が個人にアルバイト感覚で偽物を輸入させ、それを買い取って悪意のもとに転売することも可能だ。実際、越境ECが浸透した昨今では、個人や海外事業者の不正な販売が野放し状態で、商標権を持つ事業者にとっては権利侵害だけでなく、ビジネス自体が脅かされている。

 そこで、特許庁は越境ECなどを通じた模倣品の販売を取り締まるため、商標法改正の検討に入った。11月6日には業界関係者などからなる産業構造審議会・知的財産分科会の商標制度小委員会で方針案を提示。来年1、2月に他の制度改革案なども含めた報告書を承認し、改正法案を国会に提出する。

 また、同様の問題は特許権などとの関係でも生じるため、特許法、実用新案法、意匠法の改正も検討するという。小委員会は個人による輸入規制には慎重な検討が必要としているが、個人を活用する悪意の事業者も存在する。知らなかったことが免罪符になるようでは、模倣品の輸入や詐欺行為は取り締まれない。こちらも一歩踏み込んだ法規制は不可欠と思われる。

 一方、今年は新型コロナウィルスの感染拡大でマスクが品不足となり、買い占めや転売が横行した。以前はドラッグストアで1箱50枚400円程度だった不織布の使い捨てタイプが通販サイトでは一時3万円台まで高騰。SNSでは「バカな日本人は品薄でも正価で購入できると勘違いしている」などの書き込みがあったため、反論が相次いで炎上し、社会問題に発展した。

 政府は、マスクは感染防止のために国民のほとんどが必要とするとして、国民生活安定緊急措置法に基づき3月15日、マスクの転売禁止に踏み切った。対象は家庭用、医療用、産業用の衛生マスク。小売事業者(製造業者、卸売事業者、個人も含む)店舗フリーマーケット露天インターネット(SNS含む)等を通じ不特定または多数へ取得価格を超える価格で、直接販売することは禁止された。違反者には懲役1年以下もしくは百万円以下の罰金が課せられ、実際には逮捕者も出ている。

 国による転売禁止とアベノマスクの支給、アパレルメーカーなどがマスクの製造・販売に乗り出したことで、価格高騰や転売はものの2ヶ月程度で収束に向かった。現在では日本マスク工業会の認定品は、ほぼコロナ禍以前に近い価格に戻っている。また、いろんな業者が輸入した紛い物は不良在庫となってHCなどの店頭に山積みされているが、売れている気配はない。転売するものが「価格は市場が決める」という認識なら、「取引されない商品は値崩れする」という理屈も推して知るべしだ。


ネット事業者は転売にもルールを設けるべき



 マスク転売では時限的な法規制が実効力を発揮したわけだが、アパレルでは転売のための購入も相次いでおり、一般消費者が自分のために買えない状況になっている。11月13日、ユニクロが11年ぶりに復活させたジル・サンダーとのコラボ商品「+J」もそうだ。



 筆者が試しに当日13日のYahooオークションをチェックすると、発売開始の10時からわずか約2時間後の正午過ぎには、すでに+Jのアイテムが多数出品されていた。一例を挙げると、「オーバーサイズリブブルゾン」のブラック、Sサイズは定価12,900円が約12,000円アップの現在価格24,980円。即決価格は何と59,980円で、この価格で落札されると出品者は47,000円以上の利益を得ることになる。



 また、「ミドルゲージフルジップセーター」には、「瞬殺のジップニットでした」という説明がつき、定価6,990円が22,000円と3倍掛けを超えた。それより安い価格で出品されていた同アイテムの一つは、13日18時の時点で16%値下げの14,800円(即決価格15,000円)。転売目的で購入したものは寒空の下、早朝から並んだために強気の値付けをしたようだが、アイテムによってはなかなか入札もなく、当てが外れたケースもあるようだ。





 この日発売の+Jは「メルカリ」や「PayPayフリマ」にも多数出品されており、これらも転売目的で購入されたのは明らかだろう。ファッションアイテムのようなウォンツ商品は、マスクのように皆が必要とするものではないので、需要を見越して言い値をつけて転売したり、オークションで販売価格をつり上げたりすることは禁じられていない。

 一方で、お客の中にはジル・サンダー本体はあまりに高額(スーツは25万円以上)で購入できないが、同等のデザインやテイストがユニクロアップの価格で手に入るなら、欲しい人々も大勢いるはずだ。こうしたお客が自分のために商品を購入する正当に取引する権利が転売目的の購入によって阻害されている事実を許していいのかである。

 転売を行っているものの中には、出品の説明で「売れなかった場合は自身での着用を考えておりますので、値下げコメントはお控え下さい」「そのため取引キャンセルは禁止でお願いします」と書き込むなど、自分の不公正は棚に上げて身勝手極まりない輩もいる。現状では法規制がないために国家権力が介入することはできないにしても、転売が横行している事実を鑑みると、Yahoo、メルカリなどのネット事業者には責任の一端はある。
 
 ユニクロは今回の+Jについて予め転売もあり得ると想定していたようで、オンライン販売では「おひとり様1商品につき1点まで購入に制限させていただきます」と、表示していた。しかし、総数制限は店舗を含めて行っていないから、転売目的の人間がいろんなアイテムを多数購入したケースも考えられる。しかも、ネット、店舗ともあまりにお客のアクセスが集中したため、一般客の多くが購入できなかったことを、ユニクロ側はどう受け止めているかだ。

 オークションでは、ソフトの海賊版が価格をつり上げられて違法に販売されていることをYahoo側も認識し決済キャンセルを行うほか、不正な取引の監視を強化している。転売については、全てのネット事業者が一般消費者が正当に取引する権利を阻害する行為に直接関与しているわけではないにしても、転売する輩にそうした「場」を提供している責任はあるはずだ。

 これが企業のモラルやコンプライアンスに触れるとは言わないまでも、何らかのルールを持って規制すべき事象ではないのか。例えば、新商品が発売された当日から〇〇日間は取得価格を超える価格で販売またオークション出品は禁止(ネット事業者側がチェックして削除)にするとかだ。転売している多くがユニクロの公式サイトから+Jの写真を転用しているか、置き撮りしているので、チェックするのはそれほど難しくないと考える。

 ジル・サンダーとのコラボ商品とは言え、世界中のユニクロで販売されたマスプロダクトの+Jが「レアな価値」を持つかどうかは、半年や1年先にならないとわからない。だが、少なくともその期間ぐらいはネット事業者が転売やオークション出品を規制してもいいと考える。

 それでも、ネット事業者が自らの収益のために自主規制に乗り出さないのなら、国が一般消費者の権利保護の観点から何らかの法整備に乗り出さなければならないだろう。消費者庁はそのためのお役所でもあるべきだ。どんな制度設計が行われ、どんな法案が国会に提出され審議されるか。ご多分にもれず、野党はもちろん、ユニクロの柳生正社長は反対するかもしれない。でも、法学部卒としてはそれはそれで議論の行方を興味深く見ていきたい。

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40年前に見限った名門。

2020-11-11 06:53:07 | Weblog
 老舗アパレルのレナウンが経営破綻した。10月30日に東京地裁から民事再生手続の廃止決定を受け、破産手続きに移行する。手続き途上にあった9月には、「シンプルライフ」「エレメントオブシンプルライフ」を小泉アパレルに、「アクアスキュータム」「ダーバン」「スタジオバイダーバン」を同グループのオッジ・インターナショナルに譲渡した。また、機能性肌着を扱う「レナウンインクス」は、ストッキングメーカーのアツギに売却している。

 破産決定は再建のスポンサー探しが難航したとの見方もあるが、業績低迷やコロナ禍による資金繰りの悪化から、本体清算はやむ無しだったようだ。ところで、レナウンと言えば「アーノルド・パーマー」や「ミックマック」「インターメッツオ」と、日本のファッション史に残るブランドが思い浮かぶ。それらも求められなくなれば廃止やむ無しなのだが、メディアの中にはなぜか哀愁じみた論調が無くもない。全盛期にはテレビや新聞、雑誌にとってビッグスポンサーだったからだろうか。

 他にもレナウンの恩恵を受けた人は少なくない。駆け出しの頃、銀座の山野楽器で同社のCMソングをプレゼンした小林亜星はその後、売れっ子作曲家まっしぐら。「イエイエ」のイラストを描いたのは小林の実妹で、兄妹合作という話題作りもあったと思う。アラン・ドロンやシルヴィ・ヴァルタン、高倉健はプロモーションに起用され、俳優や歌手としての存在を不動にした。その他、代理店やその関係者はレナウンの破綻をどう思っているのだろうか。


服作りへの拘りを欠いたレナウン

 皮肉にも、レナウン本体は業界の激的な変化について行けなかった。というか、コアな洋服好きの女性たちには見向きもされなくなったのである。1980年代、若い女性が洋服を買うのは駅ビルなどのテナントがメーンとなった。トレンドの服は個性を打ち出すデザイナーズブランドが主役に躍り出た。プロモーションの場はananやMoreなどのファッション誌にとって変わった。それらはバブル全盛の1990年まで続いた。


 筆者も大学生だった1980年に購入したダーバンのセットアップがレナウンではラストバイとなった。実はこのアイテムが優れもので、ジャケットには共地で半円状の肘当てが二枚袖に挟みこまれた小洒落た仕様だった。一張羅でデートの時には着たし、就職するとジャケパンスタイルでも重宝した。この頃までのレナウンは企画の秀逸さもさることながら、国内アパレルの高い縫製技術に支えられていた。少なくとも担当者の服作りへの拘りはあったと思う。

 しかし、1980年以降、色や素材、デザインといった服の価値を決める上で、レナウンには「これだ」と思えるようなものがなくなった。裕福な家庭の友人はトラッドスタイルで決めていたし、ファッションマニア的な連中は「ビギ」などに惜しげもなく投資していた。周囲を見渡しても、レナウンなんか着ている男性は皆無だった。

 筆者がそう感じるのだから、洋服好きの女性はなおさらではないか。挙げ句の果てが1990年の英国「アクアスキュータム」の買収だ。いくら投資家グループからの敵対的買収を救い、欧州への足掛かりを作る目的とは言え、業績低迷のブランドに200億円も投資する判断が正しかったとは思えない。むしろ、欧米デザイナーと提携しグローバル化を図ったオンワード樫山、バーバリーとのライセンスで軌道に乗った三陽商会を意識した短絡的な戦略に見える。

 「バーバリーのトレンチコートがライセンスでも売れているのだから、本場のアクアスキュータムなら売れるだろう」と、レナウンの経営陣はその程度の意識ではなかったのか。しかも、百貨店系アパレルとして売場に納品した時点で売上げが計上される商慣習が裏目に出た。期初に売上げがたっても期末に返品されれば、利益率は低下する。そんな姑息な手法が激的な環境変化の中で通用するはずはない。

 結局、アクアスキュータムの買収が響いて、レナウンは1991年12月期に営業赤字に転落した。まあ、バブル崩壊の影響と言えば、不振のすべてに通用するが、個人的にはレナウンの衰退はその10年以上前から始まっていたと感じる。そして、その後の約30年はリストラに明け暮れた。業界環境が激変しているのに、その潮目を経営陣は完全に読み違えたということだ。筆者は40年前にレナウンを見限ったので、今回の破綻にも少しも哀れみは感じない。


レナウンの数年後に見限ったオンワード樫山



 レナウンの後に筆者が購入したのは、オンワード樫山である。1979年、伊勢丹の新聞広告で、「キャリアウーマンにあたる日本語って、なんでしょう。」というキャッチコピーが目を引いた。同社は当時、ニューヨークで一世を風靡した「カルバン・クライン」とライセンス契約を結び、伊勢丹系列の百貨店でブランドの販売をスタートした。筆者も79年と82年にニューヨークを訪れた時は、メイシーズやブルーミングデールズでは本場の商品をチェックした。




 日本ではレディスが先行し、ディナージーンズのブームに乗って「カルバン・クライン・ジーンズ」が発売され、メンズアイテムも拡充された。同ブランドはニューヨークファッションらしいコンテンポラリーな感覚で、やや細身のシャープなラインは筆者の体型に合っていた。しかも、テキスタイルが秀逸なところが気に入った理由でもある。「モッサ」や「カルゼ」など特徴がある生地が用いられ、ギャバは打ち込みが強く、デニムは上質だった。

 だが、「ジョルジオ・アルマーニ」に代表されるソフトスーツが登場すると、それも嗜好の対象からは外れていった。さらにDCブランドブームが相まって、スーツやジャケットのシルエットはボクシー、パンツは太めがトレンドになり、カルバン・クラインのような細身は逆に野暮ったく見えた。最後に購入したのは1986年の秋冬物だっただろうか。オンワード樫山も購入したのはカルバン・クラインのみで、わずか6年でその対象から外れていった。

 一方、DCブランドはファッション誌での露出が増え、トップからボトムまで同一ブランドでコーディネートするのが常道だったが、着こなしに慣れると外し崩しのコーディネートを楽しんだ。特にこれという御用達はなかったが、「Y’s」「BA-TSU」「X-ing」などと西武系専門店が扱う無名メーカーを組み合わせて着ていた。だが、そのDCブランドも1988年には陰りが見え、マーケットから姿を消すものも少なくなかった。

 その後はデフレ禍の影響でコストをかけた服作りが影を潜め、よほど気に入った素材やデザインにお目にかかれない限り、飛びつくことはなくなった。結局、自らの嗜好は30歳を境に成熟したと感じている。レディスでは、オンワード樫山の「組曲」、ワールドの「オゾック」がヒットしたが、それは「ナイスクラップ」のテイストにマーケット全体が引っ張られたものだ。

 世間ではバブル崩壊が消費者の高級品離れを促したように言われるが、洋服好きにとってはSPA(製造小売業)やQR(クイックレスポンス)が登場すると、巷に溢れるアイテムは魅力的ではなくなったのではないか。


D2Cはどこまで廃棄商品を減らせるか

 もちろん、売る側の要因もあると思う。まず、百貨店側の利幅確保の要求を受け入れ、アパレルが利益確保のために33%程度あった原価率を20%まで下げたこと。2つ目はショッピングセンター側が保証金の減額分を家賃に上乗せし、さらに開業ラッシュでオーバーストアとなったこと。そして、品揃えが限られる実店舗からECに消費の主体が移行し、そのECとて競争が激化していることだ。

 先の2つの理由から、商品のクオリティが低下。さらに価競激化で価格が抑えられると、ますます商品の価値やお買い得感が失われていった。それでも、大半のお客は「安けりゃいいや」というようになった。デフレ時代の廉価政策に飼い慣らされたとでも言おうか。反面、それに安住してモノ作りを疎かにしたアパレル側にも責任はあるだろう。

 3つ目の理由のECは、店舗や販売スタッフを必要としないため、アパレル側はローコスト運営ができると錯覚する。だが、競争激化で生き残るには顧客目線のサービスに投資しなければならない。いくらゾゾタウンや自社ECが連携しても、お試しや返品、店舗受け取りなどお客のニーズは止め処ない。異業種を含め、様々なアパレル経営論が渦巻く中で、肝心な服作りが語られない寂しさはある。


 唯一、注目されているのはD2C(Direct to Consumer)だろうか。メーカーやブランドが自社ECサイトを通して、顧客に直接商品を販売するビジネスモデルである。安い商品なら掃いて捨てるほどあるが、それも売れなければ廃棄される運命だ。D2Cの浸透で余剰在庫が少しでも減るのはいいことだし、限りある資源やエネルギー、人的労力をカットできれば、他の分野に振り分けることもできる。

 レナウンはそうした新時代のビジネスにタッチすることもなく、この世を去った。オンワード樫山はD2Cのオーダースーツや服飾小物で、辛うじて生き残ろうとしている。ただ、個人的にはそうしたアイテムも必要としなくなったので、再び御用達になることはない。ただ、自分の感性を磨くことができたのは時代ごとに登場したファッションアイテムのおかげ。それへのオマージュを込めて、Direct to Consumer by myselfでいくしかないかと考える日々だ。
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セオリーは通用しない。

2020-11-04 06:35:02 | Weblog
 2015年にバーバリーとのライセンス契約が終了した三陽商会。その後継ブランドの筆頭に位置付けられたのが「クレストブリッジ」だ。このレディスとメンズを複合した旗艦店「ブルーレーベル/ブラックレーベル・クレストブリッジ 原宿本店」がさる10月24日、東京・神宮前にオープンした。

 同社は、国内販売向けにライセンス契約した「マッキントッシュ・ロンドン」も、基幹ブランドにしようとした。しかし、セレクトショップがすでに「本家」のマッキントッシュを販売して顧客化していた。二番煎じで安易なライセンスなど見向きもされるはずはなく、抜本的な戦略を打ち出せないまま時間だけが過ぎていった。

 今年1月1日に就任した大江伸治社長は、百貨店に展開する150もの不採算店をリストラ。しかし、前社長時代からのツケが響いて20年2月期決算は26億8500万円の赤字と、当初の計画を大幅に下回った。インショップは未だ900店ほどあり、売上げの6割以上を百貨店に頼っていては、業績不振からの脱却も程遠い。営業戦略の見直しは待った無しで、20~30代の男女をターゲットにするクレストブリッジは、その試金石になる。

 基幹ブランドに育て上げる上では旗艦店出店を強化する一方、前期決算で25%以上の伸びを示したECと実店舗をシンクロさせるOMO(Online Merges with Offline)にも取り組む考えのようだ。ただ、EC売上げが伸びているとは言え、またまだ全体の13%弱に過ぎない。基幹ブランドの若返りは販売手法の進化と相まって売上げ伸長に繋がるのか。クレストブリッジでは何としてもそれを成し遂げなければならない。




 では、旗艦店舗の概要を見てみよう。原宿本店では「ショールーミング機能」を導入し、公式オンラインストアの限定商品の試着や購入を可能にした。店舗の過剰在庫を抑制し、注文品は店舗引き当てせずに物流センターから配送するなど、物流改革の一端も垣間見える。場所はこの夏までCAST:渋谷店が入居していたビルの1階。明治通りとキャットストリートに挟まれた路地奥だが、若者を中心に通行客は多い。ショールーミングには最適な立地と言える。

 また、オンライン接客向けの接客特化型ライブコマース「ライブトルッテ」を採用し、配信者と視聴者が双方向でコミュニケーションできるようにした。ライブトルッテでは販売スタッフ1名に対して視聴者1名が対話できるほか、視聴者が複数になる場合やスタッフへの質問も可能だ。商品購入の検討できるというから通常の接客と遜色のないレベルだ。

 以前に三越伊勢丹HDのライブコマースを取り上げたが、こちらは販売スタッフが一方的に商品提案するもので、「デジタルのインタラクティブ機能を十分に活用できていない」と書いた。ライブコマースを採用するなら、リアルな接客と同等にお客が実店舗にいるような臨場感、買い物できるワクワク感を呼び起こすことが肝心だ。その意味では三陽商会は百貨店を一歩リードしたと言えるが、すでにそれが当たり前ということである。

 旗艦店を出店した。商品の見せ方を変えた。販売方法や物流を一新した。ここまでは計画通りに進んでいるが、それが確実に収益に繋がる保証はない。激変する業界環境では、セオリー通りには行かない。おそらく大江社長にはマッキントッシュ・ロンドンがコケたことから、「クレストブリッジは何としても基幹ブランドに育て上げる」との強い生命感があるはずだ。しかし、客観的に見て、現状のクレストブリッジがそうした要素を持っているかである。

 まず、ブランドのアイコンとでも言うべき、「チェック柄」。これは誰の目からもバーバリーの威光を残しているようにしか見えない。チェック柄自体はよく言えば伝統的で定番なものだが、悪く言えば陳腐化して目新しさは感じない。柄の配色が単純だから、他国のメーカーに真似される可能性もある。第一、ターゲットに設定した20~30代の男女がそんなアイコンに気安く飛びつくとは思えないのだ。

 バーバリーはあくまでバーバリーだから、価値がある。ライセンスのセカンドラインが安室奈美恵の着用で一時的にヒットしたが、それはブランド自体が評価されたわけではないだろう。移り気な安室世代を顧客化できるはずもなく、二匹目の泥鰌を捕まえる前にライセンス契約は終了した。ただ、クレストブリッジにしても、いまだにバーバリーの威光に頼ろうとするところに、ライセンスで生きてきた三陽商会の悲しい性を感じてしまう。


ルイ・ヴィトンの戦略にヒントがある

 では、クレストブリッジを基幹ブランドに育てるには、何が必要か。それにはルイ・ヴィトンの戦略が参考になるのではないか。同ブランドは家紋からヒントを得たモノグラムの柄に安住するだけでなく、ダミエやエピなどのシリーズを次々と発表。それらは模倣品対策でもあったが、鼬ごっこを繰り返す中で商品開発の強い意志がブランドを強固にした。企業としては他ブランドの買収を進めてコングロマリット化し、プレタポルテや時計にも進出を成し遂げた。

 一方、プレタポルテでは、米国系デザイナーの起用にも怯むことはなかった。彼らはヨーロッパ人とは違い、クリエイティビティと同時にマーケティングの能力にも長けている。「どんな商品をデザインすれば、売れるのか」を念頭にモノ作りに徹する。そうした発想力がブランドのグローバル戦略の進めるベルナール・アルノー会長のお眼鏡にも叶ったのである。

 プレタポルテのディレクターを務めたマーク・ジェイコブスが、アイコンであるモノグラム柄を服のデザインにも用いたかと言えば、そんなことはない。付属品などごく目立たない部分に使っただけだ。もし、あの柄をテキスタイルに用いれば、逆に発想力の欠片もないとファッションジャーナリストからこき下ろされたかもしれない。

 むしろ、マーク・ジェイコブスはルイ・ヴィトンのプレステージ性に合致した上質な素材を使い、クオリティ追求の高級既製服を作り上げた。まあ、かつての日本人なら派手なロゴマークは好きだったし、最近はそれがバブリーな中国人にとって替わり、欧米ブランドの中にはそれを推し進めているところもある。しかし、ファッションマーケットが成熟した日本では、そんなアイコンのブランドを求めるのは限りなく少数派となっている。




 バーバリーの威光を完全に消し去ることはできないにしても、クレストブリッジはチェック柄はギリギリまでセーブして、完全オリジナルのブランディングを進めていくことだ。業界ではチェック柄を使用するためにバーバリーに一部ライセンス料を支払っているとの話もある。しかし、そうしたコストが価格に跳ね返って肝心な原価率を下げているのでは、モノ作りもブランディングもあったものではない。

 三陽商会は他のブランドを見てもそうだ。例えば、マッキントッシュ・フィロソフィーなんかも、素資材の原価率を下げてブランドで売ろうというのが却って仇になっていると感じる。つまり、売上げ不振は、ライセンスビジネスに頼り切ってきた企業体質を引きずり、肝心なモノ作りを蔑ろにしてきたことが成熟した消費者に見透かされた結果なのだ。まあ、その背後には親会社に君臨する商社の思惑も見え隠れするのだが。

 クレストブリッジを基幹ブランドに育て上げるには、一にも二にも企業体質の改善の上に立った従来とは違うモノ作りで臨まなければならない。その意味で、ルイ・ヴィトンを参考にするなら、素資材から服に仕上げるまで自社工場・自社生産管理を徹底することが必要になる。メーカーとしてそうした生産背景はなくはないと思うのだが、そこまでの覚悟を持ってクレストブリッジに賭けているのかが問われるところだ。

 もっとも、数年前から続くリストラで、企画から生産に携わる人材が三陽商会を去っていった事実は否定できない。クレストブリッジを生かすも殺すも、人材次第ということ。新たに登用するにも、これまで売上げが伸びないと企画部門にその責任を負わせる経営陣の保身根性を改めなければ、デザイナーが真摯にモノ作りに取り組める社風は醸成できない。大江社長には企業再建と同時にそうした改革も求められるのである。

 もちろん、価格帯やターゲット設定はこれでいいのか。中途半端に高額な商品を今の20代〜30代の男女が求めるかといえば、否だ。ターゲット設定はあくまで目安という位置づけなら、クレストブリッジがトラッドでややコンテンポラリーなテイストを持てば、40代以上を補足できないことはない。百貨店系のブランドが陳腐化していることもあり、それに代わるオリジナリティのあるブランドを求めている顧客もいるからだ。
 クレストブリッジがそうした客層の受け皿になれるのか。買い物がリアル店舗からECに移行する中で、集客力をもつ原宿にある旗艦店の役割は何より重要になる。とにかくモノ作りと売り方をより熟考すること。これがクレストブリッジ成否のカギを握る。

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