来年4月の消費税率8%に合わせ「還元セール」など、販促名称云々の是非が問われている。国会の審議を見ると政府と官僚、野党との間で利害が渦巻き、いったい何のための法律か、保護されるべき利益は何なんかがさっぱりわからない。
世論はと言うと、メディアは一部の小売業者と消費者に取材をするだけで、この法律が目指すメーカーや卸業者に多い「中小企業が消費税増加分を、納入価格に上乗せしやすくなるように環境整備」については、ほとんど触れずじまいだ。
常日頃、小売り側からメーカーや納入業者が受けている圧力に切り込まなければ、「企業が増税分を円滑に価格に転嫁できるようにする特別措置法案」の意味も理解されないだろう。
では、論点を整理してみよう。まず、政府の意図は「消費者に消費税率が上がったことを理解させ、税率アップを浸透させること」である。しかし、消費者の多くは増税はしょうがないと言いつつも、いざ店頭での買い物となると、1円でも安いものに目が行ってしまう。
だからこそ、安倍内閣としては支持率が高いうちに、法案を通したい。そのためには「メーカーや納入業者の保護」という側面にも触れ、世論の支持を得ようというのが本音である。
一方、小売り側は、自由に価格を決めたり、セールをしたりするのを、政府が規制するのはおかしいという意見で一致する。特に大手では、ユニクロの柳井正社長が「そんな法案をつくること自体が理解できない。先進国のやることではない」と非難。
イオンの岡田元也社長も「(大手スーパーが)不当なことを取引業者にするのであれば、きちんと現行法で排除すればいい」とした上で、「(法案は)論外」と批判した。もっともである。
ただ、これらはメディアが小売りの代表企業に取材し、そのまま報道したに過ぎない。しかも知名度の高い企業だけに、大衆にはあたかも小売業全体の総意として受け取られてしまう。
さらにはこの法律が意図する「中小企業が消費税増加分を、納入価格に上乗せしやすくなるようにする」、つまり税率アップによって「メーカーや納入業者といった下請け業者」にしわ寄せが来ないようにする=アップ分を値下げさせられることがないようにできるか。
これが本当に可能かどうかの検証は、少しもなされていない。
岡田社長が言うように現行法=独占禁止法の「不公正な取引方法の禁止」で、メーカーや納入業者といった下請け業を守られればいいのだが、話はそんな簡単なものではない。
なぜなら、マックスバリュが98円均一セールを行うとき、商品を仕入れるバイヤーはあらかじめ、納入業者に卸価格を指定する。言い換えれば、小売り側の値入れを決めて取引するのだ。
つまり、納入業者が消費税のアップ分を卸価格に転嫁したとき、イオン側がアップ前と同じ荒利を確保したければ、98円セールは成立しないのである。
とすれば、バイヤーはどういう行動をとるのか。おのずと想像がつく。また納入業者が小売りとの取引を継続するには、どうすればいいか。選択肢は「従うか」「従わないか」の2つしかない。従わなければどうなるのか。こちらもだいたい想像される。
卸業者が声を出そうにも日本ではそう簡単ではない。現行法で排除すればいいというが、永年の商慣習では、ほとんどザル法に等しい。メディアはこうした“闇”の部分には、少しも切り込んでいないのである。
話をファッション業界を転じても、たいして変わらないだろう。アパレルメーカーと小売業との関係では、圧倒的に小売りの方が強い。
展示会の商談で、バイヤーがメーカーに対して使う常套句がある。「これ、下代いくら」「いくら荒利を残してくれる」「6掛けじゃ無理だよ」etc.バイヤーとしても、消費税アップ分が商品の卸値に載せられれば、売価を据え置いた場合に荒利益は下がってしまう。つまり、儲けが減っていくのだ。
値上げをすれば済む話なのだが、他社が値上げしなければ競争力を失ってしまう。接客でカバーすれば良いと言っても、お客が安い方に流れれば、販売機会さえ得られない。
バイヤーにはそうした状況が想定されるだけに、荒利確保のためにメーカーに対し「ゴメン、泣いてくれる」と、言い出すものが出てくるのは想像に難くない。
「世界一の売上げ」「世界一の商品」「世界同率賃金」を宣うアパレル製造小売業が、はたしてどこまで取引業者のことを考えているのか。消費税が上がれば、それはコスト増に跳ね返り、収益に影響しかねないのだ。
「世界一」をスローガンに掲げた以上、きれいごとなど言っておれないはずである。それを「先進国のやることではない」の陰に垣間みる業界諸兄は、少なくないだろう。
断っておくが、すべての小売業、すべてのバイヤーがそうだと言っているのではない。「メーカーさんも儲けて、うちも儲かる」という共存共栄の精神をもつ中小の専門店は少なくない。
「あの店は消費税アップ分の下代を快く受け付けてくれた」「あのバイヤーはクオリティを重視だから、値上げ分だけ原価を圧縮させることなんかしない」
ファッション業界では数少なくなったが、こうした小売業者がいるのも事実である。
なぜか、メディアは大手小売業しか取材せず、建前ばかりを報道するだけだ。結果として、メーカーや卸業者の声なき声は拾われず、利害関係者の本音が論じられることはない。
でも、法律には必ず保護法益がある。めでたく成立した時、アパレルメーカーや卸業者がその対象となり、利益を受けられることを切に願うばかりである。
世論はと言うと、メディアは一部の小売業者と消費者に取材をするだけで、この法律が目指すメーカーや卸業者に多い「中小企業が消費税増加分を、納入価格に上乗せしやすくなるように環境整備」については、ほとんど触れずじまいだ。
常日頃、小売り側からメーカーや納入業者が受けている圧力に切り込まなければ、「企業が増税分を円滑に価格に転嫁できるようにする特別措置法案」の意味も理解されないだろう。
では、論点を整理してみよう。まず、政府の意図は「消費者に消費税率が上がったことを理解させ、税率アップを浸透させること」である。しかし、消費者の多くは増税はしょうがないと言いつつも、いざ店頭での買い物となると、1円でも安いものに目が行ってしまう。
だからこそ、安倍内閣としては支持率が高いうちに、法案を通したい。そのためには「メーカーや納入業者の保護」という側面にも触れ、世論の支持を得ようというのが本音である。
一方、小売り側は、自由に価格を決めたり、セールをしたりするのを、政府が規制するのはおかしいという意見で一致する。特に大手では、ユニクロの柳井正社長が「そんな法案をつくること自体が理解できない。先進国のやることではない」と非難。
イオンの岡田元也社長も「(大手スーパーが)不当なことを取引業者にするのであれば、きちんと現行法で排除すればいい」とした上で、「(法案は)論外」と批判した。もっともである。
ただ、これらはメディアが小売りの代表企業に取材し、そのまま報道したに過ぎない。しかも知名度の高い企業だけに、大衆にはあたかも小売業全体の総意として受け取られてしまう。
さらにはこの法律が意図する「中小企業が消費税増加分を、納入価格に上乗せしやすくなるようにする」、つまり税率アップによって「メーカーや納入業者といった下請け業者」にしわ寄せが来ないようにする=アップ分を値下げさせられることがないようにできるか。
これが本当に可能かどうかの検証は、少しもなされていない。
岡田社長が言うように現行法=独占禁止法の「不公正な取引方法の禁止」で、メーカーや納入業者といった下請け業を守られればいいのだが、話はそんな簡単なものではない。
なぜなら、マックスバリュが98円均一セールを行うとき、商品を仕入れるバイヤーはあらかじめ、納入業者に卸価格を指定する。言い換えれば、小売り側の値入れを決めて取引するのだ。
つまり、納入業者が消費税のアップ分を卸価格に転嫁したとき、イオン側がアップ前と同じ荒利を確保したければ、98円セールは成立しないのである。
とすれば、バイヤーはどういう行動をとるのか。おのずと想像がつく。また納入業者が小売りとの取引を継続するには、どうすればいいか。選択肢は「従うか」「従わないか」の2つしかない。従わなければどうなるのか。こちらもだいたい想像される。
卸業者が声を出そうにも日本ではそう簡単ではない。現行法で排除すればいいというが、永年の商慣習では、ほとんどザル法に等しい。メディアはこうした“闇”の部分には、少しも切り込んでいないのである。
話をファッション業界を転じても、たいして変わらないだろう。アパレルメーカーと小売業との関係では、圧倒的に小売りの方が強い。
展示会の商談で、バイヤーがメーカーに対して使う常套句がある。「これ、下代いくら」「いくら荒利を残してくれる」「6掛けじゃ無理だよ」etc.バイヤーとしても、消費税アップ分が商品の卸値に載せられれば、売価を据え置いた場合に荒利益は下がってしまう。つまり、儲けが減っていくのだ。
値上げをすれば済む話なのだが、他社が値上げしなければ競争力を失ってしまう。接客でカバーすれば良いと言っても、お客が安い方に流れれば、販売機会さえ得られない。
バイヤーにはそうした状況が想定されるだけに、荒利確保のためにメーカーに対し「ゴメン、泣いてくれる」と、言い出すものが出てくるのは想像に難くない。
「世界一の売上げ」「世界一の商品」「世界同率賃金」を宣うアパレル製造小売業が、はたしてどこまで取引業者のことを考えているのか。消費税が上がれば、それはコスト増に跳ね返り、収益に影響しかねないのだ。
「世界一」をスローガンに掲げた以上、きれいごとなど言っておれないはずである。それを「先進国のやることではない」の陰に垣間みる業界諸兄は、少なくないだろう。
断っておくが、すべての小売業、すべてのバイヤーがそうだと言っているのではない。「メーカーさんも儲けて、うちも儲かる」という共存共栄の精神をもつ中小の専門店は少なくない。
「あの店は消費税アップ分の下代を快く受け付けてくれた」「あのバイヤーはクオリティを重視だから、値上げ分だけ原価を圧縮させることなんかしない」
ファッション業界では数少なくなったが、こうした小売業者がいるのも事実である。
なぜか、メディアは大手小売業しか取材せず、建前ばかりを報道するだけだ。結果として、メーカーや卸業者の声なき声は拾われず、利害関係者の本音が論じられることはない。
でも、法律には必ず保護法益がある。めでたく成立した時、アパレルメーカーや卸業者がその対象となり、利益を受けられることを切に願うばかりである。